Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.397:『プレゼンテーションZen』 ガー・レイノルズ著(ピアソン・エデュケーション、2010年)

2011年02月24日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊
プレゼンテーションzen
Garr Reynolds,ガー・レイノルズ
ピアソン桐原


大学院時代の同級生タナカさんが、年末にFacebookで絶賛していたのを読ん
で手に取った書籍です。読む前は「クールなパワーポイントを作る」ための
ノウハウ本だと思っていたのですが、良い意味で裏切られました。「人にも
のを伝える」ことに関して発想の転換を促す深い内容の一冊だったのです。

こういったテーマを取り扱った本の場合、

A)考え方やコンセプトだけの抽象論で終わってしまう
B)プレゼンテクニック面のノウハウで終わってしまう
C)両方を盛り込み過ぎてまとまりがなくなってしまう

の3つの道が考えられますが、本書は

D)コンセプト・テクニックの両面を盛り込みつつも内容を凝縮し、しかも
センス良く見せる

という奇跡的な完成度を見せております。

本の構成は「イントロダクション」「準備」「デザイン」「実施」「次のス
テップ」となっています。以下各章でコガの印象に残った部分とコメントを
述べていきたいと思います。

■イントロダクション
筆者は冒頭で「PowerPointのお粗末な現状」について以下のように語ってい
ます。

「今や毎日、無数のプレゼンテーションがPowerPointやその他のスライドウ
ェアを使って行われている。だが、ほとんどのプレゼンテーションは、恐ろ
しく退屈なままであり、プレゼンターと聴衆の両方が耐え忍ぶだけのものに
成り下がっている(p.21)」

コガのゼミで、最近卒業論文の発表会を実施したのですが、まさに「耐え忍
ぶだけ」の時間になってしまいました。論文の内容を箇条書きにしただけの
スライドや恥ずかしそうに原稿とスクリーンを見ながらモゴモゴと発表する
学生の様子は「おいおい君たちは一体4年間何を学んできたのだ!」と叫び
たくなる一方、彼らを指導していたのは自分じゃないかと自己嫌悪に陥って
しまいました。

PowerPointによるプレゼンが主流になったことで、「プレゼンもどき」が誰
にでも簡単にできるようになりました。筆者はMicrosoftが用意している
PowerPointのテンプレートに諸悪の根元があると論じ、それらを使わず、適
切なメソッドでパワポのスライドを作成すれば効果的なプレゼンは可能であ
ると述べています。

「情報が口頭と書面(スライド)で同時に提示された場合、聴衆は情報を処
理するのが難しくなるという説は、研究結果によって裏付けられている。な
らば黙ったまま聴衆にスライドを読ませておいた方がいいのかもしれない。
しかし、ここで新たな問題が出てくる。あなたは何のためにそこにいるの
か?(p.24)」

あなたがそこにいる必要は、画像やその他の適切なメディアの助けを借りて
「物語」を語るためと筆者は述べています。そのためには、話す内容の箇条
書きを並べただけのスライドを捨て、新たなプレゼンテーションのスタイル
に移行する必要があります。では、移行するにはどういった準備が必要なの
でしょうか?

■準備
この章の第1キーフレーズは「創造性を高めるためには制約が必要」という
ものです。
・短時間でプレゼンの資料を作らねばならない
・たった5分で伝えなくてはならない
そうした制約要件は良いプレゼンをする上での「敵」でなく、心強い「味
方」として認識する必要があります。なぜなら制約があるが故に、我々は目
の前の問題について、いつもとは違った創造的な発想をせざるをえなくなる
からと筆者は述べています。

制約の一例として本章のコラムで「ペチャクチャ・メソッド」によるプレゼ
ンテーションを紹介しています。「ペチャクチャ・メソッド」では、プレゼ
ンターに使用が許されるスライドは20枚に限定されます。しかも1枚のスラ
イドは20秒間という決められた時間だけスクリーンに映し出され、自動的に
次のスライドに変わります。つまりプレゼンターは20秒ずつ投影される20枚
のスライドに合わせて6分40秒の発表を行うというのが「ペチャクチャ・メ
ソッド」の制約条件なのです。

このメソッドを使ったイベント「ペチャクチャナイト」は東京が発祥地で、
現在世界80都市以上で開催されているそうです。下記Webサイトに実際のプ
レゼンの模様の動画がUPされておりますので、ぜひご覧ください。制約があ
ることで、実に引き締まったプレゼンになっています。
http://www.pecha-kucha.org/

