これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

かがみの孤城

2018年09月23日 23時55分49秒 | エッセイ
 私は、ある高校で教員をしている。
 4月下旬から、毎朝、2年生のタカバタケさん(仮名)のお母さんからの欠席連絡を受けるようになった。どうやら、不登校になってしまったらしい。
「去年は皆勤でオール5だったんです。どうしちゃったんだろう」
 担任も首を傾げている。保護者も原因に心当たりがないと困惑しているようだ。一体なぜ?
 不登校はどの学校にもある問題だろう。2018年本屋大賞を受賞したこの作品は、学校に行かれなくなった7人の中学生が登場するファンタジーである。



『かがみの孤城』
 主人公の中1女子、安西こころの場合は、同じクラスの真田美織というイカれたヤツが原因だった。徒党を組んで、こころの友達に「あの子と仲良くするな」と働きかけて孤立させる。無視されたり、聞こえよがしに悪口を言ったりと質が悪い。こころが入っている、トイレの個室をのぞこうとしたこともあった。はては、こころの自宅への不法侵入にまで発展し、まったくもってどうかしている。
「気違ってる……」
 もちろん、そんな言葉はないけれど、そういうレベルの子だ。頭の中はカラッポで、異性のことしか考えられない。自分の行動を反省することもなく、思い込みと自己陶酔で行動する。
 横溝正史の名作『獄門島』では、和尚が「キチガイじゃが仕方がない」とつぶやく場面が伏線となっていた。そのキチガイとはちょっと違うけど、真田美織は一種の障害だから、情状酌量の余地がある。腹立たしいのは取り巻きである。右へならえして、気違ったヤツにへいこらするとはどういうことか。次は自分が仲間はずれにされるかも、と不安になるからといって、人を傷つけていいわけがない。何も考えず、ひたすら強い人間に服従する輩は信用できない。
 こころ以外の6人が不登校になった理由はさまざまだ。学校に原因があるなら、転校すれば解決するかもしれないけれど、家庭に原因がある場合は難しい。子どもが安心して暮らせる場を確保するのが当たり前のことなのに、それすらできないとはひどい話である。
 でも、7人の中学生は変わるのだ。もちろん、いい方向に。ちょっとしたエピソードが無駄なく生かされ、ジグソーパズルにようにきっちりとはめ込まれていく。日頃から反応が鈍くて、お化け屋敷に入っても怖がらない私が、ラストではワンワン泣いた。お化けを見ても、逃げ出さずに観察してしまう私が、人に対する思いやりの深さに胸を熱くした。お見事としか言いようのない結末で、今年読んだ本では一番よかったと思う。
 うちの生徒は、図書室を利用する割合が低いのに、この本に関しては貸出が多い。いい傾向だ。



 
 話を戻そう。
 私の学校のタカバタケさんは、9月になっても学校に来られない。中学と違って、高校には進級に基準がある。欠席が多すぎて、彼女は3年生になれないことが決定した。家から外に出られないから、転学も考えていないそうだ。でも、おばあちゃんの家には行かれるし、泊まることもできるのだとか。
 現実と小説は違うけれど、タカバタケさんにもこの本を読んでもらいたいと思う。
 こころの友達の東条さんという女の子が、「たかが学校」と言い切る場面が好きだ。学校なんて、人生のほんの一部分に過ぎない。不登校だったら、人生が終わるわけじゃないと伝えたいのだ。
 教育機関の職員としては、すべての生徒が安心して過ごせる場所を提供せねばと気を引き締めた。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (8)
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