紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「古書店アゼリアの死体」若竹七海

2005年02月28日 | わ行の作家
架空の都市・葉崎市のシリーズは、コージー・ミステリーと
いわれているようです。その定義をあまりよく理解していない
からなのかもしれませんが、あまりコージーな感じは
しないんだけどなあ。もちろん、笑いどころもあるには
あるけど、でも、若竹さんらしく結構シビアなんですよね。

家財道具一式を自分の軽自動車に積み込み、着の身着のまま
辿り着いたのは、葉崎市の海岸。勤め先が倒産し、泊まった
ホテルでは火災に遭い、友人からは怪しげな新興宗教に入るよう
迫られ、やっとの思いで逃げてきたのだ。海に向かって
「バカヤロー!」と叫ぼうとしたそのとき、今度は溺死体を
発見してしまう…。

まあ確かに、ここだけみればコージー・ミステリーだろうな(笑)。
相沢真琴は、葉崎市で運良く古書店「アゼリア」の店番の仕事に
ありつきますが、そこでもまた、さまざまな奇禍に遭うのです。
ここで起こる事件の陰には、葉崎市の名門・前田家が関係しているので、
なかなか捜査もままなりません。が、そこでキーパーソンとなるのが、
アゼリアの店主・前田紅子さん。現前田家当主の叔母にあたる紅子さんは、
大のロマンス小説好き。アゼリアで扱っているのも、ロマンス小説
ばかりで、真琴が店番に抜擢されたのも、ロマンス小説に対する知識と
愛情が認められたからなのでした。しかし、ロマンス小説を読んだことが
ない私には、何が何やら(笑)。ま、それを無視しても、充分楽しめるの
ですが、知っていた方がより楽しめることは間違いないでしょうね。

ストーリーとしては、“まさか”“まさか”の連続。
スピード感といい、ひねりの効いた展開といい、そして
毒を含んだラストといい、若竹さんらしくてとてもよろしい。
しかし、やっぱり若竹さんは短編の方がキレがよくていいなあ、
なんて思ったり(笑)。ただ、紅子さんはとてもいい味を出していて、
例えば、とある作家のとある作品のとある登場人物を思い起こさせます。
とあるデパートの屋上のうどんスタンドの婆ァなのですが(笑)。


「古書店アゼリアの死体」若竹七海(光文社文庫)

「孔雀狂想曲」北森鴻

2005年02月25日 | か行の作家
森さんといえば、最初に読んだのは「狐罠」でした。
ハマったのは「メイン・ディッシュ」、抜けられなく
なったのは「花の下にて春死なむ」の香菜里屋です。
それ以来、毎回うならされてきたわけなのですが、
今回は久々の連作短編。しかも、扱うのが骨董!
短編なので、毎回登場する骨董品も違っていて、
それぞれに持ち主の思いとか、骨董品そのものの
いわくとか、そういう話も面白いのですが、
やっぱり、主人公のキャラクターが魅力的ですね。

骨董商「雅蘭堂」の店主・越名集治は推定30代。
生活に密着した“古物商”という面持ちのそのお店で、
さまざまなドラマが展開されます。
骨董にありがちな、騙し騙されということから、
果ては大きな事件まで、どれも主人公の突拍子もない
発想から推理が展開されていきます。
そして何よりこの越名さん、どことなく工藤さん
似てるんですよね(どちらも見たことはないですが(笑))。

同じ骨董を扱う「狐罠」は女性が主人公のハードボイルドでしたが、
こちらは、北森さんらしい優しさ溢れるミステリーです。
ちなみに、陶子さんは出てきませんが、畑中さんが出てきます(笑)。


「孔雀狂想曲」北森鴻(集英社文庫)

「紅い悪夢の夏」「透明な貴婦人の謎」本格ミステリ作家クラブ編

2005年02月24日 | アンソロジー
「本格ミステリ01」を文庫2冊に分けて収録。
親本の方は読んでないのですが、
でも、何作かは読んでいたものが混ざってます。
もうひと言言うと、評論は苦手なので読んでません(笑)。

