昭和39年(1964年)電子計算機事業からの撤退に際しての松下氏の言葉です。
(p117より引用) 私は考えた。・・・これはここで思い切って撤退しようと迷わず決断したのであった。・・・そう決断して発表したものの、実際はなかなか容易ならんことであった。・・・しかし、やめる決断をしたからには、それも感受しなければならない。・・・
会社の経営でも何でも、素直な心で見るということがきわめて大事であると思う。そうすれば、事をやっていいか悪いかの判断というものは、おのずとついてくる。傍目八目というけれど、渦中にいる自分にはなかなか自分というものが分からない。だから意地になってみたり、何かにとらわれたりして、知らず知らずのうちに判断を誤ってしまう。
やはり、自己観照ということが大事である。特に経営者が判断をするときには、この心がまえが不可欠のように思うのである。
経営において、新規参入よりも撤退の方がはるかに難しいとはよく言われることです。
現在営んでいる事業ですから、様々な面で現実的なしがらみがあるでしょうし、その事業の担当者にも思い入れがあります。何とかしようと思えば思うほど、その事業にのめり込んで、周りが見えなくなってきます。客観的・俯瞰的な立場からの判断が益々できにくくなるのです。
超大企業の創業者であり「経営の神様」と言われるほどの「カリスマ経営者」である松下氏のことばだけに、「自己観照」の勧めには格別の重みがあります。