金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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それでも国債を買うから、金融抑圧が進む

2011年05月30日 | 投資

今週発表される米国の経済統計は弱い数字が並びそうだ。6月1日のIMS製造業景況感指数は、4月の60.4から57.5に下落すると市場は予想し、3日金曜日に発表される米国の雇用統計では、非農業者部門雇用者数は4月の24.4万人から5月は18.5万人に下落するというのが、市場予想の平均値だ。

この景気の減速を見越して、日米で国債が買い進まれている。今月16日には米国国債は、発行額の法定上限に達し、8月2日までに発行額を引き上げる法案が通らないと米国債はデフォルトを起こす可能性すらある。デフォルトスワップのスプレッドは上昇しているが、大部分の投資家は楽観的に米国債を買っている。

債券王と呼ばれるビル・グロスは、今年初めから「国債投資家は茹で蛙のようなもので、痛い目に会う」と警告を発してきたが、最近のニューヨーク・タイムズによると彼は「私の意見は時期尚早だった」I was prematureと述べている。もっとも彼は警告のタイミングが良くなかったにしろ、主張自体は有効だと主張しているが。

状況は日本も同じようなもの。財政状況の悪化に歯止めはかからないが、資金需要が低迷しているので、投資家は国債を買う以外に選択肢が限られる。目先先進国の株も発展途上国の株も下落リスクが高いからだ。

このような状態をピーターソン・インスティチュートのカーマン・ラインハート教授は「金融抑圧」Financial repressionと呼ぶ。これは政府による目に見えない税金で、政府が金利の上昇を押さえ込みながら、しかも国債の引き受け手を作り、政府の歳入不足を金融市場で埋め合わせる手法だ。

ラインハート教授は「金融抑圧は発展途上国では今でもよくあることだが、金融危機まで先進国ではほとんど消滅していた。しかし今再び米国のような先進国で金融抑圧を見始めている」と述べている(ニューヨーク・タイムズ)。

金融抑圧は投資家が意識しない内に、その富を投資家から債務者である国に移転する手法だ。ラインハート教授は先進国では希だというが、日本ではかなり昔から金融抑圧が続いている。

なお究極の金融抑圧は、インフレの進行により、国の実質的な債務負担を減少させること。今のところ日米でインフレは進行していないが、原油価格の上昇が引き金になり、インフレにつながるという予測もある。米国の「金融抑圧」が本物かどうかは、インフレの芽が出た時の連銀の対応がリトマス紙になるだろう。

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