紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「製造迷夢」若竹七海

2005年06月02日 | わ行の作家
警視庁の刑事・一条風太と、サイコメトラー・井伏美瀬の連作短編。
若竹さんの作品で超能力とか出てくるのが、なんとなく意外
でも、よく考えると「サンタクロースのせいにしよう」という前例も
あるし(超能力ではないけれども)、違和感はまったくなかったです。
中身は(ストーリーの進み具合は)とても若竹さんらしく、悪意に
満ちて痛い作品でした。私はそこがとても好きなのです(^-^)。

覚醒剤所持で現行犯逮捕されたミュージシャンとその友人が
自殺を図る。捜査にあたる一条は井伏美瀬と出会うが、彼女は、
物質の残留思念を読み取るサイコメトラーだった…。

1話目「天国の花の香り」で、一条と美瀬は出会うわけですが、
そこから事件にからんで、また、からまなかったりしながら、
2人はお互いを理解し合っていきます。それぞれの話の中で
起こる“事件”はどれも、若竹風味ですが、なんとなく、こういう
終わり方は麻耶雄嵩にも通じるところがあるのかも、という気が
してます。というのも、「あいにくの雨で」(文庫版)の解説に
興味深いことが書いてあったのですね。謎は解かれるけれども、
必ずしもハッピーエンドで終わらないのには理由がある、という
件なのですが。この辺は宮部みゆきなんかにも通じるところがあって、
被害者やその家族、そして加害者の家族たちにとっては、事件が
解決してからの生活の方が大変なんだ、と。そんな風に私は感じた
わけですが。まあ、そんなことは考えなくてもいいんだけど(笑)。

この作品のもう一つの魅力は、事件と平行して一条と美瀬の関係が
描かれていくこと。その描き方もとても面白いのです。


製造迷夢」若竹七海(徳間文庫)

「死んでも治らない 大道寺圭の事件簿」若竹七海

2005年03月14日 | わ行の作家
やはり、若竹は短編がいい。テンポがいい。キレがいい。
そして何より、仕掛けもいい(にっこり)。

大道寺圭は、警察を辞めた後、自分が遭遇したマヌケな
犯罪者をネタにした著書「死んでも治らない」を発行してから、
全国各地で講演に呼ばれるのだけれども、またその行く先々で
“マヌケ”な犯罪に巻き込まれ…。

それが短編になっているのですが、「大道寺圭最後の事件」という
大きな一つの物語の途中にこの短編が挿入されるという、
ちょっと変わった体裁を取っているのですね。しかしこれも、
また若竹さんの“仕掛け”だったりするのがとても嬉しい。
読んでて、だんだんと大道寺のことを好きになっていくのですよ、
たんなる“おっさん”なんですけどね(笑)。
短編の中に、おなじみ葉崎の町も出てくるのですよ(^-^)。
登場人物も少しクロスオーバーしてるしね、そういうのを
見つけるだけで、なんだか嬉しくなりましてか。
そしてまた、続編を予感させるような終わり方もいい感じ。
出るといいなあ、続編。


「死んでも治らない 大道寺圭の事件簿」若竹七海(光文社文庫)

【帯より】
犯罪者の9割はまぬけである。
ブラックな笑い。ほろ苦い結末。
コージー・ハードボイルドの逸品!

【カバー裏より】
 元警察官・大道寺圭は、一冊の本を書いた。警官時代に出会ったおバカな犯罪者たちのエピソードを綴ったもので、題して「死んでも治らない」。それが呼び水になり、さらなるまぬけな犯罪者たちからつきまとわれて……。大道寺は数々の珍事件・怪事件に巻き込まれてゆく。ブラックな笑いとほろ苦い後味。深い余韻を残す、コージー・ハードボイルドの逸品!

「古書店アゼリアの死体」若竹七海

2005年02月28日 | わ行の作家
架空の都市・葉崎市のシリーズは、コージー・ミステリーと
いわれているようです。その定義をあまりよく理解していない
からなのかもしれませんが、あまりコージーな感じは
しないんだけどなあ。もちろん、笑いどころもあるには
あるけど、でも、若竹さんらしく結構シビアなんですよね。

家財道具一式を自分の軽自動車に積み込み、着の身着のまま
辿り着いたのは、葉崎市の海岸。勤め先が倒産し、泊まった
ホテルでは火災に遭い、友人からは怪しげな新興宗教に入るよう
迫られ、やっとの思いで逃げてきたのだ。海に向かって
「バカヤロー!」と叫ぼうとしたそのとき、今度は溺死体を
発見してしまう…。

まあ確かに、ここだけみればコージー・ミステリーだろうな(笑)。
相沢真琴は、葉崎市で運良く古書店「アゼリア」の店番の仕事に
ありつきますが、そこでもまた、さまざまな奇禍に遭うのです。
ここで起こる事件の陰には、葉崎市の名門・前田家が関係しているので、
なかなか捜査もままなりません。が、そこでキーパーソンとなるのが、
アゼリアの店主・前田紅子さん。現前田家当主の叔母にあたる紅子さんは、
大のロマンス小説好き。アゼリアで扱っているのも、ロマンス小説
ばかりで、真琴が店番に抜擢されたのも、ロマンス小説に対する知識と
愛情が認められたからなのでした。しかし、ロマンス小説を読んだことが
ない私には、何が何やら(笑)。ま、それを無視しても、充分楽しめるの
ですが、知っていた方がより楽しめることは間違いないでしょうね。

