紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「蒐集家(コレクター) 異形コレクション」井上雅彦監修

2005年01月31日 | アンソロジー
昨年の年越し本。なぜ、ホラーを選んだのよ私(笑)。
しかも、初・異形コレクションでした。

アンソロジーというのは、お得感があっていいですね。
夢枕獏は陰陽師シリーズから、新耳袋の木原浩勝、
新しいカタチのコレクションと物語を同時に見せた浅暮三文、
久美沙織とか中島らもとか、あまりホラーとは縁のないような人まで、
それはそれは、いろんな作品が読めるわけです。
正月草々、堪能しました(笑)。正月早々言うことではない
かもしれませんが、でも、ちょっと物足りなかったりもします。
もっともっと怖くても平気(^-^)。
まあでも、この辺が小説の“怖さ”の限界かもしれませんね。
映画なんかのように、映像と音で驚かせることもできないし、
(驚かせることと怖がらせることは違うとも思うんですけどね)
ホラーはスプラッターじゃないから、グロくすればいい訳でもないし。
どなたか、ものすごく怖いホラーをご存知ですか?

いちばん面白かったのは、「参」浅暮三文。
珍しい漢字蒐集家の話を、珍しい漢字を使って表現してます。
一見、漢字の羅列にただ解説文がついているだけのようですが、
それがそのままストーリーになっていたりして。
しかも、漢字とその文章だけで、登場人物を書き分けている、
というところもすごい。確か3人いたと思うのです。

純粋にストーリーが面白かったのは「愛書家倶楽部」北原尚彦。
どことなくミステリーに近いホラー、という感じが好きです。


「蒐集家(コレクター) 異形コレクション」井上雅彦監修

「人形館の殺人」綾辻行人

2005年01月28日 | あ行の作家
 だんだんと本領発揮、というところでしょうか、狂気の建築家・中村青司。彼の狂気にあてられた人間はどれほどいるんでしょう。でも、これまで読んだシリーズの中で、これがいちばん悲惨だったような気がします。「迷路館」の後だけに、余計に中村青司の“毒”にヤられたのでしょうか。

 飛龍想一が移り住んだのは、亡き父が残した京都の邸宅。彫刻家でもあった父が残した妖しいマネキンたちが異様な雰囲気を醸すそこは、「人形館」と呼ばれていた。近所で通り魔事件が起こり始めたのと時を同じくして、想一の周辺でもおかしなことが起こり始め…。

 本作は、館シリーズの中でも異色といわれる作品ですね。でも、私は「水車館」よりこっちの方が好き(笑)。しかしながら、せっかくの京都(綾辻のテリトリー)だったのに、あまり京都らしくなかった、というのがとても残念。別に舞台を京都にしなくてもよかったんじゃないっすかね。内容にはまったく関係ない感想ですが(笑)。

 あまり書いてしまうとネタバレになってしまうのですが、なんせあの狂いっぷりがとても良いです。“見えない相手”に脅迫され、だんだんと憔悴していくさまが、鬼気迫っていく様子がたまりません。そして、あの結末(にやり)。なるほどね、と唸ります。


「人形館の殺人」綾辻行人

「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」麻耶雄嵩

2005年01月28日 | ま行の作家
さて、麻耶さんです。発行順に読んでいこうと思って。
とても長くて重たい作品なんですが、楽しく読みました。
この続きが「痾」でしたっけ。入手困難らしいんですよねえ。
多分、ここで振りまかれたやっかいな“謎たち”は、
この続編で解決するはず。と思っているのですが、いかがでしょう。

私にとってのいちばんの謎(というか違和感)は、
やっぱりメルカトル鮎でしょうね(笑)。
なんかだって、場違いなんだもん。

謎多きアイドル真宮和音とともに、通称“和音島”と呼ばれる島で
コミュニティーを築き、1年近くを共に生活していた4人が、20年ぶりに
その島を訪れる。編集長命令でその“同窓会”に同行した烏有と桐璃は、
このミステリアスな孤島で殺人事件に巻き込まれる。

