紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『ラッシュライフ』伊坂幸太郎

2005年09月29日 | あ行の作家
オンライン書店ビーケーワン:ラッシュライフラッシュライフ』伊坂幸太郎(新潮文庫)

“謎解き”というよりは、“犯罪小説”といった趣。
オーデュボンの祈り』以来、伊坂さんを読むのは2冊目です。

泥棒を生業とする男は、新たなカモを物色する。
父に自殺された青年は、神に憧れる。
女性カウンセラーは、不倫相手との再婚を企む。
職を失い家族に見捨てられた男は、野良犬を拾う。
そして、幕間には歩くバラバラ死体が…。

何人もの“人生”が絡み合い、そしてその上で“世界”
もしくは“世間”というものが成り立っているんだ、
というようなことを強く意識させられた作品でした。

4人それぞれの物語が並行して語られるのと同時に、
さまざまなところでニアミスだったり交錯してたりするんです。
その“違和感”というか、不思議な感じがたまりません。
なんとなく、北森鴻の作品を思い浮かべたりしましたが、
それらよりも明るい感じで、読者も救われます。

伊坂さんの他の作品のキャラクターたちがクロスオーバー
しているようなんですよね。それは、今後の楽しみのために
取っておくことにします(^-^)。

『三毛猫ホームズの推理』赤川次郎

2005年09月29日 | あ行の作家
★『三毛猫ホームズの推理』赤川次郎(光文社文庫)

久しぶりの赤川さん。本格の名作といえば、これでしょう。
三毛猫ホームズのシリーズは現在も続いており(多分)、
長編・短編合わせて全40冊が刊行されてます。ちなみに、
誕生25年目に発行された40冊目は『三毛猫ホームズの卒業論文』。
(もちろん、未読ですが)

再読のつもりでしたが、すっかり内容は忘れてしまってました。
しかし、もう、何もかもが懐かしくて懐かしくて(笑)。
ちょっと軽い感じのところとか、かと思うと、思いっ切り
シリアスな場面がどどんと出てきたりとか、そして何より、
この密室トリック! とても赤川さんらしいんです。

先日、アリスの『マレー鉄道の謎』に関して、トリックは
御手洗級かも、とか書きましたが、それを遥かに上回ります。
確かに、最初からヒントはいろんなところにちりばめられて
いるのですが、それを拾い集めたところで、あの解答に
行き着くはずがない(笑)。しかし、極めて論理的に謎が
解かれていくあたり、本格ファンも充分楽しめると思います。
さらに、密室殺人以外にも女子大生連続殺人事件とか、売春とか、
複雑に絡み合ったさまざまな事件の謎が解かれていき、最後に
辿り付いた結末(真相)は、想像以上です(抽象的ですいません)。

中学生のころに読み漁り、18歳で入院したときに、あまりにも
暇だったので(笑)、家にあった赤川作品(80冊程度)を2度ほど
読み返したりと、すっかり赤川作品に馴染んでしまったせいだと
思うのですが、“赤川さんだったら、こうだろう”という風に
読んでしまって、トリックも、真犯人も分かってしまったのですね。
(基本的に再読だから当たり前なんだけれども(笑))
それでも、また読みたい。もう、何度でも読みたい。
そう思わせてくれる、私にとって大切な作品の一つなのでした(^-^)。

『M列車(ミステリー・トレイン)で行こう 日本ベストミステリー選集32』日本推理作家協会編

2005年09月28日 | アンソロジー
オンライン書店ビーケーワン:M列車(ミステリー・トレイン)で行こうM列車(ミステリー・トレイン)で行こう 日本ベストミステリー選集32』日本推理作家協会編(光文社文庫)

ミステリー・トレイン、ということで、“旅と街”をテーマにしたアンソロジー。
「幽霊船が消えるまで」柄刀一、「マン島の蒸気鉄道」森博嗣、
「湯煙のごとき事件』山口雅也は読んだことのある作品でした。
「セヴンス・ヘヴン」北森鴻は、テッキとキュータのシリーズもので、
なんだかこれまでの北森さんとはちょっと違った雰囲気を感じました。
が、これも連作短編の中の一つだということで、親本を読んでみたいなあ。
「迷宮に死者は棲む」篠田真由美は、建築探偵の短編。今回は、桜井京介でも、
蒼でもなく、なーんと深春ちゃんが主役。尾道で出あう“迷宮”のお話は、
短編なのにしっかりと“建築探偵”していて面白かったですよ。

ちなみに、その他の収録作品は「悩み多き人生」逢坂剛、
「危険な乗客」折原一、「三たびの女」小杉健治、「逢いびき」篠田節子、
「愛の記憶」高橋克彦、「阿蘇幻死行」西村京太郎、「山魔」森村誠一。

『夜のピクニック』恩田陸

2005年09月28日 | あ行の作家
オンライン書店ビーケーワン:夜のピクニック夜のピクニック』恩田陸(新潮社)