ストーリーとしては、“まさか”“まさか”の連続。
スピード感といい、ひねりの効いた展開といい、そして
毒を含んだラストといい、若竹さんらしくてとてもよろしい。
しかし、やっぱり若竹さんは短編の方がキレがよくていいなあ、
なんて思ったり(笑)。ただ、紅子さんはとてもいい味を出していて、
例えば、とある作家のとある作品のとある登場人物を思い起こさせます。
とあるデパートの屋上のうどんスタンドの婆ァなのですが(笑)。


「古書店アゼリアの死体」若竹七海(光文社文庫)

「海神(ネプチューン)の晩餐」若竹七海

2004年12月07日 | わ行の作家
近ごろでは、若竹七海=昭和初期の豪華客船。
この図式が成り立ちます(笑)。
大きいなモノから小さなモノまで、“悪意”を描かせたら
5本の指に入るといわれる若竹さんですが、
(私が言っているだけですけど(笑))
この作品に漂うのは、憂い。
登場人物たちのものなのか、もしかしたら、
豪華客船「氷川丸」の憂いなのかもしれません。

タイタニック号の沈没から20年後。資産家の息子・本山高一郎は、
アメリカはシアトルへと向けて旅立つことになっていた。
旅立ちの前日、横浜で偶然出会った級友に押しつけられたのは、
タイタニック号沈没の際に持ちだされたという原稿。
高一郎はそれを携えて豪華客船「氷川丸」へと乗り込むが、
彼の周りでは不思議な出来事が次々と起こり…。

昭和ヒトケタという時代。今を生きる私には想像すらできませんが、
“破滅”へ向かって、加速度を増していた時期ではないでしょうか。
そんな背景を知ってか知らずか、豪華客船の一等という空間では、
普通とは違った時間が流れます。しかし、それはそこを利用する
普通ではない方々にとっては、いかにも普通のことなのですね。
下々のモノの立場に立ったときの、そういった“憂い”、
そして、そんな一等の船客たちにとっても時代の流れというものは
どうしようもないんだ、という“憂い”。
そう。どこを取っても憂いしか残らない時代なんですね。

横浜で乗船する前に、高一郎は3年ぶりに級友と出会いますが、
もうそこから“事件”は始まっています。高一郎が手にした原稿を
巡って、暗号の発見や原稿の紛失、幽霊騒ぎに死体消失まで、
さまざまな出来事が起こります。それには一つずつ、きちんとした
解決がもたらされるわけですが、しかしながら結局、そんなことは
とても些細なことであるということが、最後まで読んで
初めて分かるようになっているのですねえ。奥が深い。
ますます若竹さん、好きになりました(^-^)。


海神(ネプチューン)の晩餐(講談社文庫)
若竹七海〔著〕

出版社 講談社
発売日 2000.01
価格  ¥ 770(¥ 733)
ISBN  4062647508

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「船上にて」若竹七海

2004年10月14日 | わ行の作家
ノンシリーズな短編集。
相変わらず、ぞくぞくする悪意満載です(笑)。
若竹さんの短編は、連作でなら何度か読んだし、
アンソロジーなどに収録されているものも
いくつか読んだのですが、こうやって集まった
短編集は初めてですね。しかも、自選だそうです。
〈時間〉〈タッチアウト〉〈優しい水〉〈手紙嫌い〉
〈黒い水滴〉〈てるてる坊主〉〈かさねことのは〉
〈船上にて〉の8編を収録。

最近知ったのですが、若竹さん、
タイタニックに非常に興味を持っていらっしゃる、と。
「海神の晩餐」なんかがその極みだそうですが(未読なの)、
それにしても、「名探偵は密航中」やら本作やら、
豪華客船モノがお好きなようです(^-^)。

“ナポレオン3歳のときの頭蓋骨”が盗まれた-。
フランス行きの船で知りあった老人は、甥が騒ぐのをしり目に
昔話を始めた。それは、ダイヤの原石が盗まれたという話で…。
                      (〈船上にて〉)

表題作〈船上にて〉は、なんといいますが、
収録作品中、いちばん心に残った作品です。
あの、最後の1行にヤられてしまいました(笑)。
だって、あの方は私の心の師ですもの(何)。
でも、若竹らしい悪意の権化といったら、
手紙嫌いの主人公が必要に迫られ、手紙文例集を手に取る
ところからおかしくなる〈手紙嫌い〉とか、
主人公の女性が幽霊が出る宿に宿泊する
〈てるてる坊主〉なんかじゃないでしょうか。
といいつつ、いろんなサイトを見て回ったのですが、
大方、負けず嫌いの(笑)ストーカーと被害者の攻防(?)
を描いた〈タッチアウト〉を挙げてらっしゃいます。
…感性が違うのか、私が勘違いをしているのか(^^;)。
悪意にこだわらず、若竹らしいといったら
手紙が綴るミステリー〈かさねことのは〉。
〈てるてる坊主〉もそっち寄りかな。
気付くとビルの隙間で寝ていた主人公が、その日の出来事を
思い出していくという〈優しい水〉は、ブラックで楽しい(笑)。