まず。島に到着するまでが長い(笑)。
でも、それにも意味があるのですね。
後半、鳥肌が立ちました。あの部分です。
そこからとっても不思議な世界へと向かうのですねえ。
なんとなくカーを思い浮かべるのは、私だけでしょうか。
でも、最後のアレで全部合理的な説明がつく。。。らしい(^^;)。

ミステリーとしては、ちゃんと謎解きはなされてますよね。
後で知ったんですが、“アンチミステリー”なのですか。
そうですか。そんな感じはしなかったけどなあ。
ま、私は“何でもあり”だったりしますから(笑)。
でも「痾」が読めないのが、無性に悔しい。
地道に古書店で探します。
この雰囲気、結構ハマりました(^-^)。


「夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)」麻耶雄嵩

「迷路館の殺人」綾辻行人

2005年01月26日 | あ行の作家
館シリーズ第3作。文字通り、迷路の館です。
まず、「こんな館あるわけねー」と突っ込んでから読みました(笑)。

「十角館」「水車館」ともに、普通の小説でしたが
「迷路館」ではちょっと趣向を変えてあります。
凝りに凝った“作中作”の前後にちょっとした
エピソードが添えられていて、そこがまたひねってある。
ま、そんなことだろうな、とは思っていたのですが、
さらに予想を裏切る“ネタ”も仕込まれてました。
そういう、ストーリー以外の面白さもお楽しみのひとつ。
(作中作の発行人の名前は綾辻さんの本名という噂)

推理小説界の巨匠・宮垣葉太郎は、突然の引退の後、
郷里に建てた「迷路館」で引きこもって生活をしていた。
そんな折り、宮垣の還暦パーティーに呼ばれたのは、
彼の門下生ともいうべき新人作家4名と、評論家、
そして以前の担当編集者夫妻。
しかし翌朝、宮垣は自殺していて…。

トリックはおおむね楽しめました。
いろいろ予測したりするんですけど、見事に外しましたしね。
…そうです。このころからですよ、
“そうか、中村青司だもんなあ”とため息をつき始めたのは。
「あの平面図は、何の役にも立たない」ということです(笑)。
ま、トリックを解くには役に立たないかもしれませんが、
ストーリーを追っていくときは、逆に
あれがないと、どうなっているのかまったく分かりません(笑)。
あの平面図をコピーして、栞代わりに読むのがいいかも。


「迷路館の殺人」綾辻行人

「カラー版 古代エジプト人の世界-壁画とヒエログリフを読む」村治笙子

2005年01月25日 | その他
読みながら、さんざん文句を言ったので(笑)、
ここで改めて書く必要もないかと思いつつ。
でも先日、エジプト関連でとても嬉しいニュースがあったことだし、
それも絡めてちょっと書いてみようかと思います。

先日、エジプトで発掘調査をしている早稲田隊が、
未盗掘のミイラ(この表現おかしくない?)を発見しました。
ミイラは中王国時代のもの。王ではないけれども、
なかなか位の高い人ではないか、という報告でした。
確か、早稲田隊はカエムワセトの神殿及び墓を見つけるべく、
調査をしていたと記憶してます。カエムワセトは
ラムセス2世の第4王子なので、新王国時代のはず。
時代も違うし、どういういきさつで発見されたのかなど、
詳しい話を聞きたいと思っているのですが、あまりニュースなどでも
取り上げられていないのがとても不思議。

とまあ、一口に「古代エジプト」といっても、
ナイル川を統制しはじめた古王国時代からはじまって、
クレオパトラの末期王国時代まで、約3,000年あるんですね。
それをこんな薄い1冊でまとめようなんて、どだい無理な話ですって。
壁画とヒエログリフから読む、ということですが、
現在残っている、そのヒエログリフが刻まれた壁画というのは、
ほとんどがラムセス2世の時代に作られたものです。
そう。新王国時代の第19王朝期のことですね。
それだけを取り上げて、“古代エジプト人の世界”なんていうのは
いかがなものかと。しかも、本書のどこにもそんな注意書きは
ないわけですよ。初めて古代エジプトに触れる人がこれを見ると、
勘違いしますね、きっと。大袈裟にいってしまえば、ここに
描かれていることが古代エジプトのすべてだ、と思われても仕方ない。
…その辺をどう考えているんでしょうね。
だからせめて、メインタイトルとサブタイトルを逆にすればよかったのに。

