2020@TOKYO

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■九月句会 その四

2009-09-19 | ■俳句
  句会への参加は、これで四回目になりますが、私は音や音楽に関わる句をなるべく一つは詠むように心がけてきました。

  今回の季題は吾亦紅、鯊、月でしたから、音楽に関わるテーマとしては月が一番適切でした。少し考えてはみたのですが、夜想曲とかノクターン、あるいは月光ソナタなどといった陳腐きわまりない発想しか出てきません。そこで、夜汽車の汽笛をモチーフにして、とりあえずは音に関わる句を読んだわけです(九月句会 その一)。

  ところが、今回の句会では驚くべきことが起きました。私は、ある参加者の句を見て愕然としました!

  あの人も月に憑かれたピエロかな   岡松朝季

  Pierrot Lunaire = ピエロ・リュネール(月に憑かれたピエロ)。20世紀現代音楽の扉を開いたシェーンベルクの代表作です。室内楽の伴奏で、女声によって歌われるのはアルベール・ジローの詩21編。後期ロマン派の音楽がもたらした調性の崩壊を体現した作品で、12音技法へ向かいつつあるシェーンベルクの傑作です。

  18歳のころ、大阪万博で出会ったシュトックハウゼンの衝撃を皮切りに、私は一気に現代音楽の世界に足を踏み入れましたが、その方向を決定づけたのが、シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」という作品でした。

  あの頃からおよそ40年、再びこの作品のタイトルに出会うとは!しかも、句会の席上で!音楽にまつわる句を探っていた中、まさに「やられた!」という感じでした。

  あの人も月に憑かれたピエロかな   岡松朝季

  「俳句は写生である」という一つの定義に、この句がかなっているのかどうかは分かりません。しかし、声に出して詠んだときの不思議な感覚、描く対象を冷静に客体化しつつも、どこかで背筋が凍るような鋭い韻律を感じます。

  十七文字のうち、月に憑かれたピエロで十文字を費やし、残りの五文字でこの句が支配する空間と時間を表してしまった。これは、まことに音楽的な句だと思います。音楽は1オクターブ=全音と半音12の音で出来ています。ドビュッシーは、モーツァルトの音楽を評して「これほどの音楽が、たった12の音で出来ているとは!」と書き残しました。この言葉を借りれば、これほどの世界が、たった十七の文字で出来ているとは!

  私は、この句に心からの感動を覚え、作者の許諾を得てここに紹介しました。今までの句会で出会った句の中では、もっとも衝撃的な作品でした。


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2 コメント

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感謝 (朝季)
2009-09-21 00:50:23
特選に挙げていただきありがとうございました。

井上+OEKで「月に憑かれたピエロ」を聴いたのです。基、観たのです。
そもそも、無調だとか表現主義だとか言われても、専門家か相当の愛好家でなければ、それがどう素晴らしいのか、何が新しいのかなど、普通は分からないものです。だから現代音楽が苦手な私には、これはもう難解というよりも不可解に近い。それなのに私は余韻を引きずってしまった・・・。
演者を媒介として聴衆に伝えられた作者の声は、聴衆の心の数だけそこに世界を作り出す。アルベール・ジローは何を言いたかったのか、シェーンベルクは何を表現したかったのか、正直に言うと私にはよく分からないのだけれど、多分、私は私で勝手に納得してしまったのです。
さて仕事に出かけるか、と言わんばかりに客席から舞台に上がったパントマイムのヨネヤマママコさん、哀しい顔で笑ってました。ピエロの苦悩は宿命なのです。そのピエロは、暁の空に太陽が昇る頃、今日の芝居はこれで終りと服を脱ぎ、化粧を落とし、心の叫びを飲み込んで、さめざめと泣いていたりするのかもしれません。
おどろおどろしい分裂症気味の歌詞がお経や奇声のごとく流れる中で、作者と演者と聴衆の心が一体となって出来上がる総合芸術を感じた舞台でした。たまにはあらゆる先入観や固定観念を放り投げ、白い心でピエロに身を任せ、うっかり惑わされてみるのもいいのかな。そうすれば、へんてこりんだと思っていたものも、こうして余韻を残す宝物に化けるのかもしれません。そんなマジックを仕掛けた演出に降参。(CDだったら20秒で挫折です。)
こんな句になったわけです。
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月に憑かれたピエロ (白竜子)
2009-09-21 09:54:37
作者からのコメント、ありがとうございました。
「月に憑かれたピエロ」の実演をご覧になったあとの句でしたか!
シェーンベルクのこの作品は、CDで音だけ聴いていてもかなりしんどいことは確かです。クリステイーネ・シェーファー(ソプラノ)、ピエール・ブーレーズ(指揮)、アンサンブル・アンテルコンタンポラン(演奏)という豪華メンバーによるDVDも出ています。オリバー・ヘルマンと言う人の監督作品で、神経症的な映像に心がかき乱されます!見ないほうが良いかもしれません。
このブログの読者のために、柴田南雄先生の訳による「月に憑かれたピエロ」の詩を掲載しようと思います。
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