2020@TOKYO

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リー・ヘイズルウッド(サマー・ワインのつづき)

2009-05-07 | ■私の好きな歌
  
  俳句の話に夢中になって、「サマー・ワイン」のつづきを書いていませんでした。その上、マリア・ジョアン・ピリス、高橋アキ、ラ・フォル・ジュルネなど、特筆すべきコンサートが目白押しで、「サマー・ワイン」のことが、どんどん遠くなってしまいました。『<つづき>はどうなった!』という声に応えて以下、サマー・ワインのつづきです。

  中山康樹さんの「ミック・ジャガーは60歳で何を歌ったか」を読んだ上での話です。

  この本のテーマそのものがとても興味深いのですが、前に書いたとおり、リー・ヘイズルウッドのことを語っている章で、あまりにも懐かしい曲のタイトル「サマー・ワイン」に出会い、少年のころに深夜放送で聞いていたナンシー・シナトラとリー・ヘイズルウッドのデュオを思い出したわけです。

  さらに、深夜、ラジオから流れるリー・ヘイズルウッドの歌声は、どうしても悪役のものとしか聞こえず、以来彼のイメージは悪役で定着していました(とはいえ、あまりに長い間その名前を忘れていましたが…)。

  ところがどうでしょう!「ミック・ジャガーは…」の中で語られているリー・ヘイズルウッド氏は、単なる悪役を飛び越えた、じつにカッコいい人物なのであります。

  そのカッコよさとは、遺作となった「Cake or Death ケイク・オア・デス」の制作に向けた彼の姿勢に表れます。

  原著からの引用⇒死を宣告されたミュージシャンが、いわば遺書としてラスト・アルバムをレコーディングした例は、寡聞にして、ほとんど聞いたことがない。ウォーレン・ジヴォンくらいだろうか。(中略)ヘイズルウッドは、癌の宣告を受けた直後から、音楽的な遺書、すなわちラスト・アルバムへ向かって精神を集中させ、創造力を高めていく。(中略)タイトルは『ケイク・オア・デス』。最初からそう決めていたという。

  今回のブログのジャケット写真が「ケイク・オア・デス」、死の宣告を受けたヘイズルウッドは、煙草を吸う横顔を遺影にしたのでしょうか?再び原著からの引用です。⇒ジャケットでは、ヘイズルウッドがタバコを吸っている。つまりは、このブラック・ユーモアが、ヘイズルウッドにとって、死とラスト・アルバムの関係を物語るものなのだろう。そしてヘイズルウッドは、死を宣告されたミュージシャンを演じる自分自身を笑いのめそうとしているように見える。遺書としてラスト・アルバムを作るという行為自体が、あるいはジョークということになるのかもしれない。『ケイク・オア・デス』は、リー・ヘイズルウッドという肉体と音楽が「何によって構成されていたか」を知らしめるようなアルバムといえばいいだろうか。イメージとしては、《太陽の彼方に》からはじまり、ナンシー・シナトラとのデュエット、その一方でみせたさまざまな音楽的実験や前衛的な手法などヘイズルウッドを形成していた成分を集大成し、それでもなおそこにとどまることなく、死の先にある永遠に触れようとしているかのように響く。そこに恐怖はなく、懺悔もなければ涙もない。

  中山康樹さんの文章はこんなふうにカッコいいのですが、死に際のヘイズルウッドには、懺悔もなければ涙もなく、また悔恨もないのでしょう。ラスト・アルバムにつづった自らの音楽的変遷=音楽的人生、そこには「サマー・ワイン」のエコーも響いているのでしょう。

  レコーディングは世界各地で行われたそうで、中山さんは『レコーディングは、フェニックス、ナッシュヴィル、ベルリン、ストックホルムと、いかにもヘイズルウッドらしくボヘミアン的に行われ、収録曲も多彩を極める』と書いています。

  ラストは中山さんの原著から引きます。

  かつてビートルズの熱狂が訪れる前夜、あるいは早朝だったかもしれない。ヘイズルウッドの存在は、《太陽の彼方に》のさらに彼方にあった。やがて、“ブーツ”や《サマー・ワイン》を経て、しだいに像を結び、ついに全貌を現す。以来、およそ40年が経過した。ラスト・アルバム『ケイク・オア・デス』は、そのヘイズルウッドの強大な像が音楽的に結ばれていく過程を追体験しているようなデジャ・ヴュ(既視感)を抱かせる。そして、ふと、思う。リー・ヘイズルウッドに、いま、はじめて出会ったのかもしれない。(中山康樹:「ミック・ジャガーは60歳で何を歌ったか」)

  

  

  

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