紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『銅の魚』仁木悦子

2005年06月27日 | な行の作家
以前から、仁木さんの描く子供がいい、というお話は何度も伺って
おりましたが、実はまだ実感したことがなかったのです。というのも、
これまで、仁木兄妹の長編を2作と、三影潤の連作短編を1作読んだだけで、
子供が主人公のお話を知らなかったのですね。そんなんでは、話にならん(笑)。

いや、基本的に仁木悦子の作品は良いので、子供が主人公になっても
いいものなんだろう、くらいの気持ちでしかいなかったのですが、
これが間違い。もう、最っ高にいいんです!(笑)。
『銅の魚』はノンシリーズの短編集で、「二人の昌江」だけ、結婚後の
悦子が出てきます。お兄ちゃんは出てこないのですが、ここでは夫が
少し活躍します(でも、しゃしゃりでるのは、やっぱり悦子(笑))。

収録された6作のうち、「誘拐犯はサクラ印」と「倉の中の実験」
「銅の魚」が子供が主人公なのですが、とくに男の子がいいのです。
がんばっちゃうから(^-^)。ちょっと気のある女の子に、いいところを
見せようとがんばるんだもんなあ。そういう微笑ましい話なのにも
かかわらず、謎解きはきっちり本格なのです(「倉の中の実験」は
ちょっと違うけどね)。子供が主人公で事件に遭遇すると、なんだか
心を痛める展開になりそうな気がしますが、そこがまた仁木さんの
うまいところで、事件のために負った心の傷は小さくはないけれども、
でも、子供たちはどんどん成長していくんだ、そうやって大きくなって
いくんだ、そうして、その傷を乗り越えていくんだということを
強く感じさせてくれました。うーん、いい作品だあ(^-^)。

しかしながら、それだけではないのが仁木作品。「山峡の少女」は、
外出するときも鍵をかけないような田舎で起こる事件の話ですが、
密室よりも面白いトリックかもしれません(ちょっと煽ってみたり)。
仁木兄妹のシリーズも好きですが、キリリと引き締まった短編集、
しかも、子供が主人公の作品が、次回以降の狙い目です(笑)。


銅の魚』仁木悦子(角川文庫)

「幻惑密室 神麻嗣子の超能力事件簿」西澤保彦

2005年04月26日 | な行の作家
チョーモンインシリーズ第1作。短編かと思ったら、長編でした。
しかも、長編第1作といいながら、この前に短編が1つあるのですね。
それを読んでいなくても支障はないですが、何度もその事件に
触れられるし、たぶんネタバレもされているので(笑)、できれば、
順番通りに読んだ方が楽しめるんじゃないかと思います。
確か、「念力密室!」に収録されていたと思います。

チョーモンインとは、超能力問題秘密対策委員会の略だそうで、
“超問員”ではなく“チョーモンイン”と言い張るのは、
出張相談員(見習い)の神麻嗣子。文庫版には「てけてけ」という
音を鳴らしながら走りそうな(笑)イラストが描かれます。
彼女の仕事は、超能力が関わる事件の調査。警察と協力して、
事件を解決することもある、とかないとか(笑)。

今回の超能力は“ハイヒップ”というもの。初めて聞きました。
大ざっぱにいえば、強烈な催眠術のような感じでしょうか。
いつものように、この能力にはには制限があり、推理するのに
必要な条件もきちんとそろってます。基本的に推理をしない
(というかできない)私でも、なんだか解答が導き出せそうな
くらいとてもキレイな論理が展開されていきます。
いつもながら感服しますねえ。その上、物語自体も面白い。
どちらかというと軽いタッチなので、長編とはいっても
すらすら読めちゃいます。引き続き読んでいきたいシリーズです。


幻惑密室 神麻嗣子の超能力事件簿」西澤保彦(講談社文庫)

「クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子」西尾維新

2005年04月19日 | な行の作家
サブタイトルが“戯言遣いの弟子”というだけあって、
いーちゃんの本領発揮です(笑)。今回初めて、“たわごと”ではなく、
“ざれごと”であることをとても強く意識しました。
いや、最初っから“ざれごと”だとは分かってたんですけどね(^^;)。
なんと言いましょうか、やっとこのモノガタリの片鱗が見えてきたな、と。
まあ、私的に、ということなのですが。

「紫木一姫って生徒を学園から救い出すのが、今回のあたしのお仕事」
人類最強の請負人・哀川潤から舞い込んだ依頼のために、「ぼく」こと
“戯言遣い”いーちゃんは、“クビツリハイスクール”に潜入した…。

以前も少し触れましたが、西尾維新は日本語が面白い。
北村薫はとても“美しい日本語”を使う方ですけれども、
西尾維新は、北村薫とは違った美しさを日本語に秘めてます。
強いて言うなら“本格”的な(本格ちっく)な日本語、でしょうか。
ミステリ的にいうと、ロジックの美しい日本語、となりますか。

本作はシリーズの3作目にあたるのですが、今回、
青い彼女は出てきません。代わりに、赤いあの人が暴れます。
そんな中をいーちゃんは戯言を駆使して泳いでいくわけです、
半分溺れながら。何に溺れているかというと、たぶん、自分に。
そして今回は、いーちゃんに弟子ができてしまうのですね。
もちろん、いーちゃん本人の許可はなし。その辺の駆け引きが
たまりませんでした。シリーズ中いちばん薄い作品ですが、
私は前作よりも楽しめた気がします(^-^)。


クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子」西尾維新(講談社ノベルス)

「異邦人」西澤保彦

2005年03月25日 | な行の作家
23年前、父は殺された。犯人はまだ分かっていない。
姉の犠牲のもと、今では大学で研究職に就いている「わたし」。
故郷を離れて何年目かの大晦日、「わたし」は飛行機で
故郷を目指したが、着いたところはなんと、父親が殺される
数日前だった! 狂ってしまった人生をやり直すべく、
「わたし」は父が殺されるのを防ぐことができるのか…。

西澤さんならではの、タイムスリップもの。
ストーリーの流れを遮らずに、もれなくSFの設定を
説明してくれるあたり、さすがです(笑)。
もちろん“謎解き”はとっても論理的。
23年前に起きた殺人事件を防ぐ=父親を犯人と会わせない。
ということは、まず、犯人が誰なのかを推理しないと
いけないのです。当然、その時点では犯人ではないんですけど。
そういうところが、変に矛盾してて面白い(笑)。
あ、この矛盾と謎解きはまったく関係ないですからね。

でも、この物語で核となるのは、謎解きではないのです。
そこへ至るまでの過程と、そして主人公のそれからの人生が
大切なんですよね。人と人の絆を感じ、
そして考えさせられる物語でした。


「異邦人」西澤保彦(集英社文庫)

「黒いリボン」仁木悦子

2005年03月07日 | な行の作家
表現とか会話の言葉とかが古いのは仕方がないのだけれど、
内容には古さは感じませんね。全体的に優しさに
溢れているのも、とても仁木さんらしいところ。

ひょんなきっかけで、国近絵美子の家に招かれることに
なった悦子。田園調布の国近家には絵美子と神経質な
2歳半になる息子の直彦、生まれて間もないマユミという
赤ちゃんがいた。しかし、絵美子の夫は直彦にひどく冷たい。
悦子の前でも一悶着あった後、その直彦が誘拐され…。

仁木兄弟のシリーズですね。悦子は音大の2年生。
雄太郎は…何をやってるんでしたっけ(笑)。
大学で植物学を専攻していて、その関係の仕事をしていた
ような気がしますが、本編ではあまり触れられていません。
描かれ方がかわいらしいせいかもしれませんが、
兄・雄太郎は坊主頭の高校生、妹にいたっては中学生
くらいのイメージなんですけど(笑)。それでも、
雄太郎の推理力は冴えていて、事件を案外あっさり(笑)
解決してしまいます。以前読んだ仁木兄妹モノは
「棘のある樹」「猫は知っていた」ですが、それに比べて、
なんだかとても読後感が心地よいのですよねえ。
“兄妹愛”を感じます(^-^)。その一方で、やっぱり
悦子、あんたはでしゃばりすぎだよ(^^;)とも思うのですが。


