紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『阿修羅ガール』舞城王太郎

2005年09月27日 | ま行の作家
オンライン書店ビーケーワン:阿修羅ガール阿修羅ガール』舞城王太郎(新潮文庫)


少し前の作品なので、私が好きな“勢い”がまだ存分に感じられます。
もう、読み始めてからすぐに、その勢いに持っていかれるんだよね。
それは、主人公のアイコに思いっ切りリンクしてしまっているから、
でしょうか。リンクしているというか、ピッタリ強引にはめられてしまう
という感じ。それがまた舞城さんの勢いでもあると思うのです。

アイコは金田陽治への想いを抱えて悩んでいた。そうしている間も、
街ではグルグル魔人が暴走し、同級生は誘拐され、子供たちは
アルマゲドンを始めている…。

そんな劇的に環境が変わっても、アイコの心は変わらない。
この、まっすぐなんだけれども、ムボウでムテッポウなところが、
だんだんと、いろんなことを経験していくにつれ、思慮深くなるあたり、
わざとらしくなくていい。作者の思惑通りなんだとは思うのですが(^^;)、
そこにはまっているのも快感、というところが、舞城作品の特長かと。

また、笑えるシーンが満載なのもいいっすね。今、思い出しても笑えるし。
「無理。」、紙面一杯使って大きく2文字(。入れて3文字)、「無理。」。
本人を目の前にしても言い切れてしまう潔さ。さすが(何が)。

『θは遊んでくれたよ』森博嗣

2005年09月22日 | ま行の作家
オンライン書店ビーケーワン:θは遊んでくれたよθは遊んでくれたよ』森博嗣(講談社ノベルス)


Gシリーズ第2作。というか、いつの間に“Gシリーズ”に?
何のGなの。誰か教えて。
(重力のGだったら、なんとなく最後が想像できて面白いけど)

えー。このシリーズ、あまり評判がよろしくない(笑)。
いや、すでにVシリーズから避けている人たちは結構いて、
そういう人は、このシリーズでは決して戻ってくれない(笑)。
ミステリー(謎解き)よりも、キャラクター重視にシフトして
しまったからでしょうね。私はこっちも好きなんですけどね。

飛び降り自殺とされた男性死体の額にあった「θ」の文字。
半月後には、手のひらに同じ「θ」のある女性の死体が。
その後、複数の転落死体から発見された「θ」は、何を意味するのか…。

今回、何が良かったかって、ラヴちゃん(笑)。
S&Mシリーズ後半で登場していた医大生の反町愛は、
N大病院に勤めているのですね。プチ同窓会のような感じですが、
そこに、キャラクターたちの成長ぶりが見られて、
私はとっても嬉しいのです(^-^)。身近な人が事件に巻き込まれる
ことにすっかり慣れてしまった(笑)萌絵は、もう昔のように
パニックになることもなく、逆に、犀川先生は萌絵に関することにだけ
動じるようになってしまっていたりして(笑)。これは意外でしたけど。
そんな中で気になるのは、このシリーズの探偵役であると思われる
海月くんと、その相棒・山吹五月の関係。海月くんがどう発展していって、
それに山吹五月はどう絡んでいくのか、むちゃくちゃ楽しみ(笑)。
あと注目したいのは、大人になった萌絵に加部谷恵美がどう絡むのか。
萌絵×四季のような絡み方を期待しているわけではないのですが、
きっと、加部谷は後半、化けますよ。うん。

このシリーズを読んでいると、事件が起こることが前提で、その上で
日常生活が送られているような錯覚に陥ります(笑)。今回はとくに、
謎(事件)自体、ちょっと拍子抜けするような内容かもしれませんが、
このキャラクターたちの物語との絡み具合は絶妙なんですよ。私感ですが。
だからもう、楽しくて楽しくてしょーがないんだけどなあ。

『あいにくの雨で』麻耶雄嵩

2005年08月04日 | ま行の作家
オンライン書店ビーケーワン:あいにくの雨であいにくの雨で』麻耶雄嵩(講談社文庫)


麻耶流、学園ミステリー。あるいは、学校が舞台となるわけではないので、
青春ミステリーとした方がよいかもしれません。まあ、どっちにしろ
紛れもない麻耶流。麻耶色。麻耶風味。そう。救われない(笑)。