第2のキーフレーズは「プレゼンの準備段階ではコンピューターの前から離
れろ」というものです。
紙、ホワイトボード、ポストイット、砂浜などなど、コンピューター以外の
アナログ媒体を使ってアイデアを発想したりまとめたりすることの重要性を
筆者は強調します。なぜなら聴衆に語りかけ、心を通い合わせる行為(つま
りプレゼン)はきわめてアナログ的な行為だからです。

第3のキーフレーズは「エレベーターテスト」です。
こんな状況を想像して下さい。あなたは、世界有数の先端技術メーカーの社
員です。これからマーケティング部長に新しいアイデアを売り込む予定です。
しかし部長室に行くと、部長は急用のため外出するところです。そのため、
あなたは下りのエレベーターに部長と一緒に乗り込み、駐車場に到着するま
での数分間でアイデアを売り込まなければなりません。短い時間でメッセー
ジをきちんと伝えるためには、メッセージのコアをきちんと把握していない
ければいけません。

「So What?(ダカラナニ?)」資料を準備している時は常にこの言葉で自問
し、話す内容を洗練させていく必要があると述べています。「論点やスピー
チの目的に欠かせない要素でなければコンテンツから外してしまおう。情け
容赦は無用である。迷った場合は思い切ってカットするといい(p.109)」
うーん、これを言い出すとこのメルマガは何も伝える内容が残らないかもし
れないですね。So What?~怖い言葉です。

■デザイン
この章は他の章と比較してテクニカルな内容が充実しています。本章の中心
はPowerPointを作成する上で役に立つ「7つのデザイン原則」です。「S/N
比」「画像優位性効果」「余白」「コントラスト」「反復」「整列」「近
接」の7つの原則について、実際のスライドを提示しながら分かりやすく解
説されています。

特に「S/N比」の項目は目から鱗でした。「S/N比」とはシグナル/ノイズの
比のことで、オーディオマニアの方ならカタログ等でよく見かける値だと思
います。ここで言う「S/N比」はスライド上の無意味な情報に対する意味の
ある情報の比率を指します。

例えば毎ページ見せられるフッターや会社のロゴ、あれは本当に全ページに
必要なのでしょうか、多分聴衆からすると「ノイズ」です。本書では最初と
最後のスライド以外から会社のロゴを外してみることを提言しています。
またパワーポイントのグラフの表示方法に三次元グラフというのがあります
が、これも考えてみると数字を把握しづらくなるだけなので、できるだけ二
次元のグラフを用いるよう本書では推奨しています。

コガも、スライドの全ページの右下に自分の似顔絵を付けていたのですが、
ノイズそのものだったので、本書を読んだ後に最初のページだけ表示するよ
うスライドのテンプレートを変更しました。

■実施
「実施」の章で印象に残ったのは「腹八分」を心掛けるようアドバイスして
いた点です。我々は「沢山書くこと」「沢山話す事」が高得点となる学校生
活&社会生活を過ごしてきてしました。しかし実際にはスピーチやプレゼン
は聞いている人にとって短ければ短いほど良いのです。人の集中力の持つ時
間が15~20分ほどなので、長くプレゼンしても人の記憶には残らないのです
から。

コガも、大学の授業時間が90分と決まっているので困ることがあります。必
要な事は学習し終わったのに、あまり早く授業を終わる訳にもいかず、だら
だらと無駄話をして時間を無為に使っている場合が正直あります。90分は目
一杯使いつつ、腹八分目な授業を実践するにはどうしたらよいのでしょう
か?
これはチャレンジする価値のある課題ですね。

■次のステップ
最後の章では、今後優れたプレゼンターになる上で留意すべきポイントにつ
いて書かれています。

まずは読書等を通じて独学すること。筆者ガー・レイノルズさんのWebサイ
トの"Resources"にある75項目以上のプレゼンに関する本やホームページの
情報は独学に役に立ちそうです。
http://www.garrreynolds.com/Nihongo/index.html

次に「実践すること」つまりプレゼンの場数を踏むことを強く推奨していま
す。コガもプレゼンは「やってみること」そして「振り返ること」が一番大
切だと認識しています。振り返る上では自分のプレゼンのビデオ映像を見る
のが非常に効果的です。

最後にコガがもう一つ勝手に加えるならば、「上手なプレゼンを見ること」
が己のプレゼンを上達させる上で非常に重要と考えます。

大学の教員は毎日が「プレゼン」です。来期に向けてよりよい「プレゼン」
ができるよう春休みに準備をしようと本書を読んで心に誓ったのでした。
(文責 コガ)

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