「壁画とヒエログリフから読む古代エジプト人の世界」

ね。これなら問題ないさ。間違いじゃないもんね。
逆にこの方が、一つの時代に特化して説明できると思いませんか。
新王国時代の死生観、とか、第19王朝期の庶民の生活、とか。
ホントはヒエログリフだって、古いものと新しいものでは
違うと思うんですよね。だって、日本語ですらそうなんだもん。
壁画だって、時代によっては技法なんかが違うわけだし。
そういえば、アマルナ芸術に関しては触れてなかったなあ。
古代エジプト3,000年の歴史にあって、あんなに特徴的な時代なのに。

せっかくカラーなのに、岩波新書なのに。
もったいないなあ。というのが、正直な感想。


「カラー版 古代エジプト人の世界-壁画とヒエログリフを読む」村治笙子

「ほうかご探偵隊」倉知淳

2005年01月25日 | か行の作家
ミステリーランドの最新刊ですね(確か)。
倉知さんらしい、ほんわかした中にも鋭いひらめきが
ちりばめられた、とても楽しい作品でした。

5年3組に「連続消失事件」が発生する。
なくなったものはどれも“不用物”ばかりだけれど、
1日おきに物がなくなることには、意味があるのか?
5年3組の4人組が捜査に乗り出した!

ここで起こる事件は決して生臭いものではなく、
なんとも小学生らしい“できごと”ばかり。
それでも、江戸川乱歩に心酔している龍太郎の推理は鋭く、
いろんな“手”を見せてくれます。
本書の特徴は、解決部分がとても長いこと(笑)。
当然、これにもちゃんとした理由があって、
最後の最後まで楽しめる仕組みになってます。

あくまでも私の感想ですが、ミステリーランドの中で、
いちばんわざとらしくない“子供向け”の作品だと思いました。
とても評価の高い「虹果て村の秘密」とか「くらのかみ」とか、
もちろん私も好きですが、でも、どうしても
“子供向け”ということを、とても意識しているように
思えるんですね。逆に、私が素直に楽しめた
「闇のなかの赤い馬」とか「探偵伯爵と僕」なんかは、
“子供向け”をまったく意識していないんじゃないかと思ってます。
だから、あまり違和感を感じない後者が私は好きなのですね。
で、これは“子供向け”を意識しているのに、違和感を感じない。
たぶん、究極の“日常の謎”なんだろうな、と想像しました。
倉知さんだからこそ描けたんじゃないかな、なんて。
ということで、とても楽しませていただきました。


「ほうかご探偵隊」倉知淳

「東京のオカヤマ人」岩井志麻子

2005年01月24日 | あ行の作家
エッセイなのに、なぜか怖い。さすが、志麻子ねーさん。
同郷である水道橋博士の解説がまた楽し。
帯の文句も最高です。

ただのエッセイと思うたらいけんよ。

このひと言でこの作品は語り尽くされているような気がするので、
あまりだらだらと書くのはやめましょう(笑)。
岩井志麻子のホラーが好きな方はもちろん、
ホラーは苦手な方でも、少しでも岩井志麻子に興味が
あるなら、手に取って間違いありません。

とても勝手な言い草ですが、
全国的に香川県を知らしめたのは、麺通団団長・田尾和俊。
で、全国的に岡山県を知らしめたのは、間違いなく岩井志麻子。
そんな2人がコメンテーターとして共演している
番組があるんですねえ、すごいですねえ。すごい縁ですねえ。
とはいっても、瀬戸内海放送(香川・岡山のローカル局)なので、
当然といえば当然なんですけど。


「東京のオカヤマ人」岩井志麻子

「工学部・水柿助教授の日常」森博嗣

2005年01月24日 | ま行の作家
森博嗣はとても好きなのですが、この作品はいかがなものかと(笑)。
や。これも私はとても楽しく読みました。
でも、なんとなくミステリー(少なくとも“森ミステリィ”)を
期待している人にとっては、残念な作品かもしれませんね。

