紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『剣が“謎”を斬る 時代ミステリー傑作選』ミステリー文学資料館編

2005年07月05日 | アンソロジー
「幻の探偵雑誌」「甦る推理雑誌」に続くミステリー文学資料館の新しい
企画「名作で読む推理小説史」シリーズ第1回配本として登場したのが
本作。捕物帳ではない時代ミステリーのアンソロジー。ミステリーファン、
時代小説ファンのどっちも取り込める、よい企画だと思います(笑)。

収録されているのは山本周五郎や松本清張、池波正太郎、宮部みゆきと
いった錚々たる面々。個人的には、松本清張が時代モノを書いていたのを
知らなかったので、新鮮な気持ちで読みました。「いびき」という作品ですが、
オチが利いてて良かったです(笑)。初っぱなの「変身術」岡田鯱彦は、
思わず「バカミスなのかっ!?」と叫んでしまいましたが(^^;)。

「怪異投込寺」山田風太郎は、ものすごく好きな作品です。廓で死人が出る
数日前に必ず現れる鴉爺い、美貌と聡明さで男を魅惑する花魁・薫、そして
偶然かの地を訪れた大画人…。一見どれも関わりなさそうな人物たちが
織りなす物語。ぜひともこのシリーズを読みたいと思いました。

多岐川恭は『変人島風物誌』しか読んだことがないのですが、収録されていた
「雪の下 源実朝」は、ミステリーといえばミステリーだけれども、
なんだかとても文学ちっくで、キレイなお話でした。それがちょっと意外(笑)。

「前髪の惣三郎」司馬遼太郎は、私的にはとても意外なお話でした。
新選組血風録』の1編なのですが、あの幕末の志士たちの間で起こる
“嫉妬”に絡んだ出来事。まあ、考えてもみればありな話なのですが、
なんだかこういうところから出てくると、なんとも面食らいます(^^;)。
映画「御法度」は見てないのですが、これが原作だったのですねえ。
知らなかったのですが、納得です(笑)。実は『新選組血風録』は
積んであるので、そろそろ読んでもいいころだなあ、と(笑)。

宮部みゆきは、先日読んだ『幻色江戸ごよみ』収録の「だるま猫」でした。
短編集の中で読むのと、アンソロジーの中で読むのとでは、感じることも
違ってくるから不思議です。短編集の中で読んだときには取り立てて
感じることもなかったのですが(笑)、こうやってさまざまな作家の
作品と一緒に並べられると、宮部の魅力が際立つんですね。前回は
感じられなかった恐怖をくみ取ることが出来ました。

今回が第1回目の配本ということなのですが、新旧織り交ぜて紹介する、
ということなので、とても楽しみなのです(^-^)。


剣が“謎”を斬る 時代ミステリー傑作選』ミステリー文学資料館編(光文社文庫)

『そして夜は甦る』原りょう

2005年07月05日 | は行の作家
初・原りょう。ものすごく楽しみました(^-^)。
ハードボイルドが、これほどまで“オンナゴコロ”をくすぐるもの
だとは知りませんでした(笑)。読み方を間違えていたっていい。
楽しめれば、それで満足(^-^)。

孤独な私立探偵と失踪事件。それが、ハードボイルドの条件だそうです(笑)。
沢崎は、渡辺探偵事務所の1人きりの探偵。そこへ、ある男が訪ねて来る
ところからこの長い物語は始まります。その男の依頼とも呼べない話は
分からないことだらけなのですが、沢崎が気にし始めるのと同時に、
その男が話した行方不明の男性“ルポライターの佐伯”の話を違うところで
再び聞くことになるのです。そこで、沢崎は事件を感じたのか、因縁を
感じたのか、それとも運命を感じたのか…。佐伯の妻から正式に依頼された
ことにより、沢崎は佐伯の行方を探し始めます。

私が読んだ作品の中でハードボイルドといえば、レイモンド・チャンドラーの
長いお別れ』。私立探偵のマーロウが、淡々と事件をこなしていく、という
イメージがあります。多分、ハードボイルドというのはそんな感じなんだろう
と想像していたのですが、本書は、私のイメージよりも随分マイルドな感じ。
徐々に真実に辿り着きつつあるのは分かるのだけれども、新たな真実が
判明するたびに、状況は二転三転…。本来ならこういうときに感じるべき
“どきどき感”が、沢崎の目を通して見ることによって、冷静になっちゃって、
なんというか逆にわくわくするんです。私はとくに、感情移入して読む
タイプなので、主人公といっしょにどきどきしたり、ハラハラしたりするんですが、
今回は傍観者でいられた。だから余計に感じる面白み、というものも発見できた
んじゃないかと思います。私のツボにはまる“小ネタ”も満載だったし(笑)。
何かと縁のある新宿署の錦織警部との掛け合いがもうたまらなくいいんですよ。
一見、ギリギリのところでやり取りしているように思えて、本当は信頼で
結ばれているんだろうな、と思える“男と男の友情”みたいなものとか、
もうバリバリのハードボイルドなんだけれども、沢崎がまた、計算ずくで
すっとぼけたことをしたりするから笑える。それに躍らされている錦織だって、
分かって踊っているからいい。こういうところが、女心をくすぐるんです(笑)。

レイモンド・チャンドラーに捧げた作品だそうですが、1作しか読んでない
私でも充分楽しめましたし、この作品からハードボイルドに入っていくのも
幸せかもしれません。沢崎が登場する作品はまだあるようなので、
引き続き読んでいきたいと思いました。


そして夜は甦る』原りょう(ハヤカワ文庫)