「船上にて」若竹七海

「八月の降霊会」若竹七海

2004年09月06日 | わ行の作家
うってかわって、こちらはホラー。
こちらは葉村晶シリーズではありません。

数人の手元に届いた「降霊会のお知らせ」。
富士山麓に集められたのは、一見何の接点もない人たち。
娯楽の一つとして行われるはずだった“降霊会”だったが…。

カバーの裏には“サスペンスフル本格ミステリー”
とあるんですが、本格かぁ?とか言ってしまいました(笑)。
あのね、ホラーですよこれは。「遺品」に感じが似てるし。
最初はなんだかありがちに思える(笑)。
でも、若竹さんだから“何か”があるはず、と思って
読むんですね。そうすると、ちゃんと“何か”はあるんですが、
…そうくるか(^^;)、という感じ(笑)。
できれば、もう少し救ってほしかったなぁ。

「八月の降霊会」若竹七海

「悪いうさぎ」若竹七海

2004年09月06日 | わ行の作家
葉村晶シリーズ、初の長編です。
長編なんだけれども、事件の数は短編集に劣りません(笑)。
濃いよ~。

前回最後の事件で、フリーの調査員になった葉村晶の元に、
家出中の女子高生ミチルを連れ戻す仕事が舞い込む。
調査会社の面々と現場へ向かった晶だったが、そこで
思わぬケガを負う。その1カ月後、今度はミチルの友人、
美和探しを以来されるが…。

ハッキリ言って、今の晶がこのまま仕事を続けるのは、
非常によろしくないことなのかもしれません。
でも、彼女は仕事を引き受けちゃうんだよね。
きっとそこに自分の存在価値を見出そうと
しているのではないかと勘ぐってみたり(笑)。
ものすごーくイヤな人間が(また)出てくるんです。
そいつと対決(?)しながら、事件も片付けつつ、
みんなの未来を行く末を案じつつ…って、
んなことやってるから体がもたんのやんか(なぜか大阪弁)。

…もうすっかり、身内のような感じです(笑)。
クセになりますよー。
覚悟して、そして楽しんで読んでください(^-^)。

「悪いうさぎ」若竹七海

「依頼人は死んだ」若竹七海

2004年09月06日 | わ行の作家
「プレゼント」で最後、探偵をやっていた葉村晶。
ひとところにはなかなか居着かない性分のはずなのに、
どういうわけか、探偵が合っていた様子。
探偵事務所にいる葉村晶に、次から次へと
さまざまな事件が持ち込まれます。
そして、どれも容赦ないです。
晶が容赦しないんじゃないくて、その方がいいから。
もちろん、意識して調査に手を抜かないんだろうけど、
それがどんな結果をもたらすか、分かっていながら、
敢えてヒドイことをやっているような気がしてしまいます。
でも。それが“真実”だから。

念願の詩集を出版し、順風満帆に思えた婚約者の
突然の自殺。新しく借りた部屋が1人では広すぎる…と、
相場みのりに声をかけられ、居候することになった晶。
いつしか、みのりの婚約者の死の真相に迫ります。

葉村晶って、とてもハードボイルダーです。
女の中の男って感じ(笑)。
かっこ悪いけど、かっこいい。
まさしく、若竹さんのキャラクターだと思います。
読み進むほどに彼女の性格が分かっていって、
だんだんと彼女に惹かれていくんですね。
手を差し伸べたくなるような、放っておけないような、
そんな目が離せないはかなさを持ってるんだけど、
でも、やっぱり芯は強い。憧れるなあ。

「依頼人は死んだ」若竹七海

「プレゼント」若竹七海

2004年09月06日 | わ行の作家
若竹七海って、ハードボイルドがよく似合いませんか。
どんな状況にあっても、キャラクターが
健気に頑張るんですよね。だから返って、
ホラーなんかだとそれが裏目に出るんです(独り言)。

8つの事件にかかわるのは、フリーターの葉村晶(♀)と、
娘に借りたピンクの自転車で現場に乗りつける小林警部補(♂)。
…ありえないだろう、ピンクの女児自転車って(^^;)。
それでも警察官ですか、あなたはっ! って
怒られるよ、そのうち(てか、なんで今まで怒られてないんだ?)。
とはいっても、2人は交互に登場。どれも悲しい事件を、
ハードボイルドに解決します(そんな言葉があるのか)。
短編の連作、といってもいいでしょう。

葉村晶の物語は一人称で進みます。
そして小林警部補のは三人称。
この微妙な違いにもちゃんと意味があるのね。
そういうところも細かく設定してあるってのが、
にくいね(何)。
若竹さんらしく、最初っから悪意全開で(笑)、
終わりまでずーっと痛いです。でも、そこが面白いんだなぁ。

「プレゼント」若竹七海