紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『青列車の秘密』アガサ・クリスティー

2005年06月28日 | あ行の作家
GWに実家に帰ったとき、本棚を整理していたらありましたよ、これが(^^;)。
以前に読んでいたのですね。たぶん、高校時代だろうと思うのですが。
でも、それを発見するまで読んだ記憶はまったくなかったです。というか、
その事実を突きつけられたところで、記憶は戻ってきませんでした(笑)。
いや、いいのよ、2回楽しめたんだから(というのは言い訳?^^;)。

なんだか、被害者にも容疑者にも、ものすごーく胡散臭いところがあって(笑)、
いかにも予想しやすい“何かがあるゾ”的なお話だったので(失礼)、
あまり気を入れて読んでなかったんです、実は。でも、最後の最後で
ヤられました。想像してませんでした。あんなことになるなんて!(笑)。
いや、よく考えるととてもクリスティー的なお話ではあるんですよね。
私的な言葉で言わせていただくならば、初期の赤川から受ける、
新鮮な衝撃そのもの(赤川がクリスティーのファンだったので、
実際としては逆なのですが(笑))。一気に目が覚めます。ステキ過ぎます。

走行中の豪華列車〈ブルー・トレイン〉内で陰惨な強盗殺人が起こる。
警察は被害者の別居中の夫を逮捕した。2人の間には“複雑な”事情が
あるのだが、偶然乗り合わせたポアロが暴いた真犯人とは…!?

これまで、クリスティー文庫でポアロものを『スタイルズ荘の怪事件
ゴルフ場殺人事件』『アクロイド殺し』『ビッグ4』と4冊読んで
きましたが、その中ではいちばん面白かったかもしれません。


青列車の秘密』アガサ・クリスティー(ハヤカワクリスティー文庫)

『隻腕のサスラ 神話の子供たち』榎田尤利

2005年06月28日 | あ行の作家
「もったいないからまだ読まない」ということはやめよう、
そう思っていても、やっぱり大切にしたくてなかなか手が出ない
作品(作家)というものはあるもので。私にとって、榎田作品がそれ。
魚住くんシリーズから、とても大切に読んでいて、そのシリーズで
すらも、3冊目以降がなかなか読めなかったりしたのです。
しかしながら、BL系の作品はあれ以上の感動はありえないだろう(笑)
という思いから(失礼だなあ^^;)、ぼちぼちと読んではいるのですが、
ファンタジーである前作『神を喰らう狼』は、BLにはない感動を
与えてもらいました。という理由があって、その続編であるところの
本作には、なかなか手が出なかったのですね。

でも、やっぱり早くに読んでおけばよかった。いかに私が、
榎田さんの文章を欲していたのかが、読み始めてよく分かりました。
冒頭、「ルアンの髪は長い。」たったこれだけに、心がかき乱されました。
どうしてこの人の文章がこんなにも奥が深いのだろう、と。

そこから、この物語の主人公・サラまで辿り着くまでの長いこと長いこと。
しかも、そこ(サラ)へ辿り着いて、彼女が決断するところで本作は
終わるのですね。“隻腕のサスラ”というタイトルのサラの物語は
ここで終わり、ということなのでしょう。そういう潔さみたいなものも、
やっぱり榎田さんの特長です。しかしながらその反面、とてつもなく
長いシリーズになるのだなあ、という予感はしますね、びしびしと(笑)。

この続編、神話の子供たちの3作目になる『片翼で飛ぶ鳥』は、もうすでに
本棚に収まってます(もちろん積ん読の棚ですが^^;)。ホントはすぐに
でも手に取って読んでしまいたいのですが、なんだかまだもったいない!
といっている間に、どんどんBL系の作品も積まれていくのですが…。


隻腕のサスラ 神話の子供たち』榎田尤利(講談社X文庫)

『ALONE TOGETHER』本多孝好

2005年06月27日 | は行の作家
MISSING』に続いて、久々の本多さん。前回とは違って、長編なのです。
カバー裏にあるあらすじを見ているとそうでもないのですが、最初の
2・3ページを読んだだけで、ぐぐぐっと物語に引き込まれます。

