Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.381:日本教育工学会 第26回全国大会 参加記【その2】

2010年11月07日 | セミナー学会研究会見聞録
日時:2010年9月18日(土)~ 20日(月)
会場:金城学院大学(名古屋)
主催:日本教育工学会(JSET)
大会Webサイト:http://www.jset.gr.jp/taikai26/

日本教育工学会全国大会の参加記。第2回の今回は「ワークショップ」を
テーマにお伝えいたします。

◆かるたづくりでリフレクション

KARUTA Workshop:
体験をドキュメンテーションする古くて新しいビジュアルリフレクティブ・
ツール
手塚千尋(兵庫教育大学)、曽和具之(神戸芸術工科大学)
大西景子(SODAdesign research)、茂木一司(群馬大学)
柴田あすか、籾井雄太(神戸芸術工科大学)

【概要】
初日の夕方に開催されたワークショップです。このワークショップでは、か
るたを「絵」と「文字」で構成されるメディアとしてとらえなおし、取り札
(絵)と読み札(文字)の制作を通して各自の体験をリフレクションし、そ
れを共有化しました。このワークショップの特徴は下記の3点です。

その1:オノマトペでかるたを作る
オノマトペとは、「ボロボロ」とか「ガチャーン」といった擬態語、擬音語
のことです。普通のかるたの場合、作成者の語彙の多寡がかるたの出来映え
に大きく影響してしまいます。しかしオノマトペならば心配無用です。

例えば
「す」=「すらすらと期末試験の問題が解けた」
といった感じで、一般的なオノマトペを使うのはもちろんのこと、
「し」=「ショピーーーン、商店街のくじ引きが当たった!」
などと自分でオリジナルなオノマトペを創作してもOKなのです。

さらに、体験をオノマトペ化するプロセスによりリフレクションが深まると
いうメリットもあるようです。

その2:楽しい体験をかるたにする
このワークショップの名称は「The Happy sounds KARUTA workshop」。自分
の楽しかった経験を題材にかるたを制作するのがルールです。「うーん最近
楽しくない出来事ばかりだしなあ」という人でも、日常を振り返ってみると
小さな幸せがあるものです。例えばある参加者が
「サクサク 梨が美味しいな」
という日常生活の小さな幸せを題材にカルタを作っていたのですが、梨好き
のコガとしては大変共感できるHappySoundでして、日々の幸せって意外と沢
山ありそうだなと思った次第です。

その3:かるた作成プロセス自体をリアルタイムドキュメンテーションする
昨年の安田講堂ワーププレイスラーニング2009でも作成いただいた必殺のリ
アルタイムドキュメンテーションを、今回のワークショップにおいても神戸
芸術工科大学の曽和先生が作成してくれました。残念ながら今回のビデオは
関係者のみ閲覧となっているのでお見せできないのですが、同様のかるた
ワークショップをフィンランドの大学で実施した際のリアルタイムドキュメ
ンテーションのビデオがYouTubeで公開されていましたのでそちらをご覧下
さい。

100623 The KARUTA Workshop@InSEA, Rovaniemi, Finland

ちなみにこのフィンランドのワークショップは美大の先生方が参加している
ので、絵がとっても上手です。

さて、実際のワークショップは以下の順番で進行しました。

Step1 イントロダクション(レクチャー)
ワークショップの全体説明やオノマトペについての解説、これからの作業の
進め方について簡単な説明がありました。

Step2 オノマトペのワーク(グループワーク)
グループメンバーのアイスブレイクとオノマトペの理解を深めるため、擬音
の部分を空欄にした人気漫画のワンシーンを配布し、空欄部分をグループで
考えるというワークがありました。

Step3 オノマトペかるた作成(個人ワーク)
「あ」から「ん」のかるたの中から各自が好きな札を取ってオノマトペかる
たを作成します。「楽しい出来事」を思い出し、それにまつわる「オノマト
ペ」「字札用の短文」「絵札のイラスト」の3点を考え、表現します。今回
コガは3枚作成しました。

Step4 プレゼン1(展覧会と発表会)
皆で作成したかるたを並べて、一人ずつ、絵札・字札にまつわるエピソード
等を発表していきます。

Step5 プレゼン2(かるた取り)
実際にオノマトペかるたを使って皆でかるた取りを行います。

Step6 ショートディスカッション+リフレクション
最後に今回のワークについて様々な観点から振り返りのディスカッションを
グループで行いました。コガの参加したグループでは、「オノマトペ」「字
札用の短文」「絵札のイラスト」のどこから考える等を話し合いました。

【コメント】
一言でいうと、没頭できて実に楽しいワークショップでした。一見Step3の
個人ワークが多いように思えますが、かるたを作っている最中に隣同士で相
談したりと他者の存在を感じながらの個人ワークとなっていたのであまり気
になりませんでした。グループでの振り返り等を含め、非常に和気あいあい
とワークを実践し、人間関係を深めることができました。

コガは後期に担当している「チーム学習ゼミ」という1年生の授業で、この
かるたワークショップの導入を検討しています。去年までこのゼミでは「産
能大版人生ゲーム」というのを学生に作らせていたのですが、同じテーマを
2年間続けたのでちょうど代案を探していたところでした。「産能大版人生
ゲーム」につきましては、下記のBlogバックナンバーを参照願います。

vol.286:そろそろ授業の話しをしましょう---その1「チーム学習ゼミ」
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/7e9b5cab5a093c436814ac8a6e585105

かるた作りであれば学生も真剣に取り組み、その中でチームで学ぶ力を向上
してくれるのではないかと期待しています。その模様につきましては、数ヶ
月後本メルマガで報告予定です。

