紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「秘密」東野圭吾

2004年10月28日 | は行の作家
「片想い」を読むにあたり、先にこちらを
読んでおいた方がいいとアドバイスをいただきました。

東野さん、そんな「秘密」だったんですか。

それが読み終ってすぐの感想です(笑)。
この物語の中には、結構たくさん「秘密」が出てきます。
その中でも極め付けの「秘密」ですよ。
やだなあ、こういうの苦手なんだけどなあ(苦笑)。
お互いの気持ちがすれ違う、というストーリーが苦手です。
それがラブストーリーの醍醐味なんでしょうが、
お決まりな設定なだけに、展開も決まっていて、
絶対どっちも辛い思いをするじゃないですか。
それが分かっているからそこから進めなくなるんです。
本作には、そんな“どきどきはらはら”も満載。
ごめんなさい。お腹いっぱいです、と(^^;)。

妻・直子と娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。
そこから杉田の生活は一変する。最愛の妻を亡くし、
事故の唯一の生存者である娘は意識不明。しかし、
妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体には、
妻の意識が宿っていた…。

映画は見てないのですが、CMか何かで、広末涼子が
とても寂しそうな悲しそうな切ないような笑顔を
見せる場面があったと思うんす。読んでいる間中、
ずっとその笑顔が頭から離れませんでした。
当時はそれをなんとなく眺めていただけでしたが、
読んでいるうちに、その切ない顔の意味が分かってくるんですね。
ああ、切ない。

気持ちのすれ違いのような“どきどきはらはら”を終えて、
結末に近づくにつれ、先が予想されて涙が出るのですよ。
でも、しょうがないよね、とか思っていたのですが、
最後の最後でヤられました。そうか、「秘密」だもんね、と。
ここでは、先ほどとは比べ物にならないくらい涙が出る。
1人で読んでいたので、心置きなく号泣しました(笑)。
やーねえ、もう、東野さんってば…。

秘密(文春文庫)
東野圭吾著出版社 文芸春秋発売日 2001.05価格  ¥ 660(¥ 629)ISBN  4167110067bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「沙羅は和子の名を呼ぶ」加納朋子

2004年10月27日 | か行の作家
加納さんは、どうしても思い入れの強い作家さんに
なってしまうのですが、そういうイメージを持ったまま
っていうのは、もしかしたらすごい不幸なことなのかもしれません。
というのも、「ななつのこ」「魔法飛行」の衝撃が強すぎて、
読むたびに、またあの“魔法”を期待してしまいます。
なので、どれも「うん。よかった」程度の感想…。
魔法じゃないけど、おまじないみたいな「ささらさや」
「掌の中の小鳥」はエッグ・スタンドで呪文をかけられたし、
キレイでイタイ「ガラスの麒麟」も、全部好きなんですけど。
ま、でも、どれにも裏切られていない、というのは
逆にもしかしたらすごく幸福なことなのかもしれませんね。

さて、本題です。
本書は表題作を含む10編を収録した短編集。
ミステリーっちゃあミステリーですが、
どれも幻想的で、キレイだけどちょっと心がイタイお話。
いちばんのお気に入りは表題作「沙羅は和子の名を呼ぶ」。
基本的に私の人生、行き当たりばったりだけど、
それを楽しみながら生きているので、主人公のように、
“あのとき、こっちを選んでおけば…”なんてことはないんですが。
でも、そう思うときって、誰にでもあると思うんです。
(私の場合は、単純にメニューなんかに多いんですけど(笑))
でも。それはあまり喜ばしいことではないはず。
だから、沙羅が和子の名を呼ぶんです。迷っているから。
ずっとずっと迷い続けているから。今も迷っているから。
そんな心の隙に突き入られ主人公は、最終的に、
その責任を負ったんだと解釈しました。
それは沙羅と和子から負わされた“罰”なんだと思います。

ほかにも、「フリージング・サマー」とか「オレンジの半分」
なんかは、女のイヤな面を見せつけられた気がして、
ちょっとブルーになりますね(^^;)。好きですけど。
連作ではない短編集って珍しいですよね。
加納さんのいろんな世界をたくさん楽しめて、よかったです。