かなりの努力とお金をかけて入学した医大を、いとも簡単に辞めてしまった
「僕」。フリースクールで講師のバイトをしなら過ごした3年後、脳神経学の
教授に突然呼びだされ、「ある女性を守ってほしい」と頼まれます。
「僕」と教授との接点は、学生時代「僕」が教授の授業を数回受けただけの
こと。当時「僕」は、1度だけ教授に質問をしました。「脳に呪いの入る
隙はあるのか」と。権威といわれた教授の答えは、「その可能性を否定する
ことはできない」。それを聞いたがために、「僕」は大学を辞したのです。

とまあ、こんな前フリを喰らって読まずにおけるか、ということで、
一気読みです(笑)。ただ、どこに触れてもネタバレになりそうなので、
感想を書くのが難しいのですが…。ひと言でいえば、「僕」は依頼された
ことを成し遂げることで、自分の存在を認めるようになるのではないかと。
でも、そんなに簡単なことでもないしな(笑)。…何を書いているのか
分からないかもしれませんね(^^;)。もしかしたら、この物語は、
あるがままをそのまま受け止めればいい作品なのかもしれませんね。
読むだけで、深く考えない方がいい。というのも、普段はできるだけ
見ないようにしている自分のホンネを意識してしまって、ちょっとブルーに
なってしまいました(笑)。でも私は楽観的に生きてきたから、ここまで
生きてこられたけれども、「痛い」ことを、嘆かず悲しまず、しかも誰の
せいにもせず、ただ「痛い」状態のままにしておく「僕」と学園の子供たち。
彼らのことを考えれば考えるほど、どつぼにはまって抜けられなくなります(笑)。

ただ、最後に救いとまではいかないけれども、ほんの少しだけでも“希望”を
残してくれてあるので、読んでいる方はそれで救われます。そして、
水柿くんを思わせる「僕」の思考も、もしかしたら、ホントは健全なのかも(笑)。


ALONE TOGETHER』本多孝好(双葉文庫)

『銅の魚』仁木悦子

2005年06月27日 | な行の作家
以前から、仁木さんの描く子供がいい、というお話は何度も伺って
おりましたが、実はまだ実感したことがなかったのです。というのも、
これまで、仁木兄妹の長編を2作と、三影潤の連作短編を1作読んだだけで、
子供が主人公のお話を知らなかったのですね。そんなんでは、話にならん(笑)。

いや、基本的に仁木悦子の作品は良いので、子供が主人公になっても
いいものなんだろう、くらいの気持ちでしかいなかったのですが、
これが間違い。もう、最っ高にいいんです!(笑)。
『銅の魚』はノンシリーズの短編集で、「二人の昌江」だけ、結婚後の
悦子が出てきます。お兄ちゃんは出てこないのですが、ここでは夫が
少し活躍します(でも、しゃしゃりでるのは、やっぱり悦子(笑))。

収録された6作のうち、「誘拐犯はサクラ印」と「倉の中の実験」
「銅の魚」が子供が主人公なのですが、とくに男の子がいいのです。
がんばっちゃうから(^-^)。ちょっと気のある女の子に、いいところを
見せようとがんばるんだもんなあ。そういう微笑ましい話なのにも
かかわらず、謎解きはきっちり本格なのです(「倉の中の実験」は
ちょっと違うけどね)。子供が主人公で事件に遭遇すると、なんだか
心を痛める展開になりそうな気がしますが、そこがまた仁木さんの
うまいところで、事件のために負った心の傷は小さくはないけれども、
でも、子供たちはどんどん成長していくんだ、そうやって大きくなって
いくんだ、そうして、その傷を乗り越えていくんだということを
強く感じさせてくれました。うーん、いい作品だあ(^-^)。

しかしながら、それだけではないのが仁木作品。「山峡の少女」は、
外出するときも鍵をかけないような田舎で起こる事件の話ですが、
密室よりも面白いトリックかもしれません(ちょっと煽ってみたり)。
仁木兄妹のシリーズも好きですが、キリリと引き締まった短編集、
しかも、子供が主人公の作品が、次回以降の狙い目です(笑)。


銅の魚』仁木悦子(角川文庫)

『ネバーランド』恩田陸

2005年06月20日 | あ行の作家
久々の恩田さん。一気に読んでしまいました。学園モノだからいい、
というわけではなく(実際、『六番目の小夜子』は外したし)、
具体的に“何”が良かったのか、ハッキリと言葉にできないのが
とてももどかしいのですが。強いていえば、男の子たちの発する
“青臭さ”でしょうか…言葉を選べよ、自分(^^;)。
懐かしいというのではなく、どちらかというと、憧れですかね。

