紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『おしりのしっぽ 旅する私のふしぎな生活』竹内海南江

2005年08月30日 | た行の作家
オンライン書店ビーケーワン:おしりのしっぽおしりのしっぽ 旅する私のふしぎな生活』竹内海南江(集英社be文庫)

竹内海南江といえば、『世界ふしぎ発見!』です。エジプトといえば、
必ず彼女です。辺鄙なところでも、辺境でも、なんなら地の果てでも、
彼女ならば楽しんで出かけていくんじゃないかと思います。
そんな竹内海南江の、旅をテーマにしたエッセイ。
どこもかしこも、飾らない彼女らしさに溢れています。

このエッセイを読む以前に、彼女の描いたとても不思議な小説を読んで
いたので、それとも通じる独特の雰囲気を、より楽しめたんじゃないかと。
というのも、うまく言い表せないのだけれども、とても面白い“風”を
持った人だなあと思うのです。ホントはきっと、ものすごい気配りの人で、
私たちの目に見えているほど単純に楽しいだけのものではないと
思うのですね、そのレポーターという仕事も。まあ、何にしろ仕事ですし。
しかし、そういう“仕事”もやっぱりきっと、考え方一つで
随分、気持ちも変わるんだろうなと、そういう風に思えてきます。
だから、楽しもうとしているんだろうな、と。

まあでも、たとえその辺を読み取ったとしても、結局
「どういう風にとらえてもらってもいいんです」なんて言われるのがオチだ(笑)。 

『ムーン』竹内海南江

2005年08月08日 | た行の作家
冬虫夏草』同様、現代を舞台にしたファンタジー。しかしながら、
こちらは“うさぎ”の効果もあって、とても心地よいひとときが過ごせる
お話になってます。言えることは、彼女の作品に意味を求めてはいけない、
ということ。自分が感じたことが全て。また、時間を空けて読んでみると
違った感想を抱くのだけれども、それもまた正しいのですよ。そのとき、
そのときの自分が、紛れもなく自分であることと同じように。。。

酔っぱらって公園で一夜を過ごしたまりも。そして、彼女をつける人影。
まりもの前に現われたのは、うさぎの耳をもった少年だった。
その日から、まりもの生活はメリーゴーランドのように美しく、
夢の彩りの世界に変わっていく…。

気づくと、何の違和感もなく異世界の住人になってしまっていた、という
感じ。現実と非現実の境界線がとても曖昧で、もうこのまま、私も
どこかへ連れていって欲しいと、つい思ってしまいます。でも、ちゃんと
現実の世界へ送り届けてくれるので、親切というか、お節介というか(笑)。


■『ムーン』竹内海南江(角川文庫)

『冬虫夏草』竹内海南江

2005年08月08日 | た行の作家
このタイトルとお話の内容が、まったく合わない(笑)。
とりあえず、最初はタイトルを無視して読んだ方がいいと思います。
読み進むにつれ、分かってはくるのですけどね。

都会で9度目の春を迎えた僕。ある日、鏡の中に謎の美少女・沙羅が
現われる。羊飼いの神様・パンに、登校拒否の女子高生・伊織らと
過ごす日々は、僕を慰めてくれたのだけれど、日を追うごとに、
彼らは次々と病んでいく…。

ここではない、どこかのお話。現代を舞台にしたファンタジーなのですが、
実はこういうお話はちょっと苦手だったりします。作者が海外で見たり
聞いたり感じたりしたことを、現代日本人に伝えようとしたら、こんな
物語になりました。という感じでしょうか。言いたいことはとてもよく
分かるのだけれども、ちょっと強引というか、無理があるというか、
あまり自然ではない(^^;)ので、たぶんひっかかるんだなあ。
終わり方があっけなかったのが、逆に竹内さんらしいなと思いました。


■『冬虫夏草』竹内海南江(幻冬舎文庫)

『未確認家族』戸梶圭太

2005年08月08日 | た行の作家
オンライン書店ビーケーワン:未確認家族未確認家族』戸梶圭太(新潮文庫)


えーと。とりあえず、カバー裏をそのまま引き写してみます。

元ヤンキーの美穂と女遊びに余念がない知弘。二人の夫婦仲は
冷え切り、息子も登校を嫌がっている。一方、殺人で服役した
和也は出所して前科者の父の家に戻るが、なぜか保護観察官が
付き添い、和也らと家族のように暮らす。そんなある日、美穂に
マン拓FAXや電波系コミックが届いた。一体誰が、何のために――。
二組の“不道徳家族”の狂気と復讐を描く、超破格の犯罪小説!

