牛込・神楽坂 酒問屋 升本総本店の別館「涵清閣」 主人が語る

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漱石、ジャムを舐める

2008-06-05 11:06:50 | 酒の本棚(書評?)
今日は長文注意!!

タイトルにつられて、買ってしまった本。

河内一郎(2008):漱石、ジャムを舐める,新潮文庫、381p.



2006年に創元社(弊社徒歩2分の東京創元社ではなく、ただの創元社、です。ちなみにここの東京支社は神楽坂4丁目、弊社徒歩6分くらい、です)から出版された本が、早くも文庫化です。

自費出版みたいな内容なので、もしかしたら、創元社からの出版は自費出版で、それに目を留めた新潮社(ここも弊社徒歩12分の牛込矢来町ですね)が文庫化したのかな?

あとがきを読むと、著者は食品会社に38年間勤務した後に退職、高校時代からの漱石研究に本格的に取り組んだそうです。
切り口としては、サラリーマン生活で土地勘のある「食」を選び、漱石の小説をはじめ残された文章等に登場する「食」の各場面を呼び水に、当時の食文化関連のトピックスを整理しています

構成は、これが第一部。そして第二部は食文化年表、第三部は物価表となっており、その意味では漱石研究というより、漱石を切り口にした明治期の食のトピックス集的な本です。
漱石マニアが期待して買うと、ちょっと肩透かしかも。

さて、そんな中、お酒関連のネタです。

漱石は下戸である、というのはいろいろな本で出てきますが、この本によると、漱石の熊本の五高時代の間借り人(同僚の教師)の述懐として、「毎晩日本酒で晩酌したものの、その量はお猪口一杯のみ」というのが出てきます。
確かに付き合わされるほうはたまったもんじゃあありませんね。

また、「猫」に登場する苦沙弥先生が、三杯の正宗は胃弱に効くと語る場面が何度か出てくるとしています。
先ほどのお猪口一杯の晩酌といい、漱石にとっては日本酒は「がっつり」楽しむものではなかったようですね。



ビールについては「ビールはないけど恵比寿ならあります」という会話を紹介し、後は当時のビールの歴史を紹介するに留まっています。
????です。あの「猫」のラスト、ビールに酔っ払って水がめに落ちるまでの心の動きは何とも悲しく、しかしユーモアたっぷりの、漱石らしい文章ですし、「三四郎」にも、大学の懇親会の場面で
「此の會合は麦酒に始まつて珈琲に終わつている。全く普通の會合である。然し此の麦酒を飲んで珈琲を飲んだ四十人近くの人間は普通の人間ではない。しかも其の麦酒を飲み始めてから珈琲を飲み終る迄の間に既に自己の運命の膨張を自覚し得た」
という、味わい深い語りがあるのに、これらを見落としたのか、あるいは軽んじたのでしょうか、まったく記載がありません。
「漱石研究」というなら、この辺りから展開してほしいもの!!!!

今日は長いです。。。。。
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さて、その他では、「飲食店」というところで「それから」の代助が神田のビヤホールに行ったという記述から当時のビヤホールの状況が、また、「酒場(バー)」というところで数行の引用がありました。これも単なる抜書きと、当時の状況で、ふーん、という感じ。

この辺りも、自費出版的な香りが漂います。タイトルはプロっぽいのになぁ。

ちょっと興味深かったのは、最後にある漱石の家計簿。
4ヶ月分のみで、また、解釈も何も付いていないのですが、あれやこれや面白い。

月に376円~762円(これは年の瀬十二月)の出費のうち、他の出費は月により幅があるのに、三河屋にはほぼ一定の金額(4.255円、4.315円、4.575円、3.695円)を支払っていることや、これは牛乳屋への支払いの6割程度、魚屋への支払いの3割程度、など、当時の物価と併せ考えると、漱石の好みや立場などもあぶりだせそうです。

こういうのを期待していたんだけどなぁ。。。。

最後に、この本では無視された「猫」の最後です。青空文庫からの引用。
(写真は国会図書館のデジタルライブラリ)




諸先生の説に従えば人間の運命は自殺に帰するそうだ。油断をすると猫もそんな窮屈な世に生れなくてはならなくなる。恐るべき事だ。何だか気がくさくさして来た。三平君のビールでも飲んでちと景気をつけてやろう。
(中略)
人間は何の酔興(すいきょう)でこんな腐ったものを飲むのかわからないが、猫にはとても飲み切れない。どうしても猫とビールは性(しょう)が合わない。これは大変だと一度は出した舌を引込(ひっこ)めて見たが、また考え直した。人間は口癖のように良薬口に苦(にが)しと言って風邪(かぜ)などをひくと、顔をしかめて変なものを飲む。飲むから癒(なお)るのか、癒るのに飲むのか、今まで疑問であったがちょうどいい幸(さいわい)だ。この問題をビールで解決してやろう。
(中略)
吾輩は我慢に我慢を重ねて、ようやく一杯のビールを飲み干した時、妙な現象が起った。始めは舌がぴりぴりして、口中が外部から圧迫されるように苦しかったのが、飲むに従ってようやく楽(らく)になって、一杯目を片付ける時分には別段骨も折れなくなった。もう大丈夫と二杯目は難なくやっつけた。ついでに盆の上にこぼれたのも拭(ぬぐ)うがごとく腹内(ふくない)に収めた。

(中略)、、、そして、水がめに落ちてしまいます。

ただ楽である。否(いな)楽そのものすらも感じ得ない。日月(じつげつ)を切り落し、天地を粉韲(ふんせい)して不可思議の太平に入る。吾輩は死ぬ。死んでこの太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。



最後までお疲れ様でした!!
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