雪に囲まれた廃墟の塔で、高校生の烏兎(うと)と獅子丸、祐今(うこん)の
3人は死体を発見する。現場には塔へ向かった足跡しかなかった…。

ちなみに烏兎の名字は如月です。でも、烏有と関係するのかどうか、
作品の中では一切触れられません。同様に、もちろんメルカトル鮎も
登場せず、同じシリーズとしてくくるなら、番外、ということでしょうか。
とか書いてみましたが、実際は千街さんの解説を読むまでそこら辺、
何も分かっていなかったりします(笑)。もちろん、いろんな作品に関連
する部分もあるんでしょうが、一応事件は解決を見ているので、単品で
楽しめます。最初の方はちょっと文章が読みにくいな、という感想を
持ちましたが、それも物語が進んでいけば気にならなくなりました。

殺人事件に関しては、祐今の身にのみ多大な不幸が注がれます。
それが、麻耶流の重々しい雰囲気で綴られていくので、輪をかけて
不幸な気になります(笑)。とても冷静で思慮深い烏兎と、親友で
頭の切れる獅子丸は、少しでも事件の解決に協力したいの思うのですが、
なかなか思うようにはいきません。この殺人事件に平行して、学校では、
生徒会によって組織された“諜報部”の仕事を引退したはずの2人にしか
できない仕事、というものを引き受けてしまい、多忙な日々を過ごすことに
なるのです。この辺はいかにも学園ミステリーですね。殺人事件なんか
起こさなくても、そっちだけでシリーズになりそうなのに(笑)。

学校の事件も殺人事件も、解決します。しかし問題なのは、その
解決の仕方(笑)。私はこういう雰囲気、とても好きなのですが、
もしかしたら、もやもやが残る方もいらっしゃるかもしれません。
でも、千街さんの解説を読めば、少しはスッキリするかもです。

「捩れ屋敷の利鈍」森博嗣

2005年05月10日 | ま行の作家
薄いし、れんちゃん出てこないし(笑)。なんなら、
萌絵なんかが出てきた日にゃあ!って感じで、ちょっと拍子抜け。
Vシリーズからの出演は、保呂草さんと、かろうじて紅子さん。
あとは、萌絵と国枝先生、電話出演の犀川先生。S&Mシリーズと
Vシリーズがリンクした作品、というよりは、やっぱり
S&Mシリーズの番外編という色が濃かったように思います。
なにせ、ここでとある“秘密”に軽く触れるわけですが、
先に四季4部作を読んでしまった身としては、たった
それだけでは物足りない、物足りない(笑)。
そんな、内容以外のところで文句が出てしまう作品なのです(笑)。

メビウスの帯を3次元化した“捩れ屋敷”の、密室状態の
部屋から死体が発見された。しかも、その屋敷に眠っていたはずの
宝剣“エンジェル・マヌーヴァ”も消えてしまった!

この捩れ屋敷の主と萌絵とが“友人”という設定。
こういう設定は微笑ましくって好き(^-^)。ある一時期を
過ぎてから、萌絵は“鼻につく金持ちのお嬢”から
“かわいらしい女性”に変身したと思いませんか(誰に言ってんだか)。
…もしかしたら、保呂草さんと一緒に登場したからそう見えるだけ
なのかもしれませんが(笑)。どっちが“まし”かという問題なのか(^^;)。

作中に提示される“密室の謎”は、実はもう1つあるのですが、
私はこちらの方が好きですね、大胆で(笑)。こういうときに
思うのです。作中に“お金持ち”を登場させる理由は、こいう
ところにあるのか、と(大笑い)。…こんなことを言うと
元も子もないのですが(^^;)。まあ、お金持ちでなくても、
大胆なトリックを作ることは可能なのでしょうが、お金持ちの
方が無理なく、より奇抜なトリックを作れる、というもの。
その最たるモノが、もしかしたら“館シリーズ”かもしれません。
この場合は、お金持ち+中村青司という組み合わせが重要ですが。
そんなことまで考えさせてくれた意味では、意義のある作品でした(何)。
(Vシリーズに何を求めているのか、という個人的な問題ですね(笑))


捩れ屋敷の利鈍」森博嗣(講談社文庫)

