
1953年度作品。日本映画。
溝口健二の名作群から厳選して単品リリース!戦乱の到来を契機に大商いを目論む陶器の名工源十郎と、息子と家族3人で貧しくともささやかな幸せを望む妻の宮木。侍として立身出世を夢見る源十郎の弟・藤兵衛とその妻。やがて源十郎と藤兵衛はそれぞれの妻を故郷に残して都に出るが…。
監督は溝口健二。
出演は京マチ子、水戸光子 ら。
こういう言い方は変かもしれないが、ふしぎとおもしろい映画である。
オーソドックスなストーリー展開で、特別驚きもないというのに、終始物語に釘付けになっていた。
これはなぜだろうか、いろいろ考えているのだけど、よくわからない。
だがあえて強引に理由をつけるのなら、俳優陣、特に女優に存在感があったということ。
物語を支える世界観の構築が上手いということ。
そしてささやかな幸福を願う女性たちと、立身出世を願う男性たちのギャップを効果的に描いている点が功を奏したからではないかと思う。
三人の女優陣の存在感は、それぞれ優れている。
水戸光子や田中絹代などは、悲しげな運命を担う女性を演じていて、印象的だ。田中絹代はさすがに雰囲気はよく、切ない表情などは心に残る。
だが、真に目を引くのはやはり京マチ子だろう。
彼女演じる若狭はパッと見、見るからにうさんくさそうだし、ビジュアル的にもインパクトは強く、いろんな意味でちょっとこわい。
だけど、男にしな垂れかかるときは何とも艶だし、魔性めいた姿の存在感は抜群だ。
あと何気に、若狭の侍女を演じた右近役の毛利菊枝もすばらしかった。
彼女のしゃべり方は、いかにも恐ろしげ。彼女の存在が、不気味な世界をさらに不気味なものにしていたと思う。
物語の世界観の構築も見事だ。
湖を舟で進むシーンはそれを見ているだけで不穏な気分にさせられるし、若狭が登場してからの、ねっとりとした、おどろおどろしい世界の雰囲気はなかなか目を引く。
戦が行なわれていた時代を背景にしている点も、物語やキャラクターとうまくマッチしていて、さすがに上手いなと感心させられる。
そしてそれらの要素が上手くかみ合っているからこそ、二組の夫婦の間に生まれる悲劇が際立つものになっているのだろう。
女はそこまでお金はいらないと思っているし、夫婦一緒にいるだけで幸せだったのだ。だが男はそんなこじんまりとした世界に自分をならすことはできない。
男の気持ちも女の気持ちも僕にはわかる。わかってしまうだけに、そこは何とも切なくてならない。
そしてそのそこはかとない哀愁が、鑑賞後に、滋味深い余韻を生んでいる。
いろいろ書いたが、いくつかの長所がきらりと光る一品だ。深く心に残る映画である。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
原作の感想
上田秋成『改訂版 雨月物語 現代語訳付き』
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