紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『トリック狂殺人事件』吉村達也

2005年06月14日 | や行の作家
最初っから、ドラマ化を狙った作品だったそうで(あとがきにあります)、
なかなか派手な演出が面白かったです。ヘタすると、とんでも系ですが(笑)。

警視庁捜査一課の刑事・烏丸ひとみは、一刑事でしかないのに、
自分の魅力を最大限に発揮して、警部を手玉にとってしまう人物(笑)。
同僚のフレデリック・ニューマン刑事は、碧眼・金髪の日本人…。
そんなユニークなキャラクターがそろう中、物語は軽めのタッチでは
あるものの、壮大な展開を見せてくれます。

ひとみのもとに“トリック卿”と名乗る人物から招待状が届く。
雪深い山奥の「うそつき山荘」という場所へ、6人のうそつきな男女と
ひとみを呼んで、ゲームを始めようというのだ。そこで出されるクイズ
全てに正解すると、賞金はなんと6億円! 胡散臭さを感じつつも、
ひろみは休暇を取って出かけるが…。

雪の山荘です。吹雪でもないのに、閉じ込められます。
この辺りが“トリック狂”です。あまりにも壮大すぎます(^^;)。
でも、久しぶりの「雪の山荘」。1人、また1人と殺されていくという
シチュエーションだけで楽しめてしまいました(笑)。
大きな仕掛けだけではなく、一つひとつの殺人もなかなか凝っていて、
飽きさせません。ただ、最後は笑っちゃいましたが(いやだって、
あまりにもドラマティックなんだもん(^^;))。


トリック狂殺人事件』吉村達也(角川文庫)

「陰陽師 龍笛ノ巻」夢枕獏

2005年05月25日 | や行の作家
厳密にいうと、これだってミステリーではないですけどね(^^;)。
扱っているものは“あやかし”だから、一概に美しいとは言えないの
ですが、どことなくはんなりとして、しかも雅びやかな雰囲気が
作中にずーっと漂っているわけです。安倍晴明も源博雅も、そして
今回から出てきた賀茂保憲も、なかなかいい“漢”なんですよね。
しかも本作では、起こる事件にあまり凄惨さや哀しさ、侘びしさを
感じなかったんですよね(麻痺している、とも言う(笑))。
だから余計に、晴明と博雅の良い関係が、うらやましくなるくらい
実感でしました。そして、晴明の家の庭の風景も。季節の移ろいを
目で感じ(実際には活字ですけど)、博雅の心で感じられる、
というのが、この作品の醍醐味の一つでもあるんじゃないかな。
なんとなく、賀茂保憲はこれからも出てきそうな気がするんです。
というか、出てきてほしいなあ。晴明ほど浮世離れしているわけでは
なく、かといって、博雅ほど逞しいわけでも雅なわけでもないんですが、
その俗っぽさが、逆にこの2人の間に入ると魅力的です。
よい漢3人か醸す、よい風情に、ぜひ酔ってみてください(^-^)。


陰陽師 竜笛ノ巻」夢枕獏(文春文庫)

春期限定いちごタルト事件」米澤穂信

2005年04月01日 | や行の作家
なんだかとっても青春している(笑)ほのぼの日常系ミステリー。
しかしながら、全体を通して漂う雰囲気は“無気力”(笑)。
まあ、それにも理由があるわけなのですが、でも、この作者、
こういった無気力系の主人公がお得意なのでしょうか(笑)。

同じ高校に入学した小鳩くんと小山内さん。付き合っている
わけではないけれども、この2人はある目的のため、
学校の中ではできるだけ行動を共にする。
その目的とは、“清く慎ましい小市民”になること。
なのに、事件の方から2人の側へやって来て…。

名探偵になんてなりたくない小鳩くん。過去、
思い上がってたいへんな失敗をした結果、高校入学を機に
“小市民”を目指すことにしたのです。その同士が小山内さん。
お互いがお互いの逃げる理由にしていい、という約束を結び、
できるだけ目立たないように高校生活を送っているのですが、
やっぱり小鳩くんは“謎”から逃れられないようで、
結局いつも、何かと理由をつけては事件解決に協力しています。
推理の過程はとても論理的。でも、解く謎は日常のささいな
出来事ばかり。このギャップも面白いところ。