「幻色江戸ごよみ」宮部みゆき

2005年04月27日 | ま行の作家
宮部お得意の“人情モノ”。こよみというだけあって、
町人のさまざまな物語が季節を追って描かれていきます。
しかしながら、どれも切ない。大きな事件が起こるわけでもなく
(たまに起きるけど)、一生懸命生きている町人たちの
取るに足らない話ばかりなのですが、だから余計に切ないねえ。
ああ、もう、どれもこれも、ホントに切ない(^^;)。
でも、「器量のぞみ」と「首吊り御本尊」は心温まりました。

不器量で大女のお信が、評判の美男子に見初められる「器量のぞみ」。
見初められた理由は、もちろん“器量がいいから”。あまりにも
馬鹿にされているとお信は怒りますが、実際会ってみるといい人。
いい人なんだけれども、いや、だからこそお信は心配になって…。

「首吊り御本尊」は、奉公人の神様のお話。
奉公先から逃げ出した捨松は、案の定連れ戻され、しかも後日、
大旦那様に呼ばれることに。身を引き締めて大旦那様と対面した
捨松でしたが、床に伏せっていた大旦那様は思った以上に優しく、
一幅の掛け軸を取りだして、捨松にある話をしてくれます。

全12作のうち、2作しか「ほろり」とする話はなく、
残りは全部切ないのです(うるうる)。とはいっても、
宮部のこと。切ない中にも優しい言葉にあふれ、
後からじわじわ心に染みてくるのですね。
宮部の人情ワールドを堪能したいなら、ぜひに。


幻色江戸ごよみ」宮部みゆき(新潮文庫)

「遠い約束」光原百合

2005年04月20日 | ま行の作家
十八の夏」を読んだきりだった光原さん。BOOK OFFで
たまたま本作を見つけたのはいいのだけれど、表紙を見て、
ちょっと引いてしまいました(^^;)。
創元なのに、どう見ても少女漫画なんだもん(笑)。
(表紙と各作品の扉絵を野間美由紀が描いてます)

浪速大学のミステリ研究会に所属する1年生の吉野桜子は、
初めての合宿で“密室事件”に遭遇!

連作短編という形で、さまざまな謎をミステリ研究会の
面々が論理的な推理で解決していきます。そして最終的に、
桜子が大学入学以前から抱えていた“気掛かりなこと”を、
桜子を大切に想う先輩たちが、解決してくれます。

日常の謎、という部分では光原さんらしいと思うのですが、
なんというか、この人はミステリーを通して少女小説を
書こうとしたのではないかと思ったのです。「十八の夏」は、
ミステリーだけど、美しい純文学寄りの作品だったと
思うんですよね。で、本作は、ミステリーだけど少女小説。
もちろん、ミステリーとしてもとても面白い作品なんですが、
それ以上に、心をかき乱す何かがある。しかも、謎の
使い方がとても上手いので、より心に響くんです。
俄然興味が沸いてきました。
この人の作品を、もっともっと読んでみたいな。


遠い約束」光原百合(創元推理文庫)

「神の手」望月諒子

2005年04月16日 | ま行の作家
電子出版で絶大な支持を得てデビューした、という本作。
全く関係のなかった人や事件が、ある人物を中心に
収束され、劇的な結末を迎える――という構成は、
やっぱり私には“サスペンス”に思えてなりません。

失踪した人物を探す物語は、一般的にハードボイルドという、
と何かで読んだ記憶があるのですが、本作でも、
失踪した作家志望の女性をめぐって、不可解な事件が
起こっていきます。彼女を探す、というよりは、
彼女が“残した香り”を辿っていく、というのが、
ハードボイルドとは違うところ。そして、その結果
出遭う数々の不可解な事件。それが、サスペンス色を
とても濃いものにしていきます。

最近よく思うのですが、私、やっぱり本の読みすぎ
なんでしょうね(笑)。読むほどに筋が見えてくる(^^;)。
事件の詳細やトリックにまでは考えが及びませんが、
だいたい怪しいと思った人物は重大な鍵を握っているし、
ちょっとした表現の違いで、それが伏線であることが
分かるし、半分まで読まずに、結末のおぼろげな形が
見えてきてしまう。逆に言うと、それだけその物語が、
ミステリーとしてはとてもフェアだということなのですが。