好きな作品は、「エッシャー世界(ワールド)」柄刀一
(「紅い悪夢の夏」収録)。突然“異世界”へ
迷い込んでしまう宇佐見博士のお話。「アリア系銀河鉄道」よりも
先にこっちを読んだんですよね、実は。いきなり異世界なんかへ
行ってしまうような物語は基本的に苦手なはずなのですが(SF苦手だし)、
この物語だけは、とてもすんなり頭の中に入ってきます。
エッシャーといえば、あの“だまし絵”なのですが、
あれを文章にするのは大変だったと思います(笑)。
少々言い回しがくどい気がしたり、一部理解できないところも
ありましたが、そんなことはどうでもいい。というくらい、
やっぱり物語が魅力的なんですね。さすが柄刀さん(^-^)。

もう一つ挙げるなら「中国蝸牛の謎」法月綸太郎かなあ
(「透明な貴婦人の謎」収録)。綸太郎のシリーズで、
タイトルから想像できる通り、とある作品がモチーフになっている
本格です。でも、この作品は違うアンソロジーで読んでいたので、
インパクトに欠けたのが残念。でも、好きな作品には変わりません。

今回、初めて読んだのは三雲岳斗。思った以上に楽しめました。
柴田よしきの「正太郎と井戸端会議の冒険」は、猫の正太郎が
探偵役というシリーズで、違う作品を何かのアンソロジーで読みました。
今回2作目ということでしたが、とても気に入ってしまい、
本編を購入(にっこり)。はやみねかおるの「透明人間」
少年名探偵虹北恭助シリーズ)も楽しかったです。


「紅い悪夢の夏 本格短編ベスト・セレクション」
「透明な貴婦人の謎 本格短編ベスト・コレクション」
        本格ミステリ作家クラブ編(講談社文庫)

「富豪刑事」筒井康隆

2005年02月21日 | た行の作家
ドラマ化を機に、原作を読んでみました。
ドラマでは深田恭子が“神戸美和子”を演じてますが、
原作は、神戸大介という男性が主人公。
かれの富豪らしいところを挙げてみますと、
キャデラックを乗り回し、ハバナから取り寄せた1本8,000円の
葉巻を惜しげもなく灰皿でもみ消し、10万円のライターは
常に置き忘れ、250万円もするロレックスの腕時計は
持っている物の中ではいちばん安物なのだそうです(^^;)。
こんなに浮世離れした彼ですが、でも、物語のなかでは、
まったく浮いていなかったのに驚きました。
金銭感覚が普通じゃないけどで、どちらかというと熱血刑事。
しかし、足ではなく、お金を使って捜査するのですが(笑)。

短編の連作という形で4編を収録。
それぞれ、犯人探し、密室、誘拐、アリバイ崩しと
違うトリックが用いられているというところで
作者の力の入れ具合が分かろうというもの。
しかも、また謎解きが尋常じゃない。
でも、手法はアクロバティックでも、謎解き自体は本格です。
さらに、随所に“小ネタ”がちりばめられていて、
それだけでも読む価値ありますよ(笑)。

筒井康隆といえば、「ロートレック荘事件」しか
読んでないんですけど、アレはちと難しかった(笑)。
こちらは、続編がないのが残念なくらい楽しみました。


「富豪刑事」筒井康隆(新潮文庫)

「アリア系銀河鉄道 三月宇佐見のお茶の会」柄刀一

2005年02月18日 | た行の作家
ここ最近、とても柄刀さんづいていて、ますます好きに
なっていっているのですが、それに加速度をつけたのがコレ。
いやー…、もう言葉にしがたいね。いい。これに尽きます。

宇佐見護博士は、紅茶をこよなく愛する科学者。
その日もいつものように紅茶を愛でていると、
突然、目の前に人語を話す白い猫が現れた!
それを機に、宇佐見博士は“時空を越えた旅”を
するようになるのですが、初めて“異世界”へ行ったときから
とても冷静です(笑)。科学者だから、でしょうか。
自分の置かれている状況を理解し、その異世界でも、
とても理性的に行動します。そして、そこで起こっている
謎を解明するのですが、やはり、とても論理的。
無理や無茶、矛盾なんかもなく、特別なその世界の摂理を
きちんと踏まえた上で、キレイに解決されていきます。