沙羅は和子の名を呼ぶ(集英社文庫)
加納朋子著出版社 集英社発売日 2002.09価格  ¥ 580(¥ 552)ISBN  4087474887bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「いま、会いにゆきます」市川拓司

2004年10月26日 | あ行の作家
今回読んだ5冊の中で、いちばんのヒットがこれ。
前回読んだ「世界の中心で、愛をさけぶ」よりも、もっと純愛。
以前読んだ「四日間の奇蹟」のように、文章だけが美しいのではなく、
言葉の一つひとつが、そして物語全体が、淡いのだけれど
キラキラ輝き、とても美しい世界を形成しています。

息子に“たっくん”と呼ばれる29歳のシングルファーザーは、
たくさんの不具合を抱えていた。澪が亡くなってから1年。
父子はでも、とても一生懸命に毎日を過ごしているのです。

この父親役を中村獅童が演じるんですね、映画
なんかぴったりな気がします。で、澪は竹内結子。
どの登場人物たちも優しさと愛情に溢れていて、
巧はそれらに囲まれていることを実感しながら、
着実に毎日を、彼女のためだけに生きている。
そういう“愛”を感じずにはいられない作品ですね。
もうたまりません(笑)。
これは、いろんな人に勧めたいなあ。

いま、会いにゆきます
市川拓司著出版社 小学館発売日 2003.03価格  ¥ 1,575(¥ 1,500)ISBN  409386117Xbk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「アフターダーク」村上春樹

2004年10月26日 | ま行の作家
さて困ったのは、村上春樹です(笑)。
高校生の頃、「ノルウェイの森」を借りて読んだのですが、
最後まで読み通すのがやっと。物語を追ってはいるのですが、
ずっと“何か”が起きるのを待っていたのに肩透かしをくらった
状態で、「だから何なの?」というのが率直な感想でした。
あの頃はまだ若かったから。でも、今なら読めるかもしれない。
なんて思っていたんですけどね。
それで今回、また村上春樹を手にする機会ができ、
実は期待を込めて、楽しみにして読み始めたんです。
が。結果はやっぱり同じでしたね(笑)。
「だから何なの」「結局、何?」って感じ。
たぶんこれって、私に村上春樹を読み解く力がないんですよねえ。

アフターダーク=日没後。第三者が語る、とある街の夜のできごと。
ひとり街で夜を明かそうとするマリ。一晩中バンドの練習をする高橋。
ラブホのマネージャーと従業員。売春する女と、客の男、元締めの男。
そして…。眠ってしまえば何もないはずの夜の世界。
そこで繰り広げられる、ある物語。

村上春樹は今年、作家生活25周年を迎えるそうです。
ここからまた、新しい小説の世界へ向かおうとしているのだそうです。
でも、今まで彼がどこにいて、どこを通ってどこへ行くのか、
理解できない自分が悲しいなあ(^^;)。

アフターダーク
村上春樹著出版社 講談社発売日 2004.09.07価格  ¥ 1,470(¥ 1,400)ISBN  4062125366bk1で詳しく見る オンライン書店bk1



「アフターマン 人類滅亡後の地球を支配する動物世界」ドゥーガル・ディクソン

2004年10月26日 | た行の作家
前々から気にはなっていたのですよ、ちょっと特異な表紙イラスト。
それは、人類滅亡後、5000万年後の世界で闊歩する
“進化”した動物。要は空想の図鑑なのですが(笑)。
しかしながら、これがまた、ものすごく説得力がある。
というのも、想像は想像でも、ちゃんと進化学や生態学の
基本原理に則ったモノなので、ちゃんとした理由があるです。

はじめの方には、地球の成り立ちから生物の進化論まで、
きっちりと、でも分かりやすく説明されていて、これを踏まえからでないと、
この“空想の図鑑”の面白さが半減してしまいます。
例えば、同じ種が環境などによって少しずつ違った進化を見せる場合が
ありますよね。で、隣り合う亜種同士は交配可能なんだそうです。
が、その両端は交配できない。少しずつの変化が両端では
大きな変化となって、同じ亜種でも遺伝上違う生物となってしまうのです。
ほかにも、イルカやサメは同じような流線型の形をしているけれども、
海棲動物から進化したのはサメだけで、イルカはほ乳類から進化している、と。
こういうのを収斂進化というのだそうです。
学校の勉強はまったく面白くなかったんですけど、こうやって
書かれてあるとどうして面白いんでしょうね(笑)。
学校の教科書も、もっと面白く書けばいいのに、と思ってしまいます。

