紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「愚者のエンドロール」米澤穂信

2004年10月07日 | や行の作家
で、「氷菓」
の続編がこれ。
同じく古典部の面々が、文化祭を前にして、
とんでもない依頼を受けるところから始まります。

文化祭に2年F組はビデオ映画で参加しようとするが、
ミステリーとだけ決まった内容の映画は、未完のまま
作業が止まっていた。脚本を担当している生徒が
参加できなくなってしまったのだ。ストーリーは、
廃屋の密室で死体が発見されたところまで。
古典部の4人は、ひょんなことからストーリーの
続き=犯人を“推理”することになり…。

学園モノらしく、文化祭の準備に明け暮れる学校が舞台。
作者自身「ミステリーを遊ぼう」をテーマにした、
というだけあって、作中作を推理するという
ある種日常的なミステリー、お手軽でお遊び的な
ミステリーというような感じが一見します。
が。そこはやはり青春モノ。謎解きに隠された
“若者なりの理由”なんていうのがあったりします(笑)。
さらに、その真実には裏があり、またそれにも
ちゃんと裏があって…と、途中“ん?”と思うところも、
最終的にはきっちり明解にしてくれて、
案外読後はスッキリした気分になりますよ(^-^)。

近々続編が出るようです。
続けて読んでみようと思うほど、楽しめました。

「愚者のエンドロール」米澤穂信

「氷菓」米澤穂信

2004年10月07日 | や行の作家
第5回角川学園小説賞奨励賞受賞ということで、
まるっきり学園モノです、青春モノです。
しかし、ミステリーなんです。
軽い割にはとても楽しく読めました。

何事にも積極的にかかわろうとしない“省エネ”少年・
折木奉太郎、高校1年生。当然のことながら、
帰宅部であろうと思われた彼が入部したのは
古典部だった。初日から“いつの間にか密室になった
教室”に遭遇した奉太郎は、その謎を鮮やかに解き明かす。
そんな縁からなつかれた千反田える、福部里志、
伊原摩耶花ら古典部の面々は、「氷菓」と題された
文集から33年前の真実を探る…。

大きな流れとしては、その「氷菓」の謎を解く、
というのがありますが、その中にいろいろと
小粒な謎と小粋な解決がちりばめられています。
探偵役は、若いのになんだか年寄りくさい(笑)、
折木奉太郎。なんとなく知り合いと
イメージがだぶってしまいました(笑)。

クライマックスとなるのは、「氷菓」の謎が
明かされる部分なのですが、奉太郎の姉・
供恵の言葉にあぜんとします(早よ言えっちゅーねん)。
てか供恵は、身内だからなおさらでしょうが、
奉太郎にとっては存在自体が驚異でしょうね(笑)。
でも、その供恵の存在が物語のスパイスにもなってます。
私的には、諦観した里志の物言いがツボです(^-^)。

「氷菓」米澤穂信

「少年はスワンを目指す」榎田尤利

2004年10月06日 | あ行の作家
「夏の塩」から始まる魚住くんシリーズで
やられまくった榎田さん。それ以降、ボーイズラブ系の
シリーズものは読んだことがなかったのですが、
(あ、「眠る探偵」はBLか。でも1冊しか読んでない。
 そうか、続きが出ていないんだっけ(笑))
単発ものはそこそこ読んでます。
が、魚住くんほどの衝撃はなかなか味わえないですね。
逆に、ファンタジー系の「神を喰らう狼」なんかの方が
私的にはとてもしっくりきたし、満足もできました(^-^)。
(BL系が満足できないといっているわけではない)

で、本作ですが、武骨な男・原が王子系転校生・櫛形に
恋する物語。“王子”というあだ名通り、櫛形は
バレエ経験者。体育館で平均台の上に立っていた、
その姿を見ただけで、原は櫛形に一目ぼれしてしまいます。
それほどまでに美しい櫛形。イラストが添えられているのですが、
それがなくても文章だけで充分その美しさが伝わってくるほどに、
やっぱり榎田さんは言葉のマジックを披露してくれます。
“硬派”で通っている原は実は不器用なだけで、
ホントはとってもおちゃめさん(笑)。王子は見かけと
中身がまったく違い、いや合いすぎているのか(笑)、
超・わがまま。でも、そのふるまいの裏には事情があるわけで…。
武骨で不器用だけど、とても正直な原に、王子も少しずつ
心を開いていきます。その小道具がバレエって、しかも男だけって。
榎田さん、とっても素敵なセンスだと思います(^^;)。

少し前に読んだ「largo」がちとフツー過ぎて(笑)
物足りなかったんだよね。やっぱり榎田さんには、
一クセもふたクセもあるモノを描いてほしいと思います。
で、たまにいろんなところに“ガツン”とくる(笑)
ような作品を読めたらいいな(^-^)。

「少年はスワンを目指す」榎田尤利

「象と耳鳴り」恩田陸

2004年10月05日 | あ行の作家
恩田風本格ミステリーの短編集。
むちゃくちゃ良かったです(^-^)。
これまで恩田さんには苦労させられましたので、
というか、自分で勝手に苦労してきましたので(笑)、
こうやって、手放しで褒められる作品に出会えて、
とっても嬉しい(大袈裟な^^;)。