第26回吉川英治文学新人賞、第2回本屋大賞受賞作。
帯に、“ノスタルジックでリリカルで、いつまでも読み
続けていたい作品”と、池上冬樹の言葉がありますが、
まさしくその通り。夜通し80キロもの道のりを、ただ
歩き続けるだけ、という高校生活最大のイベント「歩行祭」。
私の記憶に当てはめるならば、修学旅行といったところでしょうか。
厳密にいうと私の学校は「修学旅行」ではなく、箱根の山奥に
篭もる「合宿」だったので、それほど楽しくはなかった(笑)。
でも、「歩行祭」も“しんどい”イベントではあるわけですよね。
しかしながら、“高校生活最後のイベント”“最大のイベント”となると、
“これだけはしておかなくちゃ”という気持ちになるんです。

甲田貴子もそんな1人でした。前半はクラスメイトたちと歩き、
仮眠を取った後の後半は、仲の良い友人と歩こうと決めていた貴子。
彼女はこの「歩行祭」で一つの賭けをしていたのです。

ノスタルジーの神様などといわれている恩田さんですが、それだけ
じゃないですよね(当然ですが)。確かに、高校生活最後の一大行事を
舞台に繰り広げられる青春物語、といった趣なのですが、
たかだか1泊2日を友人たちと過ごすだけの話が(歩いてはいますが)、
こんなに楽しくて切ないものだとは、想像できないでしょう。
高校生活って、高校時代って、こんなに大切なものだったのか、と、
改めて思い知らされました。もっと大事に過ごせば良かった!(笑)。

ネバーランド』のような“閉じた世界”ではあるのですが、
だからこその魅力。その辺に私は激しくそそられるんだなあ。

『スローグッドバイ』石田衣良

2005年09月27日 | あ行の作家
オンライン書店ビーケーワン:スローグッドバイスローグッドバイ』石田衣良(集英社文庫)


最近、メディアに出まくっている石田さん。私は見たことがないのですが、
女性誌などで「恋愛相談」なんかもやっているそうじゃないですか!
私は『池袋ウエストゲートパーク』の石田さんしか知らなくて、
これもてっきりミステリーだと思って購入したのです。
が。短編の恋愛小説が10編…。恋愛小説ですよ、短編とはいえ。
マコトの恋愛話だってあまり好ましいとは思ってないのに
(私の中で、マコトはフツーに恋愛したりしないキャラなのです(笑))
う゛、そうですかそうですか…。なんて思っていたのですが、
読んでみると、なかなかいける。いや、かなり良いのです(^-^)。

ほんの些細なことが、恋愛においてはとても重要な意味を持つことがある。
そんなことに気付かせてくれる、ハッピーエンドが10作品。
すべてハッピーエンド、ってのも、バッドエンドを好む私にとっては
鬼門ともいうべきもの(大袈裟^^;)だったのですが、もしかしたら逆に、
それがいいのかもしれませんね。読んでいると、必ずといっていいほど、
私はバッドエンドを予測してたりして(笑)。でも、全部裏切られて、
ハッピーではないにしても、全て前向きな終わり方になってます。
そして、それがいいな、純粋に、幸せな方がいいな、なんて
思うようになりましたもんね(年齢のせいか?(笑))。

ちょっと元気がないときに、読んでみるのがいいかもしれません。
絶対に、裏切りません。そういうお話が、心を元気にしてくれるんですね(^-^)。

『阿修羅ガール』舞城王太郎

2005年09月27日 | ま行の作家
オンライン書店ビーケーワン:阿修羅ガール阿修羅ガール』舞城王太郎(新潮文庫)


少し前の作品なので、私が好きな“勢い”がまだ存分に感じられます。
もう、読み始めてからすぐに、その勢いに持っていかれるんだよね。
それは、主人公のアイコに思いっ切りリンクしてしまっているから、
でしょうか。リンクしているというか、ピッタリ強引にはめられてしまう
という感じ。それがまた舞城さんの勢いでもあると思うのです。

アイコは金田陽治への想いを抱えて悩んでいた。そうしている間も、
街ではグルグル魔人が暴走し、同級生は誘拐され、子供たちは
アルマゲドンを始めている…。

そんな劇的に環境が変わっても、アイコの心は変わらない。
この、まっすぐなんだけれども、ムボウでムテッポウなところが、
だんだんと、いろんなことを経験していくにつれ、思慮深くなるあたり、
わざとらしくなくていい。作者の思惑通りなんだとは思うのですが(^^;)、
そこにはまっているのも快感、というところが、舞城作品の特長かと。

また、笑えるシーンが満載なのもいいっすね。今、思い出しても笑えるし。
「無理。」、紙面一杯使って大きく2文字(。入れて3文字)、「無理。」。
本人を目の前にしても言い切れてしまう潔さ。さすが(何が)。

『マレー鉄道の謎』有栖川有栖

2005年09月27日 | あ行の作家
オンライン書店ビーケーワン:マレー鉄道の謎マレー鉄道の謎』有栖川有栖(講談社文庫)


久しぶりの火村センセ!(笑)、いや、国名シリーズ!
今度は長編です。長編の火村センセも久しぶりなのです。

カバー裏にあらすじが書いてあるのですが、今回のあれは
ちょっといただけない。終盤にならないと出てこない事柄が
書かれてあるので、読みながら「あれ? まだ出てこない」と、
気にしながら読んでしまうのですね。それが残念。
まあでも、私にそんなことは関係なく、最初っから最後まで、
たっぷり火村センセを堪能させていただきました(^-^)。

