紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「ミミズクとオリーブ」&「嫁洗い池」芦原すなお

2005年03月31日 | あ行の作家
芦原すなおは、私の故郷・香川県の出身です。
私が住んでいたところよりも、愛媛県寄りの生まれだそうです。
あんなに小さい香川県ですが(日本でいちばん面積の小さい県)、
それぞれの地方によって、文化や風習が違うんですねえ。
連作短編というカタチで、たぶん、事件よりも料理の方が
記述が多いんじゃないかと思うのですが(笑)。
そういう部分も楽しみながら、たっぷり堪能しました(^-^)。

専業作家になったのを機に、香川から八王子へ出てきた主人公夫妻。
おんぼろな一軒家を借りて、夫は原稿に、奥さんは和裁に励みます。
庭には、香川から持ってきたオリーブの木が大きく育っており、
毎日決まった時間に、奥さんが餌付けしたミミズクがやってきます。

ちょっと亭主関白が過ぎるんじゃないか、と思う部分もありますが、
まあ、その辺は目をつぶって。なんせ奥さんができ過ぎです(笑)。
同郷の友人や、奥さんの叔母さんから送られてくる、讃岐の食材を
使って、毎回、おしそうな郷土料理が並ぶ並ぶ。
私の知らない料理が大半だったのに驚きましたが(笑)。
そんなおいしい料理で食卓を飾るこの奥さん、実は名探偵なのです(^-^)。

夫の友人に警察官がいて、毎回勤務先が変わるのですが(笑)、
その先々で不可解な事件に出会います。捜査に行き詰まると、
必ずこの家を訪れ、奥さんの手料理を食べる習慣があり、そこで
彼女の智恵を借りようという魂胆。奥さんはめったに家を出ない
人なので、作家である夫を助手代わりに使い、夫が集めた情報に
よって推理し、みごと難事件を解決してしまうのでした。

謎解きは本格。でも、醸し出す雰囲気がのほほ~んとしていて、
物足りなさを感じる人もいるかも。作品全体をつつむあの雰囲気は、
香川県の気候風土と県民性をみごとに表しています(笑)。
さらに、「嫁洗い池」の解説が秀逸です。同じ香川県出身の漫画家・
喜国雅彦が、全文会話のみ、讃岐弁丸出しで書いてるんですね。
(ちなみに、「ミミズクとオリーブ」の解説は加納朋子)
これがいい。香川県民にしか分からないあたりがたまらなくいい(笑)。
香川県民はもちろん、おいしいミステリーが好きな方はぜひ(^-^)。


「ミミズクとオリーブ」「嫁洗い池」芦原すなお(創元推理文庫)

「対岸の彼女」角田光代

2005年03月31日 | か行の作家
人は、一人では生きていけない。
そんな当たり前のことを、心に刻みつけられる物語。
そして、間違いなく、女性のための物語でもある。

結婚している女性、していない女性。
子供のいる女性、いない女性。
結婚していても働いている女性、働いていない女性。

こうやって並べるとよく分かるのですが、年齢に関係なく、
“女性”にはいろんな種類があるのです。しかも、
こうやって色分けしているのは、女性自身だったり。

女性は、人生において選択に迫られたとき、
どちらを選んでも、必ず“言い訳”を用意してます。
それはたいてい、自分を許すため。

仕事を続けたかったけど、夫が家にいてほしいと言うから。
(夫のために家庭を選んだ私は偉い)
子供のことを考えると、家にいた方がいいと思って。
(子供のために自分を犠牲にした私は偉い)
もう少し経済的に余裕ができてから、子供を産みたい。
(今、子供ができても、余裕がないと子供にとってもかわいそう)
結婚はいつでもできるけど、この仕事は今しかできないから。
(社会的地位を獲得した私は偉い)

そして、同じ言い訳を持つ人たちとつるんで、お互いを許し合う。
でも、そんなことをしていても、いや、すればするほど、
言い訳まみれになって、結局自分自身を見失ってしまう、
“こんなはずじゃなかった”と。