舞台は、辺鄙なところに建てられた名門高校の寮「松籟館」。
文化財になろうかというほど古く、歴史あるこの建物で、
冬期休暇を過ごす4人の1週間が、とても悲惨に(笑)描かれます。

この設定はね、ある種のお約束でしょうよ。ねえ(誰か同意してくれ)。
確か男子高だし。作者は『トーマの心臓』のようなものを描きたかった、
ということだし。実際、その辺のエピソードも出てきたりしますが。
でも、そっち方面の話ではなく、非常に楽しくて苦しくて、いいかげんで、
でも重くて…やっぱり青臭い。その辺が、彼ら自身が悲惨である、
という辺りに繋がるのですが(伝わるでしょうか^^;)。

クリスマス、お正月と、家族で過ごすはずのイベントを、彼らは
寂しくて寒い寮で4人だけで過ごします。たった1週間だけれども、
そういったイベントを挟んで、普段からは考えられないほど“密接”して
過ごすうち、それぞれが背負っていたり、背負わされていたりするモノ、
普段は気付かなかったり、気付いていないフリをして済ませているモノに
対して、彼らなりにいろいろと考えることができるわけなのですね。
1人だったら絶対にできなかったこと。4人だからできたこと。
そんな“青臭さ”とともに、何が「ネバーランド」なのかということも
含めて、堪能していただけたらいいな、と思います。
木曜組曲』『夜のピクニック』が面白かった方はぜひ。


ネバーランド』恩田陸(集英社文庫)

『ルパン対ホームズ 怪盗ルパン3』ルブラン原作・南洋一郎文

2005年06月20日 | ら行の作家
ルパンは盛んに「ホームズは好敵手である」とは言ってますが、扱いは
そんなによろしくない(笑)。消えた宝くじの謎、老将軍の殺害、盗まれた
青ダイヤの謎を解くために、イギリスからホームズが招かれますが、
フランス国民は、大泥棒のルパンの応援をしてしまいます。フランスの
国民性が垣間見られる作品なのです(笑)。しかも、ホームズはルパンに
やられて失敗ばかりしてますし。しかし、その後に続く作品『奇巌城』で
ホームズはルパンに一矢報います。そのための前フリだと思えば、、、。
いや、思えないな(^^;)。ホームズとしては考えられない失敗だらけだもんねえ。

でも、ルパンも今回、ワトソンに大きなケガを負わせてしまうのですよ。
ルパンは決して人は殺さない、という“お約束”があって、そのため、
相手にケガをさせることもないだろうと信じていたのですね、私。
だから、ワトソンがケガをさせられたときは、ちょっとショックでした。
なんて純粋なんでしょう(笑)。
(なんだか感想になっているんだかいないんだか(^^;))


ルパン対ホームズ 怪盗ルパン3』ルブラン原作・南洋一郎文(ポプラ社)

『蠱猫 人工憑霊蠱猫01』化野燐

2005年06月20日 | あ行の作家
これはもしかしたら、全部読んでから感想を書いた方が
いいのかもしれません。続きモノなのです。

両親と決別したはずの美袋小夜子は、司書として学園に戻ってくる。
そこでの彼女の仕事は、まるで蔵そのものの書庫の整理。
祖父の遺した蔵書をひも解いていくうち、奇妙な“事件”が起こり…。

化野燐といえば、在野の妖怪研究家(ホントか?)として
有名な方ですが、“満を持して”発表されたこの作品。
私の感触からいいますと、まだまだ、全然本領発揮、とまでは
いきませんね。だから、余計に物語の壮大さを予感させるというもの。
京極夏彦がいろいろと協力しているようで(呪符のようなものを描いたり)、
そっちでも興味がそそられようというもの。

