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大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.385:文部科学省 平成22年度「大学生の就業力育成支援事業」に採択されました

2010年11月23日 | 授業のおはなし
さて今回はちょっと真面目なお話しです。

文部科学省が平成22年度より実施する「大学生の就業力育成支援事業」に、
産業能率大学が申請した「四年一貫で真の就業力を育成する教育課程」が採
択されました。

「大学生の就業力育成支援事業」とは、各大学・短期大学における学生の卒
業後の社会的・職業的自立に向けた新たな取組を国として支援するものです。
現在の厳しい雇用情勢において、新卒学生の就職率の向上、学生の資質能力
に対する社会からの要請や、学生の多様化に伴う卒業後の職業生活等への移
行支援の必要性が高まっていることが本事業の背景にあります。

折しも文部科学省と厚生労働省の調査で、10月1日時点での大学生の就職内
定率(就職希望者に締める内定者の割合)が1996年度以降で最悪の57.6%に
留まっていることが判明したという報道がありました(日経新聞11月16日)。
就業力の向上は待ったなしの課題と言えるでしょう。

本事業の期間は平成22年から26年と5年間の長丁場です。この期間をかけて
本学では何を実施しようとしているのかを今回はお伝えします。

◆申請まで
産業能率大学は「就職に強い大学」ということで、1年次から3年次までのキ
ャリア教育、2~3年の夏休みに行うインターンシップ、キャリア支援セン
ターを中心に実施している個別の就活支援、実務家を招聘しての実践的な授
業等、一般に考えられている就業力支援の施策は既に実施しておりました。
そのような状況から新たに取り組む事項が見あたらなかったため、当初本事
業には申請しないつもりでおりました。
しかし厳しい就業環境の中、今まで見逃されていた事項が一つだけあり、そ
の解のため申請しました。それが今回の事業で中心的に取り組む予定の「卒
年次キャリア教育」です。

◆空白の10ヵ月がもたらすもの
現在、就職活動は3年生の秋から始まります。そして早い学生ですと4年の
ゴールデンウィーク頃に内定が出ます。一方で遅い学生は4年の終盤になっ
ても就職活動を続けています。そうした状況が3~4年での大学での学び、特
に専門教育に対し大きな支障をもたらしています。特に問題なのが早めに内
定の決まった学生です。4年の5~6月に就職内定を決めた後、残りの10ヵ月
間の大学生活の目標を見失ってしまい、卒業まで漫然とした日々を過ごして
しまう学生が少なくないのです。例えば、各学年の一人あたり平均取得単位
数を見ても、4年生は1,2年生の半分以下しか取得していません。

「4年次は卒業論文の制作を頑張るから良いではないか」と思われるかも知
れませんが、本学では卒論は任意であり、卒業論文に取り組まない学生は最
終年次に6単位分科目を修得すれば卒業できる仕組みとなっています。ちな
みに2009年度に卒業した4年生のうち卒業論文を提出したものは約4割となっ
ています。詳しく調べていないので分かりませんが、おそらく入試偏差値40
~50の私立の社会科学系の大学では、このような状況が一般的なのではない
かと推察しています。

こうした内定取得後の学習意欲の低下の影響は深刻です。前述のとおり本学
では1年から3年までの様々な支援により、学生のキャリア観の醸成および就
業力の向上を行っており、それらは就職活動を体験することでさらにブラッ
シュアップされます。しかし、いざ内定が決まってしまうと、この「空白の
10ヵ月間」でそうした意欲やスキルが一気に低下してしまい、中には目標を
見失ってしまったことからメンタルな面で深刻な状況に陥る学生もいるので
す。

◆卒業論文に代わる新たな卒年次教育の必要性
では「卒業論文指導」を強化すればそれで良いのでしょうか。卒業論文はそ
の制作プロセスを通じて、論理的な考察力、文章の能力、問いを見つけ自ら
研究する能力等が修得され、それらは社会に出た時も役に立つと考えられて
います。
しかし、東京大学経営・政策研究センターの「大学教育に関する職業人調査
-第1次報告書」(2010)によると、大学時代の勉強や生活について10の項目
を掲げ、それぞれが現在の仕事や生活にどの程度重要であるかを大卒社員に
尋ねたところ、卒業論文・卒業研究を「とても重要」と回答した人の比率は
12%であり、10項目の中で最低だったのです。大学人達は良かれと思い、何
の疑問も持たずに「4年生=卒論」と考えてきましたが、学生はそう認識し
ていないのです。
特に本学のように研究者養成でなく、普通の会社できちんと働けるビジネス
パーソンを育てる教育中心の大学、決して偏差値的には高くない大学におい
ては、従来の「卒業論文・卒業研究」を中核に据えた卒年次教育を再考し、
ユニバーサル時代の卒年次教育のあり方を検討すべきと考えています。

◆卒年次キャリア教育とは
現在、新たな卒年次教育のあり方として「卒年次キャリア教育」のコンセプ
トを検討し、その中身を検討しております。コガの個人的な意見としては
「学士課程教育以上内定者教育未満」のコンセプトで様々なメニューをカフ
ェテリアプランのように用意していければ考えています。
まず、内定が決まった学生とそうでない学生、本人の能力上の強み弱み等の
要件を勘案し、アカデミックアドバイザー(教員)と学生が相談しながら、
一人一人にあった履修パターンを作成します。
プログラムに加えるメニューは、企業の採用人材開発担当者を交えたプロジ
ェクトで検討し、本学社会人教育部門の企業内教育の研修開発セクションと
共同で開発する予定です。メニューの実施については、外部の実務家を招聘
することで、単に知識やスキルの修得に留まらず、この期間に学生がビジネ
スの現場の雰囲気や考え方に慣れることを目指したいと考えています。同時
に、4年生のアカデミックアドバイザーを担当する教員に対して、キャリア
教育に資する研修参加や勉強会を開催し、実施体制の強化を図っていく予定
です。

◆今後に向けて
今期は基本デザインの設計を行い、2011年度の上期にプログラムの開発、早
ければ2012年の下期にパイロットセミナーの実施を予定しております。学内
の様々な部署との連携だけでなく、学外の方々も巻き込んで、産能から新た
な卒年次教育のモデルが発信できればと考えております。そして今後本メル
マガの中でも皆様に進捗をお伝えしていきたいと思います。

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