工学部に勤める水柿助教授は、日常のささやかな謎を
2歳年下の奥さん須磨子さんに披露する。
…はずんなんですが、途中からまったくの“日常”になってます(笑)。
気軽に楽しむ分には、とてもいい作品ですよ。
森博嗣を深く理解している方に、とくにオススメします(笑)。


「工学部・水柿助教授の日常」森博嗣

「妖魔の森の家」ジョン・ディクスン・カー

2005年01月24日 | さ行の作家
ポアロは大丈夫なのに、なぜH・M卿はダメなのかが謎(笑)。

「妖魔の森の家」「軽率だった夜盗」「ある密室」
「赤いカツラの手がかり」「第三の銃弾」の5編収録。
どれも、“以外な真実”という点で共通していると言えますが、
謎やそのトリックはすべて違う。それが素晴らしいですよね。

お気に入りは「軽率だった夜盗」。フェル博士ものです。
富豪ハント氏の家に集い、ポーカーに興じるのは美術商のロルフ氏と
美術評論家のヘンダーソン氏。1階にあり、大きく窓の取られた
その部屋には、本物の名画が飾られている。そしてその夜、
夜盗が忍び込むのだが、倒された犯人はなんとハント氏!

今振り返ってみても、なぜこれがお気に入りなのか分からない(笑)。
だって、すぐにトリックは分かってしまうし、
フェル博士は初めて読むのでキャラ萌えでもないし、
でも、とてもこの雰囲気が好きなのです。
「妖魔の森の家」のおどろおどろしい雰囲気も嫌いではないのですが、
あれは、その雰囲気と謎とトリックがあまりしっくりこなかった
ような気がします。H・M卿も原因の1つかと(笑)。
もう1つのフェル博士ものは「ある密室」。こっち謎は、
内容はそれほどでもなかったけれども、とても楽しめました。
なんだか自分でもよく分かっていないのですが、
どうやら私はフェル博士が好きなようです(笑)。


「妖魔の森の家」ジョン・ディクスン・カー

「水車館の殺人」綾辻行人

2005年01月20日 | あ行の作家
館シリーズの第2作目。
やっぱり、「十角館」ほどのインパクトはなく(笑)、
途中でなんとなく分かってしまった部分もありました。
でも、それで面白さが半減するとかいうわけではなく、
解説で有栖川有栖が書いてあるんですが、このシリーズの
魅力のひとつは、やっぱりあの“雰囲気”なんだと思います。
中村青司という人の得体の知れなさ。
それに対抗するのは、かの島田潔。なんか軽いぞ(笑)。
余談ですが、島田潔という名前を見る度に、
必ず思い浮かぶ人物がいるのですが…(笑)。
みんな多分、同じ人を思い浮かべるんじゃないかと思いますが。

古城を思わせる「水車館」には、仮面を被ったまま生活する主がいる。
1年に1度だけ、訪れることを許された人たち。
1年前に起こった事故以来、初めて他人を迎える“館”で、
再び、惨劇の幕が開こうとしていた……。

どこかのサイトに書いてあったんですけど、
「平面図は、トリックの解明に役立ちません」と(笑)。
ま、建築家・中村青司設計の館、ですからねえ。
ただ、今回の平面図、どこかで同じようなモノを見た気がします。
丸いのと四角いのとで、形が違うんだけど、
「六人の超音波科学者」森博嗣の土井超音波研究所。
これはとくに、登場人物に似た境遇の人がいたから
余計に印象強く残っているのかもしれません。

それにしても、アリスの解説は熱かった(笑)。


「水車館の殺人」綾辻行人

「まぶた」小川洋子

2005年01月20日 | あ行の作家
“残酷で不気味な8つの短編”と紹介されてましたが、
それほどでもなく(笑)。初期の短編集だった
「完璧な病室」の方が、私は背筋が冷たくなりました。
だからといって、こっちが悪いわけではないのですけど。

唐突に物語が始まって、そしていきなり終わる。
そういう潔さが心地いいなと感じます。
「まぶた」とか「お料理教室」なんかが、そんなところ。
私的には、ちょっとホラーな香りもする
「匂いの収集」「バックストローク」辺りが好きです。

