紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「闇色のソプラノ」北森鴻

2004年09月30日 | か行の作家
こちらは「蜻蛉始末」とはまったく違って、
読めば読むほど“違和感”が大きくなっていく。
微妙に狂ってる感じ。で、ちょっぴり嫌悪感。
読み終ってみると、それも狙いの一つなんだろうと分かります。

神のいない場所、東京都郊外にある遠誉野市。そこに
夭折した童謡詩人・樹来たか子の作品「秋ノ聲」に惹かれた
女子大生、郷土史家、末期ガンに冒された男性などが集まる。
樹来たか子とはどういう人物だったのか。どうして彼女の
作品にこんなに惹かれるのか、なぜ、そんな人たちが
遠誉野に集まってくるのか…。そんな中、事件が起こる。

遠誉野市が、歴史から取り残された場所である、と、
そういうところから始まるストーリー。
最初から“ん? なんか違うぞ?”という
ノドに小骨がささったような気分でずっと読み進めました。
結局最後までそのまんま。なんだか北森さんらしくない文章。
でも、物語的にはよくできていると思います。
ただ、“遠誉野”をもっと不気味にして欲しかったのと、
樹来たか子のあの詩が、それほど魅力的に思えなかったのが、
私としてはとても残念。実際、この作品の善し悪しってのは、
この2つにかかっているのではないかと思うのですが。

とにかく、今まで読んだどの作品とも
まったく違う趣をもった、北森さんっぽくない作品でした。
(言葉は否定的かもしれませんが、その部分を評価してます)

「闇色のソプラノ」北森鴻

「蜻蛉始末」北森鴻

2004年09月30日 | か行の作家
いやー、切なかった。
こんなに切ない話だとは思ってもみなかったので、
こてんぱんにやられましたね。
やーもう、切ないったら。

北森鴻の歴史モノです。
読み始めは、ものすごい“北森節”を感じたんですよね。
そして、だんだんとストーリーが進むにつれ、
物語の世界に引きずり込まれ、のめり込んでいくのが
自分でも分かります。それも北森マジックか(笑)。

史実「藤田組贋札事件」をモチーフに、傳三郎と宇三郎、
この2人の深い結びつきを壮絶に描いています。
幕末から明治にかけてってのは、激動の時代。
だから、この時代の歴史小説も多いんですよね。
表舞台で輝かしく活躍する人の話というのは、
やっぱり面白いものですが、実際にはそういった
記録や記憶に残らず、日々を過ごしていた人の方が
多いんですよね。そういえば、「魔羅節」のときにも
同じようなことを書いた気がするなあ(^^;)。
大きくうねりながら動く時代、起こる事件も半端なく大きい。
でも、そこへ至るまでの一つひとつを実際に起こしているのは
ちゃんと血の通った、感情のある生身の人間である、と。

幕末の萩の町。商家の息子・藤田傳三郎と、彼につきまとう
幼なじみの宇三郎。“とんぼ”とあだ名される宇三郎は
嘘つきで、最初はとても嫌な人物でした。高杉晋作や
久坂玄瑞らとともに、志士として活動したがる傳三郎にとって、
宇三郎は足手まといでしかありません。疎んじ、殴りつけたりも
するけれども、宇三郎は決して傳三郎の側を離れようとはしません。
それがうっとおしい(笑)。でも、読み進むにつれ、だんだんと、
とても宇三郎に気持ちが傾いていくのですよ、不思議と。

明治12年、贋札事件の容疑者として捕縛される傳三郎。
身に覚えのない彼は、何をされても否定し続けていた。
しかし、長引く取り調べの中、傳三郎はある噂を耳にする。

「札の地紋の端に舞う蜻蛉の、足が1本足りない。
 それが、贋札の見分け方である」 と。

それ以来、傳三郎は頑なに口を閉ざし続ける。
その噂から傳三郎は、幼なじみの“とんぼ”宇三郎を思い起こす。
故郷の萩を出て、大阪で財を成し「藤田組」をこれまで
大きくしてきた傳三郎と、宇三郎の間に何があったのか…。

「藤田組贋札事件」が史実だといわれても、全然ピンと
こなかったんですよね、私(笑)。でも、その「藤田組」は
今でも続いていて「同和鉱業」や「藤田観光」がそうなんだそうです。
「藤田観光」って。「フォーシーズンズホテル椿山荘」とか
「箱根湯ネッサン」とかの「藤田観光」ですよ。
これで一気に現実味を帯びました(笑)。

