WSJにHow to keep a family business alive for generationという記事が出ていた。
記事の概要を紹介した上で「相続」の問題を考えてみたい。
記事を寄稿したのはコンコルディア大学(カナダ)のJaskiewicz博士だ。
博士たちはドイツの21の家族経営のワイナリーを調査して、「先進的なワイン作りに取り組む企業群」(先進的)と「伝統的なワイン作りを続けている企業群」(伝統的)に分け、先進的グループの特徴を抽出した。
先進的グループを特徴づけるのは「家系の起業家精神の伝統を子供たちに繰り返し教える」「子どもが小さい時からワインの出荷などの家業を手伝わせる」「子どもたちを世界最高レベルの大学で勉強させる」「家業を継がせる前に競争相手やワインに関係する業界で働かせる」「子どもが家業を継いだ後は親は日常業務を担当し、子どもに新規事業をやらせる」「事業を一人の子どもに承継させ、企業が分割させることを防ぐ」というものだった。
これらのことは日本でも家業を発展的に次世代に承継している企業で見られることだ。逆に「新しいことを学び、起業家精神に富んだ子どもに新しいことをさせずに親がいつまでも古い事業に拘り失敗する」例は今人気のNHKの朝ドラ「あさが来た」でも見ることができる。
さて相続の観点からこの記事を見ると、2つの点に気がつく。一つは先進性を保つ企業では「起業家精神に富んだファミリーヒストリー」が相続されるという点だ。
相続されるのは、お金や工場といった財産だけではなく、先祖たちの苦労とその後の成功体験ということだ。
次に「遺産分割で相続人の間で不公平が起きようとも事業を一人の子どもに相続させる」という点だ。記事によると「子どもたちの間で遺産分割上の不公平がでても、ワイナリーを成功させることで家族全体が幸せになれるという哲学に基づき、事業承継者は兄弟姉妹の面倒を見るという社会的責任を負う」と述べている。
具体的にいうと、家業を継承しない兄弟姉妹は多くの場合、ワインに関係するビジネス~ワインショップ・レストラン・ホテルなど~を展開する上で資金面・感情面のサポートを受けるということだ。
「ところでこのような戦略は米国にも当てはまるのか?」とJaskiewicz博士は話を続け、幾つかのことは米国では難しいだろうと述べる。
例えば一人の子どもに多くの遺産を相続させることについて多くの両親は不公平だと感じるからだ。また家族が以前ほど協力的でなくなり安定性を欠いていることもその背景にある。
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さて日本ではどうだろうか?
日本には「事業承継法」という特別法があり、中小企業の事業承継においては、「生前贈与株式を遺留分の対象から外す」といった事業承継支援策が用意され、相続による事業分散を防ぐ対策が打たれている。
ただかなりハードルの高い要件があるので、どれほど活用されているかは疑問だが。
ドイツの相続法について詳しいことは知らないが、5,6年前に一部改正が行われた。例えば「遺留分権利者に対する相続人の支払義務の猶予自由が拡大」した。これは遺留分権利者に対する支払のため、家屋や生活基盤となる営業資産を相続人が売却せざるを得なくなる状況を改善する意図だと言われている。
現在日本では法制審議会が相続法の改正を検討している。主なポイントは「生存配偶者の居住保護」「配偶者の共有財産形成に対する寄与の見直し」「介護貢献」などだ。
遺留分については「配偶者の遺留分を拡大・子どもの遺留分を縮小」する方向に向いていると思われる。
ただし高齢化や介護・社会保障費の抑制で家計負担が増える一方、家族関係は希釈化しているので相続法の改正だけでは解決できない問題は多い。