![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0c/69/7864df1ef4a97a9e54940d30c6157199.jpg)
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。
出版社:新潮社(新潮文庫)
『何者』は自分の身に重ねていろいろと考えさせられる作品だった。
自分を否定されるような就職活動のつらさや、批評家ぶって当事者に決してなろうとしない卑怯な部分などは、自分の過去や現在を見るようで、心に突き刺さって来る。
それだけに心をゆさぶられる作品でもあるのだ。
物語は就職活動を始めようとしている大学生の男女五人を中心にして語られる。
就職のためバンドをやめたり、留学から帰ってきたり、就活を忌避したりとそれぞれのスタイルは様々だ。
しかしそれぞれが、就活の現実に向かい合うことにもなっている。
そこで描かれる就活の風景は、十数年前の自分を思い出すようでつらい。
面接のために、自分をいかに見せるか苦心して、自分を偽っていくことの違和感。
面接に落ち続けることで自分を否定されているような苦しみ。
落される理由がわからないことで煩悶とする感情、などなど。
自分も一度は経験したことなので、当時のことをまざまざと思い出してしまう。
僕らのときも氷河期と言われたが、就活の苦しみは昔もいまもさして変わってないのだろう。
だが僕らのときと違って、今の子たちはSNSで情報のやり取りをしている。
だがそれが自己顕示の場と化している面もなくはない。
そしてそれを用い、就活のために、肩書きを多用して自分を大きく見せたりしている、らしい。
めったに使わないツールなので、へえ、と素直に感心する。
主人公の拓人はそんな周囲の人間を醒めた目で見ている男だ。
うがった見方をして人をすなおに誉めない。
しかし視点は鋭いところもあり、観察者として優秀なのだろう。
しかし観察者に徹しているからこそ、見えていない部分もある。
拓人は、本当に伝えたいことは一四〇文字のツイートに埋もれてゆく、という書いている。
それは確かに卓見だろう。
だが、サワ先輩が言う通り、選ばれなかった言葉の方がよっぽどその人を表している、という拓人が決して気付かなかった真理もまた的を射ているのだ。
そして拓人がサワ先輩が言っていたことに気付かなかったのは、結局のところ、拓人が観察者に徹して、斜に構えてしまっているからでもあるのかもしれない。
そのことが露わになる後半は寒気すら覚えた。
瑞月も言うように、大人になると誰も過程を見てくれる人はいない。
だからこそ人は格好悪くてもあがく必要だってあるのかもしれない。
しかし拓人はあがくことをせず、斜に構えて、真剣な行為をサムいと言って、冷笑している。
いや確かにサムいことはサムいのだ。
でもその冷笑は、当事者のように真剣に事に向き合っていない証左でもあるのだろう。
そしてその事実は、批評家めいた目線で見ていた(つまりは拓人と同じ見方をしていた)読み手である自分にも返って来るのである。
このあたりの見せ方はすばらしかった。
それでなくても、こんなブログなんかを立ち上げて、感想を書いている身。
読んでいて、いろいろ考えさせられてしまう。
ともあれ読み手の心を深くゆさぶって忘れがたい作品である。
朝井リョウの才能をまざまざと見せつける一品だった。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
そのほかの朝井リョウ作品感想
『桐島、部活やめるってよ』
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます