Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.407:初年次ゼミでの取組その2「学生活版喜怒哀楽カルタ」

2011年06月06日 | 授業のおはなし
本メルマガvol.397で、2010年度に実施した初年次ゼミの改訂についてお伝
えしました。

上記記事の最後に
「『大学生活版喜怒哀楽カルタ』の実践についは、別の機会に紹介します」
とお伝えしていたにも関わらずサボっておりました。
申し訳ございませんでした。

ということで今回は、昨年1年生対象の「チーム学習ゼミ」の後半の10週で
実施した「大学生活版喜怒哀楽カルタ」についてご報告いたします。

■■概要
「大学生活版喜怒哀楽カルタ」は、大学生活で「成長したと感じた経験」を
題材に、喜怒哀楽の分類を付加して「あ」から「ん」まで45枚のカルタをグ
ループで制作するワークショップです。このワークは私が考えたのではなく、
日本教育工学会のワークショップで知った「KARUTA workshop(下記参照)」
を大学授業版にアレンジしたものです。

vol.381:日本教育工学会第26回全国大会「かるたづくりでリフレクション」

このワークショップを企画していただいた手塚千尋先生(兵庫教育大学)、
曽和具之先生(神戸芸術工科大学)、大西景子様(SODAdesign research)
には大変感謝しております。この場をお借りして御礼申しあげます。

「大学生活版喜怒哀楽カルタ」では1チーム6人で45枚のカルタを制作します。
最終的には以下の3点をグループ活動の成果物として仕上げる必要があります。
【カルタ】
45枚のカルタの制作。字札と絵札を作る。
【レポート】
カルタを作るプロセスから大学生は、いつ、どこで、どんな体験を通じて成長し
ているのかを分析し、グループとしてレポートにまとめる。
【発表】
この科目の学習目標である「発表する力」を育成するため、上記レポートの
内容を1チーム7分から10分程度で発表する。

■■カルタづくりのポイント
カルタづくりのポイントは下記の3点となります。
【インタビュー】
まず学生は、大学の先輩、年上の兄弟、バイト先の社会人など、大学生活経
験者へのインタビューを実施します。そして、大学生活の中で成長のキッカ
ケとなった経験を聞き出し、その経験に対し喜怒哀楽のうちどの感情を抱い
たかをインタビューします。45枚のカルタを完成するには、一人あたり平均
8つの経験をインタビューで聴き出してくる必要があります。8人から1つず
つ経験を聴きだしても、反対に一人から8つの経験を聴き出しても良しとし
ています。

【オノマトペ】
作成するカルタの字札はオノマトペで開始することがルールとなっています。
オノマトペとは、「ゴリゴリ」とか「ピカピカ」といった擬音語、擬態語な
どのことです。普通の言葉でカルタを作成すると、語彙の豊富さで作成の効
率が変わってしまいます。オノマトペの場合、あまり語彙力に左右されずに
作成でき、また経験の持つ意味をより深く考えるきっかけとなるためこの
ルールを設定しています。
例えば、
「大学1年の最初の時はすごくタイピングが遅かったけど、練習して、今は
最初と比べて速くなった。」という体験を聞き出したとします。それに対し
「カタカタ」というオノマトペをつけ、「カタカタ パソコンで 日に日に
上達 タイピング」といった具合に字札の文章を考えていきます。

【分類】
各カルタのエピソードを「ヒアリング相手の属性(学校の先輩、バイトの先
輩等)」「喜怒哀楽のどれに該当する経験か」「体験場面(授業、授業以外
の大学、バイト等学校外、家庭、その他)」によって分類させました。これ
らの情報をもとに、大学生はどんないつどんな体験から成長するのかを量的
に分析し、グループレポートや発表に反映させました。

■■テーマとしてカルタづくりを選んだ理由
このようなカルタづくりをチーム学習のテーマとして選んだ理由は3つあり
ます。第一の理由は、インターネットという便利なツールに頼るのでなく、
自分の足で情報を収集して欲しかったからです。少し検索すればネットのど
こかに解答らしき情報がでている学習テーマの場合、インターネットからの
引用だけでレポートを作成し、発表が終わってしまうケースをこれまで何度
も経験し、苦い思いをしてきました。そこで、ネットに解答のない課題とす
れば、目と耳で情報を収集せざるを得なくなるだろうと考え、このテーマを
選びました。

