村上春樹氏の名前だけは以前から知っていましたが、読んだことがありませんでした。村上氏のデビュー作が出た頃は、私がちょうど海外生活を送っていた時期です。今のようなインターネットもない時代でしたから、日本で何が起こっているのかさえほとんどわかりませんでした。現地の新聞やテレビと1~2週間かかって届く家族や友人からの手紙だけが唯一の日本の情報源でしたから新鋭作家の名前まではなかなか知りえることはなかったのです。帰国してから村上氏が人気作家であることを知りました。その後、息子が大学生の頃、村上氏の本をたくさん読んでいたのをなんとなく覚えていましたが、私はあまり注目することはなく過ごしてきました。
前回の記事でも書きましたが、王敏氏の「中国人の愛国心」を読んで村上春樹氏の本が翻訳され中国で広く読まれていることを知り、何だか急に読んでみたくなりました。
「村上春樹って面白いの?」と先日、40代前半の友人のひとりに聞いてみました。するとまず「えっ?まだ読んだことなかったんですか?めずらしいですねえ!」と言われてしまいました。確かに20年前は彼女は20代前半でした。なるほど、そうなんだ!とにかく1つだけでも読んでみようと思って、読んだのがこの上下2冊の文庫本です。
読み始めてすぐにこれは若い時の回顧録なんだと思いましたが、同時に私自身の学生時代の遠い記憶が呼び戻されるような錯覚に陥りました。
私が学生の頃は大学紛争もほぼ鎮静化され授業がボイコットされたことはほとんどありませんでしたが、一般教養の頃は時々つまらない講義の教室を脱出しました。とりあえず高校を卒業してから社会人になるまでのプラス4年間がどうしても欲しかった私は、将来に対する強い目的を持たずに受験し、合格した大学に入学しました。漠然とした学生生活にすぐに強い不安を感じるようになりましたが受験勉強をして入学してきた多くの同級生たちが私とたいして変わりがないことを知って安心もしました。
最初のうちはこの物語の主人公がとてもデリケートな青年に感じられましたが最後まで読んでいくと実はあの頃つまり二十歳前後というのは皆とても傷つきやすくて不安定なんだということを改めて感じさせられます。
何故、多くの若者が共感するのか何だかとてもよくわかるような気がしました。村上氏は団塊の世代ですが、この話では大学紛争の記述はごくわずかです。大学紛争とは違う世界に生きる主人公が描かれています。大学という社会へ出るまでの執行猶予期間の中にいる中途半端で未熟な若者が友情や恋と苦闘する姿が展開します。
主人公は親友と恋人の死を体験します。家族や友人、恋人の死は誰もが心の中に深い傷を負うことと思います。でも生きていくものはそれを乗り越えなければなりません。
これは若き日の強烈な思い出というものは、何十年経っても、ある時、急に呼び起こされ胸に突き刺さるものだということを強く感じる物語でした。
前回の記事でも書きましたが、王敏氏の「中国人の愛国心」を読んで村上春樹氏の本が翻訳され中国で広く読まれていることを知り、何だか急に読んでみたくなりました。
「村上春樹って面白いの?」と先日、40代前半の友人のひとりに聞いてみました。するとまず「えっ?まだ読んだことなかったんですか?めずらしいですねえ!」と言われてしまいました。確かに20年前は彼女は20代前半でした。なるほど、そうなんだ!とにかく1つだけでも読んでみようと思って、読んだのがこの上下2冊の文庫本です。
読み始めてすぐにこれは若い時の回顧録なんだと思いましたが、同時に私自身の学生時代の遠い記憶が呼び戻されるような錯覚に陥りました。
私が学生の頃は大学紛争もほぼ鎮静化され授業がボイコットされたことはほとんどありませんでしたが、一般教養の頃は時々つまらない講義の教室を脱出しました。とりあえず高校を卒業してから社会人になるまでのプラス4年間がどうしても欲しかった私は、将来に対する強い目的を持たずに受験し、合格した大学に入学しました。漠然とした学生生活にすぐに強い不安を感じるようになりましたが受験勉強をして入学してきた多くの同級生たちが私とたいして変わりがないことを知って安心もしました。
最初のうちはこの物語の主人公がとてもデリケートな青年に感じられましたが最後まで読んでいくと実はあの頃つまり二十歳前後というのは皆とても傷つきやすくて不安定なんだということを改めて感じさせられます。
何故、多くの若者が共感するのか何だかとてもよくわかるような気がしました。村上氏は団塊の世代ですが、この話では大学紛争の記述はごくわずかです。大学紛争とは違う世界に生きる主人公が描かれています。大学という社会へ出るまでの執行猶予期間の中にいる中途半端で未熟な若者が友情や恋と苦闘する姿が展開します。
主人公は親友と恋人の死を体験します。家族や友人、恋人の死は誰もが心の中に深い傷を負うことと思います。でも生きていくものはそれを乗り越えなければなりません。
これは若き日の強烈な思い出というものは、何十年経っても、ある時、急に呼び起こされ胸に突き刺さるものだということを強く感じる物語でした。
ただ小説としてはデビュー作「風の歌を聴け」よりもずっと完成度が高いと思いました。