もう、これだけで充分な気がするんです、戸梶ですから(笑)。
こんな感じでずーっと“戸梶節”が炸裂してるんですね。
どーしようもない父親と母親、そして祖母&その恋人までそろって、
さらに彼らにかかわる人物として出てくるのが刑務所帰りだったり、
あぶない電波系の人だったり。何をどうやったって、むちゃくちゃに
なることは分かり切ってる(笑)。でも、それを戸梶の言葉で読む
ことに意味がある(^-^)。そうやって戸梶さんの作品は楽しんできたのです。

ところがどっこい(何)。不覚にも私、最後で泣いてしまいました(^^;)。
くっだらない人生を歩んでいるヤツらを笑うつもりで読んでいたのに(笑)。
あまりにもトカジ過ぎて、最後、気を抜いてしまったのかもしれませんね(違)。
いや、油断していたことは間違いないです。まさか、こんな終わり方をする
とは思ってもみなかったので。なかなかに良い作品だと思います(^-^)。

『ウロボロスの偽書』竹本健治

2005年08月04日 | た行の作家
オンライン書店ビーケーワン:ウロボロスの偽書 上オンライン書店ビーケーワン:ウロボロスの偽書 下
ウロボロスの偽書(上)
ウロボロスの偽書(下)』竹本健治(講談社文庫)


京極夏彦の『どすこい』の中で、唯一読んでいなかったネタ元。
(正確には『ウロボロスの基礎論』の方なのですが)
これでついに『どすこい。』に手が出せる(違)。
という、なんともいい加減な動機で手に取ったわけなのですが、
想像していた以上に楽しみました(^-^)。

実名小説というと、それだけでもうわくわくしてしまうのです。
カバー裏には綾辻の名前なんかも出てきたりして、作中、私の
知っている作家さんがたっくさん、それなりの行動&活躍をしてくれる、
ともうそれだけで嬉しかったり(笑)。竹本健治の作品はあまり読んで
いないのですが、『匣の中の失楽』の世界を、ちょっと軽めに仕上げました、
という感じ。それがむちゃくちゃフィットして、堪能したわけなのです。

物語は、いきなり殺人鬼の手記から始まります。そして、作者を主人公に
したエッセイ風な作品、それに本格作品である“トリック芸者シリーズ”と、
3つの“世界”が同時にスタートします。最初は混乱するのですが、
そのまま放っておいて、雰囲気で読み進んでいけば大丈夫。進むにつれ
さらに混乱していくこと請け合いです(笑)。混乱している自分を、
客観的に楽しめれば、もう読破したも同じです(何)。終盤には
作者による「この作品に論理的な解決を求めてはいけない」というような
注意書きなんかもあったりするのですが、それすら“作品の一部”であるよう。
私はただただこの世界(混乱)を満喫したのでした(^-^)。
加えて、巽さんによる解説が秀逸。巽さんも作中に登場していて、
もしかしたらこれすら私は作者による作品なのではないかと思っていたり
するのですが、どうでしょう(笑)。さらに、作者によるあとがきも
3段落ちのように用意されていたりして、ホントにもう、
全部ひっくるめて、とっても面白い作品でした。

匣の中の失楽』はなかなかてこずったりもしたのですが、
ミステリーランドの中ではあまり評判がよろしくない『闇のなかの赤い馬』。
実は、ミステリーランドの中では私、これがいちばん好きだったりします。
そういう経緯も含めて、たぶん私、竹本健治とは相性がいいんだろうな。