人類滅亡後5000万年後の地球では、プレートが移動し、大陸の形が
変わっています。人間が破壊しつくした自然もなんとか回復した様子で、
そこにはその時代に合った生態系が作られているのです。
例えば、温帯の森林や草原では、人類時代に繁栄していた有蹄類は
人類とともに絶滅。というのも、家畜化されたヤギやウシなどの
有蹄類は、大きな環境の変化に耐えることができなかったんですね。
そこへ取って代わったのは、人類時代は作物を荒し駆除しても
しきれなかったウサギ類。環境の変化に柔軟に対応し、繁殖力も
強かったので、場所や気候に合わせて都合よく進化できたんですね。
そういった草食動物を捕食する肉食動物には、齧歯類が進化します。
簡単に言えばネズミの類いですね。これも、駆除対象動物。
常日ごろから厳しい環境におかれているモノだけが生き残れる、
と、これも自然の重要な法則なのだと、改めて気付かされます。
ちなみに表紙のイラストは、コウモリが進化した「ナイト・ストーカー」。
ハワイの辺りに誕生した新しいしまに、最初にコウモリが飛来したんですね。
天敵もおらず、安定した生活を送るうちに飛ばなくなり、翼は退化。
しかし昔のなごりで前脚が発達し、モノなどを掴んでいた後ろ足が、
手の変わりをするようになりました。夜行性なので目は退化し、
超音波を受ける耳と鼻葉が大きく発達。爬虫類だろうがほ乳類だろうが、
見境なしに遅う凶暴な動物となりました。

こんな感じで、地球全体の動物を、進化の過程などを含めて
丁寧に解説してます。添えられたイラストが目を引きますね。
子供の頃、飽きずにずっと図鑑を開いていたころを思い出します(^-^)。

アフターマン
ドゥーガル・ディクソン著・今泉吉典監訳出版社 ダイヤモンド社発売日 2004.07価格  ¥ 2,520(¥ 2,400)ISBN  4478860467bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「頭がいい人、悪い人の話し方」樋口裕一

2004年10月26日 | は行の作家
実は、実用書の類いがあまり好きではありません。
興味のあるモノでも、最終的には文句をつけてしまうので(笑)。
なんというか、“当たり前”のことしか書かれてなかったり
するんですよね。でも。そういうモノが実用書なんだと
最近気付きました。“当たり前”のことでもちゃんと本に書いて
もらわないと、学べなくなっている、ということもあるんでしょうか。
(ま、できる・できない、というのは別問題なんですけどね)

で、これです。著者は長く小論文の添削をしてきた方だそうで、
文章と話すことの共通項を見出した、ということだそうです。
確かに、話し方というのはとても大切なことだと思います。
私の場合、極力気を付けてはいるんですが、ついつい、
人の先回りをしてしまうクセがあるんですね。友達なんかだと
平気ですけど、仕事関係の方と話すときはホント気をつけないと、
とても失礼なことになってしまいかねません。
ま、これは、自分で気付いていることで、でもほかに、自分の
気付いていないクセがあるかもしれない、と思うと恐ろしい。

本書は、愚かな話し方の例を挙げ、その傾向と対策を紹介。
しかしながら、愚かな話し方をしている人は、その自覚がないのが
問題なわけで(笑)、自覚しないと治らないもんですよね。
本書を読んで気付く人っていうのは、多分、普段から話し方に
気を使う人で、だから読まなくてもあまり問題がなかったりしますが、
あなたこそ読んでくれ! という人に限って、決して読まない(笑)。
結局さっきの「キッパリ!」と同じだ。
世の中うまくできてるねー(笑)。

頭がいい人、悪い人の話し方(PHP新書 305)
樋口裕一著出版社 PHP研究所発売日 2004.07価格  ¥ 750(¥ 714)ISBN  4569635458bk1で詳しく見る オンライン書店bk1



