紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「ゆきの山荘の惨劇 猫探偵正太郎登場」柴田よしき

2005年06月02日 | さ行の作家
アンソロジーで初めて読んだ柴田さんの作品が、この正太郎シリーズの
1作。ちょっと抜けてる(笑)飼い主で作家の桜川ひとみと、正太郎の
かけあい(というか、ひとみは正太郎のことを分かっているつもりでも、
まったく気持ちが通じていないというところ)が面白くて、見つけ出した
のがこれ。このシリーズ、何作も出てるんですね(知らなかったのよ^^;)。

「柚木野山荘」で行われる結婚式に招待された飼い主の桜川ひとみに
一服盛られ(笑)、無理矢理連れてこられた正太郎は、山荘で幼なじみの
サスケと美猫トマシーナと出会う。和やかに見えたその集まりも、新郎の
もとに脅迫状が届いたりと、次第に怪しげな雰囲気に飲み込まれていく。

文字通り“惨劇”が次々と「柚木野(ゆきの)山荘」を襲うわけですが、
(雪に閉ざされた山荘で起こる事件ではないのですね、残念ながら(笑))
なんだかとってもいたたまれないのです、その“想い”が。新郎が新婦を
想う気持ち、新婦が新郎を想う気持ち、そして、正太郎がトマシーナを
想う気もち。どれもとても大切な想いのはずなのに、ちょっとした
行き違いで、それこそが悲劇になってしまうのですね。辛いなあ。

最終的にはいろいろと救われた部分もあるのですが、やはり“真相”を
知ると鳥肌が立ちますよ。痛いし、辛いし、いたたまれない。
そういうところも含めて(笑)、とても好きな作品です(^-^)。


ゆきの山荘の惨劇 猫探偵正太郎登場」柴田よしき(角川文庫)

「空白の起点」笹沢左保

2005年05月30日 | さ行の作家
初・笹沢左保です。なんだか“2時間サスペンスの原作”という
イメージが強い方ですが、読んでみても、そういった雰囲気を
醸しつつ、息をつかせぬ展開でぐいぐいと引き込まれていきます。

大阪出張の帰り、新幹線の中から小梶鮎子は男が真鶴の海岸付近で
突き落とされるの目撃する。東京に着いた鮎子のもとに、その男性が
父であることが知らされる。その父には多額の生命保険がかけられて
いたことから、保険会社の調査員・新田が調査を始め…。

どこか“陰”のある主人公(新田)が事件の真相に迫っていく、その
臨場感がたまりませんね。男女の機微も、なんだかとっても
“大人の香り”がしますですよ(笑)。とはいっても、鮎子は19歳。
新田だって、中年と呼ぶにはまだ早い30代前半ですよ。
なのに、私から見ても“大人の香り”に溢れているなんて。
こういう物語を現代(といっても、そんな昔の作品ではないけどね)に
持ってきたって、こうもサスペンスフルな展開にはならないでしょう。
なんだか時代に合わせて、自分も子供に戻った感覚で読んでました。
ちなみにテーマ曲は「聖母たちのララバイ」だったり(笑)。


空白の起点」笹沢左保(ケイブンシャ文庫)

「シンデレラの罠」セバスチアン・ジャプリゾ

2005年05月19日 | さ行の作家
「私は事件の探偵であり、証人であり、被害者でもあり、
しかも犯人でもあるのです。いったい私は何者でしょう」
この、超有名なフリに誘われて、手に取ってはみたものの、
やっぱりちょっと古いんだよね(^^;)。なかなか読みづらくて、
薄い割には時間がかかりました。求む・新訳。

ある朝目覚めると、私はミイラのように顔に包帯を巻かれて
いました。名前は“ミッキー”。億万長者の相続人。
でも、私には記憶がなくて…。

少し前に、よく似た設定の作品を読んでいたこともあり、
早い段階でネタは割れてしまったのですが、安心して読んでいると
エライ目に遭います(笑)。記憶喪失を扱った話だと、
“私(あなた)は誰?”というのがメインとなるのですが、
本作では、“私はミッキーか、それともドムニカか”の二者択一。
自分のアイデンティティを取り戻そうという、無くしたものを探す
物語ではなく、どちらか一方を選ぶだけで、必然的に
アイデンティティは付いてきます。でも、私だったら、どっちも
選びたくないな(笑)。まあ、そこに彼女が記憶を失うきっかけに
なってしまった事件と、遺産相続の問題が絡んでくるから面白いのです。
しかも、あのショッキングな終わり方といったら!
だから、もう少し読みやすい訳だとより楽しめるのになあ(笑)。
でも、最初の「ミと、ドと、ラという3人の少女がいました」という
始まり方は、とても雰囲気があって、好きです(^-^)。



