私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「かぐや姫の物語」

2013-11-25 20:10:11 | 映画(か行)

2013年度作品。日本映画。
名匠・高畑勲監督が『ホーホケキョとなりの山田くん』以来14年ぶりに手がけたアニメ映画。有名な『竹取物語』を基に、平安時代を舞台にしたかぐや姫の物語が描かれる。
監督は高畑勲。
声の出演は朝倉あき、高良健吾ら。




『かぐや姫の物語』はハイレベルな作品であった。
絵の描写も、その動かし方も、原典を生かした翻案力と構成力も高いレベルにある。
さすがはジブリと思える作品となっていた。



絵は水彩画を思わせるようなタッチで、なかなか魅力的だ。
絵画が動いているような雰囲気があって、それだけでもほれぼれとしてしまう。

それでいて、人物の動きなどもリアリティがあるのが良い。
手の動かし方や、はいはい一つ取っても、丁寧な観察の元、再現されていることがわかって、すごいな、と感心する。

平安貴族の描写にしても、裾を伸ばすところとか歴史的事実に則って丁寧に描いているのがわかり、それはそれで結構おもしろかった。

そこにあるのはリアリズムだろう。


ついでに言うと、声もジブリの俳優声優にありがちな、下手糞なところがなく、リアリズムの雰囲気を損なっていなくて好印象。

特に主演の朝倉あきが良い。
個人的に注目している子ではあったが、声優としても有望だと感じる。
もちろん宮本信子や地井武男もいい味を出している。


そしてそんな風に、リアルな雰囲気が強いせいか、かぐや姫が月に帰るという誰もが知っている超展開がふしぎと浮いて見えるくらいであった。
そういう意味、リアリズムを追求しすぎるのも問題なのかもしれない。



物語は基本的に原典に忠実である。
しかし上手く現代風にアレンジしていてそれもまた興味深い。

原典(と言っても現代語訳)のかぐや姫を読んだのは大昔のことだが、かぐや姫は男に無理難題を言いつけるちょっとお高い感じの女性というイメージがある。
だが映画のかぐや姫は野性児でおてんばな女性だ。
山の中を駈けまわり、土に触れることを楽しんでいる。平安貴族にも関わらず、眉を抜くことも、お歯黒をすることも嫌がっている始末。
その辺りは、『竹取物語』というよりも、『堤中納言物語』の「虫めづる姫君」に近い。

もちろんかぐや姫である以上、お前の眉は毛虫のようだ、とからかわれることもなく、多くの公達から求婚を受けている。
けれどかぐや姫はそんな状況が嫌であるらしい。
貴族の生活は彼女にとっては、鳥かごのようなものなのだろう。


それは彼女の感受性の強さも関係しているのかもしれない。
原典では男たちを試すようなことをかぐや姫は言う。
むかしからこのときのかぐや姫の冷たさがなじめなかったのだが、映画では、そこにしっかり説得力を持たせている。
また男たちの求婚に対して、おびえを示すところも描かれていて印象深い。
そういった心情は現代的で、リアリティがある。

そしてそんなかぐや姫の個性ゆえに、悩みも苦しみのない月の世界ではなじめなかったのだろう、ということがよく伝わってくるのだ。
この辺りの翻案の仕方は実に上手い。


ラストの月に帰るシーンはすなおに悲しいと思えた。
媼は常にかぐや姫に寄り添っていたし、翁も姫の心を斟酌はしていなかったが、姫のことを大事に思っていたことが伝わるだけに、ラストはただただ悲しく思う。
ビジュアル的には来迎図だけど、見た目と裏腹にあのシーンは残酷だ。

罰として下された地上の世界で、彼女は大切なものを受け取った。
つらいこともあったし、悲しいこともあったし、受け入れがたいこともあったけれど、それを大事に受け止めて生きてきた。
それだけに、誰もが知っているあのラストが心底悲しく映り、深く胸に残る。



正直この作品の制作発表のときは、いまどきかぐや姫かよ、と思ったのだけど、見てみると存外おもしろかったので、ふしぎとうれしい気持ちになる。

引っかかる部分がないわけでもない。
しかし見終わって時間が経っても、胸に残るものがある。

高畑勲の映画の中では、この作品が一番好きかもしれない。そう評価できる作品だった。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)



PS
どうでもいいが、最後の方のかぐや姫と捨丸の飛行シーンは『千と千尋』のハクと千尋の飛行シーンを思い出させた。
加えてかぐや姫の造形に似てる(と思うんだけど)「虫めづる姫君」はナウシカのモデル。
そう考えると、高畑勲の宮崎駿に対する意識がほの見えるような気がした。
……邪推かな。

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