でも、そういう“他人”は、本当は必要なのです。

なんだか矛盾してるんだけど、でも、心に響く。
さすが、第132回直木賞受賞作だなあ、と(笑)。
角田光代は初めて読みましたが、読みやすいし、
案外面白いと思いました。でも、この作品はしんどかったけどね。


「対岸の彼女」角田光代(文藝春秋)

「東京タワー」江國香織

2005年03月29日 | あ行の作家
映画が好評なようで、これで黒木瞳の株がむちゃくちゃ上がりましたね。
しかしながら、黒木瞳が演じた“詩史”は、私はあんまり好きになれない。
あまりにも自分勝手すぎる気がします。なんというか、そういう風には
見せないけれども、充分わがままだよ、彼女(笑)。

恋はするものじゃなく、落ちるものだ。
ふたりの少年と、年上の恋人…。
それぞれの“恋”のカタチ。

透が、母親の友達である詩史と付き合うようになったのは、高校生のころ。
透と詩史に刺激され、耕二は年上の人妻とばかり“危険な恋愛”を繰り返す。

淡々としたトーンで進む、透と詩史の物語は、ホント、映画のよう(笑)。
どちらかというと、同世代の恋人はちゃんといるのに、自分ではちゃんと
“遊び”と割り切ったつもりで人妻と逢瀬を重ねていく耕二の物語の方が、
起伏が激しく、私には面白く感じましたね。どっちも、自分の気持ちだけ
ではどうにもならないのが“恋愛”なんだ、ということと、自分の思惑とは
違う部分で、自分に合った恋愛がある、ということを描いている気がします。
基本的に、こういう物語って結末がないじゃないですか(笑)。とても
大きな余韻を残して終わっているのですが、透よりもやっぱり、耕二の
その後がとても気になります。あともう一人、橋本くんも気になるんですが(笑)。


「東京タワー」江國香織(マガジンハウス)

「贄門島」内田康夫

2005年03月29日 | あ行の作家
ドラマではよく見ているのですが、原作は初めて読みました。
浅見光彦シリーズです。誠実そうな好青年なのに、そのまじめさが
笑えてしまう、あのテレビのまんまのキャラクターでした。
さすが、作者本人が強く希望したというだけあって、
すぐに榎木孝明の浅見が思い浮かびました。
個人的には、初期の水谷豊の方が好きだったのですが(笑)。

雑誌の取材で房総半島を訪れた浅見は、21年前、父親が
クルーザーから海に投げ出されたのを助けてくれた美瀬島へ
お礼のため渡ることに。しかし、取材先で知り合った
ルポライターと父親の事件を知る代議士の秘書が
相次いで水死体で発見され…。

“謎”といえば、浅見光彦にとって大きな謎があるんですが、
それは、助けられた父親が朦朧とした意識の中で聞いた
「そんなに続けて送ることはない」「そうだな、来年に回すか」
という言葉。そして、その言葉通り、父親は翌年に亡くなります。
美瀬島で何があったのか、もしくは、何もなかったのか。
それが光彦にとっての最大の謎なのですが、そんな光彦をよそに、
事件の方から彼にかかわってくるんですね(笑)。取材先で
知りあったルポライターは、泳ぎに自信のあった友人が水死体で
発見された“事故”を疑問に思い、調べているし、代議士秘書は
21年前の事故に関して、まだ光彦には伝えていないことがあるようだし。
結局、光彦に何も伝えないまま2人は亡くなり、代わりに光彦が
美瀬島と関わる事故(事件)を探ることになるのです。

ただ、謎解きというよりは、事件を追って調べていくうちに、
さまざまなことが解明され…という感じで、どちらかというと、
やっぱりドラマ同様サスペンス色がとても濃いですね。
もちろん、マドンナも登場しますよ(笑)。ドラマ同様、
積極的に光彦に迫るわりには、最終的にはふってしまうんですが。

タイトルからイメージするような、おどろおどろしい感じはなく、
絶海の孤島での連続殺人事件、のようなものでもなく(笑)。
ちょっと残念な気もしましたが、でも、充分楽しかったです。


「贄門島(上下)」内田康夫(ジョイノベルス)