帯に、「ミステリ界“奇蹟”の一冊」とあるんですね。
「法月綸太郎氏脱帽、西澤保彦氏驚倒」なんて添えられて。
でも、“奇蹟”にはちょっぴり賛成します。

退職刑事・関根多佳雄は、「六番目の小夜子」に登場する
関根秋のお父さん(という説明は本書にはないのですが)。
その多佳雄と息子の春なども登場して、
さまざまな“謎”を鮮やかに解き明かします。

本格、とまでは言えないにしても、謎解きがある
という意味では、立派にミステリー。でも、恩田節(笑)。
12編の短編が収められているのですが、どれも、
短いのにそれぞれに世界が確立されている。
同じ人物が登場していても、雰囲気がそれぞれ違う。
しかも、毎回、登場人物と謎とのかかわり方が
“セクシー”なんですよね(笑)。
登場人物と謎とのかかわり方って、ミステリーにおいて、
というか、物語において、とても大切なことだと思います。
それが恩田さんってば、素敵なんですよね。
素敵で、セクシー。セクシーってのは、
“ちらリズム”でより強調されるじゃないですか。
だから、恩田さんは短編がいいんだと思うわけです(^-^)。

恩田さんってば、読む人をぐいぐいと物語の中に
引き込んでいくんですよね。そのパワーがすごい。
引き込まれてしまった読者は、登場人物と同化してしまうので、
謎が謎のまま置いておかれると消化不良を起こすんです(笑)。
本作の場合、明確な謎解き、というのはほとんどなく、
一応の解答にはたどり着きますが、それが正解かどうかは
分からないまま、というのが多いのですね。
それでも、今までのように悶えることはありませんでした(笑)。
それは、それで登場人物たちが納得してるから。
謎のまま放っておかれていないから。なので私にも読めました。

こういう恩田さんをたくさん読みたいなあ。

「象と耳鳴り」恩田陸

「どんどん橋、落ちた」綾辻行人

2004年10月04日 | あ行の作家
実は綾辻さんの作品、まだ3作目だったり(笑)。
「十角館の殺人」から始まる館シリーズ、
順調にそろっているので、全部そろったら、
「暗黒館」まで一気に読破しようという企み(にやり)。
その前に、こちらを読んでみました。

ミステリ作家・綾辻行人のもとに、さまざまな
謎が持ち込まれる。どれも一筋縄ではいかないもの
ばかりで、それどころか、謎解きを持ち込む人も意外で…。
表題作ほか5つの“犯人当て”作品を収録。

いちばん最初の作品「どんどん橋、落ちた」は
犯人分かっちゃったんですぅ(嬉々)。
こういった“犯人当て”で正解することがなかったので、
もう、それだけで嬉しくって(何)。
もともと綾辻さんの作品を読んでなかったのが
逆に良かったのかもしれませんね。
この作品たちの中から、私は彼の“悩み”のようなものは
それほど感じられませんでしたし、充分楽しみましたもの。

いちばん印象に残ったのは「伊園家の崩壊」。
あの“イソノ家”ですよ(笑)。名前は微妙に
違ってますけど、だからこそ容易に連想できて、
ブラックな面白さがそこはかとなく漂います。
そんな風に遊んでいても、やっぱり謎はかっちり本格。
たまにこういう、切れ味の鋭い本格を読むのっていいですね。
やっぱり私は、本格が好きなんだなと改めて思いました。

「どんどん橋、落ちた」綾辻行人

「四日間の奇蹟」浅倉卓弥

2004年10月01日 | あ行の作家
泣きたくなって(笑)読んでみました。
はい、泣けました(^-^)。
ものすごい勢いで涙が出ます。枕を濡らしながら
読みましたもん(笑)。「セカチュウ」の比じゃない。
泣かせ方はとても上手いと思います。
でも。なんか違うんだよねー(笑)。

老人ホームのホール。舞台では、少女がピアノに向かって、
美しい旋律を紡いでいる。曲が終るごとに起こる拍手は
まばらだけれど、とても心のこもったものだった。
脳に障害を持つ少女・千織と、ピアニストの夢を断たれた
青年・如月。聴いた曲をそのまま再現することができる
千織を連れて、如月は全国各地の小さな舞台を回っていた。
そして、次の会場、山奥の診療所へと向かうが…。

“奇蹟”が起こるまでを読んで、ものすごく
文章がキレイな人だと思いました。だから泣けるんだよね。
苦悩とか苦しみとか、よく伝わってくるんだけど、
心はそれほど痛くない。そういうものまでもが、キレイ。
だからこそ、余計に、自分で思い描いていた“奇蹟”と
違ってしまったことが、残念で仕方ない。
結局、誰のための“奇蹟”だったのか…。
そう考えると、“あの奇蹟”が私には奇蹟には思えなくなる。
“あの奇蹟”は誰が起こしたの?
そういうところをもうちょっと考えるとですね、
自然ともう一人の人物の描き方も変わってくるんじゃないかと。

最終的には望んだような形になっているし、いっぱい泣いたし、
とてもキレイなお話だと思ったし、総合すると
とてもいい作品だった、ということになります(^-^)。
ただ、肝心の“奇蹟”に関して、少し物言いをつけたいだけ(笑)。

電車で読まなくて良かったと思ってます。
あの泣き方は尋常じゃないから(笑)。
私はよく泣くほうではあるけれども、きっと読むと泣きますよ。
泣きたい人は、ぜひに(^-^)。

「四日間の奇蹟」浅倉卓弥