基本的に私、純文学って苦手です。
だいたいにおいて、読了後決まって、
「だから何?」「どうしたいのっ!?」と叫びます(笑)。
そういう作品たちというのは、私に何も残してくれない。
純文学にはそういう作品が多いので、好きになれないのです。
しかし、そういうモノばかりとは限らないんですよね。
小川洋子がいい例です。ほかにも何かを残してくれる
作家さんが何人かいます。でも、明確な理由は述べられません。
こればっかりは、読んでみないと分からないんだなあ。
ミステリーの場合、読んで外れたら、投げればいいだけ
なのですが(…なんか間違ってますか?(笑))、
純文学の場合、投げる以前に「このもどかしさをどうにかしてくれ」
という欲求の方が強いのです。自分の中のモヤモヤを
なんとかして排除しない限り、私の平和は戻りません(大袈裟な)。
そういう作品(もしくは、作家)は、ホント相性が悪い、
ということで片づける以外、私には術がありません。
で、できるだけ近寄らないようにする。
これが平穏な読書生活を送る上での必須条件(大袈裟だって)。
ある意味、“ミステリー”という言葉に騙されているところも
あるんでしょうね。それはなんとなく自覚してます(笑)。

余計な話になりましたが、なんせ、小川洋子はいい。
憎みながらも決して離れられない男、みたいに好き(いったい何)。


「まぶた」小川洋子

「自由戀愛」岩井志麻子

2005年01月19日 | あ行の作家
1月23日にWOWWOWでドラマ化されるようです。
豊川悦司、長谷川京子、木村佳乃などが出演する模様。
時代は大正だし、いつもの“志麻子節”ではないけれど、
志麻子ねーさんの違った一面を見た気がします。

愛されて育った明子と、地味で控えめな清子。
女学校時代、机を並べた2人はしかし、
まったく違った境遇で再会した…。

大正ロマン、そして男のロマン。女はそれに翻弄されるだけ…。
そんなちょっぴり哀しいお話。愛憎の物語ではあるのだけれど、
それだけではない。男の知らない(分からない、もしくは理解できない)
女の気持ち、感情、そして心根までを丁寧に描いていたと思います。
エロくもなく、グロくもない、穏やかな終わり方が、
返って心に“何か”を残しているところは、
さすが岩井志麻子らしいな、と思いました。


「自由戀愛」岩井志麻子

「荊の城」サラ・ウォーターズ

2005年01月19日 | さ行の作家
一昨年読んだ「半身」は、ものすごい衝撃でした。
や。筋は案外ありがちなんですよね。でも、そこ(結末)へ
至までの道中と、その末路のギャップがなんともものすごかった。
「半身」がそんな作品だったので、ある意味手を出すのが
怖かったのですが、なんのなんの。「半身」を凌ぐ面白さでした。

舞台は19世紀のイギリスはロンドン。
スウは下町でスリを生業として生活していた。
一緒に住むのは、いかがわしい商売をしている“家族”たち。
そんなスウのもとへ、“紳士”と呼ばれる男性が話を持ち込む。
スウにそれに一枚かんでほしい、というのだ。
迷いつつもその話に乗ったスウは、一路「ブライア城」へ出かける…。

上下2巻、しかも洋モノとあって、苦手意識が先行していたのですが、
気付けばあの世界にどっぷり浸かっている(笑)。
物語にのめり込ませておいて、落す、というのは
「半身」で心得ていたはずなんだけど、想像以上にすごかった。
落されること数度。その度ごとに、余計にのめり込んでいくのですよ。
自分の意志ではなく、作者の意のままに引きずり回されるんですねえ。
なんでこんなに惹かれるんだろう、と考える隙も与えず、
すぐにあっち(物語)の世界に連れて行かれてしまいます。
そして迎えるフィナーレは、とても満足のゆくものでした(^-^)。