内容に関してはですね、一言で言うならば、トリックは御手洗級?(笑)。
今回、火村センセとアリスは、大学時代の友人でマレー人の大龍(タイロン)に
誘われて、マレーの楽園、キャメロン・ハイランドを訪れます。
そこで事件に巻き込まれるわけですが、前半は、ゆーったり旅を楽しんでます。
しかも2人っきりで!(笑)。もう、読みながらヨダレが出ます(嘘)。

何がいいんだろうなあ。改めて考えてみると、火村センセのどこに惹かれるのか、
自分でもよく分かってなかったりします。ただ、火村センセにはアリスが
欠かせない。口を開くと、どんなに深刻な場面でもほんわかさせてしまう
アリスですが(笑/だから最後の謎解きのときには口を開かないのでは?)、
そういった不思議な優しさ・柔らかさが、頑なになりがちな火村センセの心を
いい具合に解きほぐしたりするんでしょうね。随分身勝手な解釈ですが(笑)。
そういうアリスがいつも必ず側にいてくれることを知っているから、
火村センセだって、“悪”と、そして“心の闇”と戦うことができる…。
そんな気がします(^-^)。まあ、本格ファンにとっては、この2人の関係、
2人の掛け合い漫才(笑)は、おまけでしかないのでしょうが、私にとっては、
最後の最後にならないと解かれない謎の方がおまけだったりして!(暴言!)。
まあ、このシリーズに関してはとくにそうかもしれません(にっこり)。

『θは遊んでくれたよ』森博嗣

2005年09月22日 | ま行の作家
オンライン書店ビーケーワン:θは遊んでくれたよθは遊んでくれたよ』森博嗣(講談社ノベルス)


Gシリーズ第2作。というか、いつの間に“Gシリーズ”に?
何のGなの。誰か教えて。
(重力のGだったら、なんとなく最後が想像できて面白いけど)

えー。このシリーズ、あまり評判がよろしくない(笑)。
いや、すでにVシリーズから避けている人たちは結構いて、
そういう人は、このシリーズでは決して戻ってくれない(笑)。
ミステリー(謎解き)よりも、キャラクター重視にシフトして
しまったからでしょうね。私はこっちも好きなんですけどね。

飛び降り自殺とされた男性死体の額にあった「θ」の文字。
半月後には、手のひらに同じ「θ」のある女性の死体が。
その後、複数の転落死体から発見された「θ」は、何を意味するのか…。

今回、何が良かったかって、ラヴちゃん(笑)。
S&Mシリーズ後半で登場していた医大生の反町愛は、
N大病院に勤めているのですね。プチ同窓会のような感じですが、
そこに、キャラクターたちの成長ぶりが見られて、
私はとっても嬉しいのです(^-^)。身近な人が事件に巻き込まれる
ことにすっかり慣れてしまった(笑)萌絵は、もう昔のように
パニックになることもなく、逆に、犀川先生は萌絵に関することにだけ
動じるようになってしまっていたりして(笑)。これは意外でしたけど。
そんな中で気になるのは、このシリーズの探偵役であると思われる
海月くんと、その相棒・山吹五月の関係。海月くんがどう発展していって、
それに山吹五月はどう絡んでいくのか、むちゃくちゃ楽しみ(笑)。
あと注目したいのは、大人になった萌絵に加部谷恵美がどう絡むのか。
萌絵×四季のような絡み方を期待しているわけではないのですが、
きっと、加部谷は後半、化けますよ。うん。

このシリーズを読んでいると、事件が起こることが前提で、その上で
日常生活が送られているような錯覚に陥ります(笑)。今回はとくに、
謎(事件)自体、ちょっと拍子抜けするような内容かもしれませんが、
このキャラクターたちの物語との絡み具合は絶妙なんですよ。私感ですが。
だからもう、楽しくて楽しくてしょーがないんだけどなあ。

『倒錯の帰結』折原一

2005年09月22日 | あ行の作家
オンライン書店ビーケーワン:倒錯の帰結倒錯の帰結』折原一(講談社文庫)


真ん中に袋とじがあって、表紙から読み進む「首吊り島」、
巻末の解説前から始まって、上下逆さまにして読む「監禁者」、
この2作を読んだ後に、いよいよ袋とじの「倒錯の帰結」を
開くわけなのです。本作で“倒錯3部作”が完結ということで、
凝ったつくりになっているなー、なんて思いながら読みました。

冒頭、推理作家の山本安男と、201号室の清水真弓が出てくる
あたり、にやり、としましたが、おおかたこの状態で進めます。
…倒錯の“折原ワールド”にすっかり馴染んでしまったのかも
しれないのですが(笑)。最後は、

なるほど、こういう風に終わるのか(にんまり)。

これまでのような驚愕はなかったかもしれませんが、
これはこの世界を存分に堪能するための作品だと
言いきってしまってもいいでしょう(ホントか?)。
山本安男によるあとがきが面白いです、遊んでて(笑)。