「キッパリ! たった5分間で自分を変える方法」上大岡トメ

2004年10月26日 | か行の作家
たった5分で自分が変わるわけがない(笑)。
でも、変えようとする気持ちとその努力はとても大切なわけで、
そこへたどり着くちょっとした“きっかけ”を与えてくれます。

全部で60項目あるわけですが、どれもカンタン。
しかーし。それができる人ははなからこういった本は読まないんだなあ(笑)。
こうう本を買う人っていうのは、努力しなきゃと思いつつ、
いつも思うばっかりで結局何もできない、という私みたいな人ばかり。
でも、大切なのは“心がけ”です、きっと。
各項目にチェック欄がついていて、巻末にはチェックリストも
付いているので、テキスト好きな方にはいいんじゃないでしょうか。

キッパリ!
上大岡トメ著出版社 幻冬舎発売日 2004.07価格  ¥ 1,260(¥ 1,200)ISBN  4344006542bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「解体諸因」西澤保彦

2004年10月25日 | な行の作家
タックシリーズ第1弾は、連作短編。
なかなかに凝ったつくりで楽しめました。
西澤さんの作品で、いっとう最初に読んだのは
「七回死んだ男」。これも設定からすごく凝っていて、
とても楽しめました。ミステリーでありながら、
“何か”を模索し続けている、というところに引かれます。

第1因の「解体迅速」から最終因の「解体順路」まで、
全9話、すべて切断されたお話。たいていはバラバラ死体
なのですが、中には微笑ましいモノもあったりします。
そのタイトルは「解体守護」。この“守護”という
言葉には、とてもたくさんの意味が込められていたり。
タックってばなんていい人なんでしょ。
とか思った次の瞬間には、すごく冷たい人になっていたり。
なかなか不思議な人物です(笑)。
なんせおやぢだし? えなりかずきだし?
(いや、私的にはそんなイメージではなかったんですけど)

これから先はよく分かりませんが、バラバラ死体という
テーマ以外、ストーリー的に深いテーマはなく、複雑でもなく、
とっかかりとしてはとても読みやすいと思います。

解体諸因(講談社文庫)
西沢保彦〔著〕出版社 講談社発売日 1997.12価格  ¥ 730(¥ 695)ISBN  4062636735bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「殺人作法 ミステリー傑作選45」日本推理作家協会編

2004年10月22日 | アンソロジー
日本推理作家協会編のミステリー傑作選、いくつか読んでますが、
ここまで大当たりだったのは少ないかも。
いつも必ず私に合わないモノがあるんですが、今回は、
どれも、とても楽しく読みました。

収録作品を明記しておきますね。
「五年目の夜」福井晴敏、「卒業写真」真保裕一、
「中国蝸牛の謎」法月綸太郎、「風の誘い」北川歩実、
「オホーツク心中」辻真先、「ミンミン・パラダイス」三枝洋、
「錠前屋」高野文緒、「不良の樹」香納諒一、
「端午のとうふ-黄表紙掛取り帖」山本一力、
「赤い名刺」横山秀夫の10作品。

現在「亡国のイージス」福井晴敏を読んでいるのですが、
その前に福井さんの短編を読めて良かったと思ってます。
というのも、いつかは「亡国のイージス」を読もうと
思っていたのですが、なんだか小難しそうで躊躇してたんですよね。
でも「五年目の夜」を読んで、そんなイメージが変わりました。
確かに、諜報部のことや北のテロ、国際情勢など、私にとっては
少しイライラする程度に苦手な分野なのです(笑)。
しかしながら福井さんの作品は、そういった説明も難しくなく、
短い中にも起伏に富んだストーリーが展開され、
さらに、ちゃんと笑いどころもある。
私にとって、むちゃくちゃおいしい作品なのでした。
おかげで「亡国のイージス」も楽しんで読んでます。