「黒いリボン」仁木悦子(角川文庫)

「ナイフが町に降ってくる」西澤保彦

2005年02月15日 | な行の作家
理解できない“謎”に直面したとき、思わず時間を止めてしまう男。
しかもその現象は、必ず1人の一般人を巻き込んでしまうという。
…迷惑なヤツだ(笑)。そんな彼・末統一郎に巻き込まれたのは、
女子高生真奈。とにかく、その“謎”を解かない限り、時間は
元には戻らない! なんて理不尽な(笑)。

今回、彼の前に表れたのは、犯人がいないのに刺された男の存在。
巻き込まれた真奈と一緒に謎解きを始めた彼らの前に、
ナイフの刺さった人たちが次々と現れ…。

最初に“んん?”と思ったことが、やっぱり真相でした。
気がつく人は、早い段階で気付くと思われます。
が、途中で気付こうが気付くまいが、彼らが“真相”に
辿り着くまでのプロセスはとても面白いです。
そしてやっぱり本格ですしね(たぶん…)。量も内容も
ほどほどに軽くて、たまにはこういうのもいいかな、と。


「ナイフが町に降ってくる」西澤保彦

「慟哭」貫井徳郎

2004年12月14日 | な行の作家
ちょうどこれを読み始めたころに、
奈良で、小学生の誘拐殺人事件が起こっていました。
タイミングがいいというか、悪いというか。
多少心を痛めつつ、読みました。読み終わると、
“多少心が痛い”どころの騒ぎではありませんでした。

ひと言で言ってしまうと、「慟哭」は、
連続幼女誘拐殺人事件が引き起こす、あまりにも哀しい物語。
幼女の誘拐殺人事件だけでも心が痛いのに、しかも連続で事件は起き、
さらに、それを背景としたもっと痛い物語が語られるわけです。
ストーリーとしては、重たいテーマを扱った重厚な内容なのですが、
でもその展開はとてもパワフルです。
かといって、粗いかというとそうではなく、
ちょっとぶっきらぼうかもしれませんが、それはそれで、
とても登場人物の性格と合っていて、
作品世界の雰囲気づくりに一役買っているように思います。

貫井さん、初めて読んだんですけど、魅力的ですね。
引き続きまた読んでいきたいと思ってます。
が、次はちょっと軽めがいいなあ。
何かおすすめはありますか?


慟哭(創元推理文庫)
貫井徳郎著

出版社 東京創元社
発売日 1999.03
価格  ¥ 756(¥ 720)
ISBN  4488425011

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「雪密室」法月綸太郎

2004年12月08日 | な行の作家
綸太郎のシリーズ(と言ってもいいのでしょうか)第1作。
先に「誰彼(たそがれ)」を読んでしまって、
てっきり私は綸太郎が主人公なのだと思い込んでいたのですが、
本作は、父親であるところの法月警視が主人公。
きっちりかっちり本格であるにも関わらず、
シリーズものということもあるのでしょうが、
法月親子の背景なども楽しめました。

とある人物の招待を受け、信州の山荘へ向かった法月警視。
招待された人たちはお互いをあまり知らず、共通点はただ、
招待主・篠塚真棹の知りあいであるということ。
ぎくしゃくした空気で迎えた初日の夜、離れで美女が殺される。
しかも、降り積もった雪の中、足跡は発見者のものただ1つだけ…。

カーター・ディクスンの「白い僧院の殺人」への
オマージュを込めた作品である、という噂です。
未読なんです「白い僧院の殺人」(^^;)。
先に読んでおいた方が良かったかな、とも思いますが、
未読のままでも、なんら支障はありません。
(ただ、途中でネタを割られてしまうのですが(笑))