最近気付いたのですが、20代の作家さんの文章って、面白い。
決して読みやすいわけではなく、何度も読み返して、
理解するのに多少時間を要するのですが、一旦全部理解してしまうと
とてつもなく面白い。例えば、北村薫という人は、とても
美しい日本語を使います。日本語の美しさ、繊細さをとてもよく
分かっていて、きちんと使いこなしている方なのですね。
一方、米澤穂信や西尾維新といった20代の作家さんたちは、
日本語の面白さを知っていて、一見遊んでいるように見えるけれども、
実際は器用に、いろんな言葉の組み合わせを見せてくれるわけです。
(…分かっていただけているでしょうか^^;)
そういう、本筋とは違ったところでの楽しみ方ができるんですね。
うーん、お得(笑)。


「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信(創元推理文庫)

「もっと、生きたい…」Yoshi

2005年03月28日 | や行の作家
仕事でなければ、決して手にしなかった1冊。
当初“ケータイ小説”という形で発表され、
あの「Deep Love」をも凌ぐアクセス数を誇ったという作品。
「Deep Love」は読んでないし、そんなにそそられる
ような感じでもなかったのですが、この手のモノも、
いろんな意味で一度読んでおくべきだと思いました。

作者のYoshiという方、“本を読まない人たちの
ミリオンセラー作家”と呼ばれていますが、文字通り
そうなんだろうと納得できます。というのも、この作品には
“文学”の香りがまったくしない。ただ、事実を羅列している
だけ、感情の説明をしているだけ。そして最後に、作者は
メッセージを押し付けているのですね。これはいただけない。
だって読む方は、何も感じることなく、ただ、そこにあるものを
そのまま受け取るだけ。これは読書ではありえない。
これが売れているということは、何も考えない方が好まれている、
ということになりはしないでしょうかね。そこがいちばん怖い。

内容にちょっと触れておきましょうか。
携帯電話に不思議なメールが届いた後、その人の体の一部が
消失する、という奇怪な事件が頻繁に起こります。目、耳、口…、
どれも鋭利な刃物でスパっと切られたような、キレイな切り口で、
しかもなくした本人は、まったく気付かないという。
その最初の被害者の妹が、かつての姉の恋人である天才プログラマと
ともに、その事件の謎に迫るが…というような、こうやって
書いてみるとミステリーっぽくはあるんだけれども、謎解きは
されないので、やっぱりホラーになるのでしょうか。でもね、
あの結末では漫画にもならない(笑)。ひと言言うなら、
そんな簡単なもんなじゃないよ、“思い”ってのは。ってことか。


「もっと、生きたい…」Yoshi(スターツ出版)

「本陣殺人事件-金田一耕助ファイル2」横溝正史

2005年03月24日 | や行の作家
実は横溝、これが2冊目だったりします(笑)。いずれも金田一です。
横溝正史というと、おどろおどろしいイメージがあったのですが、
金田一って、とてもユニークな人ですよね。元祖、ぶっとび系の
探偵だと思いませんか(笑)。とても面白く、楽しく読みました。

岡山の農村に佇む宿場本陣の旧家、一柳家。当主の婚礼が
行われた夜、寝室としていた離れ座敷からただごとならぬ
悲鳴と、そして琴の音が響き渡った。そこには、血塗れになった
新郎新婦が…。しかしその離れは、一面に降り積もった雪のせいで、
完全な“密室”となっていたのだった…。

あまりにも有名ですが、幸い私はネタバレされていませんでした。
ただひと言でいうならば、“壮絶”ということでしょうか。
密室である限り、何らかのトリックが必要になってくるのですが、
それを仕掛け、実行に移したその裏にあるモノが凄い。
ひとかたならぬ執念を感じるのですが、いかがでしょう。
この“執念”がきっと、作品全体をおどろおどろしい雰囲気に
しているのかもしれません。というより、金田一作品に関しては、
岡山が舞台になっていますが、そこがすでに閉じられた世界だとかを
イメージさせるんですよね、華やかさからは遠いじゃないですか。
それに加え、犯罪に関わる“執念”が、作品のイメージを決めるのかな、と。
逆に、金田一自身はとても明るく、突拍子もない性格をしてますし(笑)、
横溝だって、暗い雰囲気の文章を書いているわけではないですしね。
犯行(犯罪)自体がおぞましい、というのはあるかもしれません。
が、それもすべて“執念”のなせるわざである、と思うのです。

