先に読んだ「〈数学〉を読む」という本の中で若手の数学者の方が推薦していたので、遅ればせながら寺田寅彦氏の随筆集を読んで見ました。
科学者としての目と随筆家としての目という「複眼思考の実践」のようにも思えますし、科学者の目を入力とし随筆家の筆を出力とした科学と文学のコラボレーションとも言えます。
そういった意味では確かに一風変わった感触の著作だと思います。
特に「芝刈り」という作品などは、どこまで意図的なのか勘ぐりたくなるぐらいある種理屈っぽく表現されています。科学者の筆による緻密で論理的な表現と感じる人もいれば、著者一流のユーモアやエスプリの効いた表現と捕らえる人もいるでしょう。
ただ、他の作品を読んでみて思うのは、寺田氏は心底科学者としての分析的・実証的な視点から、身の回りの事象・現象を真正面から捉え続けていたのだということです。
数ある作品の中で、タイトルからしてストレートに上記の内容に関わるものに「科学者と芸術家」という一編があります。
その中の一節です。
(p92より引用) 純粋に解析的と考えられる数学の分野においてすら、実際の発展は偉大な数学者の直感に基づく事が多いと言われている。この直感は芸術家のいわゆるインスピレーションと類似のものであって、これに関する科学者の逸話なども少なくない。長い間考えていてどうしても解釈のつかなかった問題が、偶然の機会にほとんど電光のように一時にくまなくその究極を示顕する。・・・もっともこのような直感的の傑作は科学者にとっては容易に期してできるものではない。それを得るまでは不断の忠実な努力が必要である。・・・一見はなはだつまらぬような事象に没頭している間に突然大きな考えがひらめいて来る事もあるであろう。
不断の努力の大切さを語っています。
以前読んだ「数学的思考法」という本にて数学者の芳沢光雄氏も同じような趣旨のことを記しています。