収録作品中、唯一の本格が「中国蝸牛の謎」法月綸太郎。
ほかの作品ももちろん面白いのですが、そんな中で
本格モノに出会うと、実家に帰ったように安心します(笑)。
とても心を打たれたのが「不良の樹」。香納さんの作品は
読んだことがなかったのですが、こんな素敵なお話なら、
長編をぜひ読んでみたいと思いました。
時代モノあり、ファンタジーありとジャンルも多岐に渡って
お得度も高いです。ただ、1カ所とんでもない誤植を発見。
でも、ああやって堂々と書かれていると、もしや伏線?
とか思ってしまうのは、ミステリー読みの悲しい性でしょうね(笑)。

殺人作法(講談社文庫)
日本推理作家協会 編

出版社 講談社
発売日 2004.09.14
価格  ¥ 790(¥ 752)
ISBN  4062748657

bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「兎の秘密 昔むかしミステリー」佐野洋

2004年10月21日 | さ行の作家
表紙の絵、バニーガールなんですけど、
“兎の秘密”ってそれかいっ。とつっこんでみたり(笑)。
日本の昔ばなしをモチーフにした斬新な短編集、
ということで手に取ってみました。またまた短編です。

なんとなく、赤川次郎に雰囲気が似てる気がします。
軽めで読みやすくて、ウィットに富んでいる、と。
赤川よりも深いところを突いてるし、
物語も少し重みがあるんですけど、
でも、短編だと最後にあまり救わない、
というところが似てる(笑)。
そう考えると、以前読んだ「2(S+T)の物語」も、
納得いかなかった結末がなんだかOKになってしまいます。

昔ばなしの新解釈ときくと、民俗学系を想像しますが、
そうではなく、普通の人が、子供の頃とは違った思考で、
ちょっと目先を変えてもう一度昔ばなしを考えてみる、
といった感じの雰囲気です。そしてそこに事件が絡む。
(絡まないものもあるんですけど)

私の田舎には桃太郎伝説と浦島太郎伝説がありました。
馴染み深い話なだけに、たぶん、一通りの解釈っていうのは
一度は聞いてるんですよね。でも、「亀の正体」は設定と、
過去における解釈に限らないあたり、とても面白かったです。
子供が出てくる「健気なこぶ」は切ない話。ミステリーとして
いちばん楽しめたのは、やはり表題作でしょうか。
でもどれも、そんなに重くなく、読みやすかったです。

兎の秘密(講談社文庫)
佐野 洋出版社 講談社発売日 2004.08.10価格  ¥ 560(¥ 533)ISBN  4062748347bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「ミステリー傑作選・特別編5/6 自選ショート・ミステリー1/2」

2004年10月20日 | アンソロジー
なかなか本を読む時間がとれなかったり、長編を読む体力が
ないときなんかには、こういったアンソロジーなんかがいいです。
“自選”というところに惹かれたショート・ショート集です。
1冊に33人の作品が33作、計66人の66作品を読んだわけですが、
これが不思議なことに、長編を読む3分の2くらいのスピードで
読み終ってたりするので面白い(^-^)。

長編には長編の良さがありますが、
短編には長編にないリズムがあります。
ショート・ショートだと、よりそのリズムが強調されます。
だからテンポよく読めるんでしょうね。
ストーリーに飽きる前に終る。先の展開が気になる前に終る。
たまに、訳が分からないうちに終っていたりもしますが(笑)。
ショート・ショートは久しぶりだったので、
思う存分堪能しました(^-^)。

1冊目のいちばん最初が「会話」赤川次郎。
最近では好きな作家として名前を挙げることはなくなりましたし、
作品もほとんど読んでいないのですが、昔ハマった人です。
もう、体が赤川次郎を覚えてるんですよね(笑)。
赤川次郎は長編も面白いですが、短編、とくに
ショート・ショートが上手いんですよ。相変わらず
軽いですけど(笑)。だから返って安心して読める。
とても彼らしい落し方でした。
落し方がとっても“らしい”のは、近藤史恵だって同じです。
「不幸せをどうぞ」なんて、あんな短いのに、痛い(笑)。
あんなに短いのに、で言うなら、「コルシカの愛に」藤田宜永は
あの中できっちり愛を描くなんて素敵だと思いました。
依井さんの「奇跡」も深い愛を感じました。鳥肌立つくらい。
ミステリーでいうなら、「星の上の殺人」斉藤栄はメタで、
「足し算できない殺人事件」斉藤肇は倒叙モノ(だと思います)。
斉藤栄も肇も初めて読んだのですが、面白かったです。
「足し算できない殺人事件」はそのアホらしさに笑いました。
いろんな意味で笑ったのは、「前置き」夏樹静子。
2時間サスペンスのイメージと「Wの悲劇」しか印象にないのですが、
こんな作品も描くんですね。面白かったです。
単純に笑ったのは「ラッキーな記憶喪失」森奈津子。毒は薄めです(笑)。
あと、はやみねかおると、光原百合が読めて良かったな。
そうそう、学生アリスもありますよ(^-^)。

