私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「白いリボン」

2011-04-25 20:42:34 | 映画(さ行)

2009年度作品。ドイツ=オーストリア=フランス=イタリア映画。
1913年夏、北ドイツのある村。張られた針金が原因でドクターが落馬したのが発端だった。翌日にはその針金が消え、小作人の妻が男爵家の納屋で起きた事故で命を落とす。秋、収穫祭の日、母の死に納得できない息子が、男爵の畑のキャベツを切り刻む。その夜、男爵家の長男ジギが行方不明になった。一方、牧師は反抗的な自分の子供たちに“純心”の象徴である白いリボンを腕に巻かせる。犯人がわからないまま、不信感が村に広がっていく。(白いリボン - goo 映画より)
監督は「ピアニスト」のミヒャエル・ハネケ。
出演はクリスティアン・フリーデル、レオニー・ベネシュら。




えーっ、これで終わり? っていうのが、この映画を見終わった後に思ったことだ。
そう感じたのは、この映画、どう見てもまったくオチがついていないからだ。


「白いリボン」はいろいろな謎が未解明のままで終わっている。
助産婦はどこにいったのか? 彼女の息子はどこにいったのか? 犯人は誰か? ドクターたちはどこへいったのか? などなど、気になる点を挙げればきりがない。

もちろん現実はすべて説明できるもので構成されているわけじゃない。
けれど、これは映画で、物語なのだ。だから、見ているこっちは何かしらのオチを期待してしまう。
そのため、映画を終わった後、ぽーんと放り出されたような気分になってしまった。それがとってももどかしい。


しかしオチ以外の部分は、結構好きだ。
ハネケが映画をこんなラストにしたのは、ひょっとすると、人間たちの悪意の予感を描きたかったからかもしれない、そんなことを思ったりする。

実際、この映画では、悪意や嫉妬、背徳など、人間の醜い部分が多く出てくる。

牧師一家は厳格な教育を子どもたちにほどこし、ときには虐待めいた行為に及ぶことだってある。
その子どもたちの中には鳥を殺す子もいるし、暴行事件にからんでいる可能性もほのめかされる。
ドクターは娘と性的関係にあることが示唆される。また彼は古くからの愛人を、ものすごくひどい言葉を吐いて、捨ててもいる。
そのほかにも、小作人一家の話など、人間の感情の中でも汚い側面や、無残な運命を描く場面は多い。

しかしそれをハネケはセンセーショナルには描いていない。あくまで淡々とした抑えたトーンでアプローチしている。
おかげで、暗い雰囲気が静かに立ち上がり、そこはかとなく、不気味な感じが残る。
その空気に僕は大いにひきつけられた。


そんな不穏な空気の中で、語り手の教師だけが、唯一その暗部の中に取り込まれていない点が、個人的にいいと感じた。

悪意は猜疑心や嫉妬、相手を蔑む感情から生まれる。
そんな負の感情に彼が囚われていないのは、彼の寛容な心に由来するのではないか、と思う。
彼は婚約者に対してずいぶん優しい。たとえば池に行くのを拒んだのを深く追求せず、彼女の要望を受け入れている。
その思いやりのある心が、彼に猜疑心や疑心暗鬼を呼び起こさずの済んだのではないかと、僕は思うがどうだろう。

そしてその点こそは、このオチのない映画の一つのオチであるのかもしれない。
ちがうかもしれないけれど、ちょっとそんなことを感じた次第だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)

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