シンデレラの罠」セバスチアン・ジャプリゾ(創元推理文庫)

「事故係生稲昇太の多感」首藤瓜於

2005年05月18日 | さ行の作家
脳男」から一転、人間くささが妙に心に残る素敵な作品です。

正義感たっぷりで、直情型の交通課巡査・生稲昇太22歳。
彼は、自分の顔がゴツイことを知っていて、愛宕署のマドンナ・
大西碧とはつり合わないという自覚はある。でも、淡い
恋心を抱きながら、事故処理のプロを目指すけれども、
なかなかうまくいかないことばかりで…。

簡単に言ってしまうと、“交通係の日常”といった感じ
でしょうか。でも、そんなに簡単なモノではなく、
大きな事件が起きるわけではないけれども、昇太が扱う
交通事故というものにはいろいろあって、人身、物損、
ひき逃げ、死亡事故…と事故の数だけその背景にある
当事者たちの事情も違うわけで。それを、不器用だけれど
心は熱い昇太の目を通して語られると、ぐっと心に
迫ってくるものがあるのです。

正義感から、不当な者を罰しようとする昇太の前に立ち
はだかるのは、トリックとかアリバイとかではなく、
“警察”という組織だったりします。尊敬する先輩に対して
不満を抱いたり、自分の居場所を見失ったりと、昇太は
“多感”なだけに、さまざまな壁にぶち当たります。
しかも、それをまた不器用に乗り越えていくから、
母性本能をくすぐられるのです(笑)。

連作短編というカタチで、昇太の多感っぷりが披露されている
ように見えて、実はハードボイルドな“刑事モノ”なんですよね。
刑事じゃなくって、事故係なんだけど。そういう意味でも、
今後、昇太がどういう風に成長していくか、見守りたいのです。


事故係生稲昇太の多感」首藤瓜於(講談社文庫)

「御手洗潔の挨拶」島田荘司

2005年04月25日 | さ行の作家
元祖・破天荒な探偵(笑)の、やっぱり破天荒な
4つの物語が収録されています。御手洗の短編は初めてでした。

以前から「数字鍵」はいい、という話は聞いていたのですが、
とてもシリアスな御手洗が拝めます。これまで(とはいっても、
占星術殺人事件」と「斜め屋敷の犯罪」しか読んでないのですが)
とは違った一面、正義感に溢れていたり、とても優しかったり。
最初の方は、やっぱり榎木津を彷彿とさせるのですが
(どっちが先だか^^;)、ちゃんと“推理する”ってところが違う(笑)。
そしてですね、実はここに、御手洗がコーヒーを飲まない理由が書かれて
あるのです。くぅー。切ないねえ(>_<)。

そして何より、短編なのに、トリックが壮大なところが
嬉しいじゃないですか(^-^)。やっぱり御手洗モノは
素晴らしく面白いなあ、と実感したのでした。

あと、最後に「新・御手洗潔の志」という島田さんの文が
載ってまして、ここに、なぜ御手洗作品が映像化されないのか、
ということについて書かれてありました。ひと言で言ってしまえば、
島田さんと製作者側の“日本人観の違い”だそうです。
御手洗潔がああいう態度・行動を取るのは何故か。そこの部分を
きちんと理解した上で映像化してもらえないと、御手洗は、
ただの尊大な人になってしまう。それを避けるために、
きちんと理解してくれる製作者が出てこない限り、OKしない。
というようなことが書かれてありました。納得ですね。
そういうことを踏まえた上で御手洗作品を読んでいくと、
これまでとはまた違った感じ方ができるんじゃないかと思います。


御手洗潔の挨拶」島田荘司(講談社文庫)

