米連銀が3年毎に行っている賃金・所得調査が昨日(9月4日)発表された。そのさわりを見ると、2010年から2013年にかけて、景気が拡大する中でその恩恵を受けたのはごく一部の富裕層に過ぎないことが明らかになってきた。
2010年から13年は米国景気が緩やかな回復をたどった時期で、GDP成長率は年率2.1%、失業率は9.9%から7.5%に低下した。また税引前インフレ調整後の世帯平均収入は4%上昇した。しかし世帯収入の中央値は5%下落した。
平均値が上昇して、中央値が下落したということは、所得の増加が高所得層に偏在したことを意味する。
実際所得上位3%の層が全所得に占める割合は、2010年の27.7%から30.5%に上昇した。また所得が最も低い階層の所得は更に低下し、所得の中位から中上位層でも平均所得はほとんど変わっていないことが調査で分かった。つまり中位ー中上位層でもリーマンショックで受けた痛手を回復できていない状況が推察できる。
資産格差の拡大は賃金格差の拡大より更に大きかった。上位3%が保有する資産の割合は1989年には44.8%だったが、2007年には51.8%に上昇し、2013年には54.4%にまで拡大している。
リーマンショック後の金融緩和政策の効果を最大に享受したのは、極めて少数の富裕層だったのである。極論すれば富裕層は連銀をleverageに使って大儲けをしたという構図なのだろう。一方リーマンショックの痛手を払拭できていなかった中産階級は、2010年以降の株式ラリーのメリットを享受できなかったようだ。
所得と資産の格差拡大は欧米の経済学では今一番ホットなテーマだ。日本でも有名になりつつあるトーマス・ピケティのCapital in the Twenty-First Cencury、日本語訳は今年の年末に出るという。日本語訳が本屋の店頭に並ぶと日本でも格差論議がホットになるかのしれない。日本でも所得・資産格差は確実に進んでいるが、格差是正は今の政権の重要政策課題には並んでいない。だが格差拡大はやがて将来に大きな問題を残すことは間違いない。私は日本の所得格差の根源は、正規雇用と非正規雇用の所得格差が大き過ぎることにあると考えていて、これを是正するには「同一労働・同一賃金の原則」を当然のこととするルールを作らないといけないと考えている。
だがこのことが声高に叫ばれないのは、「同一労働・同一賃金」よりも「同一労働・非同一賃金」でメリットを得ていると感じている層が世論をコントロールする力を持っているからなのだろう。この点は米国で超富裕層に富が集中しても、にわかに大きな社会問題にならないことと共通しているようだ。
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