私は一般的な経済誌の中でエコノミスト誌の経済予測が最も正確であると信じている。それでも米ドルの為替レート予想に関しては過去1年外れていると言わざるを得ない。というのはエコノミスト誌は一貫してドル安説を主張しているのだが、昨年米ドルは巨額の経常赤字にもかかわらず堅調だった。エコノミスト誌は今又ドル安VS円・ユーロ高を強調する記事を書いている。私見では今回はあたる可能性が高いと見ているが、如何なものだろうか?
- 第4四半期に米国の経常赤字は2,250億ドル(GDPの7%)に拡大し、2005年度を通して経常赤字は8,050億ドルになった。米国では「経常赤字は問題ではない。赤字になってもドルは下落しない」という議論がファッションになっている。しかしファッションはすぐ変わる可能性がある。
- 経常赤字は今年末までに1兆ドルになりそうだ。ABMアムロのエコノミストによれば、現在のトレンドと為替水準が続けば、2010年までに赤字額はGDPの12%になる可能性がある。
- 問題は米国の輸入が輸出を上回っていることで、貿易赤字を良い傾向に保つためには輸出を輸入の約2倍のペースで拡大しなければならないことにある。モルガン・スタンレーのローチ氏によれば、1985年には輸入は国内の財購入の20%を占めたが、現在では37%になっている。米国経済の活況が続けば、貿易赤字は拡大するだろう。
- 加えて投資収入の減少が経常赤字を広げている。米国は大きな対外債務を抱えてきたが、米国の対外投資の方がリターンが大きかったため、投資収支はプラスだった。しかし昨年第4四半期に投資収支は赤字になった。今年は2005年より米国の債券利回りが上昇し、対外株式投資のリターンが低下する見込みなので、記録開始の1960年以来始めての赤字となる見込みが高い。
- 昨年米ドルは米国金利の連続的な引き上げにより支えられた。しかし欧州中央銀行と日銀は金融引締め政策を取り始めた。又昨年12月まで米国企業は海外利益の米国内還流について税金の優遇を受けることができた。この結果米国企業の対外直接投資は2004年の2,520億ドルから210億ドル減少した。
- 昨年ドルはリバウンドしたが、2002年のピークに較べるとドルは対ユーロで28%、対円で13%下落している。ドルは再び下落するか?HSBC のエコノミストは今年の年末までにドルは対ユーロで1.35ドルに(現在1.20ドル)、対円では108円(現在117円)に下落すると予測する。
- 向う数年間、円はユーロよりも対ドルで強くなるだろう。主要通貨の中で円は長期的傾向に比して最も安く見える。インフレ率を考慮した実質貨幣価値ベースで見た円は、昨月に過去23年で最も安くなった。これは単に名目価値で円が弱くなっただけではなく、日本の物価下落が円を競争力のあるものにしている。
- 昨年1,640億ドルにもなる経常黒字を誇る日本の実質交換レートが下落するのは奇妙に見える。これに対する説明は、最近終わりに向かうことになった超金融緩和政策である。
- 幾人かのエコノミスト達は量的緩和政策は殆ど効果がなかったと論じる。何故なら金融システムに大量の流動性を供給するこの政策は銀行による貸出増加を目的としたものだったが成功はしていないと言う。しかしながら金融緩和政策は為替レートを通じて日本の景気を刺激した。日本のマネタリーベースは過去5年の間に米国の2倍の速度で成長した。教科書によれば円のドルに対する相対的な供給量の増加は円の価値を低下させる。これはまさに起こったことである。
- もし日銀が今年流動性の一部を回収すると、円はドル、ユーロ双方に対して上昇するだろう。そして経済再生が続く限り、財務省が円高阻止介入に入ることはないだろう。
以上のエコノミスト誌の主張に私は概ね賛成なのであるが、円にも弱含む要素はあると見ている。一つは小泉首相の後継者問題。もし新しい強力な指導者の下、経済改革の促進と財政改革の糸口が見えるならばOKであろう。しかしこれが上手く行かない場合は政治的な不安定さが円の重しになる。
もう一つ利上げ問題。利上げに伴い長期金利が上昇すれば、国債費が増加し日本の財政赤字が大きくクローズアップされ消費税引き上げ議論が活発になる。回復しつつある消費活動に水を差す話だけに気になるところだ。