自選ショート・ミステリー
出版社 講談社発売日 2001.06価格  ¥ 680(¥ 648)ISBN  4062731878bk1で詳しく見る オンライン書店bk1


自選ショート・ミステリー
出版社 講談社発売日 2001.10価格  ¥ 680(¥ 648)ISBN  406273253Xbk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「猿若町捕物帳 ほおずき地獄」近藤史恵

2004年10月19日 | か行の作家
薄いし活字が大きい、しかも表紙は漫画ちっく。
ちょっと手に取るのを躊躇してしまったのですが(笑)。
短くてすぐに読んでしまえそうなんだけど、
でも、短いなりにも“近藤節”は炸裂するだろうな、と。
猿若町だしね、歌舞伎だしね。

同心・玉島千蔭の耳に妙な噂が入ってきた。
吉原に、ほおずきを落して姿を消す幽霊がいるという。
その渦中に起きた殺人事件の現場にもほおずきが…。
女形の歌舞伎役者・巴之丞と花魁・梅が枝の協力を得て、
千蔭は事件の解決に乗り出すが…。

どうやらこちらはシリーズの2作目らしい。
いつか1作目を見つけて読んでみたものです。

作品としては、中編といった長さです。200p強。
しかしながら近藤さん、容赦しません。
バラの棘のようなものをいろんなところに隠してます。
読み進むうちに、知らず知らず傷ついている、という寸法。
それでも、気遣いの同心・千蔭や上方出身のくせに粋な梅が枝、
洒落と小回りがきいている巴之丞といった
温かいキャラクターが、その傷を癒し、救ってくれます。
最後はなんとか幸せな気分にもなれたし。
(その前にさんざんイヤな気分にはなってるんだけれども)
2作しか出ていないようですが、もっと続けて欲しいです。

ほおずき地獄(幻冬舎文庫)
近藤史恵〔著〕

出版社 幻冬舎
発売日 2002.10
価格  ¥ 480(¥ 457)
ISBN  4344402847

bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「船上にて」若竹七海

2004年10月14日 | わ行の作家
ノンシリーズな短編集。
相変わらず、ぞくぞくする悪意満載です(笑)。
若竹さんの短編は、連作でなら何度か読んだし、
アンソロジーなどに収録されているものも
いくつか読んだのですが、こうやって集まった
短編集は初めてですね。しかも、自選だそうです。
〈時間〉〈タッチアウト〉〈優しい水〉〈手紙嫌い〉
〈黒い水滴〉〈てるてる坊主〉〈かさねことのは〉
〈船上にて〉の8編を収録。

最近知ったのですが、若竹さん、
タイタニックに非常に興味を持っていらっしゃる、と。
「海神の晩餐」なんかがその極みだそうですが(未読なの)、
それにしても、「名探偵は密航中」やら本作やら、
豪華客船モノがお好きなようです(^-^)。

“ナポレオン3歳のときの頭蓋骨”が盗まれた-。
フランス行きの船で知りあった老人は、甥が騒ぐのをしり目に
昔話を始めた。それは、ダイヤの原石が盗まれたという話で…。
                      (〈船上にて〉)