本作に関しては、予想を裏切られることなく、
とても素直に結末まで物語りが運んでいきました。
…とこう書くと、面白くなさそうな感じですが(笑)、
さまざまな出来事や事件の絡め方はとても面白かったです。
失踪した女性、というのが、私が思っていたほど
魅惑的ではなくて、現実的だった、というのがちょっとだけ
心残りですが、逆に失踪した人物を男性にして、
女性が彼を探す物語にした方が、この作者には向いている
のかな、とも生意気にもそう思ってしまいました。
というのも、ある事件に関しては女性の目線で進んでいく
のですが、それがいい感じなのですね。ま、あくまでも
私の主観ですが(笑)。

ところで。作中に出てくる作品のタイトルがですね、
「緑色の猿」というのですが…どこかで聞いたことが
ありませんか? そこにもちょっと引っかかった(笑)。


神の手」望月諒子(集英社文庫)

「オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す」三砂ちづる

2005年03月28日 | ま行の作家
“負け犬”という言葉がはやった後、次は“オニババ”だとも
言われたほど、注目されている1冊。タイトルは激しいですが、
内容は、女性にとってとても大切なことばかり。
目から鱗とはよく言ったもので、もっと早くに出会いたかった、
ホントに。そして、できればパートナーにも読んでもらいたい。

日本の昔話によく出てくるオニババとは、社会の中で適切な
役割を与えられなかった独身の更年期女性である、と。
普通なら、嫁に行って子供を生んで育てて、という女としての
道筋が与えられなかった場合、更年期障害に陥ったときに、
普通の女性たちのように、うまく対処できなくなる、という
ことなんじゃないでしょうか。だから、女性の体は子供を産むように
できているのだから、産みなさい。それも、できるだけ
早い方がいいでしょう。早い方が子育てが楽だということも含め、
何かと理に適っているのだから、高齢出産という危険を冒さなくて
すむうちに、産んでおきなさい。とまあ、こういったことを
訴えられているわけです、私のような女性たちに(笑)。
もちろん、私からみるとこれは完全な理想ですよね。
そりゃ私だって、結婚は遅くても子供だけは早くに欲しい、
とか、昔はそんな無茶なことも思ってましたが(笑)、
実際問題、可能か不可能かといったら、不可能な人が多いでしょう。
もうちょっと社会的な制度を整えてほしいと思うし、
こればっかりは女性だけの問題でもないと思うんですけどね。
でも、やっぱり正しいことなんだとは思うのです。


「オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す」三砂ちづる(光文社新書)

「震える岩 霊験お初捕物控」宮部みゆき

2005年03月15日 | ま行の作家
大昔に「かまいたち」(京都の赤い小僧たちではありません(笑)
…いやしかし、誰が分かるというんだ^^;)を読んだときに、
一度だけ面識(?)はあるんです、お初っちゃん。

普通の人にはない不思議な力を持つお初は、南町奉行所の
根岸備前守に気に入られ、よくそこへ通っていた。
ある日、“死人憑き”の噂を聞いたお奉行は、お初にその
調査を任せる。理由も分からないままお奉行に押し付けられた
古沢右京之介とともにお初は調査に出かけるが…。

ちょうどこれを読んでいたころ、「IN・POCKET」
宮部みゆきが特集されておりました。「日暮らし」発行記念と
いうことで、「ぼんくら」と合わせて時代モノのお話。
現代モノでは描きにくくなってしまったことを、時代モノの
中で描いていきたい-といったようなお話でした。
それでいくと、今回は“理不尽”ということでしょうか。
この“理不尽”さに対して、登場人物たちはどのように
対処するのか。お初は、同心の兄は、右京之介は、お奉行は。

“死人憑き”から始まるこれらの事件には、それぞれ
理不尽さがつきまといます。チリも積もればで、山となった
この理不尽さは、こんなに悲しい事件を起こさなければ昇華
できなかったんですよねえ。悲しくて切ない物語ですが、
最後にちゃんと救いを残してくれるのが、また宮部のいいところ。

