いとゆうの読書日記

本の感想を中心に、日々の雑感、その他をつづります。

小さいおうち   中島京子 著

2013年10月01日 | 小説
「年齢を重ねると一年が短く感じられるようになる」と年配の方からよく伺いますが、私も最近そう感じるようになりました。とりわけ暑かった今年の夏も今となっては駆け足で通り過ぎてしまったような気がします。

さて、今回は中島京子さんの「小さいおうち」です。久しぶりにふらっと立ち寄った書店で目に留まったのは、ファンタスティックな絵とオレンジ色の表紙、そして帯に山田洋次監督映画化決定の文字、・・・急に読んでみたくなりました。

時代は昭和の初めです。今なら家政婦さんというのでしょうか。当時は住み込みの女中さんを雇っている家も多かったようです。山形から上京して女中奉公に出たタキさんは若くて美しい奥様に仕えます。この奥様が再婚した時、タキさんもいっしょに新しい旦那さまのもとへついていきました。物語はタキさんの回想録という形で展開します。

時代はやがて戦争へと向かっていくのですが、庶民の(といってもちょっと裕福な)人々の暮しは戦争末期を除いてのんびりした印象です。

奥様のちょっとした恋愛事件をきっかけにタキさんの女中としての真価が問われる訳ですが、解はあるような、ないような・・・最後の場面の展開が絶妙です。

表紙の帯の反対側に「読み終えた時、きっと誰かと語り合いたくなる」とありました。その言葉通り、今回私が最初にこの本の話をしたのは同世代の友人ではなく義母でした。

主人公のタキさんは私の義母や今は亡き実母よりほんの少し年上のようですが、同じ世代です。義母は女中さんが何人もいるようなかなり裕福な家庭に育ちました。そしていちばん年齢の近い(若い)ねえやと仲良くしていたそうです。そのねえやは広島の人で戦争が始まってから故郷へ帰り、しばらく文通をしていたそうですが、終戦後は音信不通になってしまったので、おそらく原爆の犠牲になったのではないかということでした。

戦前は女中さんを雇っているうちが多かったようです。私が子供のころ(昭和30~40年代)までは近所に女中さんのいる家庭もあったような気がします。そのころはお手伝いさんと呼ばれていましたが、家事手伝いは花嫁修業のうちみたいな感じで工場などに就職せずにお手伝いさんになる人もありました。義母は、「女中さんには能力が必要で、良い女中さんに出会うことはその家にとって幸運なことだった」とも言っていました。

タキさんが最初に奉公した小説家の先生から聞いたイギリスの女中の寓話がこの物語の展開のポイントでもあります。

また、先月2020年の東京オリンピック開催が決まった後、義母とオリンピックの話をしました。義母が思わず「東京オリンピックが決まったの、ホントはこれで3回目ね」と言って、1940年(昭和15年)に開催が決まっていながら戦争の為、実現しなかった話を始めました。

実はこのタキさんの回想録にもまぼろしの東京オリンピックの話が出てきます。
東京オリンピックが決まった時の当時の様子は義母とタキさんの話が重なる部分が多く、ちょっと微笑ましくもありました。

この話には何とも言えないぬくもりが感じられます。それはちょっと切ないながらもなんとなくほっとするような読後感でもありました。

そして義母も早速この本を読み始めたそうです。


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