『アフリカの女』竹内海南江

2005年08月02日 | た行の作家
オンライン書店ビーケーワン:アフリカの女アフリカの女』竹内海南江(幻冬社文庫)

仕事上必要になったとき、たまたま古書店で見つけたので、なんだか
運命を感じるのです(笑)。竹内海南江といえば、レポーターでおなじみ。
小さい頃からよく見てて、とても好きな方なのです(^-^)。
その竹内さんが、エッセイならまだ分かるんだけれども、小説を書いていた
というのは驚きです。しかも、結構たくさん出ている。

本書は、物語というよりも、寓話。軽く読めちゃうお話が26編収録されて
います。どこかの国の、誰かに似た人が、あんなことやこんなことを
している話。どこかで感じたことのある、ちょっぴり淋しくて、
ちょっぴり切なくて、でもなぜか心がほんわか温かくなるお話ばかりです。
ミステリーばかりではなく、たまには何も考えずに読めるこんな
素敵なお話もいいかもしれませんね(^-^)。

「火の神(アグニ)の熱い夏」柄刀一

2005年05月26日 | た行の作家
なんとなく、背筋の凍るようなタイトルですが(熱いんだけど)、
読み始めるとなんだか柄刀さんっぽくなくて、なかなか
馴染めませんでした。何が原因なのか、今でもよく分からないのですが。
決して面白くないわけではないのです、しっかり本格ですし。
キャラクターだって、思いやり深い主人公に好感を持ってたし。
ただ、実感できなかった、のかなあ。主人公は事件の関係者なのに、
この事件が、まったく自分(主人公)のものとして感じられなかった。
…目の前で起こっていたのにねえ(^^;)。柄刀さんだから、
という自分の思いの強さも、もしかしたら邪魔をしたのかもしれませんね。

実業家・加瀬恭治郎の別宅、「ハウス」が火事になり、焼け跡から
焼死体が発見された。その死体は、火災の前に殺害されたものだった…。

暑い夏の日、火事の炎…。古代インドの火の神様(アグニ)が、
どういう“判決”を下すのか。というところがいちばんのポイント。
主人公にとって、犯人が誰だか分かることがこの場合の判決だと
思うのですが、それを下すのは、写真家で探偵の南美希風。
どこかでもちらりと目にしたのですが、ホント、この謎解きが
“本格のお手本”のように美しく論理的なのですね。かといって、
退屈するわけではなく、その論理的謎解きによって導き出される
“答え”の素晴らしいこと! そういう部分はやっぱり
柄刀さんだな、と思ったのです(^-^)。


火の神(アグニ)の熱い夏」柄刀一(光文社文庫)

「QED 東照宮の怨」高田崇史

2005年05月17日 | た行の作家
東照宮で、南光坊天海とくれば、“あの”説でしょう。
なんて想像しながら読んでいたのですが、全く違いました(笑)。
そんなありきたりな話ではなく、でもやっぱり歌の話ではある。

建設会社の社長が異様な殺され方をした事件は、
「三十六歌仙絵」を狙った連続殺人事件へと発展する。
事件の鍵は東照宮にあると見たタタルは、小松崎、奈々とともに
“東照宮の謎”へ挑み…。

そう。タタルさんの狙いは“東照宮の謎”の解明(笑)。
これまでも、タタルさんは“事件”を解明しようと思ったことは
一度もなく、自分に興味のある謎を見つけては勝手にその謎に
挑み続け、その謎が解明されるとうまい具合に事件まで解決
されてしまう、というのがこの「QED」シリーズの醍醐味
(といってもいいものか^^;)なのですね。
今回、また歌がキーワードになってくるわけですが、
それに関しては「百人一首の呪」「六歌仙の暗号」とさんざん講釈を
たれてきたので、その分「東照宮」は薄くなっている(笑)。
でもちゃんとこれだけを読んでも分かるように解説して
くれてますけどね。ここに並べるにはちょっと気が引けますが、
同じように“講釈(蘊蓄)が長い”シリーズものに京極堂が
ありますね。京極堂の場合はすんなり理解できるのだけれども、
タタルさんの場合は、学校で勉強をしている気分になる(笑)。
ふ~ん、と思っても、それだけ。その解釈、あるいはその説に
それほど興味を持てない、というのが残念でなりません。
あまり身近に感じられない題材である、というところが
ポイントなのかもしれません。だからといって、それが
作品の善し悪しに関わることではないのは、断言しておきます。