「未明の家 建築探偵桜井京介の事件簿」篠田真由美

2005年02月02日 | さ行の作家
初・篠田さん。当然、初・桜井京介なのです。
さすがは女性の篠田さん、女性読者の萌えるツボをよくご存知で(笑)。
美貌の探偵・桜井京介はもちろん、ミステリアスな蒼に萌えますな。
なんというか、助手なのですが、15歳。
薬屋探偵妖綺談でいうところのリザベルみたいな感じです。
蒼くん、キミは一体、普段は何をしているの?
どういう経緯で桜井京介と一緒にいるようになったんですか?
さらに、深春さんと京介との関係も気になるところ。
ストーリーそっちのけでのめりこみました(笑)。

“建築探偵”とは、なんとも館モノにぴったりの探偵ではないですか。
確か、犀川助教授は建築学科でしたね。建築の専門家。
でも、あのシリーズで館モノはあまり印象に残ってないなあ。
で、建築探偵・桜井京介はというと、実は文学部なのですね。
美術史を学ぶ大学院生で、専門は近代日本建築史だそうです。
建築の専門となると、やはり森助教授のようにコンクリートとか、
そもそも土木部だし、構造とか素材とかそっちの方になるんでしょうね。
だから美術史なんだ。建物を芸術として見る。建物にまつわる歴史を見る。
そうすることによって、住む人にも深く関わることができる。
どちらかというと、館シリーズの場合は、館そのものが格になるわけですが、
このシリーズでは、館そのものというよりは、館にまつわる人たちが、
さらには、京介や蒼、深春といったレギュラー陣の人間関係が
格になるんじゃないかと思います(まだ1作しか読んでないんですが(笑))。

桜井京介の所属する研究室に依頼されたのは、閉ざされたパティオのある
別荘「黎明荘」の鑑定。そこではかつて、主が不可解な死を遂げたという。
さっそく京介たちは調査のために出かけるが、その別荘を巡ってまた事件が…。

そこに仕掛けられた“謎”というものが、
見る角度によって変わる万華鏡のような気がしました。
探偵にとっては“謎”であったとしても、
依頼者にとってそれは“呪い”でしかない。
それを、探偵は解いていくだけなのだけれども、
依頼者にとっても呪いが“解かれる”ことになったわけです。
こういう風に書くと京極堂シリーズのような感じに思えますが、
あれは、京極堂が謎を解くと同時に、憑き物も落してやっているのですが、
京介の場合は単に謎を解いただけで、それで呪いも解けてしまった、と。
この物語では、京介と依頼者というのが、対極にいるように感じるんです。
でも、それを蒼という存在がうまくリンクさせているなあ、と思いました。
そんな魅力的な存在なのに、まだまだ謎に包まれているんですよね、蒼って。
これは、続けてシリーズを読まないといけないじゃないか(笑)。
またひとつ、追いかけるシリーズが増えました。


「未明の家 建築探偵桜井京介の事件簿」篠田真由美

「妖魔の森の家」ジョン・ディクスン・カー

2005年01月24日 | さ行の作家
ポアロは大丈夫なのに、なぜH・M卿はダメなのかが謎(笑)。

「妖魔の森の家」「軽率だった夜盗」「ある密室」
「赤いカツラの手がかり」「第三の銃弾」の5編収録。
どれも、“以外な真実”という点で共通していると言えますが、
謎やそのトリックはすべて違う。それが素晴らしいですよね。

お気に入りは「軽率だった夜盗」。フェル博士ものです。
富豪ハント氏の家に集い、ポーカーに興じるのは美術商のロルフ氏と
美術評論家のヘンダーソン氏。1階にあり、大きく窓の取られた
その部屋には、本物の名画が飾られている。そしてその夜、
夜盗が忍び込むのだが、倒された犯人はなんとハント氏!

今振り返ってみても、なぜこれがお気に入りなのか分からない(笑)。
だって、すぐにトリックは分かってしまうし、
フェル博士は初めて読むのでキャラ萌えでもないし、
でも、とてもこの雰囲気が好きなのです。
「妖魔の森の家」のおどろおどろしい雰囲気も嫌いではないのですが、
あれは、その雰囲気と謎とトリックがあまりしっくりこなかった
ような気がします。H・M卿も原因の1つかと(笑)。
もう1つのフェル博士ものは「ある密室」。こっち謎は、
内容はそれほどでもなかったけれども、とても楽しめました。
なんだか自分でもよく分かっていないのですが、
どうやら私はフェル博士が好きなようです(笑)。


