土曜は勤務日ではないが、三者面談やら補習やらで学校に出かけることもある。
「おはようございます」
「おはようございます」
職員室はすでに開いており、部活の準備をしている教員がいる。だいたい、いつも同じ顔ぶれの「イツメン」である。
授業のない学校は開放的で、教員もおしゃべりになることがある。
「笹木さん、ちょっといいですか」
「はい?」
声の主は、背中合わせに座っている20代のサッカー部顧問である。普段はほとんど会話をしないが、今日は用事があるらしい。
「この本、知ってます?」
彼は日焼けした手で、白い表紙の本を取り出した。もちろん知っている。18年前に、当時はわずか14歳の少年でありながら、連続児童殺傷事件という凶悪犯罪に手を染めた男が書いた本だ。題名を挙げるのもどうかと思うくらい、出版そのものに疑問を感じる。
「……買ったんですか」
「はい。そのうち、出版中止になるかもしれないと聞いたんで」
彼は無類の読書好きだ。加えて、地歴公民科ということもあり、社会を驚かせたかの事件に興味をそそられたらしい。でも、買ってしまえば犯罪者に印税を支払うことになり、共犯になったかのような罪悪感に苛まる気がする。
「事件のことは知っていますか?」
「いえ全然。たぶん、まだ10歳くらいだったから、記憶にありませんね」
なるほど、リアルタイムでニュースを追っていた世代と、過去の事件を見聞きした世代とのギャップだろう。報道から、事件の異様さを、これでもかこれでもかと知らされた身としては、何の落ち度もない無力な子どもを、自分勝手な言い分で殺傷するという蛮行を、決して許すことはできない。
神戸のある書店では、この本の取り扱いをしない方針だそうだ。勇気ある決断に、拍手を送りたい。
「途中までですけど、読みました」
「へえ」
「でもこれ……ダメですね。面白半分に人を殺して、まるで英雄気取り。真似するヤツが出るんじゃないかと心配になります」
「ほー」
「遺族の方の気持ちなんて、これっぽっちも考えていないし」
「そんな本をよく出版するわね。何て出版社かしら」
おそらく、彼はこれが言いたくて、話しかけてきたのだろう。消化不良を起こしそうなこの問題作を、受け止めきれなかったのかもしれない。
「よろしければ、読んでみませんか」
「ううう」
私も本が好きなので、ときどき誰かと貸し借りはする。
でも、これはちょっとね。
感想なしで悪いけど、お断りしておきます。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「おはようございます」
「おはようございます」
職員室はすでに開いており、部活の準備をしている教員がいる。だいたい、いつも同じ顔ぶれの「イツメン」である。
授業のない学校は開放的で、教員もおしゃべりになることがある。
「笹木さん、ちょっといいですか」
「はい?」
声の主は、背中合わせに座っている20代のサッカー部顧問である。普段はほとんど会話をしないが、今日は用事があるらしい。
「この本、知ってます?」
彼は日焼けした手で、白い表紙の本を取り出した。もちろん知っている。18年前に、当時はわずか14歳の少年でありながら、連続児童殺傷事件という凶悪犯罪に手を染めた男が書いた本だ。題名を挙げるのもどうかと思うくらい、出版そのものに疑問を感じる。
「……買ったんですか」
「はい。そのうち、出版中止になるかもしれないと聞いたんで」
彼は無類の読書好きだ。加えて、地歴公民科ということもあり、社会を驚かせたかの事件に興味をそそられたらしい。でも、買ってしまえば犯罪者に印税を支払うことになり、共犯になったかのような罪悪感に苛まる気がする。
「事件のことは知っていますか?」
「いえ全然。たぶん、まだ10歳くらいだったから、記憶にありませんね」
なるほど、リアルタイムでニュースを追っていた世代と、過去の事件を見聞きした世代とのギャップだろう。報道から、事件の異様さを、これでもかこれでもかと知らされた身としては、何の落ち度もない無力な子どもを、自分勝手な言い分で殺傷するという蛮行を、決して許すことはできない。