そうなんだよ。東照宮って行ったことなくってさ。
西日本圏はだいたいOKなんだけど。東日本はこれまで
縁がなかったから。逆にここから興味を持てるようになれば
いいんだけど、そこが難しいところで、タタル先生の講釈が
私には合わないだ、きっと。。。と拗ねてみたり(笑)。


QED東照宮の怨」高田崇史(講談社文庫)

「背が高くて東大出」天藤真

2005年05月09日 | た行の作家
久しぶりの天藤さん。どれもピリリとスパイスの効いた
素晴らしい作品ばかりを収めた短編集です。

天藤さんの短編といえば、「遠きに目ありて」の連作短編以来でしたが、
純然たる短編もいいですね。どれもこれも“そうくるか!”という
ものばかり(^-^)。中でもお気に入りは、父親の職業を知らない17歳の
息子が、父親の職業を探る「父子像」。最後に涙が出そうになります。
もう1つ、「死神はコーナーに待つ」も、想像しえない結末で、
心が温かくなってホロリときます。逆に、「日曜日は殺しの日」は、
短編でありながら2時間サスペンスのような濃い内容で、ハラハラどきどき
させられます。後にこの作品は草野唯雄によって長編に書き直されている
そうです。そっちも読んでみたいなあ。


背が高くて東大出」天藤真(創元推理文庫)

「悪魔と詐欺師 薬屋探偵妖綺談」高里椎奈

2005年04月19日 | た行の作家
こちらも、シリーズ3作目。前作、前々作に比べて、
タイトルがストレートなところが非常に好ましいです(笑)。
しかも、連作短編+最後に中編、という変則的な構成。
これがまた、「どぶどろ」や「ぼんくら」などを思い起こさせ、
やっぱり、最後に大きな“謎(ないしは事件)”を隠してある。
あとがきには、「今までとは違った薬屋探偵」とありましたが、
妖怪3人衆(笑)の個々のキャラクターの魅力が、これまで
以上に伝わったんじゃないかと思います。

「当ててごらん。これらの事件には、共通点がある」
喫茶室で毒死した男、マンションから飛び降りた会社員、
プログラマーは列車事後で死に、書店員の娘は手首を切った。
しかも、個々の事件はすでに解決済みなのに!?

高里椎奈も、見た目は西尾維新とは異なりますが、同じように、
面白い日本語を使う作家さんだと思います。意味深で思わせぶり。
だけで、とても思慮深い。この作品は、作者の日本語に振り回される
傾向にあって、見逃しがちなのですが(私だけ?)、
文章がとても優しいんですね。起こる事件はとても凄惨なものが多く、
だからどことなく冷たい印象を受けるし、何より主人公の1人・秋の
性格が超クールだから余計につっけんどんなイメージがあるのですが、
でも、さすが妖怪(笑)。実は、人間全部を包み込んでしまう
優しさに溢れているのですね(^-^)。

だから、リベザルはがんばる。
それがもう、むちゃくちゃいじらしいんだわ(笑)。
しかも、今回はこのリベザルが論理的な推理を披露してくれます。
そういった小ネタをちりばめつつ、最後に迎える最大の謎。
…これが実は微妙で(^^;)。私的には全然OKなのですが、
論理的な解決を期待して読むと、拍子抜けするかもしれません。


悪魔と詐欺師 薬屋探偵妖綺談」高里椎奈(講談社ノベルス)

「夜光曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿」田中芳樹

2005年03月28日 | た行の作家
初・田中芳樹でした。しかもこの方がミステリーを書いて
いるなんて、まったく知りませんでしたし(^^;)。
…というか、これをミステリーといっていいなら、ですが。