表題作〈船上にて〉は、なんといいますが、
収録作品中、いちばん心に残った作品です。
あの、最後の1行にヤられてしまいました(笑)。
だって、あの方は私の心の師ですもの(何)。
でも、若竹らしい悪意の権化といったら、
手紙嫌いの主人公が必要に迫られ、手紙文例集を手に取る
ところからおかしくなる〈手紙嫌い〉とか、
主人公の女性が幽霊が出る宿に宿泊する
〈てるてる坊主〉なんかじゃないでしょうか。
といいつつ、いろんなサイトを見て回ったのですが、
大方、負けず嫌いの(笑)ストーカーと被害者の攻防(?)
を描いた〈タッチアウト〉を挙げてらっしゃいます。
…感性が違うのか、私が勘違いをしているのか(^^;)。
悪意にこだわらず、若竹らしいといったら
手紙が綴るミステリー〈かさねことのは〉。
〈てるてる坊主〉もそっち寄りかな。
気付くとビルの隙間で寝ていた主人公が、その日の出来事を
思い出していくという〈優しい水〉は、ブラックで楽しい(笑)。

「船上にて」若竹七海

「ダック・コール」稲見一良

2004年10月13日 | あ行の作家
読む前は、勝手にハードボイルドだと思い込んでました。
読み始めて、長編ではないことを知ったし。
そうすると、なんでこの作品を読もうとしたかも、
なんだか分からなくなってしまうのです(苦笑)。
ま、そんなことはどうでもよくって。

読み始めると、すぐに分かります。
これは、“男の物語”だということが。
野生の鳥にまつわるオムニバス形式の短編集。
どれにも、“男の想い”が込められています。
それがまた、派手ではないけど、熱いんだわ。
長年、女なんかをやっていると、ときたま
ものすごく男がうらやましくなることがあるのです。
男の、そういう面を見せつけられる作品でした。
純粋というか、単純というか、
まっすぐというか、独りよがりというか。
でも、ちゃんと現実を見た上での“夢”。
だから、あんなに美しいんだなあ、と。

あら、いやだ。
今、表紙の裏を見たらこんなことが書いてある。
「石に鳥の絵を描く不思議な男に河原でであった青年は、
 微睡むうちに鳥と男たちについての六つの夢を見る--」
…なんだ、6つのお話は夢だったのか(笑)。
だからあんなにキレイだったのか?
まあ設定はどうでもいいや(よかないけど)。
中では「波の枕」がとてつもなく好きです。
「ホイッパー・ウィル」もハードボイルドに感動的です。

「ダック・コール」稲見一良

「ノンセクシュアル」森奈津子

2004年10月08日 | ま行の作家
以前メルマガで、紹介されていた作家さん。
エロ+おばかな作風、同性愛者やバイセクシャルな
人たちが登場するのに、なぜか笑える、と。
名前だけは聞いたことがあったのですが、未読だったので、
チャレンジしてみました。…といいつつ、選んだのはホラー(笑)。
おばかな作品、というよりは、主人公の小説家・
詠子がおばか(笑/愛情こもってます)。

秀美(♀)と透(♂)という2人の恋人がいながら、
透にプロポーズされたことで2人とも失ってしまう詠子。
そんな傷心の詠子に救いの手を差し伸べたのが、
超美人で気品のあるお嬢さま・絵里花だった。
しかし、それは彼女のほんの一面で…。

詠子は、上手く恋愛をしていけるタチではなく、
自分の気持ちにバカがつくほど正直な、気の優しい人。
ただ、ちょっと不器用で、つい手を差し伸べたくもなります。
バイセクシャルという設定ですが、それがとても自然。
卑屈になるわけでもなく、負い目を感じるわけでもなく、
男性も女性も、同じように愛せてしまうって、
なんだかとても素敵なことのように思いました。
(そんなことはキレイゴトなんだろうけどさ)
で、詠子の友達・夕子というのが、誰も愛せない
ノンセクシュアルな人。この人がとてもいい味を出してます。

そういった人物たちの中で繰り広げられるのが、
“狂気”のホラー。いい感じに狂ってて私は好き。
最初は、違うモノを想像してたんですよね(何)。
でも、読み進むにつれ、なんだか“得体のしれないモノ”を
腹に抱えながら進むストーリーにのめり込みます。

今回はエロ+おばかがちょっと足りない気がするので(笑)、
また、もっと強烈なモノを読んでみたいと思います。

「ノンセクシュアル」森奈津子