「夜光曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿」田中芳樹

2005年03月28日 | た行の作家
初・田中芳樹でした。しかもこの方がミステリーを書いて
いるなんて、まったく知りませんでしたし(^^;)。
…というか、これをミステリーといっていいなら、ですが。

“ドラよけお涼”とも呼ばれる、警視庁の警視・薬師寺涼子。
金にモノを言わせる超わがまま娘で、涼子の前には
ドラキュラさえもよけて通る、とあだ名される(なので“ドラよけ”)
警視庁の一人大量兵器。こんな涼子に仕えるのは、警部補・泉田くん。
破天荒な女王様と下僕のこのコンビ、なかなか笑わせてくれます。

新宿御苑の新緑が、一夜で枯れ木と化した。すわ生物テロか、
と色めく担当刑事をよそに、涼子は泉田とフランスから呼んだ
メイドのマリアンヌとリュシエンヌを従えて蛍観賞に出かけるが、
そこで人食いボタルに遭遇する。そして日を置かず、ネズミや
ムカデ、ハムスターなど動物たちが人を襲いはじめ…。

涼子が対峙するのは、まともな相手ではないようです(笑)。
誰もがさじを投げる涼子も、手段はどうであれ、基本的に
筋は通っているんですよね。謎解きは論理的ではないけれども、
スピーディーな展開とキャラクターの魅力で、充分楽しみました。


「夜光曲 薬師寺涼子の怪奇事件簿」田中芳樹(祥伝社ノン・ノベル)

「オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す」三砂ちづる

2005年03月28日 | ま行の作家
“負け犬”という言葉がはやった後、次は“オニババ”だとも
言われたほど、注目されている1冊。タイトルは激しいですが、
内容は、女性にとってとても大切なことばかり。
目から鱗とはよく言ったもので、もっと早くに出会いたかった、
ホントに。そして、できればパートナーにも読んでもらいたい。

日本の昔話によく出てくるオニババとは、社会の中で適切な
役割を与えられなかった独身の更年期女性である、と。
普通なら、嫁に行って子供を生んで育てて、という女としての
道筋が与えられなかった場合、更年期障害に陥ったときに、
普通の女性たちのように、うまく対処できなくなる、という
ことなんじゃないでしょうか。だから、女性の体は子供を産むように
できているのだから、産みなさい。それも、できるだけ
早い方がいいでしょう。早い方が子育てが楽だということも含め、
何かと理に適っているのだから、高齢出産という危険を冒さなくて
すむうちに、産んでおきなさい。とまあ、こういったことを
訴えられているわけです、私のような女性たちに(笑)。
もちろん、私からみるとこれは完全な理想ですよね。
そりゃ私だって、結婚は遅くても子供だけは早くに欲しい、
とか、昔はそんな無茶なことも思ってましたが(笑)、
実際問題、可能か不可能かといったら、不可能な人が多いでしょう。
もうちょっと社会的な制度を整えてほしいと思うし、
こればっかりは女性だけの問題でもないと思うんですけどね。
でも、やっぱり正しいことなんだとは思うのです。


「オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す」三砂ちづる(光文社新書)

「もっと、生きたい…」Yoshi

2005年03月28日 | や行の作家
仕事でなければ、決して手にしなかった1冊。
当初“ケータイ小説”という形で発表され、
あの「Deep Love」をも凌ぐアクセス数を誇ったという作品。
「Deep Love」は読んでないし、そんなにそそられる
ような感じでもなかったのですが、この手のモノも、
いろんな意味で一度読んでおくべきだと思いました。

作者のYoshiという方、“本を読まない人たちの
ミリオンセラー作家”と呼ばれていますが、文字通り
そうなんだろうと納得できます。というのも、この作品には
“文学”の香りがまったくしない。ただ、事実を羅列している
だけ、感情の説明をしているだけ。そして最後に、作者は
メッセージを押し付けているのですね。これはいただけない。
だって読む方は、何も感じることなく、ただ、そこにあるものを
そのまま受け取るだけ。これは読書ではありえない。
これが売れているということは、何も考えない方が好まれている、
ということになりはしないでしょうかね。そこがいちばん怖い。

