林間教育通信(「東大式個別ゼミ」改め「シリウス英語個別塾」)

私立中高一貫校生徒を対象とする英語個別指導塾。小田急線の東林間駅(相模大野と中央林間の隣駅)から徒歩3分。

英語と日本語の間で(その5):メル・レヴィーン「言葉と歩む道」

2010年07月14日 | 受験
ひとりひとりこころを育てる
メル レヴィーン,メル・レヴィ―ン,岩谷 宏
ソフトバンククリエイティブ


2010年の7/10に投稿した文章「ネイティブの文法力の疑わしさ」(Scinece DailyのScience News(10 July 2010)「多くの英語の話し手は、基本文法を理解できていない」)であるが、ちょっと不適切な文章を書いてしまったなと思っている。

後書きであるが、チョムスキーや生成文法よりもバーンスティンやブルデューの研究に近いのだろうという感想を付け加えた。しかし、それでもあまり良い議論ではなかった。社会学というよりは、発達心理学、教育方法論、あるいは医学のようなテーマと理解すべきだったのだ。たとえば小児科医レヴィーンの『ひとりひとりこころを育てる』のほうが、数段くわしく同じテーマを扱っていることに気がついたからである。

レヴィーンのこの本の邦訳の中では、「言葉と歩む道」(173-221頁)がとくに重要である。(この人の英語は読みやすいので、むしろ原書を勧めたいのだが、あいにく私は持っていない)。そのほんの一部だけ、言葉の順序(199-208)だけを取り上げてみよう。

子供達が学齢期にマスターしなければならない、難しい文章構造の例を次の表に示そう。

[理解すべき課題] 文の最初の名詞が動作者でなくてもよい
[文例]The great Dane was chased by the Appalosa.

[理解すべき課題] 文の中の動作の順序は実際に行われる順序でなくても良い
[文例] Call you friend when your homework is completed.

[理解すべき課題] 一つの名詞が二つの筋の主語でもよく、節は文の中程にあっても良い。
[文例] The girl who borrowed that book showed it to her mother.

[理解すべき課題] 一つの名詞が二つの節の目的語であってもよい。代名詞が文中の誰かを指さなくても良い。
[文例] The teacher know the boy who was punished by the principal.
Jim thinks he is a good cook. (He is not Jim).


[理解すべき課題]代名詞と、それが指している誰かが文中で遠く離れても良い。
[理解すべき課題]動詞にいちばん近い名詞はその動詞の動作をした者でなくてもよい。
[理解すべき課題]質問の意味は最初の言葉で決まる。
[理解すべき課題]文の意味が複数あり得ることもある。


全部書ききれないのでこれまでとしよう。一番最初の[理解すべき課題]とは、まさに「受け身」の理解であることがわかるだろう。Science Newsに掲載されたもっともらしい論文のテーマは、Levineの啓蒙書によって、すでに簡潔に判りやすくとりあげられていたのである。

注目すべきは、これらの諸命題が我が国の英文解釈の参考書のテーマのようであるということである。おそらく、西きょうじや伊藤和夫を詳しく見れば、似たような課題を見つけることも出来るであろう。

日本人の英語学習が直面している英文解釈上の諸問題というのは、実のところ、外国語学習者特有の問題ではなかったのだ。英語ネイティヴも、英語学習する際には、かなり類似したり共通している問題に直面していたのである。英語ネイティヴの多くが苦しんでいる課題を、日本人学習者も苦労して習得しようとしているだけなのである

英文解釈法の重要性をあらためて痛感する。同時に、我が国において、「文の構造に対する直感や文法規則の理解力を持っていない」(同書、204)日本人ネイティヴ向けの、国語解釈法といえるものが本当にあるのか、考えてみる。私の生徒には、小学生向けの出口「論理エンジン」をやらせてはいるのであるが。。。。