第二の理由は、「経験を通じて学ぶ」という概念を、文字通り"経験を通じ
て"学生に気づいて欲しかったからです。「先輩達は大学生活で様々なこと
を経験し、それをキッカケに成長している」という気づきから、彼らが今後
の大学生活で様々なことに積極的に参画してくれるようになってくれればと
考えています。

そして、第三の理由は、グループ全員で何かを最後まで創り上げる経験をし
て欲しかったからです。45枚のカルタを作成するのは、かなり骨の折れる仕
事です。決して一人では完成できません。絵が得意な学生、Excelでカルタ
の分類を集計するのが上手な学生、発表用のパワポを作るのが上手い学生、
先輩に聞き出すのが上手な学生など、学生によって「強み」は違います。そ
れらの「強み」を持ち寄り、協力することで「カルタ」という具体的な「ブ
ツ」を完成させ、達成感を感じて欲しかったのです。

■■実際の授業
「大学生活版喜怒哀楽カルタづくり」のワークショップは第5週から第14週
までの10回で実施しました。

初回の第5週では、今回の課題の概要を説明し、「オノマトペ」についての
理解促進を図るため簡単なワークを実施しました。

6週~7週は、授業時間以外でのインタビューによる情報収集と、オノマトペ
+字札づくりを実施しました。字札については特に指定はしなかったものの、
あえて5・7・5にこだわって川柳風に字札を作成するチームもありました。

8週~10週は、字札づくり、絵札づくり、レポート作成、発表準備等、同時
にいくつものタスクを推進します。あるチームでは「レポート作成、発表準
備」といった一人では決められない事項はグループの集まる授業時間に検討
し、その他字札や絵札の作成はバラバラにできるため、各自持ち帰って作る
いう方法でワークを進めていました。

1回目の発表は11週目に実施しました。発表は1チーム10分。基本的には全
員に発言する機会が回るようにプレゼンの構成を考えて貰いました。各チー
ムの発表はビデオ録画し、翌週の振り返りの中で活用しました。また発表の
後は「カルタ閲覧会」を実施し、他チームの作成した絵札と字札について評
価しました。

年始の第12週には新年カルタ大会を実施しました。また自分達の発表ビデオ
の閲覧や、クラスのメンバーからのコメントシートをもとに、発表の改善点
を確認しました。そして13週目に発表内容の修正をし、最後の14週に再度発
表を実施しました。

■■今後の改善点&まとめ
コガが担当しているチーム学習ゼミのクラスでは、昨年まで「産能大人生
ゲーム」というボードゲームを作成するというテーマで実施していました。

参考:vol.286:そろそろ授業の話しをしましょう「チーム学習ゼミ」

先輩にインタビューするというところまでは一緒ですが、完成物が異なりま
す。今回「かるた」にして良かったのは、作業の分割と協力のあり方が比較
的自由にできた点にあります。人生ゲームの場合、どうしても特定の学生に
負荷が集中してしまうのですが、カルタの場合、比較的負荷を分散させるの
がやりやすかったようです。

また、発表を1回で終わらせず、最初の発表を振り返り、2度目の発表の機会
を設けたことは大変有効でした。発表はやりっぱなしにせず、必ず振り返り
を実施することと、修正して再度実施することが大事だなと感じた次第です。

残念ながら、学生からの授業評価の結果は少しだけ下がりました。これは授
業外のワークの負荷が高すぎたのが要因の一つと考えています。しかし、14
週の授業終了後に学生に書かせた振り返りレポートでは、以下のような前向
きな意見が多かったです。

「始めはすごく楽しそうだなと感じていました。しかし実際はそんなに簡単
なものではなく、チーム全員が協力しないとやり遂げられなかったものだっ
たと思います」

「インタビューを通しいろいろな先輩の成長体験を聞かせてもらいました。
いろいろな場面での成長があり、私はいつどこで成長が訪れるのかわからな
いと感じました。これから私もいつどこで成長するかわからないし、突然成
長できるチャンスが訪れる可能性もあるので、自分が成長するためにチャン
スを逃さぬよう積極的にいかなければいけないと感じました」

「やり終えたものを放置せず今回のように「発表→振り返り→再度発表」と
いう行為を繰り返していくことで、自然とSTSS(Sanno Teamwork Skill
Standard)のどの能力も身についていくのではないでしょうか」

初めてのテーマであったため、時間配分があまりうまくいかず、最後の方は
押せ押せになってしまった点が大きな反省点です。今年もう一度チャレンジ
して、ワークとしての完成度を高めていきたいと思った次第です。

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