この物語には2つの特徴があるのですが、まず1つは、
お初っちゃんの不思議な力。実は、お奉行には、
巷にあふれる不思議な話を書き記すという一風変わった趣味があり、
お初の話をよく聞いてくれたんですね。でももちろん
それだけではなく、そこから事件につながることはないかとちゃんと
聞いているし、周囲の理解を得られないお初のことを、
自分の立場でできるだけ助けている、ということなのです。
町人と同心、もしくは岡っ引きがイキイキと活躍するのが
宮部作品。これまた元気すぎるくらい元気でいなければいけない
はずのお初っちゃんの、心の支えとなるのがお奉行なのです。
こんな偉い人は、本来宮部作品にはあまり出てこないのですが、
そこはほれ、変な趣味を持たせたりして(笑)庶民に近付けてある。

そしてもう1つの特徴が、時代モノの中にまた“歴史”を
組み込んであること。舞台は江戸末期なのですが、そこから遡ること100年。
作中からみても“遠い過去”に起こった事件について触れてあります。
まあ、ここがいちばん“理不尽”を感じるところではありますよね。

でも、人はきっと乗り越えられる。

そういえば、どの作品でも宮部は読者にこう語ってくれてますね。
時代モノの方がより心に届きやすいのは、人がありのままで
生きていない、いや生きていけない現代の物語では、
ちゃんと届かないことを知っている、のかもしれませんね。


「震える岩 霊験お初捕物控」宮部みゆき(講談社文庫)

【カバー裏より】
 ふつうの人間にはない不思議な力を持つ「姉妹屋」のお初。南町奉行所の根岸備前守に命じられた優男の古沢右京之介と、深川で騒ぎとなった「死人憑き」を調べ始める。謎を追うお初たちの前に百年前に起きた赤穂浪士討ち入りが……。「捕物帳」にニュー・ヒロイン誕生! 人気作家が贈る時代ミステリーの傑作長編。

「ジャカルタ炎上」松村美香

2005年02月15日 | ま行の作家
1998年のクーデター。いくらテレビで報道されようとも、
私たちにとっては、“どこか遠い国のこと”以外のなにものでもない。
初めてリアルタイムでみた湾岸戦争の映像が、ゲームや映画に
比べて迫力に欠けていた、とそう思ったときからきっと、
“何か”を失ってしまったんじゃないだろうか、と思ったりも
したのだけれど、でも本書を読んで、本当はそんなモノ、
私たち日本人は最初っから持ってなかったんだな、と実感したのでした。

物語の主人公・法子は経営コンサルタントとして
経営の芳しくないジャカルタの大きなホテルへと赴きます。
彼女の胸にあるのはただひとつ、優柔不断な男のこと。
そして、その男の呪縛から逃れられない自分のこと…。
そんな中、学生時代の友人で留学生だったラハルディと再会。
彼女の心は少しずつ、これまでとは違う方向へ向いていきます。

面積は多少違っても、同じ“島国”であると思われるインドネシア。
でも、決定的な違いがあるんですね。それは、インドネシアが
多民族国家である、ということ。おなじ“インドネシア人”でも、
ジャワ人、スンダ人など土着の人たち、そしてマレー人、インド人、
中国人とさまざま(だいたい27種族に大別されるようです)。
同じ国に住む同じ国籍を有する人たちなのに、生活様式は
まったく違うことが当たり前だったりします。

ストーリーとしては、実は苦手な恋愛モノだったりして(笑)。
でも、それ以上のモノがここにはある。彼女の心の揺れや悩みが、
燃えるジャカルタで少しずつ変わっていくところは面白かったです。
そして、現地の人たちにとても感情を動かされました。
ホテルの支配人(ジャワ人)、そのホテルで働く日本人営業マン、
ホテルの要職に就く華人(華僑)、日本に留学していた華僑のラハルディ、
日本料理店の女将とその娘(日本人)など、あのクーデターで、
それぞれが何を考え、どう行動したか、といったところが興味深かった。
基本的には女性のために書かれたような作品ですが、男性もきっと、
思うことがあるんじゃないかと。いろいろ考えさせられますよ。