ただね。まだまだなんにも見えてこないのですよ(^^;)。
実は、主人公すらハッキリしてない感じ。たぶん、小夜子なんだろうけど、
後半から視点が変わって、それまでの話とつながりの見えない物語が
始まったりして、結局、何がなんだか分からないまま終わってしまったのです。
なので、2巻目『白澤』に期待…したいのだが、まだまだ続くで
あろうことを考えると、次作で何かが見えてくるかどうかも疑問なのですが。
それでも、妖怪好きにはたまらないお話だと思います。
や。“妖怪好き”とひとくくりにしちゃいましたが(笑)、
ある種ファンタジーですし、冒険小説ですし、なんならハードボイルドにも
できないことはない(無責任)。とりあえず、いろんな可能性を秘めている
作品には違いない。…あとは好みの問題かな(笑)。


蠱猫 人工憑霊蠱猫01』化野燐(講談社ノベルス)

『トリック狂殺人事件』吉村達也

2005年06月14日 | や行の作家
最初っから、ドラマ化を狙った作品だったそうで(あとがきにあります)、
なかなか派手な演出が面白かったです。ヘタすると、とんでも系ですが(笑)。

警視庁捜査一課の刑事・烏丸ひとみは、一刑事でしかないのに、
自分の魅力を最大限に発揮して、警部を手玉にとってしまう人物(笑)。
同僚のフレデリック・ニューマン刑事は、碧眼・金髪の日本人…。
そんなユニークなキャラクターがそろう中、物語は軽めのタッチでは
あるものの、壮大な展開を見せてくれます。

ひとみのもとに“トリック卿”と名乗る人物から招待状が届く。
雪深い山奥の「うそつき山荘」という場所へ、6人のうそつきな男女と
ひとみを呼んで、ゲームを始めようというのだ。そこで出されるクイズ
全てに正解すると、賞金はなんと6億円! 胡散臭さを感じつつも、
ひろみは休暇を取って出かけるが…。

雪の山荘です。吹雪でもないのに、閉じ込められます。
この辺りが“トリック狂”です。あまりにも壮大すぎます(^^;)。
でも、久しぶりの「雪の山荘」。1人、また1人と殺されていくという
シチュエーションだけで楽しめてしまいました(笑)。
大きな仕掛けだけではなく、一つひとつの殺人もなかなか凝っていて、
飽きさせません。ただ、最後は笑っちゃいましたが(いやだって、
あまりにもドラマティックなんだもん(^^;))。


トリック狂殺人事件』吉村達也(角川文庫)

『シャーロック・ホームズの事件簿』コナン・ドイル

2005年06月14日 | か行の作家
位置的にいうと、ホームズ晩年の事件、といったところでしょうか。
引退間近、もしくは、引退後の事件まであって、ちょっと“冴え”に
欠ける気がするのは、気のせいでしょうか(笑)。
これまでは基本的に、ワトソンくんの記述による物語だったわけですが、
ここにきて、ホームズが自分で記したりしていて、そういうところは
面白かったです(^-^)。

「ソア橋」は、不可能犯罪系(そんなのがあるのですか^^;)なのですが、
このトリックに関しては、いろんなところで見かけます。評価高いです。
が、実はいまいちよく分かってなかったりして(笑)。いや、トリック
自体は一応理解しているつもりですが、どうすごいのかが分からない。
きっと、私は何かを見落としているんだろうなあ(^^;)。
それにひきかえ、「這う人」は、事件が起こった段階で、ホームズよりも
先に分かっちゃいました(笑)。たぶん、これはみなさん分かりますよね。
いちばん面白かったのは「三人ガリデブ」でしょうか。これって、
狙ってない?(笑)。タイトルを見ただけでいろいろと想像して
しまったのですが(細い人と太い人が3人いる図など(^^;))、
あまり影響なくてよかったです(何)。全体的に“動”の事件よりも、
やはり“静”の事件の方が多かったでしょうか。


シャーロック・ホームズの事件簿』コナン・ドイル(新潮文庫)

「クラインの壺」岡嶋二人

2005年06月09日 | あ行の作家
えーと、悶えます(笑)。このひと言に尽きるんじゃないでしょうか。

初っぱなから主人公、とても切羽詰まった状態にあります。
私、苦手なんですよね、こういう展開(^^;)。結果(切羽詰まった
状態)が分かっていながら、どうしてそういう状態に陥ったかという
説明が後からついてくるわけですよ。「ああ、そんなことやってるから
切羽詰まるんじゃん」とか思いながら読まなきゃいけない、というのが
とても苦手なのです。だから「ドラえもん」が見られない(笑)。