角川文庫のこのシリーズでは、「本陣」のほかに、
「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」が収録されておりました。
「車井戸」は、なんとなくアレとネタがかぶるのではないかと
思っているのですが、いかがでしょう。「黒猫亭」の方は、
なんだかわくわくしながら読みました(笑)。楽しかったですよ。


「本陣殺人事件-金田一耕助ファイル2」横溝正史(角川文庫)

【カバー裏より】
 江戸時代からの宿場本陣の旧家、一柳家。その婚礼の夜に響き渡った、ただならぬ人の悲鳴と琴の音。離れ座敷では新郎新婦が血まみれになって、惨殺されていた。枕元には、家宝の名琴と三本指の血痕のついた金屏風が残され、一面に降り積もった雪は、離れ座敷を完全な密室にしていた……。アメリカから帰国した金田一耕助の、初登場作品となる表題作ほか、「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の2編を収録。

「刹那に似てせつなく」唯川恵

2005年01月14日 | や行の作家
ハードボイルドとサスペンスの違いを思い知った1冊(何)。

年齢の離れた2人の女性が、ある出来事をきっかけに
ともに逃亡する、というストーリー。
42歳の並木響子と19歳の道田ユミ。
年齢が違えば、性格も過去も背負っているものも
何もかもが違いすぎる2人の逃避行。

ここまで2人が違ってしまうと、なかなか面白いものです。
接点といえば、あの“出来事”に関係したことだけ。
それ以外の共通点となると、やはり“女性”というところでしょうか。
なんだかねえ、こういった作りのものは最近、
先が読めるようになりました(いいんだか悪いんだか^^;)。
で、たいてい予想通りにコトは運びます。
そういうところがサスペンスタッチだなあと思いました。

しかし、そうやって読んでいるとですね、唐突に終わります(笑)。
や、全然唐突じゃないんですけど。
なんというか、だいたいのところを予測して読んでいるわけですよ。
そんな中でいちばん期待するのって、ラストシーンじゃないですか。
ところがですね、ここから盛り上がるんだよね?
と思っていたところで終わってしまいました(笑)。
すんごい肩透かし。とういか、もどかしいんですけど。
あれから彼女たちはどうなるんですかっ。彼は? 彼と彼女は?
余韻を持って終わらせるというよりは、潔すぎます、唯川さん(^^;)。

と私は思ったのですが、読んだ方の感想を聞いてみたいなあ。


刹那に似てせつなく(光文社文庫)
唯川恵著

出版社 光文社
発売日 2004.01
価格  ¥ 540(¥ 514)
ISBN  4334736130

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「愚者のエンドロール」米澤穂信

2004年10月07日 | や行の作家
で、「氷菓」
の続編がこれ。
同じく古典部の面々が、文化祭を前にして、
とんでもない依頼を受けるところから始まります。

文化祭に2年F組はビデオ映画で参加しようとするが、
ミステリーとだけ決まった内容の映画は、未完のまま
作業が止まっていた。脚本を担当している生徒が
参加できなくなってしまったのだ。ストーリーは、
廃屋の密室で死体が発見されたところまで。
古典部の4人は、ひょんなことからストーリーの
続き=犯人を“推理”することになり…。

学園モノらしく、文化祭の準備に明け暮れる学校が舞台。
作者自身「ミステリーを遊ぼう」をテーマにした、
というだけあって、作中作を推理するという
ある種日常的なミステリー、お手軽でお遊び的な
ミステリーというような感じが一見します。
が。そこはやはり青春モノ。謎解きに隠された
“若者なりの理由”なんていうのがあったりします(笑)。
さらに、その真実には裏があり、またそれにも
ちゃんと裏があって…と、途中“ん?”と思うところも、
最終的にはきっちり明解にしてくれて、
案外読後はスッキリした気分になりますよ(^-^)。

近々続編が出るようです。
続けて読んでみようと思うほど、楽しめました。

「愚者のエンドロール」米澤穂信

「氷菓」米澤穂信

2004年10月07日 | や行の作家
第5回角川学園小説賞奨励賞受賞ということで、
まるっきり学園モノです、青春モノです。
しかし、ミステリーなんです。
軽い割にはとても楽しく読めました。

