Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.397:たまには授業についの報告『初年次ゼミ大改訂』の巻

2011年02月24日 | 授業のおはなし
■初年次ゼミとは
最近、各大学で初年次教育の重要性が叫ばれるようになっています。初年次
教育学
によると、
その理由は
「高等教育のユニバーサル化の進行に伴い、多様な学生が高等教育に進学す
るようになる一方で、卒業時の質保証が求められるようになり、入学した学
生を大学教育に適応させ、中退などの挫折を防ぎ、成功に水路づける上で初
年次教育が効果的であるという期待や評価が高まっているから」
ということです。

本学もまったく同じ課題の渦中におりまして、その解決策の一つが初年次教
育の拡充でした。中でもゼミは最も注力している科目の一つです。そこで今
回は、2010年に大幅に改訂した「チーム学習ゼミ」についてお伝えしたいと
思います。

■そもそもゼミとは何でしょう
さて、本題に入る前に大学のゼミとは一体何かについて整理しておきたいと
思います。多くの人は大学のゼミという言葉から

・少人数で実施される
・教員の講義は少なく、学生の発表や討議等が主体となる
・担当教員の専門(研究)テーマに関連した研究活動が行われる
・勉強だけでなく学生間の結びつきを深める場である

といった特徴を連想すると思われます。
ゼミの起源は19世紀のドイツのベルリン大学とされています。この大学の基
本構想を作成したフンボルトは、「大学では、学問をつねに未だに解決され
ていない問題として扱い、絶えず研究されつつあるものとして扱う」と考え
ていました。その解決のために、先生と学生が一緒になって真理を追究する
場としてゼミが登場したとされています。

しかし、ゼミを「専門分野の真理を追究する場」と捉えると、初年次ゼミは、
理解しがたいものになってしまいます。1年次に配当される「初年次ゼミ」
や「基礎ゼミ」は

・人数は20~30人ぐらい(小中学校のクラスよりやや小さめ)
・文献講読やレポート作成などアカデミックスキルの基本を修得する
・大学生としての心構えを涵養する
・大学生活を一緒に過ごす仲間と出会い、関係を深める

といった特徴があります。同じゼミでも大分内容が異なるのです。

■本学での初年次ゼミの取組
産能では、この初年次ゼミを1年生の前期・後期に分けて必修で実施してい
ます。前期のゼミは主に「個」のアカデミックスキルの修得を中心とした
「学び方修得ゼミ」です。この科目では「情報を収集し、それを考察、文章
にまとめ、発表する」といったin-put → through-put → out-putのプロセ
スを繰り返すことでアカデミックスキルを修得します。一方、後期は「チー
ム学習ゼミ」といって、チームでのテーマ検討を通じてグループ活動の基本
を学ぶ科目を実施しています。

昨年までの「チーム学習ゼミ」では、各クラス(あるいは各チーム毎)で設
定するテーマについて6人前後のグループで検討し、レポートにまとめ、発
表するといったプロセスを1セメスターの中で2回テーマを変えて実施して
いました。また、授業時間外での学生間のグループ活動の利便性を向上させ、
その活動を教員側で把握するため、GWEと呼ばれている独自開発のグループ
ウェアを活用していました。具体的な「チーム学習ゼミ」の活動につきまし
ては、一昨年に本メルマガで紹介しておりますので、下記を参照願います。

vol.286:そろそろ授業の話しをしましょう---その1「チーム学習ゼミ」

■今までの課題と改訂のポイント
しかし、この科目にはいくつかの問題点がありました。まずは、グループ活
動の基本という点において「このゼミで最低限修得すべき事」が具体的でな
かった事があります。また2つのテーマを取り上げることにより、発表後の
成果に対しての振り返りが不十分であったことも課題となっていました。

そうした課題を解決するため、今回の以下の改訂を実施しました。

・改訂1「Sanno Teamwork Skill Standard」の設定
このゼミで最低限修得すべき事はなにかを各クラス共通で認識するため、
「Sanno Teamwork Skill Standard(略称STSS)」を制定しました。具体的
には

・対話する力 Dialogue Skill
・チームで考える力 Group thinking Skill
・発表する力 Presentation Skill
・活動を振り返る力 Reflection Skill

の4つについて、できるだけ行動レベルで学習目標を示しました。例えば、
対話する力では「チームメンバーの名前をきちんと覚えて呼び合っている
か」「話す時に相手を見て話しているか、向き合って討議しているか」とい
った行動目標を設定しました。

・改訂2「3ステージ構成」
検討テーマを1つに減らし、その代わり科目全体を3ステージ構成に変更しま
した。まず第1ステージでは「Sanno Teamwork Skill Standard」のうち「対
話する力」と「チームで考える力」の2つに関して学ぶ授業内容を開発し、
これを全クラスで実践しています。講義は極力避け、グループ単位での実習
を「これでもか」というぐらい盛り込んでいます。これらの実習を通じてス
キルの修得に加え、仲間と協働で活動できる素地を作ります。続く第2ス
テージではグループ毎でテーマ検討を行います。テーマを2つから1つ減ら
しましたが、検討する週は多くしていません。多くしても間延びしてしまい
集中したグループ活動にならないからです。その代わりに多く時間を取った
のがステージ3の「2回の発表と振り返り」です。

・改訂3「2回の発表と振り返り」
今回の改訂では検討結果の発表をやりっぱなしにしないため、発表の機会を
2度設定しています。一度目の発表の後、他チームのメンバーからのフィー
ドバックコメントや発表模様を収録したビデオを閲覧することで、自分達の
発表内容や発表方法を振り返り、改善を加える時間を十分に取り、2回目の
発表をさせました。

■結果
先日、本科目を担当する教員が集まり、振り返りのミーティングを実施した
のですが、改訂内容については概ね良好な結果が得られたということでした。
特にステージ1を加えたことで、ステージ2の活動が活性化したという声を
何人かの先生からうかがいました。コガ個人としても、ステージ2の活動に
チーム間でのクオリティのばらつきが少なくなった印象を受けました。また
例年ですと。最後までチームに全く溶け込めない学生がクラスで1~2名現
れるのですが、今年は全員が恥ずかしがらずにグループディスカッションが
参加できるようになっており、ステージ1の成果を実感しました。

ちなみに第2ステージのテーマは、従来通り各先生におまかせするスタイル
を継続しました。学校の募集パンフレットづくりだったり、学生にテーマ自
体を考えさせたり、前述の「産能大版人生ゲーム」を実施するクラスもあり
ました。コガのクラスでは、「大学生活版喜怒哀楽カルタ」を各チームに作
らせました。これは日本教育工学会のワークショップで知った「KARUTA wor
kshop(下記参照)」を大学授業版にアレンジしたものです。

vol.381:日本教育工学会第26回全国大会「かるたづくりでリフレクション」

たまには自画自賛させていただくと、このテーマ設定は大成功でした。兵庫
教育大学の手塚先生、神戸芸術工科大学の曽和先生、SODAdesign research
大西さま、教育工学会のワークショップのお陰で非常に面白い授業を実践す
ることができました。この場をお借りしまして御礼申しあげます。

なお、「大学生活版喜怒哀楽カルタ」の実践につきましては、また別の機会
に紹介したいと思います。

■まとめ
今年改訂したばかりのため、まだまだ修正しなくてはならない箇所が沢山あ
ります。コガ自身一番気になっているのはSTSSの目標設定の部分です。もっ
と具体的な行動目標にしていきたいですし、達成度を判断する指標を作り、
ルーブリック化していくのも面白いのではないかと考えています。

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