“ドラよけお涼”とも呼ばれる、警視庁の警視・薬師寺涼子。
金にモノを言わせる超わがまま娘で、涼子の前には
ドラキュラさえもよけて通る、とあだ名される(なので“ドラよけ”)
警視庁の一人大量兵器。こんな涼子に仕えるのは、警部補・泉田くん。
破天荒な女王様と下僕のこのコンビ、なかなか笑わせてくれます。

新宿御苑の新緑が、一夜で枯れ木と化した。すわ生物テロか、
と色めく担当刑事をよそに、涼子は泉田とフランスから呼んだ
メイドのマリアンヌとリュシエンヌを従えて蛍観賞に出かけるが、
そこで人食いボタルに遭遇する。そして日を置かず、ネズミや
ムカデ、ハムスターなど動物たちが人を襲いはじめ…。

涼子が対峙するのは、まともな相手ではないようです(笑)。
誰もがさじを投げる涼子も、手段はどうであれ、基本的に
筋は通っているんですよね。謎解きは論理的ではないけれども、
スピーディーな展開とキャラクターの魅力で、充分楽しみました。


「夜光曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿」田中芳樹(祥伝社ノン・ノベル)

「400年の遺言 死の庭園の死」柄刀一

2005年03月10日 | た行の作家
最後の最後で震えましたね。
今回は“400年”で、これまでよりも歴史が浅い。
その分、ロマンというよりは生々しさを感じました。
これまでのような優しさもあまりなく。
でも、それをしっかり最後の数行でフォローしてある。
やるねー、柄刀さん(にっこり)。

400年の歴史を持つ、浄土真宗妙見派の龍遠寺。
歴史的建造物の警護を仕事とする蔭山は、庭師が首を
刺されているのを発見。庭師は、腕に抱えた寺の一人息子を
蔭山に託して息絶える。そこは4年前、庭師の息子が
溺死させられた場所でもあった…。

蔭山はずっと、庭師が発した「この子を、頼む…」という
言葉を胸に、この事件に対峙していきます。
それと平行して起こる、歴史事物保全財団の職員惨殺事件。
いつものことですが、一見関係ないようなことがらも、
すべて、事件解決と、歴史的謎の解明、そして登場人物たちの
物語のために、最終的には収まるべきところへキレイに収まる。
その収まり具合がなんともいえず、心地いいわけです。


「400年の遺言 死の庭園の死」柄刀一(角川文庫)

「殺意は砂糖の右側に 天才・龍之介がゆく!」柄刀一

2005年03月03日 | た行の作家
龍之介シリーズ第1作目。長編だと思っていたのですが、
連作短編のカタチです。以前に読んだ「殺意は幽霊館から」は、
話のつながり方からいって、たぶん、2作目ではなさそう。
(すごい消極的な意見ですが(笑))
ということは、もう1冊(もしくはそれ以上)がこの間に
ある、と。柄刀さんにしてはむちゃくちゃ軽い、異色な
シリーズなのですが、やっぱり読んでいてなんとなく
心がほんわかしてくる、というのは、龍之介の人柄でしょうか。

小笠原諸島のとある島で、天才科学者である祖父に育てられた
龍之介。祖父が亡くなったのを機に東京へ出てきますが、
浮世離れした祖父があてにしていた先は、ことごとく連絡が
付かず、唯一居場所が分かりそうな人物を追いかけることに。
それまでの間、龍之介はいとこの光彦のお世話になりますが、
彼ら(正確にいうなら龍之介)の行くところに、さまざまな
事件が待っていて…。

物語の語り手は光彦。彼の恋愛話があったりするのですが、
正直、そんなことはどうだっていい(笑)。それをきっかけに
“事件”が起きたりしますが、すべて、浮世離れしているけれども
IQ190を誇る天才・龍之介がキレイに解決してくれます。
この、“弱腰キャラ”がなんとも母性本能をくすぐるのですよ(笑)。
事件の現場のような血なまぐさいところは苦手だし、
それだけじゃなくて、幽霊もダメだし、自然の中で育ったので、
人込みだって苦手だし、かと思えば、特製の調味料を料理に添加
(要は、料理に自家製化学調味料を使うということですが)してみたり。
とても微笑ましく、好みなキャラです(笑)。