◆ダブルバインドなテーマ設定でワークショップの創発を促進

学習を目的としたワークショップにおける
創発的コラボレーションに関する研究
安斎勇樹[東京大学]

【概要】
ワークショップは学習と創造の両面を含むことから「創発的学習活動」と呼
ばれています。個人では思いつかない優れた知恵を、グループのレベルで新
たに思いつく=「創発」を促進するにはどうすれば良いか。本研究では「矛
盾」という概念でワークショップをデザインすることで、創発的なコラボ
レーションを促すことができるかどうかを検証しています。

具体的には、参加者に取り組ませる課題に「相反する2つの条件」を設定し
ます。今回の取り組みでは、レゴを使って架空の「カフェ」を作るという課
題なのですが、一方のグループには「居心地のよいカフェ」といった矛盾を
含まない課題を与え、もう一方のグループには「危険だけど居心地のよいカ
フェ」といったような矛盾を含む条件で作業をさせます。

検証方法としては、参加者のワークショップでの発話や動作をすべて収録し、
意味のまとまりのある発話や身体行動に対し、「提案」「連想」など6つの
カテゴリをコーディングします。さらにそのプロセスをフロー図に表すこと
で議論の深まりを可視化し、2つのグループの創発的なコラボレーションの
度合いを検証しています。

11月までに8回のワークショップを行い、その結果を検証中ということです
が、既に実施・分析した結果からは、矛盾のない条件を提示したグループで
は、ディスカッションの初期の段階で作品コンセプトが承認され、後はレイ
アウトやパーツといった詳細の検討をするケースが多く見られる一方、「矛
盾」条件で検討したグループは、後半になってもう一度コンセプトを考え直
したりという創発を促すディスカッションのプロセスが見られたそうです。

【コメント
この発表は2つの興味深い内容が含まれていました。1点目は「矛盾」条件
というコンセプトです。ワークショップの実施においては「テーマ設定」が
非常に重要です。簡単過ぎても盛り上がらないし、かといって難しいと沈黙
してしまう。特に大学の授業では、テーマにちょっとした「ひねり」を入れ
ることがキーポイントになります。コガもいつも悩んでいる点でしたので、
「テーマに矛盾を加える」というアイデアは大変参考になりました。

ちなみに「矛盾=ダブルバイン」ドの概念はユーリア・エンゲストロームさ
んという方が『拡張による学習』という本の中で「質的に新しい活動や道具
は矛盾を解決するものとして立ち現れるもの」と指摘しているそうです。

蛇足ですが、本メルマガの書評でお馴染みのナカダ君が好きな村上春樹の処
女作『風の歌を聴け』の中に
「優れた知性とは二つの対立する概念を同時に抱きながら、その機能を十分
に発揮できる、そういったものである」
という文章があります。エンゲストロームの上の文章を読んでいたら思い出
してしまいました。

2点目は検証方法です。授業の実践研究の場合、一般に受講者に対して受講
後に質問紙を配布することで受講の感想(満足度)等を定量的に測定したり、
インタビュー等で定性的に調査する研究が多いのですが、この研究では収録
した実際のディスカッションプロセスを丹念に分析し、フロー図にまとめる
という大変手間のかかる方法を採用しています。しかも1回のワークショッ
プで安易に判断するのでなく、11回もワークショップを実施し分析するので
す。この姿勢は大変素晴らしいと思いますし、コガとしては教育実践研究の
検証を今後どう進めてよいか悩んでいたため大変参考になると同時に勇気づ
けられる発表でした。

◆ワークショップの理解者を増やすには?

ワークショップに関する理解向上を目的とした
教員養成授業パッケージの開発
山内祐平[東京大学]

【概要】
昨年のこの学会で山内先生から
「ワークショップファシリテーター研修を受けた受講者において、教授経験
あり群の方が無し群よりも、ファシリテーションの心構えに関する記述が少
なく、研修後も増えにくい」という研究成果の発表がありました。従来の学
校教育の信念体系を持っている方ほど、どうもワークショップにおける教育
目標や評価に対する価値観に対し受け入れ難いものを感じる傾向があるよう
なのです。

今後学校外の活動で実践するワークショップを学校内の教育と連携していく
際、こうしたコンフリクトの存在が大きな壁になってきます。そこで本研究
では、学校外のワークショップ活動と連携できる教員の養成を目的に、教員
養成課程の授業においてワークショップに関する理解を向上させる授業パッ
ケージを開発・実施しました。

授業はワークショップの概論、ワークショップの体験、ワークショップと学
校の検討の3回実施され、受講した学生への質問紙調査の結果、ワークショ
ップに対する肯定的な理解が増加したということです。

【コメント】
既に初等教育の教員になっている先生方の信念体系は確固たるものがあり、
それを変えることを目指すのはかなり難しいようです。そこで、これから教
員になる方に対してワークショップに対する理解のベースを作っていくとい
う戦略は理にかなった問題解決方法と言えます。

しかし、大学教育に関して言うと、学習者中心の学士課程教育の実現に向け、
学生参画型の授業が増やしていかなければならないため、あまり悠長なこと
を言っている余裕はありません。そうした授業の導入のためには現役の教員
の意識を変えていくことが不可欠です。
ましてや初中等教育に携わる学校の先生より「一方的な講義=授業」という
信念体系が強いと思われる大学の教員の意識をどう変えればよいのか?今回
実施したような教員養成パッケージがそのままFD活動で活用できると良いの
ですが、課題は山積しています。

次週は「ノートテイキング」とその他印象に残った発表についてお伝えいた
します。

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