ひと言で言ってしまえば、SFとミステリーの融合、という
ことになるのでしょうか。でも、どちらかというと、
ストーリー的にはファンタジーの色が濃いかもしれません。
短編の連作で、宇佐見博士は毎回違った世界へ旅します。
出会う人の中にはきっと、悪意を持った人もいるはずなのですが、
宇佐見博士の深い慈愛の前には、おおっぴらにそれを見せません。
そういうところも含めて、作品全体に“優しさ”が溢れていて、
読んでいても心地いい(^-^)。素敵です。

異世界へ行って、そこに馴染んでしまう宇佐見博士もすごいけど、
異世界からきた人をすぐに受け入れてしまうあちら側の人も
案外優しいのかもしれませんね。
優しさに飢えているな、と思ったら、ぜひ(笑)。


「アリア系銀河鉄道 三月宇佐見のお茶の会」柄刀一(光文社文庫)

「超麺通団2 団長の事件簿「うどんの人」の巻」田尾和俊

2005年02月17日 | その他
“ハムの人”みたいに、“うどんの人”と呼ばれる田尾さん(笑)。
帯には、「笑いネタ満載で展開する、超うどんスペクタクル」と。
…もう、何がなんだか分かりませんが(笑)。
うどんとお笑い、どこがリンクするのか。不思議でしょう?
でも、田尾さんという人を知っている香川県民ならば、
誰も不思議には思わないことなのです(笑)。
その辺を順序だてて解説してくれているのが、本書(たぶん(笑))。

今のこの讃岐うどんブームを語るにあたって、
まず押さえておくべきところは、このブームの火付け役と
なった、田尾さんの人となりでしょう。どういう人が、
どういう風に、いち地方の名物でしかないものを全国的に
広がるブームにまでもっていったのか。気になりますね。
その基本となったのが「笑いの文化人講座」です。
“タウン情報”という全国的にネットワークされた情報誌が
あるのをご存知でしょうか。「タウン情報かがわ」は、
とある会社のもくろみがあり、またある種必然的に、
田尾さんを編集長として創刊されました。そして、この
雑誌の中の一つのコーナーとして生まれたのが、読者からの
投稿を掲載する「笑いの文化人講座」。それだけをみると、
どこにでもある普通のコーナーなのですが、そこには大きな
企みがあったのです。…詳しくは本を読んでね(笑)。
内輪うけのようなところも見られますが、きっとこの本を
読む方々はその辺まで分かっている人ばかりだと思われるので、
個人的にはほとんど心配はしてません(笑)。

昔から田尾さんに親しんでいる人なら、今のブームも、
田尾さんが大学の教授になってしまったことにも、
なんの疑問もないと思います。だって、それなりのことを
してきたんだもの。今も、もっと先を見つめて、新しいことを
しかけているはずです。次は何を出してくれるんだろう。
その辺、「超麺通団3」で書いてくれるのではないかと、
期待してたりして。たぶん、出るさ(笑)。


「超麺通団2 団長の事件簿「うどんの人」の巻」田尾和俊(西日本出版社)

「占い師はお昼寝中」倉知淳

2005年02月16日 | か行の作家
投げっぱなしが気になるっちゃあ気になるけれども、
これが安楽椅子探偵の王道でしょう、といえば、そうだと思う。
なんせ、まったく出張っていきませんからね。
謎解きは、「たぶん、こんなことだと思うよ」的なモノなのですが、
なんせ探偵役が占い師なので、これでいいんでしょう(笑)。

渋谷のおんぼろビルにある「霊感占い所」。大学に通うために
上京した美衣子は、アルバイトとしてそこで叔父・辰寅の
助手をつとめることになる。しかし、占い師である叔父の
“ご託宣”はどれもでたらめで…。

