だいぶ以前、野坂昭如さんが出演するテレビCMで、次のような歌が歌われたことがあった。「ソ、ソ、ソクラテスもプラトンも、みーんな悩んで大きくなった!」
野坂さんの作詩によるものだろうが、この歌の中に次のようなフレーズもあった。「ギョ、ギョ、ギョエテもシルラーも、みーんな悩んで大きくなった!」
2人とも大文豪、ギョエテ⇒ゲーテ、シルラー⇒シラー、である。
このうちの1人、ゲーテをタイトルにした雑誌が幻冬舎から出ているが、男性誌では久々に読みごたえがある。
一言で言えば、この手の雑誌によくある軽薄さが影を潜め、どちらかと言えば硬派なつくり、それでいて適度な柔らかさも持ち合わせている。
村上龍、石原慎太郎といった人たちが執筆者に名を連ね、今月号の表紙は坂本龍一。幻冬舎の話によると30-40代の男性がターゲットのようだが、50代にも無理なく通用する。むしろ、やたらと定年後の人生を標榜している雑誌よりは、今の50-60代に受け入れられるのではないだろうか。
時計、デジタル用品、オーディオ、ゴルフ、酒、ファッションなどの一流品を扱いながら、まったく成金趣味とは正反対のスタンス。ビジネスマンへの啓蒙も、成功者のご託宣ではなく、彼らがどんな本を読んでいるかという話の中にヒントを探るような手法。これは、大上段から降りかかるお説を拝聴するより、はるかに有意義で楽しい作業である。
中年オヤジの生態観察が、常に新橋の烏森口・機関車前でばかり行われるのはつまらない。年をとって、なおも悩みのつきないウエルテルたちは、ゲーテに導かれるまま、あちこちの街に出没しているのである。
(写真は「GOETHE」最新号の表紙)