「ジャカルタ炎上」松村美香

「松本清張傑作短篇コレクション(上中下)」宮部みゆき責任編集

2005年02月14日 | ま行の作家
以前、ビートたけし主演で「張込み」を2時間ドラマで見ました。
ストーリーはあまり憶えてないけど(笑)、それなりに面白かったと記憶してます。
少し前には、中居正広主演の連ドラ「砂の器」を見てましたし。
原作ドラマはよく見てるんですよね。もしかしたら「点と線」とか見てるかも。
でも、実は未読だったのです(まあ、こういう作家って実は多いんですけど^^;)。
いきなり長編に手を出すよりは、やっぱり短編で様子を見たいと思い、
しかも今回は“宮部みゆき責任編集”。彼女が推す作品なら、読んでも
間違いないだろうと思って、ようやく、ホントようやく手に取りました。

松本清張は「或る「小倉日記」伝」で第28回芥川賞を受賞してるんですね。
ミステリーだと、どうしても直木賞を想像しますが。
上巻はこの「或る「小倉日記」伝」から始まります。
それぞれ、カテゴリーごとに宮部が選別(というか選抜)。
この3冊で、さまざまな松本清張が読めます。うーん、お得。

読み始めて最初に思ったのは、どういうところが“社会派”なのか、ということ。
一般的に清張は社会派の代名詞のようにいわれてますが、社会派ミステリー
というのは、清張のどういうところを指していうのか、それが知りたかった。
まあ、それを知るには、代表作(長編)を読むのが早いんでしょうけどね(笑)。
ただ、語り口が硬い。淡々としている。それが新聞記事を読んでいるような
気になりまして、もしかしたらそういう、語り口も含めて社会派なのかな、とか。

いちばん心に残ったのは、中巻の「空白の巨匠」。身につまされます(笑)。
鳥肌立ちます。新聞社の広告部に実際にいた、ということだから、
余計にリアルに感じられるのかも。でも、これもそうですが、
宮部も書いてますけどね、“淡々としたラスト”が清張の特徴でしょうね。
バッサリ斬って余韻を残す方法もあるでしょうし、
逆に、最後まで淡々と語り続けることで心に残ることもありますしね。
最後の1行でゾっとする、という作品は結構あります。

ミステリーはないと思われるのですが「真贋の森」は好きです。
最後に主人公がどうにもしない、というところがまたいい。
淡々としてるんですよ、これも。淡々としているから、なお怖いというのが、
「書道教授」。“便乗”して犯罪を犯すのですが、それが思いもしない
ところから、ひとつずつ綻びていくのを、見ているしかない、という。
それを、抑揚をつけずに描いているところがスゴイ。
淡々としているというと、面白みとは無縁な感じがするんですが、
それが返って面白かったというのが「支払い過ぎた縁談」。
…どれもミステリーではない気がしますが(笑)。

のめり込んで読んだ作品、どうしても入り込めず読み飛ばした作品、
いろいろありましたが、でも、なんとなく“清張さんってこんな人”
というのが少しだけでも分かった気がします。しかも、宮部みゆき
というフィルターを通すことで、より身近に感じられるのも事実。
さらに、というか当然、宮部は、清張初心者になるであろう
若者から、何作も読んでいるコアなファンまで全部を視野に入れて
みんなが楽しめるように編集してるんですね。私なんて、
きっと宮部じゃなかったら読まなかっただろうし(笑)。
そういった意味で、とても門戸の広い短編集だと思います。


「松本清張傑作短篇コレクション(上)(中)(下)」宮部みゆき責任編集

「みんな元気。」舞城王太郎

2005年02月09日 | ま行の作家
とても喜ばしいことだと思うのです、みんな元気でいることは。
前作の“愛”あふれる「好き好き大好き超愛してる。」だって、
目先を変えて愛を考えることができて、良いと思うのです。
でも、私が欲しているのは、どうやら違うようで…。

「煙か土か食い物」の頃に比べると、勢いがなくなりましたか?
もしくは、少し作風が変わったのかもしれません。
否応無しに心に詰め寄られる激しさと、もどかしさと、
高揚感と焦燥感が少し足りない…。もっと欲しい。
読み終えてしまうと、あまり残るモノがないのがとても残念。
美しさを望んでいるわけではないけれど、だからといって、
汚らわしければいいのかというと、そうではない。
ただ、“強烈”であって欲しいのと思うのです。
インパクトの強さではなく、心にキズを残すような強烈さ。
少なくとも、前作は“ai”が残りましたがね、
でも、本作はもっと広くて大きな“愛”を描こうと
したのだと思われるのですが、大きすぎて何も見えない。