分かった。これを読んだ後だったから、余計に
「なみだ研究所へようこそ!」がうさんくさく感じたんだ(笑)。
それは置いといて。

なんだろうな。途中で、気付いたんですよね。
辰寅の示す謎解きは、いくつか考えられる解答なかの
1つでしかない、と。それが正しかったのかどうか。
答え合わせがされないのですね。この作品の場合、
それでもいいんだろうなとは思うのですが(占いだし)、
一度気にすると、最後まで引っ掛かってしまいました。


「占い師はお昼寝中」倉知淳

「ゆっくり走ろう」榎田尤利

2005年02月16日 | あ行の作家
何が魅力って、やっぱり“心の動き”でしょうか。
登場する人物は、普通の人たちばかりだと思うのですよ。
魚住くんのようなヘンな人ではなく(笑)。
濱田センセやマリちゃんのような癖のある人もいないし、
ちょっと意地悪な人はいても、酷い人はいないし。
そんな“フツー”な舞台の中で、どこにドラマが
生まれるのかと思うけれども、それが榎田尤利のスゴイところ。

自動車メーカーに務める里見は、営業指導のために
本社営業部から郊外の販売店へと出向となる。
根っからのエリートである里見と地元色が強い販売店の人間と
では、ハナから反りがあうわけもなく、反感を買って
とんでもない無理難題を押し付けられた。しかし、
関東圏トップの営業成績を誇る立浪は里見の味方になり…。

なんだかとっつきにくいな、と思っていたのには
ちゃんと原因がありました。とはいっても、とても
自分勝手な原因だけれども(笑)。
イラストが合ってないんだよねえ…。表紙だけ見ても、
どっちが里見でどっちが立浪が分からない(笑)。
エリートだけど若くて礼儀正しい里見。
腕っぷしの強い頼れるあんちゃん・立浪。
読む前からそんなイメージを持っていたのですが、
イラストを見る限りではそんな感じではなさそうで。
そこで変にギャップを感じてたんですねえ。
読んでみると、自分のイメージ通りで、
さすが榎田さん♪という感じ。なのに。
大きなお世話だろうけれど、イラストで損してるなあ。

内容としては、里見の生真面目さが、途中から
とても愛おしく感じてしまう(^-^)。
立浪の気持ち、分かるわあ(笑)。


「ゆっくり走ろう」榎田尤利

「ナイフが町に降ってくる」西澤保彦

2005年02月15日 | な行の作家
理解できない“謎”に直面したとき、思わず時間を止めてしまう男。
しかもその現象は、必ず1人の一般人を巻き込んでしまうという。
…迷惑なヤツだ(笑)。そんな彼・末統一郎に巻き込まれたのは、
女子高生真奈。とにかく、その“謎”を解かない限り、時間は
元には戻らない! なんて理不尽な(笑)。

今回、彼の前に表れたのは、犯人がいないのに刺された男の存在。
巻き込まれた真奈と一緒に謎解きを始めた彼らの前に、
ナイフの刺さった人たちが次々と現れ…。

最初に“んん?”と思ったことが、やっぱり真相でした。
気がつく人は、早い段階で気付くと思われます。
が、途中で気付こうが気付くまいが、彼らが“真相”に
辿り着くまでのプロセスはとても面白いです。
そしてやっぱり本格ですしね(たぶん…)。量も内容も
ほどほどに軽くて、たまにはこういうのもいいかな、と。


「ナイフが町に降ってくる」西澤保彦

「ジャカルタ炎上」松村美香

2005年02月15日 | ま行の作家
1998年のクーデター。いくらテレビで報道されようとも、
私たちにとっては、“どこか遠い国のこと”以外のなにものでもない。
初めてリアルタイムでみた湾岸戦争の映像が、ゲームや映画に
比べて迫力に欠けていた、とそう思ったときからきっと、
“何か”を失ってしまったんじゃないだろうか、と思ったりも
したのだけれど、でも本書を読んで、本当はそんなモノ、
私たち日本人は最初っから持ってなかったんだな、と実感したのでした。