「蜻蛉始末」北森鴻 (文庫もあります)

「ものいふ髑髏」夢枕獏

2004年09月29日 | や行の作家
岩井志麻子の後に読むと、あまりに拍子抜けする(笑)。
北村薫なんかは、とてもキレイなお話を描く人だと
思うのですが、夢枕獏も、すっきりとキレイな文章を
書く人だと思います。現代モノだととくにそうですね。
「陰陽師」のシリーズだと、平安という時代と相まって、
言の葉の一つひとつまでもがとても高尚に感じます。

ミステリーではなく、ホラーでもなく、
敢えていうなら、怪談、でしょうか。
そういった“妖しい”短編10作が収録されています。

金貸しを営む強欲な銭法師・喜久五郎は、先を急いでいた。
墓所の近くを通りかかったとき、ふいに自分を呼ぶ声が
聞こえる。しかし、誰も見当たらない。気のせいかと思い
通り過ぎようとしたところ、着物の裾を引く者がいる。
それはしゃべる髑髏だった…。(「ものいふ髑髏」)

表題作は時代モノですが、ほとんどが現代モノ。
恐ろしい話には似付かわしくない優しい語り口。
それが、より一層“怪談”の怖さを引き立たせます。
でもどうしても、夢枕獏のSFモノには手がでません(^^;)。
食わず嫌いなのは分かってるんですけど、もともと
苦手意識を持っているSFに、彼が持つ文章の“優しさ”が
どうにもミスマッチに思えるんですよね。
「陰陽師」のイメージが強すぎるんだと思いますけど(笑)。
あの高尚な雰囲気が、でも現代モノには通用しないんだなぁ。
時代も舞台も何もかも違いすぎるからなんでしょうね。
ただ、中の1編「びくいしとい」はとてもキレイでした。
一見、幻想的に思えるんですが(というか幻想的なんですが)、
これまた美しい仕掛けがあるんですよ。
もう、なんだか感動しちゃいました(^-^)。

「ものいふ髑髏」夢枕獏

「邪悪な花鳥風月」岩井志麻子

2004年09月27日 | あ行の作家
 一方変わって、こちらは現代が舞台。
 時代が違うだけで、こんなにイメージが違うのか!
 というくらい、雰囲気が違います。
 おどろおどろしさが消えてしまって、
 私的にはあまりホラーな感じがしない(笑)。

 美貌と才能とお金、すべてを持ちあわせた作家の「私」。
 執筆をするために借りたウイークリーマンションの窓から、
 隣のアパートが見える。そこに暮らす人たちを題材に
 物語を描き始める「私」…。

 幻惑の世界、というよりは、混迷の世界、なのかも。
 この狂い具合、どろどろ具合がいい。
 そして、最後には決して救われないところも魅力(笑)。
 どうしてか、岩井志麻子の作品だと、
 救われなくても痛くもなんともないんだよね(笑)。

「邪悪な花鳥風月」岩井志麻子

「魔羅節」岩井志麻子

2004年09月27日 | あ行の作家
志麻子節、炸裂。
あなたは、どこへ行こうとしているの(^^;)。
と思いつつも、でもこれって、事実だよな、と思ってみたり。

岩井志麻子といえば、「ぼっけえ、きょうてえ」
ホラーというイメージが強いかもしれないけれども、
私的にはホラーというより、明治の貧しい岡山。
明治だからこそ、貧しいからこそ、岡山だからこそ。
時代・経済・環境がそろってこそ、
生み出される物語に深みと影が増す。

所は岡山市、とある貧しい長屋の一室。
男娼の兄は夕方になると身支度を整えて出かけていく。
それを見送る妹との2人暮らし。
両親が亡くなり、貧しい農村を捨ててきた2人だが、
ことあるごとに思い出す歌がある…。(「魔羅節」)

