エコノミスト誌にThe bigger, the less fairという記事が出ていた。
記事の要旨は次のとおりだ。
・エコノミスト達は、長い間規模の経済により、大きな企業の方が小さい企業より、生産性が高く、従って賃金が高いと認識してきた。しかしこのことは理論的には、企業の中の賃金格差に結び付くものではない(つまり小企業の社長も職員もともに大企業の10%低い報酬を得ていると仮定すれば)と考えれれてきた。
・だが最近発表された"Wage inequality and firm growth"(著者H.Mueller他)によると、企業規模が大きくなるにつれて、トップ層と中間層以下の賃金格差が拡大していることが、英米の実例から明らかになった。
・論文の著者はこの現象について2つの説明ができると示唆している。一つは大きな企業は小さな企業より、仕事の自動化が容易であり、非熟練労働者からの賃金引上げ要求に抵抗し易いというものだ。それに加えて、賃金レベルで中位層の新入社員が大企業での低賃金を受け入れる傾向があることも説明材料だと述べている。なぜなら長期的に見れば、大きな企業の方が小さな企業より昇進・昇給する可能性が高いと考えているからである。
・世界規模の大企業を経営するのと、小さな企業を経営するのでは、異なった(そしてより希な)才能が求められるため、大企業の上級職のみが高い給料を享受することができる。
・著者は1981年から2010年にかけて、OECDの中の15か国について最も大きな企業群と賃金格差の相関関係を調べ、そこに強い相関関係があることを確認した。
・総てのエコノミスト達がこの現象を忌まわしいことだと考えている訳ではない。より大きな企業の方が小さな企業より、設備投資比率が高く、経済成長に貢献するからだ。
この記事は日本のことに言及していないが、日本も同じ傾向にあることは間違いない。
以上のような新説の紹介を行った後、エコノミスト誌は「もし各国政府が大企業が助長している賃金格差を是正しようとして、労働市場の改善を試みるなら、それは功を奏しないだろう。むしろ中小企業による市場参入障壁(特に銀行融資の障壁)を減らすことで、競争を高めることが、所得の不均衡と経済成長を同時に達成する道だ」と結論付けている。
この結論はもっともらしく聞こえるが、私は今の日本にはどうも最適の処方箋ではないと思われる。
むしろ今の日本で必要なことは「同一労働・同一賃金」の考え方を徹底することが、賃金格差是正の基本だろうと考えている。つまり雇用形態が正規社員であれ、派遣社員であれ、同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金が支払われるべきだという考え方だ。
「同一労働・同一賃金」ルールは欧州ではかなり徹底していると聞く。まずこの考え方をベースに置かないと日本の場合は賃金格差は是正されないだろう。次に業種によっては既に大企業間で過当競争が起きている分野が多い日本で中小企業の参入障壁を下げることが、企業内の賃金格差是正に有効かどうか疑問である。
むしろ日本の場合は「同一労働・同一賃金」ルールにより、雇用形態の影響を抑制し、人材の流動化を促進することで、企業再編を促進する方が先ではないか?と感じているのである。