ミステリーとしても、それぞれ違ったトリックを使っていたり、
ホントは力が入っているはずなのに、それを感じさせない
軽いノリの文章も、実は柄刀さんは書けるのね、と。
そんな感想も抱きました。やっぱり好きだな(^-^)。


「殺意は砂糖の右側に 天才・龍之介がゆく!」柄刀一(祥伝社文庫)

「富豪刑事」筒井康隆

2005年02月21日 | た行の作家
ドラマ化を機に、原作を読んでみました。
ドラマでは深田恭子が“神戸美和子”を演じてますが、
原作は、神戸大介という男性が主人公。
かれの富豪らしいところを挙げてみますと、
キャデラックを乗り回し、ハバナから取り寄せた1本8,000円の
葉巻を惜しげもなく灰皿でもみ消し、10万円のライターは
常に置き忘れ、250万円もするロレックスの腕時計は
持っている物の中ではいちばん安物なのだそうです(^^;)。
こんなに浮世離れした彼ですが、でも、物語のなかでは、
まったく浮いていなかったのに驚きました。
金銭感覚が普通じゃないけどで、どちらかというと熱血刑事。
しかし、足ではなく、お金を使って捜査するのですが(笑)。

短編の連作という形で4編を収録。
それぞれ、犯人探し、密室、誘拐、アリバイ崩しと
違うトリックが用いられているというところで
作者の力の入れ具合が分かろうというもの。
しかも、また謎解きが尋常じゃない。
でも、手法はアクロバティックでも、謎解き自体は本格です。
さらに、随所に“小ネタ”がちりばめられていて、
それだけでも読む価値ありますよ(笑)。

筒井康隆といえば、「ロートレック荘事件」しか
読んでないんですけど、アレはちと難しかった(笑)。
こちらは、続編がないのが残念なくらい楽しみました。


「富豪刑事」筒井康隆(新潮文庫)

「アリア系銀河鉄道 三月宇佐見のお茶の会」柄刀一

2005年02月18日 | た行の作家
ここ最近、とても柄刀さんづいていて、ますます好きに
なっていっているのですが、それに加速度をつけたのがコレ。
いやー…、もう言葉にしがたいね。いい。これに尽きます。

宇佐見護博士は、紅茶をこよなく愛する科学者。
その日もいつものように紅茶を愛でていると、
突然、目の前に人語を話す白い猫が現れた!
それを機に、宇佐見博士は“時空を越えた旅”を
するようになるのですが、初めて“異世界”へ行ったときから
とても冷静です(笑)。科学者だから、でしょうか。
自分の置かれている状況を理解し、その異世界でも、
とても理性的に行動します。そして、そこで起こっている
謎を解明するのですが、やはり、とても論理的。
無理や無茶、矛盾なんかもなく、特別なその世界の摂理を
きちんと踏まえた上で、キレイに解決されていきます。

ひと言で言ってしまえば、SFとミステリーの融合、という
ことになるのでしょうか。でも、どちらかというと、
ストーリー的にはファンタジーの色が濃いかもしれません。
短編の連作で、宇佐見博士は毎回違った世界へ旅します。
出会う人の中にはきっと、悪意を持った人もいるはずなのですが、
宇佐見博士の深い慈愛の前には、おおっぴらにそれを見せません。
そういうところも含めて、作品全体に“優しさ”が溢れていて、
読んでいても心地いい(^-^)。素敵です。

異世界へ行って、そこに馴染んでしまう宇佐見博士もすごいけど、
異世界からきた人をすぐに受け入れてしまうあちら側の人も
案外優しいのかもしれませんね。
優しさに飢えているな、と思ったら、ぜひ(笑)。


「アリア系銀河鉄道 三月宇佐見のお茶の会」柄刀一(光文社文庫)