内容にちょっと触れておきましょうか。
携帯電話に不思議なメールが届いた後、その人の体の一部が
消失する、という奇怪な事件が頻繁に起こります。目、耳、口…、
どれも鋭利な刃物でスパっと切られたような、キレイな切り口で、
しかもなくした本人は、まったく気付かないという。
その最初の被害者の妹が、かつての姉の恋人である天才プログラマと
ともに、その事件の謎に迫るが…というような、こうやって
書いてみるとミステリーっぽくはあるんだけれども、謎解きは
されないので、やっぱりホラーになるのでしょうか。でもね、
あの結末では漫画にもならない(笑)。ひと言言うなら、
そんな簡単なもんなじゃないよ、“思い”ってのは。ってことか。


「もっと、生きたい…」Yoshi(スターツ出版)

「異邦人」西澤保彦

2005年03月25日 | な行の作家
23年前、父は殺された。犯人はまだ分かっていない。
姉の犠牲のもと、今では大学で研究職に就いている「わたし」。
故郷を離れて何年目かの大晦日、「わたし」は飛行機で
故郷を目指したが、着いたところはなんと、父親が殺される
数日前だった! 狂ってしまった人生をやり直すべく、
「わたし」は父が殺されるのを防ぐことができるのか…。

西澤さんならではの、タイムスリップもの。
ストーリーの流れを遮らずに、もれなくSFの設定を
説明してくれるあたり、さすがです(笑)。
もちろん“謎解き”はとっても論理的。
23年前に起きた殺人事件を防ぐ=父親を犯人と会わせない。
ということは、まず、犯人が誰なのかを推理しないと
いけないのです。当然、その時点では犯人ではないんですけど。
そういうところが、変に矛盾してて面白い(笑)。
あ、この矛盾と謎解きはまったく関係ないですからね。

でも、この物語で核となるのは、謎解きではないのです。
そこへ至るまでの過程と、そして主人公のそれからの人生が
大切なんですよね。人と人の絆を感じ、
そして考えさせられる物語でした。


「異邦人」西澤保彦(集英社文庫)

「本陣殺人事件-金田一耕助ファイル2」横溝正史

2005年03月24日 | や行の作家
実は横溝、これが2冊目だったりします(笑)。いずれも金田一です。
横溝正史というと、おどろおどろしいイメージがあったのですが、
金田一って、とてもユニークな人ですよね。元祖、ぶっとび系の
探偵だと思いませんか(笑)。とても面白く、楽しく読みました。

岡山の農村に佇む宿場本陣の旧家、一柳家。当主の婚礼が
行われた夜、寝室としていた離れ座敷からただごとならぬ
悲鳴と、そして琴の音が響き渡った。そこには、血塗れになった
新郎新婦が…。しかしその離れは、一面に降り積もった雪のせいで、
完全な“密室”となっていたのだった…。

あまりにも有名ですが、幸い私はネタバレされていませんでした。
ただひと言でいうならば、“壮絶”ということでしょうか。
密室である限り、何らかのトリックが必要になってくるのですが、
それを仕掛け、実行に移したその裏にあるモノが凄い。
ひとかたならぬ執念を感じるのですが、いかがでしょう。
この“執念”がきっと、作品全体をおどろおどろしい雰囲気に
しているのかもしれません。というより、金田一作品に関しては、
岡山が舞台になっていますが、そこがすでに閉じられた世界だとかを
イメージさせるんですよね、華やかさからは遠いじゃないですか。
それに加え、犯罪に関わる“執念”が、作品のイメージを決めるのかな、と。
逆に、金田一自身はとても明るく、突拍子もない性格をしてますし(笑)、
横溝だって、暗い雰囲気の文章を書いているわけではないですしね。
犯行(犯罪)自体がおぞましい、というのはあるかもしれません。
が、それもすべて“執念”のなせるわざである、と思うのです。

角川文庫のこのシリーズでは、「本陣」のほかに、
「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」が収録されておりました。
「車井戸」は、なんとなくアレとネタがかぶるのではないかと
思っているのですが、いかがでしょう。「黒猫亭」の方は、
なんだかわくわくしながら読みました(笑)。楽しかったですよ。