物語の主人公・法子は経営コンサルタントとして
経営の芳しくないジャカルタの大きなホテルへと赴きます。
彼女の胸にあるのはただひとつ、優柔不断な男のこと。
そして、その男の呪縛から逃れられない自分のこと…。
そんな中、学生時代の友人で留学生だったラハルディと再会。
彼女の心は少しずつ、これまでとは違う方向へ向いていきます。

面積は多少違っても、同じ“島国”であると思われるインドネシア。
でも、決定的な違いがあるんですね。それは、インドネシアが
多民族国家である、ということ。おなじ“インドネシア人”でも、
ジャワ人、スンダ人など土着の人たち、そしてマレー人、インド人、
中国人とさまざま(だいたい27種族に大別されるようです)。
同じ国に住む同じ国籍を有する人たちなのに、生活様式は
まったく違うことが当たり前だったりします。

ストーリーとしては、実は苦手な恋愛モノだったりして(笑)。
でも、それ以上のモノがここにはある。彼女の心の揺れや悩みが、
燃えるジャカルタで少しずつ変わっていくところは面白かったです。
そして、現地の人たちにとても感情を動かされました。
ホテルの支配人(ジャワ人)、そのホテルで働く日本人営業マン、
ホテルの要職に就く華人(華僑)、日本に留学していた華僑のラハルディ、
日本料理店の女将とその娘(日本人)など、あのクーデターで、
それぞれが何を考え、どう行動したか、といったところが興味深かった。
基本的には女性のために書かれたような作品ですが、男性もきっと、
思うことがあるんじゃないかと。いろいろ考えさせられますよ。


「ジャカルタ炎上」松村美香

「松本清張傑作短篇コレクション(上中下)」宮部みゆき責任編集

2005年02月14日 | ま行の作家
以前、ビートたけし主演で「張込み」を2時間ドラマで見ました。
ストーリーはあまり憶えてないけど(笑)、それなりに面白かったと記憶してます。
少し前には、中居正広主演の連ドラ「砂の器」を見てましたし。
原作ドラマはよく見てるんですよね。もしかしたら「点と線」とか見てるかも。
でも、実は未読だったのです(まあ、こういう作家って実は多いんですけど^^;)。
いきなり長編に手を出すよりは、やっぱり短編で様子を見たいと思い、
しかも今回は“宮部みゆき責任編集”。彼女が推す作品なら、読んでも
間違いないだろうと思って、ようやく、ホントようやく手に取りました。

松本清張は「或る「小倉日記」伝」で第28回芥川賞を受賞してるんですね。
ミステリーだと、どうしても直木賞を想像しますが。
上巻はこの「或る「小倉日記」伝」から始まります。
それぞれ、カテゴリーごとに宮部が選別(というか選抜)。
この3冊で、さまざまな松本清張が読めます。うーん、お得。

読み始めて最初に思ったのは、どういうところが“社会派”なのか、ということ。
一般的に清張は社会派の代名詞のようにいわれてますが、社会派ミステリー
というのは、清張のどういうところを指していうのか、それが知りたかった。
まあ、それを知るには、代表作(長編)を読むのが早いんでしょうけどね(笑)。
ただ、語り口が硬い。淡々としている。それが新聞記事を読んでいるような
気になりまして、もしかしたらそういう、語り口も含めて社会派なのかな、とか。

いちばん心に残ったのは、中巻の「空白の巨匠」。身につまされます(笑)。
鳥肌立ちます。新聞社の広告部に実際にいた、ということだから、
余計にリアルに感じられるのかも。でも、これもそうですが、
宮部も書いてますけどね、“淡々としたラスト”が清張の特徴でしょうね。
バッサリ斬って余韻を残す方法もあるでしょうし、
逆に、最後まで淡々と語り続けることで心に残ることもありますしね。
最後の1行でゾっとする、という作品は結構あります。