鍵のかかった建物と、発見者以外の足跡がない、という雪の密室。
トリックを解説するシーンが面白かったです。
そして、“証拠”をつかむ場面がいちばん衝撃でした。
謎というか、事件はこの1つだけなのですが、
本作には秘密がいっぱい(笑)。そのわりにはスッキリしていて、
「誰彼」と比べるともう、非常にあっさりしています。
シリーズ第1作目という気負いのようなモノもない。
ただ、後への伏線のようなものを感じさせる終わり方でした。
最初に「引き裂かれたエピローグ」を持ってくるというような
構成はなかなか面白かったと思いますよ。
(だからといって、それにはひっかからないんだけれども(笑))


雪密室(講談社文庫)
法月綸太郎〔著〕

出版社 講談社
発売日 1992.03
価格  ¥ 540(¥ 514)
ISBN  406185111X

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「解体諸因」西澤保彦

2004年10月25日 | な行の作家
タックシリーズ第1弾は、連作短編。
なかなかに凝ったつくりで楽しめました。
西澤さんの作品で、いっとう最初に読んだのは
「七回死んだ男」。これも設定からすごく凝っていて、
とても楽しめました。ミステリーでありながら、
“何か”を模索し続けている、というところに引かれます。

第1因の「解体迅速」から最終因の「解体順路」まで、
全9話、すべて切断されたお話。たいていはバラバラ死体
なのですが、中には微笑ましいモノもあったりします。
そのタイトルは「解体守護」。この“守護”という
言葉には、とてもたくさんの意味が込められていたり。
タックってばなんていい人なんでしょ。
とか思った次の瞬間には、すごく冷たい人になっていたり。
なかなか不思議な人物です(笑)。
なんせおやぢだし? えなりかずきだし?
(いや、私的にはそんなイメージではなかったんですけど)

これから先はよく分かりませんが、バラバラ死体という
テーマ以外、ストーリー的に深いテーマはなく、複雑でもなく、
とっかかりとしてはとても読みやすいと思います。

解体諸因(講談社文庫)
西沢保彦〔著〕出版社 講談社発売日 1997.12価格  ¥ 730(¥ 695)ISBN  4062636735bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「クロへの長い道」二階堂黎人

2004年09月21日 | な行の作家
シンちゃん、相変わらずハードボイルド~(笑)。
これって二階堂さん、狙ってるんだよね?
(なんて確認するのは、ちょっと自信がなかったりするから^^;)
ちなみにこちらの前作は「私が捜した少年」
コミック版もあるのよ、これが。
「渋柿信介の事件簿 歯なしの探偵」河内実加・画
(今月23日には2巻も出るようです)

ライセンスを持たない私立探偵・渋柿信介、独身で6歳。
彼の仕事はには、同じ幼稚園に通うクラスメイトから
さまざまな依頼が寄せられる。彼は最近の懐事情を考えて、
依頼料を安くしてでも、仕事を引き受ける…。

果たして、幼稚園児がそこまで考えるのかは疑問ですが(笑)。
まあそれはいいとして。
幼稚園児という制限ありありの中、シンちゃんはちょっとした
ヒントから謎を解いていきます。それは、大人ではなかなか
気付かないような着眼点だったりするんですが、
シンちゃんはあからさまには伝えようとはしません。
それとなーく、大人にそっちに目を向けさせ、さらに、
うまく誘導して、大人が自分で気付いたことにしてあげるんですね。
さりげなく大人をたてるなんて、人生の機微を知ってらっしゃる(笑)。
そういう細かいところがツボなのはもちろん、“謎解き”も
魅力なのがこの作品のポイント。シンちゃん自身はハードボイルドを
気取ってますが、もう、紛れもない名探偵。その論理的な推理には
論理的に推理しないエノさんも脱帽(ここで引き合いに出すか?)。

実際、幼稚園くらいの子供の頭って、すごく柔らかいんですよね。
どうしてそんな発想になるんだ?とか、どうやったらそんなことを
思いつけるの?とか、ホント不思議だらけ。中には、論理的に
推理することができるような子がいてもおかしくないよね。
…なんてことはさすがにないか(^^;)。

「クロへの長い道」二階堂黎人