「禅」は、当初から武士の生活・精神に密接な関係がありました。
鎌倉時代初期、日本に最初に禅宗を伝えたといわれる栄西は、武家政権である鎌倉幕府の帰依をうけて京都に建仁寺を開きました。
その後、禅は、足利時代・戦国時代・徳川時代と武士階級を中心に種々の影響を及ぼしました。
特に、戦国時代には、武士階級における精神的ストレスの極度の高まりに対応し、「禅の精神」が広く深く浸透したようです。
(ア) (p54より引用) ある観点からすれば、十六世紀の日本は多くの立派な人間の標本を造りだした。国家はいわば政治的にも社会的にも寸断された。封建諸侯が日本中で互いに戦った。庶民ははなはだ苦しんだに違いないが、この武門階級の間における政治的・軍事的の覇権の争奪戦はあらゆる方法を尽して精神的・道徳的の力を極度に緊張する助けとなった。
そういった中、戦国諸侯の中にも仏教に帰依する有力大名が次々と現れました。
(p54より引用) 生活のいろいろな方面に剛毅の気風が現れて、武士道を作る徳の大部分はこの時期に形成され、信玄と謙信は仏門諸侯の典型的な代表者であったということができよう。彼らはともに勇気があって、死に面して怯まず、戦闘のみならず領民を支配する点でも賢明にして思慮ふかく智慧があった。無智鈍感な一介の武人ではなくて、諸芸に通じ宗教心に富んでいた。
「禅」は体験を重んじ行動を求める教えです。まさに「武士の宗教」として相応しいものでした。
(p60より引用) 禅はかならずしも霊魂の不滅や神の道の義しさや倫理的行為については彼ら(武士修禅者)と議論しなかったが、ただ合理・非合理いかなる結論にもせよ、人がそれに達したものをもって突進することを説いた。哲学は知的精神の所有者によって安全に保存せられてよい。禅は行動することを欲する。最も有効な行動は、ひとたび決心した以上、振りかえらずに進むことである。この点において禅はじつに武士の宗教である。
この精神は、以降、武士のみならず広く一般庶民にも浸透しました。
「ひとたび決心した以上、振りかえらずに進む」という行動規範は、時に不幸にも、先鋭的な姿として現れたのです。
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