ミステリーはないと思われるのですが「真贋の森」は好きです。
最後に主人公がどうにもしない、というところがまたいい。
淡々としてるんですよ、これも。淡々としているから、なお怖いというのが、
「書道教授」。“便乗”して犯罪を犯すのですが、それが思いもしない
ところから、ひとつずつ綻びていくのを、見ているしかない、という。
それを、抑揚をつけずに描いているところがスゴイ。
淡々としているというと、面白みとは無縁な感じがするんですが、
それが返って面白かったというのが「支払い過ぎた縁談」。
…どれもミステリーではない気がしますが(笑)。

のめり込んで読んだ作品、どうしても入り込めず読み飛ばした作品、
いろいろありましたが、でも、なんとなく“清張さんってこんな人”
というのが少しだけでも分かった気がします。しかも、宮部みゆき
というフィルターを通すことで、より身近に感じられるのも事実。
さらに、というか当然、宮部は、清張初心者になるであろう
若者から、何作も読んでいるコアなファンまで全部を視野に入れて
みんなが楽しめるように編集してるんですね。私なんて、
きっと宮部じゃなかったら読まなかっただろうし(笑)。
そういった意味で、とても門戸の広い短編集だと思います。


「松本清張傑作短篇コレクション(上)(中)(下)」宮部みゆき責任編集

「オペラ座の怪人」ガストン・ルルー

2005年02月10日 | か行の作家
映画がとても好評なようです。
そういえば、舞台もやってるんでしたっけ。
タイトルとあらすじは知っていたけど、
実は未読だった超有名作品、やっと読めました。

ガストン・ルルーといえば、昨年「黄色い部屋の謎」
初めて読んだわけですが、“ミステリー”という印象が強く、
しかも、オペラ座の怪人をモチーフにした作品には
漫画も含めてミステリーが多いと思うのですよ。
なので、きっとミステリーの要素が含まれているんだろうなと、
そう思いながら読み始めたわけです。

実際、密室や誘拐、殺人などの事件は起こるのですが、
これが全然ミステリーっぽくない。言ってしまえば、
それらはとても些細なことで、作品全体を通して感じるのは、
“不吉さ”であったり“恐怖”であったり、
そして“哀れみ”や“愛おしさ”といった感情。
これが、この物語のすべてなんだと思いました。

正直に言ってしまえば、読みにくかった(笑)。
でも、駅がワープしてしまうほどのめり込んだ部分が
あったのも事実。小難しかったりまどろっこしかったり
する部分はすっ飛ばしてるのですが、反面、ぐぐっと
惹きつけられるところも多い。不思議な作品です。
しかも、読み終わった後に何が残ったかといえば、
快感でも満足感でも、不満でも焦燥感でもない。
ページをめくるごとに心に澱がたまっていって、
最終的にその“重さ”を実感した、という感じ。
なので、別の作家が続編を書いたという理由が
なんとなく分かる気がしました。で、これは一度
舞台なり映画なりを見ないといけないな、とも思いました。
何をどういう風に描いているのか、というのが気になります。
「マンハッタンの怪人」「ファントム」も、それからだね(笑)。


「オペラ座の怪人」ガストン・ルルー

「隠された庭-夏の残像・2-」ごとうしのぶ

2005年02月09日 | か行の作家
タクミくんシリーズ18(だったと思う)。
どうやら、“夏の残像”は3まで続くらしい。
長い夏休みだこと(笑)。

なんだかなあ、なんだかなあ、なんだかなあ!(クレッシェンド)。
※注意:阿藤快ではない(わかってるっちゅーねん)
落ち着きすぎて、どきどきハラハラもしないし、
かと思えば、意味深すぎて何が何やらさっぱりわからん。
…期待しているだけに、あまりの薄さに暴言を吐いてしまったわ(笑)。
なんだかねえ、新しい試みだとは思われるのですが、
それぞれのカップルの、それぞれの“夏のイベント”というカタチで、
いろんなことが同時進行してるんですね。そしてそれが、
最終的に一つの面白い物語になる、ということだと思います。
ミステリーにもそういう構成というのはあるんですが、
ちゃんと1冊で終わるじゃないですか(笑)。
私がこだわってるのはそこだけなんだけどなあ(笑)。