神戸のある書店では、この本の取り扱いをしない方針だそうだ。勇気ある決断に、拍手を送りたい。
「途中までですけど、読みました」
「へえ」
「でもこれ……ダメですね。面白半分に人を殺して、まるで英雄気取り。真似するヤツが出るんじゃないかと心配になります」
「ほー」
「遺族の方の気持ちなんて、これっぽっちも考えていないし」
「そんな本をよく出版するわね。何て出版社かしら」
おそらく、彼はこれが言いたくて、話しかけてきたのだろう。消化不良を起こしそうなこの問題作を、受け止めきれなかったのかもしれない。
「よろしければ、読んでみませんか」
「ううう」
私も本が好きなので、ときどき誰かと貸し借りはする。
でも、これはちょっとね。
感想なしで悪いけど、お断りしておきます。
↑
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
下衆だと思います。
誰も買わなければ済む話なのに、買った人が背中合わせにいたとはご愁傷様です…(笑)
言論・出版・報道...何でも“自由”や“権利”を謳う輩が多い昨今ですが、今回の件は明らかにモラルを逸脱しています。同じモラルで言うなれば猥褻な書籍が取り締まることが出来るのに、なぜこの本はパスできるのですかね。
しかも事件の概要を知るには今の情報社会において簡単であるのに、あえて購入し出版社の利益、何よりも少年Aに印税を与えるなんて...全くもって酷い話です
出版社の常識を疑います。
いろいろ言い訳しているみたいですが。
あの事件をリアルタイムでしっているかどうかで、感じかたも違うのですね。
そうそう、誰も買わなければ平和なんです。
でも、巧妙な宣伝をして、消費者の野次馬根性を煽るんでしょうね。
題名を連呼するだけで宣伝に加担することになります。
だから、あえてタイトルは出さないことにしました。
出版社の倫理はどうなっているのかしら。
売れれば何でもいいという時代に突入したとなると、今度が心配です。
それが普通の感覚ですよね。
でも、普通じゃない感覚を受け入れる人たちがいるんです。
それが「なぜ人を殺してはいけないのか」などの質問につながっているのかもしれません。
猥褻本のほうが、何倍もマシですよ。
取り扱いをしないことにした神戸の書店に拍手を贈りたいです。
日本人の倫理観を危惧する今日この頃。
世代の違いを思い知らされた出来事でした。
どうも、彼は「例の本を買った」ことを公言しているようです。
中には「貸してほしい」と頼んでくる人がいるとか。
人の本性がわかりますね。
しかし、著名人でも、出版の価値ありと断言する人がいるとは驚きです。
世の中に与える影響力を考えてほしい。
猟奇的犯罪者。彼の本を遠ざけるのが無難とは思う。
でも、読みたい気もする。
自己救済だって。救われたいなんて思うの? 犯罪者なんだから、一生、犯罪者として悩めよって思う。
人を殺すのに正当な理由なんてなく、まして・・・
そんな相手に印税を払うなんて、ありえません。
どれだけ被害者を貶め、遺族を苦しめているか
分からないのでしょうか?
やいっちさんは正直ですね。
たぶん、私も心のどこかでは「どんな内容なんだろう」と思っています。
認めたくないけれど。
日本人の道徳観はなくなってしまったのでしょうか。
自分勝手な人が増えたと感じます。
人を複数殺したくせに、救われたいなんて言語道断。
一生悩めが正解でしょうね。
正しい方向に使われない知能なら、ないほうが幸せかもしれません。
本の果たす役割は大きいと思います。
喜びや楽しみだけでなく、問題提起、人の痛みを知るなど、よりよく生きるためのヒントが詰まっていなくては。
犯罪者の心理を知って、何の得になるのやら。
犯罪心理学を研究しているわけではないから、私にとっては無用の長物です。
被害にあった少年少女が、もし大人になっていたら……。
親御さんの無念を思うと、いたたまれませんね。