昨日のコラム「夏の歌」の中で、イギリスに有名な作曲家は数少ないと書いてしまったが、ヘンデルのことを忘れていたことに気づいた。
ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデルは、1685年、ドイツのハレに生まれた。ヨハン・セバスチャン・バッハと同じ年、しかもバッハより1ヶ月年長である。2人ともドイツ・バロックを代表する作曲家だが、生涯ドイツを出ることがなかったバッハに比べ、21歳でイタリアに渡り、後半生はイギリスに帰化したヘンデルの方が活躍の軌跡は派手だ。
バッハがドイツのライプツィヒで、10数人編成の合唱団の増員に関して、何度も市議会に陳情しなければならなかったのに対し、ヘンデルはイギリスの地で、良くトレーニングされたコーラス数百人を自由に使うことができた。
有名なヘンデルのオラトリオ「メサイア」の中の「ハレルヤ・コーラス」は万人が知っている曲。ハーレルヤ!ハレルヤ!ハレルヤ!ハレールヤ!という発声はワクワクするような高揚感にあふれている。
ヘンデルの作品の中で、よくテレビのコマーシャルなどに使われるのは、「水上の音楽」「王宮の花火の音楽」など。とりわけ、オペラ「クセルクセス」からのアリア「オンブラ・マイ・フ」は、ニッカ・ウィスキーのCFで話題になった。純白のドレスに身を包んだソプラノ歌手、キャスリン・バトルが、見事なライト・ワークに輝く緑地でこの歌を歌う。音楽作品、歌手、映像が三位一体となって、商品の透明感を演出する。バロック音楽は、300年経ってなお、何故これほど易々と現代の空気にマッチしてしまうのだろう。
ドイツに生まれ、イギリスに帰化したゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデルの墓は、ロンドン・ウェストミンスター寺院の中にある。墓碑銘は英語読みでジョージ・フレデリク・ハンデルである。
(写真は「オンブラ・マイ・フ」を歌うキャスリン・バトル)