でも実は、一歩間違うと嶽本野ばらではないかとか、
いや森奈津子か?とか、そんな感じだったりするのは、内緒です(笑)。


「荊の城(上)」「荊の城(下)」サラ・ウォーターズ

「陀吉尼の紡ぐ糸 探偵SUZAKUシリーズ1」藤木稟

2005年01月17日 | は行の作家
前から、気になっていたシリーズ。
ええと、もちろん探偵・朱雀十五が、です(笑)。
だって、盲目だけどもんのすごくキレイだっていうじゃないですか。
しかも、性格だってそんなによろしくないというし。
(キレイな人は、多少ひねくれていた方が魅力的です(いったい何))
ということで、読んでみました。面白かったです。
(しかし、yahooで朱雀十五を検索すると、イラストの多いこと(笑))

でもアレですね、感想を見ていると“京極もどき”とか言われてますね(笑)。
京極は私、全部読んでますけど、でも全然そんな感想は抱きませんでした。
確かに、舞台設定とか登場人物とか扱う題材とかは同じですね。
でも、やっぱりモノは異質だと思いますよ。
ともかく、根底にあるテーマが違う。…と思うのですがどうでしょう(^^;)。
藤木さんはきっと、過去に興味をお持ちの方なのではないかと。
一方京極は、現代に、いかにして“過去”を生かすかに尽力している。
そんな風に思うんですけど。

さて、物語ですが、舞台は昭和初期。弁財天の境内にある
“触れずの銀杏”で、奇妙な変死体が発見されるところから始まります。
新聞記者の柏木洋介はさっそく出かけて行くのですが、出張っていた
軍と一悶着起こしたことから、担当を外され花魁担当に回されます。
事件を見、自分で取材して原稿を書く事件担当とは違って、
そこは洋介にとって苦手な根回しによる潤滑な人間関係が全てでした。
そんな中、洋介が出会ったのが、吉原の弁護士で盲目の元検事・朱雀十五。
盲目の麗人、だけど性悪。洋介はそんな朱雀をはじめさまざまな
人物に振り回されつつ、事件の謎に迫ります。

…今、物語を振り返ってみていると、やっぱり京極の真似っ子だな(笑)。
いや、でもやっぱり、謎の扱い方は違いますし、雰囲気も違うんですけど、
作者が“ソコ”を狙ったのはよく分かります。
読んで行くと、途中で「これはホントにミステリーなんだろうか」と、
不安になります(笑)。でも、ちゃんと最後に落ち着くんですねえ。
事件はだんだんと渾沌としていくし、洋介はまるで関口くんのようだし(笑)。
だんだん、だんだん、風呂敷は大きく広がっていくんだけれど、
「これでちゃんとまとまるのか?」と読者に心配させつつも(笑)、
無難なカタチでまとめています。ちょっとあっけない気もしましたが。
でも、シリーズ1作目だし、こんなもんかなと。
引き続き、読んでいきたいと思います。

同じような感想を持った方がいらっしゃいました(笑)。
「夢の杜 コトノハで泳ぐ」

「陀吉尼の紡ぐ糸 探偵SUZAKUシリーズ1」藤木稟

「大極宮3 コゼニ好きの野望編」大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき

2005年01月14日 | その他
毎週「週間大極宮」を読んでいるので、
わざわざ買う必要もないかと思うのですが、
3人の対談(雑談?)とか、書き下ろし短編とか
とてもおいしいおまけがついているのです。
一度読んでいるのですが、3人のコメントと合わせて読むと
より一層楽しめます。しかもコメント偏ってるし(笑)。

今回、私がいちばん期待していたのは、書き下ろし短編。
ショートショートでもいい、とか思っていたのですが、
小気味よく裏切られました(笑)。
なんですか、新聞の連載小説風のリレー小説で、
しかも大沢さんが第110回、宮部が120回、京極が130回、
という(直木賞受賞の回と合わせてあるんですね)飛石状態。
あらすじとかストーリーとか関係なく、
雰囲気で勝手気ままに楽しみました、という風情でございました。
…3人が3人とも楽しんで書いたんだなあ、
というのが伝わったからいいんだけどさ。
ちゃんとした“作品”を期待していた私が間違ってました(笑)。


大極宮 3 コゼニ好きの野望篇(角川文庫)
大沢在昌〔著〕・京極夏彦〔著〕・宮部みゆき〔著〕

出版社 角川書店
発売日 2004.11
価格  ¥ 620(¥ 590)
ISBN  4043611064

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