「妖魔の森の家」ジョン・ディクスン・カー

「荊の城」サラ・ウォーターズ

2005年01月19日 | さ行の作家
一昨年読んだ「半身」は、ものすごい衝撃でした。
や。筋は案外ありがちなんですよね。でも、そこ(結末)へ
至までの道中と、その末路のギャップがなんともものすごかった。
「半身」がそんな作品だったので、ある意味手を出すのが
怖かったのですが、なんのなんの。「半身」を凌ぐ面白さでした。

舞台は19世紀のイギリスはロンドン。
スウは下町でスリを生業として生活していた。
一緒に住むのは、いかがわしい商売をしている“家族”たち。
そんなスウのもとへ、“紳士”と呼ばれる男性が話を持ち込む。
スウにそれに一枚かんでほしい、というのだ。
迷いつつもその話に乗ったスウは、一路「ブライア城」へ出かける…。

上下2巻、しかも洋モノとあって、苦手意識が先行していたのですが、
気付けばあの世界にどっぷり浸かっている(笑)。
物語にのめり込ませておいて、落す、というのは
「半身」で心得ていたはずなんだけど、想像以上にすごかった。
落されること数度。その度ごとに、余計にのめり込んでいくのですよ。
自分の意志ではなく、作者の意のままに引きずり回されるんですねえ。
なんでこんなに惹かれるんだろう、と考える隙も与えず、
すぐにあっち(物語)の世界に連れて行かれてしまいます。
そして迎えるフィナーレは、とても満足のゆくものでした(^-^)。

でも実は、一歩間違うと嶽本野ばらではないかとか、
いや森奈津子か?とか、そんな感じだったりするのは、内緒です(笑)。


「荊の城(上)」「荊の城(下)」サラ・ウォーターズ

「間取りの手帖」佐藤和歌子

2005年01月06日 | さ行の作家
“ヘンな間取りあります”という張り紙のある不動産屋。
そんな雰囲気の本です(何)。
そもそも間取りというと、何時間眺めていても飽きないもの。
(もしかしたら個人差があるかもしれませんが)
そんな間取りの中から、ヘンなもの、不思議なものだけを
集めた1冊。こんなの反則だってば(笑)。
しかも、それら1つひとつにつけられたコメントが秀逸。
語り口は淡々としてるのですが、ツボにはまって、
思わず吹き出してしまうこと請け合い。
きっと、こんなヘンテコな間取りばかりを集める人だから、
感性も他人とはちょっと違うのです。
所々にちりばめられたコラムは、いまいち(笑)。
これだけはちょっと余計だったかな、と。


間取りの手帖
佐藤和歌子著

出版社 リトル・モア
発売日 2003.04
価格  ¥ 998(¥ 950)
ISBN  489815090X

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「兎の秘密 昔むかしミステリー」佐野洋

2004年10月21日 | さ行の作家
表紙の絵、バニーガールなんですけど、
“兎の秘密”ってそれかいっ。とつっこんでみたり(笑)。
日本の昔ばなしをモチーフにした斬新な短編集、
ということで手に取ってみました。またまた短編です。

なんとなく、赤川次郎に雰囲気が似てる気がします。
軽めで読みやすくて、ウィットに富んでいる、と。
赤川よりも深いところを突いてるし、
物語も少し重みがあるんですけど、
でも、短編だと最後にあまり救わない、
というところが似てる(笑)。
そう考えると、以前読んだ「2(S+T)の物語」も、
納得いかなかった結末がなんだかOKになってしまいます。

昔ばなしの新解釈ときくと、民俗学系を想像しますが、
そうではなく、普通の人が、子供の頃とは違った思考で、
ちょっと目先を変えてもう一度昔ばなしを考えてみる、
といった感じの雰囲気です。そしてそこに事件が絡む。
(絡まないものもあるんですけど)

私の田舎には桃太郎伝説と浦島太郎伝説がありました。
馴染み深い話なだけに、たぶん、一通りの解釈っていうのは
一度は聞いてるんですよね。でも、「亀の正体」は設定と、
過去における解釈に限らないあたり、とても面白かったです。
子供が出てくる「健気なこぶ」は切ない話。ミステリーとして
いちばん楽しめたのは、やはり表題作でしょうか。
でもどれも、そんなに重くなく、読みやすかったです。

兎の秘密(講談社文庫)
佐野 洋出版社 講談社発売日 2004.08.10価格  ¥ 560(¥ 533)ISBN  4062748347bk1で詳しく見る オンライン書店bk1