「本陣殺人事件-金田一耕助ファイル2」横溝正史(角川文庫)

【カバー裏より】
 江戸時代からの宿場本陣の旧家、一柳家。その婚礼の夜に響き渡った、ただならぬ人の悲鳴と琴の音。離れ座敷では新郎新婦が血まみれになって、惨殺されていた。枕元には、家宝の名琴と三本指の血痕のついた金屏風が残され、一面に降り積もった雪は、離れ座敷を完全な密室にしていた……。アメリカから帰国した金田一耕助の、初登場作品となる表題作ほか、「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の2編を収録。

「痕跡」パトリシア・コーンウェル

2005年03月23日 | は行の作家
このシリーズを読んでいる方をあまり知らないのですが(笑)、
私は「検屍官」から、リアルタイムで追ってます。
前作の「黒蝿」から第2部、というような感じで、
登場人物はあまり変わりませんが、彼らを取り巻く環境は
劇的に変かしています。その中でも、まだケイは狙われるのです(笑)。

法医学コンサルタントのケイ・スカーぺッタは、
死因不明の少女の遺体を調べるため、5年ぶりにリッチモンドへ赴いた。
かつて彼女が局長として働いていた検死局の建物は、無残にも
壊されている最中。新しい検死局は、目も当てられないほど“狂って”いた。
リッチモンドで今、何が起きようとしているのか…。

検死の描写は、相変わらず微に入り細をうがっており、
ここで“証拠”が発見される様はいつ読んでいても気持ちいいもんです。
たいてい、ケイが見つけるんですけど、そこにはもっと“職人”な
人たちもいるわけで、日がな一日顕微鏡とにらめっこをしているような
ある種の変人たち(笑)も、上手く使われると非常に素晴らしい
結果を導いてくれるのですね。そういう種類の人達の使い方が、
ケイは非常に上手かった。これまでのシリーズでは、そうやって証拠を
得ていく様を眺めつつ、だんだんと真相に近づいていく様子に、
手に汗を握っていたのですが、「黒蝿」以降は、ケイの一人称ではなく、
三人称で描かれていることからも、そこからは少し離れて、
もう少し大きく登場人物たちを捉え、物語を眺めていくことによって、
楽しめるような展開が待っている…ということなのでしょうか。
そういう観点から眺めてみると、これまではリッチモンドの検死局を
舞台としていたのが、これからは、ルーシーの会社が舞台となるようです。
ルーシーや相棒のルーディはもちろん、今ではマリーノもそこの社員で、
ケイに至っては顧問という形をとっていますね。そして、例のあの人も…。
そうですね、やっぱり起こる出来事(事件の解決)を楽しむ、
というのではなく、シリーズとして楽しむ作品へと進化したようです。


「痕跡(上下)」パトリシア・コーンウェル(講談社文庫)

【カバー裏より】(上巻)
 一本の電話が始まりだった。法医学コンサルタントのケイ・スカーペッタは、死因不明の少女の遺体を調べるために、5年ぶりにリッチモンドの地を踏んだ。そこでは事件へのFBIの関与が明らかになる一方、かつてケイが局長として統率した検屍局が、無惨にも破壊されつつあった。この町で何が起きているのか?

【カバー裏より】(下巻)
 その奇妙な微物は、死んだ少女の口のなか、主に舌に付いていた。2週間後、まったく別の場所で亡くなった成人男性の遺体から同じ物質が採取され、事件の様相は一変する。憂愁と恐怖、挫折と殺意がこの世界を覆いつくし、さらにスカーペッタの姪、ルーシーにも何者かの影が迫る! 死の連鎖をくい止めろ!

