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基本の処方箋 (V字回復の経営(三枝 匡))

2006-06-07 00:56:28 | 本と雑誌

 三枝氏がこの本で示している事業改革の要諦は50項目あります。これらの勘所は、本文中で一連のストーリーの中に埋め込まれると同時に、巻末にもまとめて列挙されています。
 それらの項目は頭でっかちの戦略・戦術というよりも、現場感覚に富んだリアリティのあるものであったり、また極めてベーシックな基本コンセプトであったりします。

 たとえば、事業の原点として再確認されたコンセプトは「商品の基本サイクル」でした。

(p118より引用) 第1コンセプトは、事業の原点「商品の基本サイクル」というものだった。・・・
「・・・この単純な図式を日本の経営者が見失い、放置していることが多いのです。・・・」
 事業の原点は、商品やサービスを顧客に買っていただくことである。・・・
 そこで会社は、開発→生産→販売→顧客のサイクルを回して顧客にサービスを届けている。
 競合相手も同じことをしている。
 競争企業のそれぞれの「創って、作って、売る」は顧客のところでぶつかり合い、そのせめぎ合いの中で、顧客はいずれかの企業を取引相手として選択し、商品やサービスを購入する。・・・

 こういう「基本コンセプト」の確認を踏まえて、競争に打ち勝つための処方箋として、その基本動作を「早く」回すことを提案しています。

(p119より引用) 企業競争のカギは、そうした顧客のさまざまな要求に、組織としてどう迅速に応えるかだ。・・・
 「この回し(サイクル)を社内が緊密に連携し、競合相手に打ち勝つスピードで行なうことができれば、その企業は次第に競争相手を凌駕していくことになります。」

 複数の製品をもつ会社の組織形態は、大雑把には、「製品別事業部制」か「機能別事業部制」かのいずれかをとっているケースが多く見られます。(もちろんマトリックス型もありますが・・・)
 上記の「商品の基本サイクル」が早く・うまく回っていないケースは「機能別事業部制」により多く見られます。ひとつの製品という軸で見た場合、事業部をまたぐ「プロセスの分断」が発生するからです。

 事業部制のデザインとして「製品別」を選択するか「機能別」を選択するかは「部分最適」「全体最適」の議論にも関わってきます。「製品別組織」でも「機能別組織」でも複数組織間の関連が多少なりともある以上、この問題(部分or全体)は生じるからです。

(p121より引用) 五十嵐はその会社で、不効率の発生源を一つひとつ探っていった。するとそのほとんどがそれぞれの部署の内部ではなく、部署と部署の境目で起きる停滞によって発生していた。
 一つの部署の中では、内部矛盾が現場の管理職の指導で解決されており、それなりの「部分最適化」が図られていた。
 ところが複数の管理職が関与する部署間の問題になると、あちこちで未解決の課題が放置され、会社全体が惰性で動いている図式だった。「全体最適化」が見失われていたのである。

 この命題を考える場合の重要な視点は、どの範囲のプロセスのかたまりを「部分」と考え、それに対比するものとしてどの範囲を「全体」と捉えるかという点です。
 これは、ある意味「程度問題」です。一旦「全体最適」が果たされた(つもりになった)としても、往々にしてその対象とした「全体プロセス」は、より包括的なプロセスの「部分」に過ぎないからです。
 プロセスを細分化すると「部分最適」になりやすく、プロセスを広範囲に捉えると「コントロール不全」になりがちです。

 最初から100%の完璧性を目指すのは無理です。そもそもどのレベルが完璧かという目安ももちにくいものです。
 実際の取り組みとしては、それぞれのプロセスの担当者が、まずは前後のプロセスを意識することが重要です。そして、上位のマネージャが常に自分の担当範囲のプロセスを俯瞰的にウォッチする、そして少しずつコントロールの対象とするプロセス範囲を広げていくというやり方が現実的です。

 もちろん、ある程度広範囲を対象とした「To Beプロセス」を描きビッグバン的に改革を進める方法も(アプローチ方法としては)あり得ます。
 が、継続的に事業を営んでいる場合(通常はそうです)、そういった大きな断層を作るやり方は、現実的には大きなリスクを伴います。

コメント
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