ま、でもそれは、変な汗をかく、というだけで(笑)、これが
作品の善し悪しに関わるわけではありません(念のため)。

ゲームブックの原作を200万円で謎の企業イプシロン・プロジェクトに
売却した上杉彰彦。その原作をもとに企画されたヴァーチャルリアリティ・
システム「クライン2」の製作に加わることになったのだが…。

いろいろ工夫してみたんですけど、何を書いてもネタバレになりそう(笑)。
ただ、息つくひまなく先へ先へと進んでいかないと、どうにかなりそうです。
だから、悶えちゃうんですよね。「う゛ー」とか「あぅー」とか。
厳密にいうと、ミステリーではないかもしれませんが、楽しめます。
もう、悶える楽しさを知ったら病みつきになりますよね(くすくす)。

本作は、岡嶋二人作品の中でも、とくに井上夢人の色が濃く出た作品、
ということで、こちらが楽しめた方ならは、ぜひとも
井上作品に手を伸ばしていただきたいなあ、と思うのです(^-^)。


クラインの壺」岡嶋二人(講談社文庫)

「時計館の殺人」綾辻行人

2005年06月09日 | あ行の作家
館シリーズ第5弾。シリーズ中でも評価の高い作品で、
それに比例した厚さも魅力(笑)。とはいうものの、
ボリュームを感じず(重さは感じましたが(笑))、
ずいずいと読み進むことができました。

館シリーズの特徴はなんといっても、平面図。
(そうなのか?(笑))
迷路館では、さんざん迷いましたが、時計館は、
平面図を見ながら読み進むと、とてもスムーズに
ストーリーが頭に入ってくるのです。

「十角館」の事件から3年後、雑誌社に勤務する江南くんは、
鎌倉にある「時計屋敷」に少女の亡霊が出る、という噂を
検証すべく、3日間にわたって泊まり込む企画に参加する。
メンバーは、大学のミステリー(超常現象)研究会の面々、
編集長、カメラマン、霊能者と江南くん。メンバーたちは、
食料などを持ち込み、振り子時計を模した旧館へ閉じこもる。

江南くんといえば、「十角館の殺人」。あの衝撃は忘れられませんね。
今思い出しただけでも鳥肌立ちます。そこから続くこのシリーズ。
今回、島田潔と江南くんが、ひょんなことから再会を果たした
ことによって、よりシリーズとしての“強さ”を感じました。
(この場合の強さは、奥深さとか、趣深さとか、魅力、でしょうか)
以前から私はこのシリーズには、“雰囲気”をとても大切にしている
ところがある、というようなことを言ってきた気がしますが、
それがここにきて全開ですよ。中村青司という“怪物”は、
これらの建物たちに、一体何を仕掛けたんでしょうね。
そういうシリーズを通して鬱積してきた“何か”が、この「時計館」で
ある意味、姿を表したのではないかと、そんな風に思ってみたり。

トリックについて言及するのは得意ではないのですが、
何重にも張り巡らされたトリックが、最後の最後まで
読者を安心させてくれません。1つの衝撃的なトリックが
解明されても、まだまだその“衝撃”は続くのです。
個人的には「十角館の殺人館」にはかないませんでしたが、
そんなことはどうでもいいって思えるくらい、どっぷり
ハマりました。このシリーズはとても相性がよく、
中でもこの作品が、読んでいても体にしっくりくる感じ。
あー。ホント、楽しかったなあ(^-^)。


時計館の殺人」綾辻行人(講談社文庫)

「ゆきの山荘の惨劇 猫探偵正太郎登場」柴田よしき

2005年06月02日 | さ行の作家
アンソロジーで初めて読んだ柴田さんの作品が、この正太郎シリーズの
1作。ちょっと抜けてる(笑)飼い主で作家の桜川ひとみと、正太郎の
かけあい(というか、ひとみは正太郎のことを分かっているつもりでも、
まったく気持ちが通じていないというところ)が面白くて、見つけ出した
のがこれ。このシリーズ、何作も出てるんですね(知らなかったのよ^^;)。

「柚木野山荘」で行われる結婚式に招待された飼い主の桜川ひとみに
一服盛られ(笑)、無理矢理連れてこられた正太郎は、山荘で幼なじみの
サスケと美猫トマシーナと出会う。和やかに見えたその集まりも、新郎の
もとに脅迫状が届いたりと、次第に怪しげな雰囲気に飲み込まれていく。