「炎の蜃気楼(ミラージュ)」も長いシリーズだったけれども、
あっちは10年ちょっとで40巻+番外編たくさんが出てるのね。
でもこっちは、10年ちょっとでまだ本編が20巻にも足りない。
(託生たちはこんなにも長い間高校生をやっているのですねえ(笑))
たぶん、CDとかそのたもろもろはミラージュだって
同じくらい出ていると思われるので、考慮しないとしても、
ごとうさん、寡作なんでしょうか。それとも、
待っている作家さんに限って、なかなか新作が出ないだけ?

文句ばっかり言いましたが、やっぱり好きなんですよね。
さわやか系BLの元祖って感じじゃないですか。
おおや和美のイラストだって好きですし。
とにかく。次は早く出してくださいねっ。


「隠された庭-夏の残像・2-」ごとうしのぶ

「みんな元気。」舞城王太郎

2005年02月09日 | ま行の作家
とても喜ばしいことだと思うのです、みんな元気でいることは。
前作の“愛”あふれる「好き好き大好き超愛してる。」だって、
目先を変えて愛を考えることができて、良いと思うのです。
でも、私が欲しているのは、どうやら違うようで…。

「煙か土か食い物」の頃に比べると、勢いがなくなりましたか?
もしくは、少し作風が変わったのかもしれません。
否応無しに心に詰め寄られる激しさと、もどかしさと、
高揚感と焦燥感が少し足りない…。もっと欲しい。
読み終えてしまうと、あまり残るモノがないのがとても残念。
美しさを望んでいるわけではないけれど、だからといって、
汚らわしければいいのかというと、そうではない。
ただ、“強烈”であって欲しいのと思うのです。
インパクトの強さではなく、心にキズを残すような強烈さ。
少なくとも、前作は“ai”が残りましたがね、
でも、本作はもっと広くて大きな“愛”を描こうと
したのだと思われるのですが、大きすぎて何も見えない。

自分の心の狭さに愕然としますね(^^;)。


「みんな元気。」舞城王太郎

「殺意は幽霊館から 天才・龍之介がゆく!」柄刀一

2005年02月08日 | た行の作家
最近、柄刀さんづいてます。これを読んでから以降、
柄刀さんの作品の数がずんずん増えてます。
いちばんのきっかけとなったのは「アリア系銀河鉄道」なのですが、
それに関しては、また後ほど(^-^)。

柄刀さんにしては、軽めで柔らかめの、龍之介シリーズです。
最初に読んだコレ、たぶん2作目か3作目です。
後で1作目となる作品を読んだのですが、
そっちを最初に読んでおいた方が、こっちの面白さが増す。
というか、コレの中編がちょっと物足りなかったんです(笑)。

天地龍之介は、居候している光章とそのガールフレンドを、
温泉旅行へ招待する。1日目の夜、花火を見に出かける3人だが、
“幽霊館”と呼ばれる建物で幽霊を目撃。さらに、建物の中でも
3階から落下する幽霊を見てしまう。しかし翌日、女性の死体が
発見され、その殺害現場はなんと、“幽霊館”で…。

IQ190という触れ込みの天才・龍之介は、超天然で、しかも
幽霊が怖いときている。そのせいで、推理力が発揮されない
だけで、もし幽霊がからんでいなかったら、この事件はもっと
早くに解決したかもしれない(笑)。…なんて言うのは、
自分でも相当意地が悪いと思います(^^;)。
ちょっと違うかもしれませんが、泡坂妻夫の亜愛一郎を
思い浮かべてもらえれば、龍之介の感じがつかめるかも。
でも、亜愛一郎も短編のシリーズだったから面白かったんだと
思うんですよね。だからやっぱり、コレも短編でキリっと
締めてもらうか、もうちょっと奥までつついて内容を
充実させてほしかったなあ、とそんな風に思うんですねえ。


「殺意は幽霊館から 天才・龍之介がゆく!」柄刀一