いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

泥の河 宮本輝著

2008年03月11日 | 小説
「泥の河」の方は関西(京都)で生活を始めたばかりの頃に読んだ小説でした。元号が平成に改元した頃だったと思います。当時、私は時々大阪へ出かけていきました。関西そのものにまだ違和感を感じていた私ですが、大阪には、京都とは違う、包容力のある人々の明るさになんとなく親しみを感じていました。

 「泥の河」は昭和30年代の大阪が舞台です。とても地味な作品です。もちろん私が大阪へ行き始めた昭和の終わりから平成にかけての頃は大阪もずいぶん変わっていました。でも私にとっては私の中の大阪という都市のイメージに深く刻みこまれた作品でした。先日偶然BOOKOFFで文庫本を見つけた時、何だか当時を思い出して久しぶりに読み返してみました。

 同じ本の中にあった「蛍川」は芥川賞の受賞作です。「泥の河」は宮本氏がこれによって文壇に登場したといわれる作品です。
 この新潮文庫の解説を書かれた桶谷秀昭氏によれば「蛍川」の方が芸術的評価は高いようです。確かにそうなのかもしれません。「蛍川」もいい作品だと思いました。でも、私にとってはやはり最初に宮本文学に出会ったのが「泥の河」だったからかこちらの方が印象的です。

 今の日本ではほとんど聞かなくなくなった水上生活者の舟は私も子供頃の記憶の中に微かに残っているように思います。確か東京湾にもそんな舟があったような・・・。でも、そこで生活する人々と話したこともなく、どのような生活なのかまで考えたことはありませんでした。

 これは昭和30年代の大阪の貧しい暮らしが浮き彫りにされたような話です。近代化されたものはまだ何も登場しません。

 信雄と銀子と喜一の3人の子供たちのひたむきさが、とても切なく哀しみを誘います。フィクションとわかっていながら、切なさが残る余韻の中で3人がやがてどんな人間に成長していくのだろうと思わずにはいられない物語でした。


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