「壺中の天国」倉知淳

2005年03月17日 | か行の作家
読み終わってしばらく経っているのですが、
改めて、いろんな方の書評などを見ているうちに、
ようやく“本来の姿”が見えてきた模様(^^;)。
ああ、私はやっぱりパンピーだったのねぃ。
しかもまた勘違いをしていて、ずっと猫丸先輩が
出てくるのを待ってたりして(出てきませんよ(笑))。
結構ボリュームはあるんですけど、ほとんど一気に
読んでしまいました。楽しかったです。

閑静な地方都市で起こる通り魔事件。電力会社の
送電線鉄塔建設に対する反対運動に燃える人あり、
また一部では“電波系”怪文書を話題にする人あり、
そして無差別な殺人鬼に殺される人あり…。

被害者たちに共通点がない、いわゆる“ミッシング・
リンク”。そこへ持ってきて、“電波系”の怪文書。
これらがどう繋がっていくのか。主人公たちは、
それをワイドショー的に語るわけです。その中に、
被害者の殺される直前の話が挿入されたり、また
違う人物の話が挿入されたりと、その構成も面白い。
謎解きよりも私は、そっちの小ネタの方が面白かったぞ(笑)。

主人公は、働くシングルマザー・知子さん。元気な彼女が
とてもいきいきしてて素敵(^-^)。娘をはじめ、彼女を
取り巻く人たちも、なかなか個性的でいい感じ。
シニカル、というわけではないけれども、でも、物事を
正面からまっすぐ見ているだけではない、というところが
深くて好き(笑)。あんなことやこんなことがあっても、
でも、人は極力自分だけでも“普通”に生活しようとするんですね。
…というツッコミはありでしょうか(笑)。


「壺中の天国」倉知淳(角川文庫)
【カバー裏より】
 「全能にして全知の存在から電波を受信している私を妨害しないで頂きたい」――静かな地方都市で奇妙な怪文書が見つかる。それは、あたかも同市で発生した通り魔殺人の犯行声明のようであった。その後第二、第三の通り魔殺人が起こるごとに、バラ撒かれる「電波系」怪文書。果たして犯人の真の目的は? 互いに無関係に思える被害者達を結ぶ、ミッシング・リンクは存在するのか……。本格ミステリの歴史に燦然と輝く、第1回本格ミステリ大賞受賞作!!

「なみだ研究所へようこそ! サイコセラピスト探偵波田煌子」鯨統一郎

2005年03月16日 | か行の作家
…あやうく投げつけるところでした(^^;)。
ぐっと踏みとどまったのは、鯨さんだから。
冷静になって観察してみると、内容は面白いんですよ。
何がいけないかって(あ、ハッキリ言っちゃった(笑))、
やっぱり文章の善し悪しですかね。鯨ファンにお聞きしたい
のですが、鯨さんって、文章書くの上手くないですよね?(笑)。

新米臨床心理士として松本清が働くことになったのは、
メンタル・クリニック「なみだ研究所」。ここには、
伝説のサイコセラピスト・波田煌子がいるのだ。

“伝説”と呼ばれるサイコセラピストの何が伝説かって、
まともな処置もできないのに、患者を治してしまうところ。
それがまったく論理的じゃないから、落ち着かなくなる。
何を狙っていて、どこまでが作為的なのかが分からないのも、
鯨作品の特徴なのかもしれませんが(^^;)、読んでて
不安になるのは、ちょっと恐ろしい(笑)。でも、それが
上手く噛み合うと、面白い作品になるんだけどなあ。

また恐ろしいことに、これに続編があるというじゃないですか。
今度は煌子さん、サイコセラピストではなく、警察組織に
入って、プロファイラーとして活躍するそうです。
…活躍、するのか?(^^;)。


「なみだ研究所へようこそ! サイコセラピスト探偵波田煌子」鯨統一郎(祥伝社文庫)

【カバー裏より】
 ここはメンタル・クリニック〈なみだ研究所〉。新米臨床心理士として働くぼくこと松本清は、最近目眩に悩んでいる。あいつ、波田煌子(なみだきらこ)のせいだ。貧相な知識にトボけた会話。こっちが病気になりそうなおに、なぜか患者の心の悩みをズバリと言い当て、その病を治してしまう。本当に彼女は伝説のセラピストなんだろうか。そして今日もあの不思議な診療が始まった……。

