いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

終の住処   磯崎憲一郎 著

2010年03月18日 | 小説
去年上半期の芥川賞の受賞作です。

新聞の報道を見たとき、題名からくるイメージと受賞者磯崎氏のまだ四十代という年齢にちょっと違和感を感じましたがそのうち機会があったら読んでみようかなくらいの印象でしばらく忘れていました。

先日実家へ行った時リビングルームの片隅に積み重ねられた雑誌の中の去年の文芸春秋9月号の芥川賞発表の文字が目に止まりました。手にとって見ていると「もういらないから、持って帰っていいよ。」と言う父の声。

ママレードを作ろうと庭の夏みかんを獲って詰めた大きな布袋に無造作に文芸春秋を放り込んで持ち帰って読みました。

さて、本題に入ります。

はっきり言って、「この主人公にはついていけない。」これが第一印象です。なんだか空恐ろしいような・・・。最初から半ばあきらめたような結婚、11年間も妻と口をきかない男、ただ心の隙間を埋めるためだけのような(でもなんとなく虚ろな)浮気、何かを悟ったかもしれないけれどかなり開き直った和解・・・。それからちょっとマザコン。

主人公は見かけも格好いいエリートサラリーマンなのだろうということが想像できます。そしてたぶん一見女性にも優しい・・・。でも思い込みも激しい自信過剰な淋しい男。


唯、現実にもそんな主人公に近い人間はたくさんいるのかなあと考えてしまいます。彼の妻にも同情できません。


「優しい男はちょっと不格好な奴くらいの方が信用できるよ。格好いい男は特に要注意ね。けっこう自信過剰だから・・・。正直な人間かどうかしっかり見なさい。」

そういえば、ずっと昔、私がまだ結婚する前、こんなことを言ったおばちゃんがいましたっけ・・・。今の私は、若い女性たちにこんなこといえるかなあ・・・。

次第に私はこの小説の中で唯一感情移入できる人物は、ひょっとすると主人公の母親かもしれないと思うようになってきました。手の届かなくなったニヒルな息子を遠くからいつも心配している母・・・。

最後は妻のもとに帰っていく主人公ですが、「えっ?それだけ?」という形で終わります。
そして最初から夫に何も期待していなかったかとっくに諦めきって生きてきた妻の姿を思い、思わず苦笑してしまいました。

夫婦なんて多かれ少なかれギクシャクしたところはあるでしょうけれど確かに歳月の重みは大きいかもしれません。


でも、ねえ~。ちょっとギクシャクした余韻の残る小説でした。


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