2020@TOKYO

音楽、文学、映画、演劇、絵画、写真…、さまざまなアートシーンを駆けめぐるブログ。

■望郷

2007-08-11 | ■エッセイ
  
  お盆の帰省ラッシュがはじまった。各地の高速道路は車であふれ、新幹線や飛行機もほぼ満席という状態だ。毎年くりかえされる風景。

  東京で生まれて東京で育った私には帰る故郷というものがない。もちろん東京が故郷であると言えば言えるのだが、いわゆる望郷の念がわきおこるのは海外にいるときだけ。故郷の山河を懐かしむという経験もない。

  「兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川…」この詩ではじまる「故郷」という歌、『兎追いし』の部分を『兎美味しい』に聞き間違えるといけないので、学校で児童に歌わせないようになった、という冗談のような話を聞いたことがある。

  今もそんな馬鹿げた事態が続いているのかどうかは分からないが、これほどの名曲が、それほどにくだらない事情で、子供たちの唇から消えてしまうのは許しがたいことだ。

  「故郷の 訛なつかし停車場の 人ごみの中に そを聞きにゆく」石川啄木である。昔、オーディオドラマを制作していた頃、NHKの演出家に面白い話を聞いた。ざわざわしている人ごみを表現する効果音(これを専門用語で “ガヤ” という)、日本人が出演する海外作品のドラマ化の場合、登場人物たちの台詞は日本語であっても、ガヤに関してはその作品の舞台となる国の言語でないと様にならないということだ。ドストエフスキーであればロシア語、モーパッサンであればフランス語、ディケンズであれば英語といった具合。これは、実践してみてそのとおりだと感心した。

  望郷の歌と呼べるかどうかはともかく、私は次に記す寺山修司の作品が好きだ。コートの襟を立てた寺山が、漆黒の闇の中、彼方に霞む漁り火に向けて呟いた歌だと勝手に解釈している。

  マッチ擦る つかの間海に霧ふかし 身捨つるほどの祖国はありや

  (本文とは何の関係も無いが、今回のタイトルにあわせて、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督、ジャン・ギャバン主演のフランス映画「望郷」のDVDフロント・カバーを載せた。1937年の映画だが、原題は「ペペ・ル・モコ」。ジャン・ギャバン演じるペペはフランスの大泥棒。アルジェのカスバに逃げ込み、フランス警察も手が出せない。ペペをカスバの迷路から外へ出すために、フランス警察は一計を案じる。それは、ペペにフランスへの強い望郷の念を抱かせることだった…)。

  

  

  
  

  
  

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