臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

一首を切り裂く(043:剥・其のⅡ)

2010年11月21日 | 題詠blog短歌
(蝉の声)
○  君もわれも無印良品レッテルやエンブレム剥がして真夏の海へ

 「無印良品」販売コーナーが老舗デパートの中に設けられたりして、今や「無印良品」の商標も一躍「エンブレム」の様相を呈して来た。
 そうした中で私がいつも思っていることは、街の目抜き通りにデカデカと掲げられている「無印良品」の看板の「印」の字と「良」の字の間に、宵闇に紛れて「不」の字を書いてくる怪盗が現れないか、という果敢ない望みである。
 私ですか?
 十年前ならいざ知らず、今となっては足腰も立たなくなっている私には、そんなサーカスみたいな離れ業は出来ません。
 それに第一に、今の都会には<宵闇>と言えるような<漆黒の闇>はありませんし。
 私がいつも思っているのは、彼のボードレールが夜な夜なほっつき歩いた、十九世紀半ばのフランスの都・巴里の宵闇なんですよ。
 十九世紀半ばの巴里の夜は、街の中も人の心の中も、まさしく漆黒の闇そのものであった。
 だが、尤も十九世紀半ばの巴里には、「無印良品」の看板が掲げられている筈はありませんが。
 ところで、本作の作者<蝉の声>さんたちは、「レッテルやエンブレム」を「剥がし」た自分の肌に、毒蜘蛛模様の写し絵を貼って「真夏の海へ」行くのでありましょうか?
  〔返〕 「無印」とは印し無きこと、だとすれば「無印良品」看板無用   鳥羽省三 


(すくすく)
○  モンスター倒して剥いだ皮などで武器を作って売るのが家業

 巨大帝國・アメリカの権威が失われた今の世の中には、「モンスター」らしき「モンスター」は何処にも居りません。
 したがって、本作の作者<すくすく>さんがせっかくご創業なさった「家業」も、どうやら開店休業状態に置かれていると思われます。
 尤も、アメリカの後を襲って「モンスター」たらんとしている国が、我が国の直ぐ近くにも在りますが。
 でも、彼の国の面の皮はかなり厚くて、剥ぐにも剥げない程だと思われます。
  〔返〕 レアアース高く売りたい魂胆の見え見え国家の面の皮剥げ   鳥羽省三


(高松紗都子)
○  剥きだしの感情ひとつ抱きしめて流されてゆく渋谷坂下

 今の渋谷駅界隈には、何方でもご存じの「道玄坂」「宮益坂」の他に「間(あいだ)坂」「間坂(まさか)」「金王坂」「八幡坂」「南平坂」「かめやま坂」「天狗坂」「オルガン坂」「スペイン坂」と、至る所「坂」だらけであり、したがって、今の渋谷駅の辺りはその坂のどん詰まりの吹き溜まりのようなものである。
 本作中の「渋谷坂下」とは、おそらくは「宮益坂下」を指すものであろう。
 青山通りから「宮益坂」を下り詰めれば渋谷駅。
 本作の作者・高松紗都子さんは、お年頃に似合わず、その「渋谷坂下」を、何の理由があって、「剥きだしの感情ひとつ抱きしめて流されてゆく」のでありましょうか?
 そこに、中年男女の実らぬ恋、不倫の恋の存在を感じているのは、評者一人では無いでしょう。
  〔返〕 過ぎし日のスペイン坂の出逢いにて契り交わした今日の再会   鳥羽省三


(五十嵐きよみ)
○  付け髭が剥がれかけても慌てずに何もなかった顔で押し切れ

 五十嵐きよみさんには「付け髭」がお似合いである。
 時ならぬ雨に降られて、その「付け髭が剥がれかけても慌てずに何も無かった顔」で、今夜の晩餐会は「押し切れ」という訳でございましょう。
 大変結構なお心掛けと拝察申し上げます。
  〔返〕 描き眉が崩れかけたらお仕舞いとタクシーの中ブラシ探して   鳥羽省三