文字通り“惨劇”が次々と「柚木野(ゆきの)山荘」を襲うわけですが、
(雪に閉ざされた山荘で起こる事件ではないのですね、残念ながら(笑))
なんだかとってもいたたまれないのです、その“想い”が。新郎が新婦を
想う気持ち、新婦が新郎を想う気持ち、そして、正太郎がトマシーナを
想う気もち。どれもとても大切な想いのはずなのに、ちょっとした
行き違いで、それこそが悲劇になってしまうのですね。辛いなあ。

最終的にはいろいろと救われた部分もあるのですが、やはり“真相”を
知ると鳥肌が立ちますよ。痛いし、辛いし、いたたまれない。
そういうところも含めて(笑)、とても好きな作品です(^-^)。


ゆきの山荘の惨劇 猫探偵正太郎登場」柴田よしき(角川文庫)

「ルパンの大失敗 怪盗ルパン2」ルブラン原作・南洋一郎文

2005年06月02日 | ら行の作家
天才と呼ばれる大怪盗アルセーヌ・ルパンも、若いころには大失敗が
あったのです!(笑)。そんな青年時代の話を、親友のルブランに
語る「ルパンの大失敗」など、4つの話が収録されています。

初めてルパンが企てた“仕事”は、大富豪アンベールの屋敷から
1億フランの証券を盗み出すこと。綿密な計画を立て、じっくり時間を
かけて“仕事”に取りかかるのですが、思いも寄らない展開を見せ…。

注釈があるのですが、当時の1フランは約1,000円。だとしたら、
1億フランっていったいいくらなんだ! その辺にも夢があって、
私はとても好きなのですが(笑)。そして、この失敗から天才的な
大怪盗ルパンが生まれた、という誕生秘話にもなっているのです。

収録作品の中に「大探偵ホームズとルパン」という話があり、これは、
後に続く長編「ルパン対ホームズ」の前哨戦、といったところ。
しかしながら、ここに出てくるホームズの扱いの悪いこと悪いこと(笑)。
いくら愛国心の強いフランスの作品だからといって、ホームズファンが
読んだら気を悪くするかもしれない…とちょっと心配(^^;)。


「ルパンの大失敗 怪盗ルパン 2」ルブラン原作・南洋一郎文(ポプラ社)

「製造迷夢」若竹七海

2005年06月02日 | わ行の作家
警視庁の刑事・一条風太と、サイコメトラー・井伏美瀬の連作短編。
若竹さんの作品で超能力とか出てくるのが、なんとなく意外
でも、よく考えると「サンタクロースのせいにしよう」という前例も
あるし(超能力ではないけれども)、違和感はまったくなかったです。
中身は(ストーリーの進み具合は)とても若竹さんらしく、悪意に
満ちて痛い作品でした。私はそこがとても好きなのです(^-^)。

覚醒剤所持で現行犯逮捕されたミュージシャンとその友人が
自殺を図る。捜査にあたる一条は井伏美瀬と出会うが、彼女は、
物質の残留思念を読み取るサイコメトラーだった…。

1話目「天国の花の香り」で、一条と美瀬は出会うわけですが、
そこから事件にからんで、また、からまなかったりしながら、
2人はお互いを理解し合っていきます。それぞれの話の中で
起こる“事件”はどれも、若竹風味ですが、なんとなく、こういう
終わり方は麻耶雄嵩にも通じるところがあるのかも、という気が
してます。というのも、「あいにくの雨で」(文庫版)の解説に
興味深いことが書いてあったのですね。謎は解かれるけれども、
必ずしもハッピーエンドで終わらないのには理由がある、という
件なのですが。この辺は宮部みゆきなんかにも通じるところがあって、
被害者やその家族、そして加害者の家族たちにとっては、事件が
解決してからの生活の方が大変なんだ、と。そんな風に私は感じた
わけですが。まあ、そんなことは考えなくてもいいんだけど(笑)。

この作品のもう一つの魅力は、事件と平行して一条と美瀬の関係が
描かれていくこと。その描き方もとても面白いのです。


製造迷夢」若竹七海(徳間文庫)