「震える岩 霊験お初捕物控」宮部みゆき

2005年03月15日 | ま行の作家
大昔に「かまいたち」(京都の赤い小僧たちではありません(笑)
…いやしかし、誰が分かるというんだ^^;)を読んだときに、
一度だけ面識(?)はあるんです、お初っちゃん。

普通の人にはない不思議な力を持つお初は、南町奉行所の
根岸備前守に気に入られ、よくそこへ通っていた。
ある日、“死人憑き”の噂を聞いたお奉行は、お初にその
調査を任せる。理由も分からないままお奉行に押し付けられた
古沢右京之介とともにお初は調査に出かけるが…。

ちょうどこれを読んでいたころ、「IN・POCKET」
宮部みゆきが特集されておりました。「日暮らし」発行記念と
いうことで、「ぼんくら」と合わせて時代モノのお話。
現代モノでは描きにくくなってしまったことを、時代モノの
中で描いていきたい-といったようなお話でした。
それでいくと、今回は“理不尽”ということでしょうか。
この“理不尽”さに対して、登場人物たちはどのように
対処するのか。お初は、同心の兄は、右京之介は、お奉行は。

“死人憑き”から始まるこれらの事件には、それぞれ
理不尽さがつきまといます。チリも積もればで、山となった
この理不尽さは、こんなに悲しい事件を起こさなければ昇華
できなかったんですよねえ。悲しくて切ない物語ですが、
最後にちゃんと救いを残してくれるのが、また宮部のいいところ。

この物語には2つの特徴があるのですが、まず1つは、
お初っちゃんの不思議な力。実は、お奉行には、
巷にあふれる不思議な話を書き記すという一風変わった趣味があり、
お初の話をよく聞いてくれたんですね。でももちろん
それだけではなく、そこから事件につながることはないかとちゃんと
聞いているし、周囲の理解を得られないお初のことを、
自分の立場でできるだけ助けている、ということなのです。
町人と同心、もしくは岡っ引きがイキイキと活躍するのが
宮部作品。これまた元気すぎるくらい元気でいなければいけない
はずのお初っちゃんの、心の支えとなるのがお奉行なのです。
こんな偉い人は、本来宮部作品にはあまり出てこないのですが、
そこはほれ、変な趣味を持たせたりして(笑)庶民に近付けてある。

そしてもう1つの特徴が、時代モノの中にまた“歴史”を
組み込んであること。舞台は江戸末期なのですが、そこから遡ること100年。
作中からみても“遠い過去”に起こった事件について触れてあります。
まあ、ここがいちばん“理不尽”を感じるところではありますよね。

でも、人はきっと乗り越えられる。

そういえば、どの作品でも宮部は読者にこう語ってくれてますね。
時代モノの方がより心に届きやすいのは、人がありのままで
生きていない、いや生きていけない現代の物語では、
ちゃんと届かないことを知っている、のかもしれませんね。


「震える岩 霊験お初捕物控」宮部みゆき(講談社文庫)

【カバー裏より】
 ふつうの人間にはない不思議な力を持つ「姉妹屋」のお初。南町奉行所の根岸備前守に命じられた優男の古沢右京之介と、深川で騒ぎとなった「死人憑き」を調べ始める。謎を追うお初たちの前に百年前に起きた赤穂浪士討ち入りが……。「捕物帳」にニュー・ヒロイン誕生! 人気作家が贈る時代ミステリーの傑作長編。

「クリスマス12のミステリー」アシモフ他編

2005年03月14日 | アンソロジー
BOOK OFFで見つけた、初めての洋モノのアンソロジー。
アシモフが編者でしかも執筆者である、というところに
惹かれて手に取ったのですが、執筆陣を見てまた驚き。
実に豪華なこと! アシモフと、クイーンと、ホックとカーを
除いて、あとは全部初体験(笑)。おかげで堪能できました(^-^)。

ミステリーとして見た場合、いちばん面白かったのは、
「真珠の首飾り」ドロシー・L・セイヤーズと、
「フランス皇太子の人形」エラリー・クイーン。
クイーンって実はまだ「Xの悲劇」しか読んでなくて(^^;)、
当然、クイーン親子ものって初めてだったんですけど、
なんだ、法月の綸太郎モノと同じじゃん、って(笑)。
思った以上に軽くて、とても読みやすかったです。

