昨今中国の労働政策の変化を示唆する動きがマスコミを賑わせていた。一つはホンダの工場のストライキでもう一つは台湾の電子メーカーの中国生産拠点フォックスコンの従業員連続自殺事件とその後の3割の賃上げだ。従来中国のマスコミは労働者のストライキについて報道する習慣がなかったが、ホンダのストライキについては人民日報のタブロイド版が積極的に取り上げている。
ファイナンシャル・タイムズの記事によると、人民日報のタブロイド版Global Timesの社説は「市場開放以来30年間、一般の労働者は経済繁栄の最小の分け前しか受け取っていない。ホンダの4つの工場における一時的な生産ラインの停止は中国の工場における組織化された労働者保護の必要性にハイライトをあてる」と報じている。
タイムズは労働争議というデリケートな問題をマスコミが取り上げた背景について次のような解説を加えている。
第一に政府当局が、メディアを通じて単に現実を認めたということである。尽きることのない安い労働力の提供により、中国経済は離陸したがそれは終わりに来ている。その一つの理由は人口動態の変化だ。中国の一人っ子政策のため、40歳以下の労働者は5分の1に減少した。労働者の数が減ったことは交渉力が増えることを意味する。ホンダの従業員は50%以上の賃上げを要求している。
80年代と90年代の出稼ぎ労働者と異なり、現在の地方からの労働者はより多くの選択肢とより大きな望みを持っている。多くの労働者は数年間都市部で働いて金を貯めて帰郷することに満足していない。彼等は活気のある都市部に移住することを求めている。このことは彼等がもっと高い給料を必要とすることを意味する。
第二の理由として、共産党はより良い労働環境を作り出すことに利害が一致するからである。安い中国人の労働力を日本や欧米の多国籍企業に提供することは、手段であって目的ではない。鄧小平は外国の投資資本を豊かにするのではなく、中国人が豊かになることは輝かしいことだと述べている。企業利益に対する労働配分率は低下しているが、これは共産党の掲げる「調和の取れた社会」というスローガンに反するものである。
2年前に中国政府は労働契約法を変え、会社と労働者は書面による契約を交わすことを定めた。賃金上昇圧力とともに、雰囲気の変化は「低賃金、ストライキのない、雇用と解雇が自由な労働市場」に慣れた外国人投資家に明らかに影響を与えている。
しかし外国企業が中国から撤退する動きはほとんどない。というのは中国は単なる低コストの生産拠点から重要な市場に変わり、グローバルなサプライチェーンに組み込まれているからだ。
たとえばホンダは部品メーカーのネットワークを中国に持ち込み、中国の部品メーカーと関係を構築している。
以上のような理由から中国政府は恐らく労働者に慎重なサポートを与え続けるだろう。ただし労働運動が政治運動化することについてはいかなることがあっても寛容性を示さないだろう。
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中国労働者の賃上げ圧力が続くことは、中国に工場を持つ日本企業には短期的に頭の痛い話だろうが、これは避けては通れない話だ。長期的に見ると中国の内需が拡大し、人々が裕福になることで政治的な穏健化が期待できるからだ。
ところで中国の一人っ子政策のインパクトはかなり大きいようだ。日本や韓国は少子化策を取ることで経済の高度成長を達成した(教育等への投資を生産設備にまわすことができたので)。そして中国もしかり。だが今日本は少子化政策のツケを払う必要に迫られている。中国もまた20年後位にはツケを払う必要があるのだろう。膨大な数の高齢者を少ない若者の背中で背負うため中国は豊かになりたいと切に感じ始めていると理解するべきだろう。