総務省が昨日(3月27日)に発表した全国消費者物価指数CPI(除く生鮮食料品)は前年比2%上昇した。ただし消費税引き上げの影響が2%と推定されるので、実質的なCPIの上昇率はゼロだった。これは黒田総裁が日銀総裁になって以降最低のレベルだった。
WSJはHas Japan's "Big Bazooka" Misfired? Japan's Zero Inflation a Setback for Abenomics(日本のバズーカ砲(日銀の量的・質的緩和)は不発?ゼロインフレはアベノミクスの失敗)という記事で、アベノミクスの前に立ちはだかる困難さを解説していた。
こういうエントリーを書くと、一部の読者から「あなたはWSJの言っていることを鵜呑みにするのか?アベノミクスに反対なのか?」という短絡的なコメントが来ることが予想される。あらかじめ断っておくと私はWSJを鵜呑みにしている訳ではないし、単純にアベノミクスに反対している訳でもない。ただ多くの海外のビジネスパースンや投資家が目を通すWSJがこのような見方を示していることを理解しておく必要はあると考えている。また日銀の金融政策がそろそろ限界にきていることも事実だと考えている。
下のグラフは日銀・米連銀・欧州中央銀行・イングランド銀行の資産購入額をGDP対比で較べたグラフだ。
これを見ると日銀の国債等資産購入額は、他の中央銀行に較べて突出していることが分る。
昨日米連銀のイエレン議長はサンフランシスコ連銀の政策カンファレンスで「連銀はインフレと賃金が正常な状態に戻っている前でも、今年の後半には金利引上げに動く可能性がある」と発言した。この発言自体は目新しいものではないが、連銀の行き過ぎた金融緩和を是正しようという思いが伝わってくる。米連銀が政策金利をゼロに引き下げたのは、2008年12月だから、仮に今年の後半に金利を引き上げたとしても、正常化に7年の年月を要することになる。
この年数を日本に当てはめると、日本の金融政策が正常に戻るのには気が遠くなるほどの年月を要する気がする。
この巨大バズーカ砲と言われる超金融緩和策が実態経済に与えるプラス効果はどの程度なのか即断は難しい。
日銀が超金融緩和策を取って、7四半期が過ぎたがその間のGDP成長率はたったの約0.2%だった。ただし「金融緩和がなかったらどうなっていたか」という比較を行わないと、政策の是非を判断できないだろう。
一方金融政策の恩恵を顕著に受けているのは株式市場だ。昨年秋からGPIFはポートフォリオの見直しを行い、日本国債の比率を下げ、日本株・外国株へのアロケーションを増やしている。GPIFが売却する国債の受け皿に日銀がなっている。つまり政府・中央銀行一体となって株高政策を推進しているのである。この点についていうとアベノミクスは成功している。
だが株高・円安で恩恵を受ける個人や企業は限られている。株高で富裕層が消費を増やし、その効果が経済全体に波及していくという仮説を「トリクルダウン理論」というそうだが、現実には株高効果はまだ消費増には及んでいない。2月の家計消費は前年同月に比べて2.9%減少(13か月連続で減少)した。
日銀の超金融緩和策が、株式等のリスク資産を保有する層と保有しない層に中立的に働いていないことは事実だ。
ゼロインフレとはいうが、ものを買うとき消費税分だけ消費者が払う金額が増えていることは事実。つまり消費者にとって2%ものやサービスが値上がりしたことは間違いない。だから消費者は財布の紐を緩めないのである。
消費税引き上げ効果を除いて物価上昇率はゼロ、というのは生産者の論理であって、消費者にとっては物価上昇率は2%なのである。物価上昇は年金を生活原資とする高齢層を直撃する。このあたりの話は近著「インフレ時代の生活設計術」(アマゾンKindle版)で詳しく説明した。ついでにいうと、政府が何を言おうと私は今後消費税を持続的に欧州諸国レベルまで引き上げる必要があると判断している。つまり消費者にとって2%の物価上昇は序曲に過ぎないだろう。
以上のようなことから、今後日銀が追加緩和を行っても、実体経済を改善する効果は限界的でむしろ正常化への道のりを遠のける弊害の方が大きいという意見に私は傾いている。
ただしこのことはアベノミクスの失敗にはつながらないだろう。むしろ金融緩和策の限界を見極めて、構造改革を加速することがポイントだ。ただし構造改革には時間がかかる。賃上げが消費に結びつく、あるいは企業のガバナンス改善が業績向上に結びつく、女性の登用などということには時間がかかる。もうしばらく我々はpatient(辛抱強く)であるべきなのだろう。ただし我慢するには、政治家の強いコミットメントと明快な説明が必要だが。
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