何事にも積極的にかかわろうとしない“省エネ”少年・
折木奉太郎、高校1年生。当然のことながら、
帰宅部であろうと思われた彼が入部したのは
古典部だった。初日から“いつの間にか密室になった
教室”に遭遇した奉太郎は、その謎を鮮やかに解き明かす。
そんな縁からなつかれた千反田える、福部里志、
伊原摩耶花ら古典部の面々は、「氷菓」と題された
文集から33年前の真実を探る…。

大きな流れとしては、その「氷菓」の謎を解く、
というのがありますが、その中にいろいろと
小粒な謎と小粋な解決がちりばめられています。
探偵役は、若いのになんだか年寄りくさい(笑)、
折木奉太郎。なんとなく知り合いと
イメージがだぶってしまいました(笑)。

クライマックスとなるのは、「氷菓」の謎が
明かされる部分なのですが、奉太郎の姉・
供恵の言葉にあぜんとします(早よ言えっちゅーねん)。
てか供恵は、身内だからなおさらでしょうが、
奉太郎にとっては存在自体が驚異でしょうね(笑)。
でも、その供恵の存在が物語のスパイスにもなってます。
私的には、諦観した里志の物言いがツボです(^-^)。

「氷菓」米澤穂信

「ものいふ髑髏」夢枕獏

2004年09月29日 | や行の作家
岩井志麻子の後に読むと、あまりに拍子抜けする(笑)。
北村薫なんかは、とてもキレイなお話を描く人だと
思うのですが、夢枕獏も、すっきりとキレイな文章を
書く人だと思います。現代モノだととくにそうですね。
「陰陽師」のシリーズだと、平安という時代と相まって、
言の葉の一つひとつまでもがとても高尚に感じます。

ミステリーではなく、ホラーでもなく、
敢えていうなら、怪談、でしょうか。
そういった“妖しい”短編10作が収録されています。

金貸しを営む強欲な銭法師・喜久五郎は、先を急いでいた。
墓所の近くを通りかかったとき、ふいに自分を呼ぶ声が
聞こえる。しかし、誰も見当たらない。気のせいかと思い
通り過ぎようとしたところ、着物の裾を引く者がいる。
それはしゃべる髑髏だった…。(「ものいふ髑髏」)

表題作は時代モノですが、ほとんどが現代モノ。
恐ろしい話には似付かわしくない優しい語り口。
それが、より一層“怪談”の怖さを引き立たせます。
でもどうしても、夢枕獏のSFモノには手がでません(^^;)。
食わず嫌いなのは分かってるんですけど、もともと
苦手意識を持っているSFに、彼が持つ文章の“優しさ”が
どうにもミスマッチに思えるんですよね。
「陰陽師」のイメージが強すぎるんだと思いますけど(笑)。
あの高尚な雰囲気が、でも現代モノには通用しないんだなぁ。
時代も舞台も何もかも違いすぎるからなんでしょうね。
ただ、中の1編「びくいしとい」はとてもキレイでした。
一見、幻想的に思えるんですが(というか幻想的なんですが)、
これまた美しい仕掛けがあるんですよ。
もう、なんだか感動しちゃいました(^-^)。

「ものいふ髑髏」夢枕獏

「続・垂里冴子のお見合いと推理」山口雅也

2004年09月21日 | や行の作家
まだ言います。いつまでも言います(笑)。
「生ける屍の死」でさんざん苦労した山口雅也ですが、
こういう軽めの短編集がとても面白いと思います。
ついでに、前作は「垂里冴子のお見合いと推理」(まんまやん・笑)。
主人公は、垂里家の長女・冴子さん。
孤高のお見合いハンター・合子おばさんの持ってくる
お見合いには、必ず事件がつきまとう(笑)。
一見、現実離れしたお嬢さんであるところの冴子さんですが、
ひとたび推理に乗り出せば、シャッキリと、そして
スッキリと見事に事件を解決していまうのでした。

垂里家最大の問題児・空美と、冴子にほのかな憧れを抱く弟の京介。
今回も3人そろって大活躍。私はどうしても空美が
好きになれないんですが、それも冴子と京介ののほほんな
コンビがカバーしてくれるので、まあ、良しとしましょう(何)。
なんとはなしに、“姉は偉大なり”という気分にさせてくれます。
(といいつつ、自分が“姉”の立場なのですが(笑))

「続・垂里冴子のお見合いと推理」山口雅也