キャラクターが魅力的で楽しめたのは、
「クリスマスの万引きはお早めに」ロバート・サマロット。
“やんちゃ”なおばさまが、とてもいい味を出してました。
それと「煙突からお静かに」ニック・オドノホウは2人の
若くてカッコイイ探偵コンビが素敵なんですよ。そして、
かれらにまとわりつく(笑)子供たちがいい。
「尖塔の怪」エドワード・D・ホックは、サム・ホーソーン
ものでしたが、訳者が変わるとがらりと雰囲気が変わりますね。

そして、なかでも、いちばん面白かったのは、
「目隠し鬼」ジョン・ディクスン・カー。ミステリーという
よりは、ホラーの色が濃いのですが(でもちゃんと本格です)、
きっと皆さんが言うカーの魅力って、これなんだろうな、と
実感した次第。うん。カーってすんごい面白いよ。
さらにもう一つ、「クリスマスの十三日」アイザック・アシモフは
これまた文句なしにいい。語り口から登場人物、落としどころまで、
ものすごくいいんだなあ(にっこり)。実は「黒後家蜘蛛の会1」
しか読んでないのですが(^^;)、こんな文章を書く人なら、
SFだって読めちゃう気がする(でも、気がするだけ(笑))。

苦手意識を持っている洋モノに対して、それを取り除いて
くれる、とても素敵な1冊でした。やっぱり、時期を合わせて
クリスマスに読んだ方が、さらに気分も盛り上がったでしょうね。


「クリスマス12のミステリー」アシモフ他編(新潮文庫)

【カバー裏より】
 ジングルベルのメロディーが流れ、樅の木の飾りつけが終わり、ケーキも用意して、あとはサンタの小父さんを待つばかり。でも、油断してはいけません。犯罪者は、クリスマスだからってお休みしたりはしないから……。ユーモア・ミステリーから本格密室殺人まで、聖誕祭にまつわる12編をDr.アシモフが精選。ミステリー・ファンのための、知的で素敵なクリスマス・プレゼント。

「死んでも治らない 大道寺圭の事件簿」若竹七海

2005年03月14日 | わ行の作家
やはり、若竹は短編がいい。テンポがいい。キレがいい。
そして何より、仕掛けもいい(にっこり)。

大道寺圭は、警察を辞めた後、自分が遭遇したマヌケな
犯罪者をネタにした著書「死んでも治らない」を発行してから、
全国各地で講演に呼ばれるのだけれども、またその行く先々で
“マヌケ”な犯罪に巻き込まれ…。

それが短編になっているのですが、「大道寺圭最後の事件」という
大きな一つの物語の途中にこの短編が挿入されるという、
ちょっと変わった体裁を取っているのですね。しかしこれも、
また若竹さんの“仕掛け”だったりするのがとても嬉しい。
読んでて、だんだんと大道寺のことを好きになっていくのですよ、
たんなる“おっさん”なんですけどね(笑)。
短編の中に、おなじみ葉崎の町も出てくるのですよ(^-^)。
登場人物も少しクロスオーバーしてるしね、そういうのを
見つけるだけで、なんだか嬉しくなりましてか。
そしてまた、続編を予感させるような終わり方もいい感じ。
出るといいなあ、続編。


「死んでも治らない 大道寺圭の事件簿」若竹七海(光文社文庫)

【帯より】
犯罪者の9割はまぬけである。
ブラックな笑い。ほろ苦い結末。
コージー・ハードボイルドの逸品!

【カバー裏より】
 元警察官・大道寺圭は、一冊の本を書いた。警官時代に出会ったおバカな犯罪者たちのエピソードを綴ったもので、題して「死んでも治らない」。それが呼び水になり、さらなるまぬけな犯罪者たちからつきまとわれて……。大道寺は数々の珍事件・怪事件に巻き込まれてゆく。ブラックな笑いとほろ苦い後味。深い余韻を残す、コージー・ハードボイルドの逸品!