自分の心の狭さに愕然としますね(^^;)。


「みんな元気。」舞城王太郎

「ホラー・ドラコニア 少女小説集成[壱]ジェローム神父」マルキ・ド・サド原作、澁澤龍彦訳、会田誠絵

2005年02月08日 | ま行の作家
マルキ・ド・サドは初めてでした。
表紙の絵がヒドいので、中身もさぞやグロいだろうと
期待をしていたのですが、それほどでもなかったなあ(笑)。
以前、澁澤龍彦は何かを読んだことがあるはずなのですが、
それもあまり印象に残らないほど、グロくなかったような気がする。
いちばん惜しいのは、ストーリーと絵が対応してないこと。
絵はとても美しいしのに。ストーリーもせっかく読みやすいのに。
ま、ストーリーも読みやすい分毒が抜けた感じもしますが(笑)。

これは、感覚の問題かもしれないんですけどね。
グロいものなら、ちょっとキツめのBL(ボーイズラブ)とか、
なんなら、岩井志麻子の方がもっとグロかったりしますもの。
昔に「ソドムの市」という映画(サド原作)を見ましたが、
あまりエロくもないし、そんなにグロくもなかったですね。
…私の基準がおかしいのかなあ(^^;)。
いや、そうでもないはず。だって、BL系のサイトでは、
私の感覚と違わないであろうと想像される作品が掲載されてるもの。

まあ確かに。コレをBLや岩井志麻子と並べることが
たぶん間違っているんだろうと思います(笑)。
でも。じゃあ、どの辺に位置するのか、ということも、
私には分からないんですよねえ。やっぱり私ごときが
手を出せる領域ではなかった、ということかもしれません。


「ホラー・ドラコニア 少女小説集成[壱]ジェローム神父」マルキ・ド・サド原作、澁澤龍彦訳、会田誠絵

「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」麻耶雄嵩

2005年01月28日 | ま行の作家
さて、麻耶さんです。発行順に読んでいこうと思って。
とても長くて重たい作品なんですが、楽しく読みました。
この続きが「痾」でしたっけ。入手困難らしいんですよねえ。
多分、ここで振りまかれたやっかいな“謎たち”は、
この続編で解決するはず。と思っているのですが、いかがでしょう。

私にとってのいちばんの謎(というか違和感)は、
やっぱりメルカトル鮎でしょうね(笑)。
なんかだって、場違いなんだもん。

謎多きアイドル真宮和音とともに、通称“和音島”と呼ばれる島で
コミュニティーを築き、1年近くを共に生活していた4人が、20年ぶりに
その島を訪れる。編集長命令でその“同窓会”に同行した烏有と桐璃は、
このミステリアスな孤島で殺人事件に巻き込まれる。

まず。島に到着するまでが長い(笑)。
でも、それにも意味があるのですね。
後半、鳥肌が立ちました。あの部分です。
そこからとっても不思議な世界へと向かうのですねえ。
なんとなくカーを思い浮かべるのは、私だけでしょうか。
でも、最後のアレで全部合理的な説明がつく。。。らしい(^^;)。

ミステリーとしては、ちゃんと謎解きはなされてますよね。
後で知ったんですが、“アンチミステリー”なのですか。
そうですか。そんな感じはしなかったけどなあ。
ま、私は“何でもあり”だったりしますから(笑)。
でも「痾」が読めないのが、無性に悔しい。
地道に古書店で探します。
この雰囲気、結構ハマりました(^-^)。


「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」麻耶雄嵩

「工学部・水柿助教授の日常」森博嗣

2005年01月24日 | ま行の作家
森博嗣はとても好きなのですが、この作品はいかがなものかと(笑)。
や。これも私はとても楽しく読みました。
でも、なんとなくミステリー(少なくとも“森ミステリィ”)を
期待している人にとっては、残念な作品かもしれませんね。

工学部に勤める水柿助教授は、日常のささやかな謎を
2歳年下の奥さん須磨子さんに披露する。
…はずんなんですが、途中からまったくの“日常”になってます(笑)。
気軽に楽しむ分には、とてもいい作品ですよ。
森博嗣を深く理解している方に、とくにオススメします(笑)。


「工学部・水柿助教授の日常」森博嗣