表題作を含め全8作を収録した短編集なのですが、
タイトルを書くのもはばかられるようなものばかり(^^;)。
カバー裏の一節を引用してみますが、

「血の巫女・岩井志麻子が、呪力を尽くして甦らせた、
 蕩けるほど淫靡で、痺れるほど恐ろしい、岡山土俗絵巻」

と。ここで注目したいのは、“呪力を尽くして”という
ところではなく(笑・てか、志麻子ねーさんならありうる)。
“甦らせた”という部分ですね。
幕末から明治初頭にかけて、それこそ怒濤のような時代の
流れに乗って、というか、乗れた人はそれはいい生活を
してるんでしょうね。大半の人は、その流れに身を任せるだけ
だったのだろうと思われます。なすがまま。どうにか
なってみないと分からない、というのが正直な気持ちでしょう。
しかしながら、乗ることもできず、身を任せることもできなかった
人たちはどうなったでしょう。取り残され、誰にも省みられず、
きっとずっとそのまま、蚊帳の外に置かれたのではないだろうか、と。
そこで何があったかなんて、歴史の表舞台には出てこないんです。
それを、呪力で(笑)甦らせたんですね、この人は。
ちょっと呪いのパワー強すぎですが。
どんなに卑猥なタイトルだろうと、どんなにエロくてグロかろうが、
私は岩井志麻子の描くこの手の話に惹かれます。

「魔羅節」岩井志麻子

「13階段」高野和明

2004年09月24日 | た行の作家
物語が進むにつれ、一瞬、自分は折原一を読んでいるのかと
錯覚しました(笑)って、これはネタバレにはならないよね?

事件当時の記憶がないまま死刑判決を言い渡され、
収監されている死刑囚。彼の冤罪を晴らすべく、
刑務官・南郷は殺人の前科を持つ青年・三上を従えて
調査に乗り出す…。

映画は見ていないのですが、あまり評判はよろしくないようで、
あの宮部すら、映画を否定してますしね(笑)。
確か、記憶の中では、反町は死刑囚役をやっていたような
気がするのですが、原作では彼、ほとんど出てきません(笑)。
映画では、原作と違ったところにテーマを見出したんでしょうね。
と言いつつ、何をテーマにしたのか推し量れませんが。

久しぶりに重たくて痛い作品を読んだな、と(^^;)。
読み始めから“何か”あるな、ってのがすぐ分かるんですよ。
でも、その“何か”が何なのか、なかなか分からない。
そのもどかしさに加え、テーマの重さ、ストーリーが進むにつれ、
増していくスピード感に、心が付いていけない(^^;)。
久々に胃から打ちのめされました(笑)。
胃痛をもよおし、胃薬とともに読んだのは、「青い炎」以来です。
この内容からすると、あのラストは、良い形だと思います。
少しだけでもみんな救われたんじゃないかな、と。
きちんとした“答え”ってのは出ていないのかもしれない。
でも、南郷には決着がついたんだろうし、三上も何かを
見出していてくれればいいなあ、と思います。
ま、ああいう目に遭った“彼”にとっても、
すべて“因果応報”で納得できるのではないかと。
どっちが原因でどっちが結果なのかってのは、
よく考えなきゃいけないでしょうが。でも、それでいいじゃん(^-^)。
なんて、自分が勝手に思いたいだけだったりします。

「13階段」高野和明

「バスカビル家の犬」大沢在昌/原作:コナン・ドイル

2004年09月22日 | あ行の作家
一方こちらは、シャーロック・ホームズシリーズ。
ホームズものはあまり読んでないんですが、
案の定、コレも読んでませんでした(^^;)。
でも、つい先日「シャーロック・ホームズの冒険」
「シャーロック・ホームズの帰還」を読んだばかりなので、
なんとなくホームズの感覚は体に残っていて、
大沢在昌のホームズも、違和感なく楽しめました(^-^)。
…ということは、ですよ。
逆にいうと、先の「奇巌城」とは違って、
まったく大沢在昌の色が出ていなかったような気がします。
それがちと残念。

ストーリー的には、今回は、ワトスンが心動かされるような
女性が現れないにもかかわらず、ワトスンの推理は空回り…。
ま、そういう役回りなんですけど(笑)。
しかし、ホームズがものすごく“英雄”に思えるのは、
大沢さんのせい?(てか、おかげ)。
これから違う訳者さんのモノを読んで比べてみたいところです。

「バスカビル家の犬」大沢在昌/原作:コナン・ドイル

「奇巌城」逢坂剛/原作:モーリス・ルブラン

2004年09月22日 | あ行の作家
いわずとしれた、アルセーヌ・ルパンシリーズ。
昔の、ポプラ社から全33巻で発行されていたシリーズの
第1巻が「奇巌城」です。今の新しいシリーズの第1巻は
確か「怪盗紳士」ですかね。今は全20巻ですか…。
でも、南洋一郎の訳は変わってませんね(^-^)。

個人的なことなんですが、私がミステリーを読み始めた
きっかけが、この「奇巌城」なんですね。このシリーズが、
どれだけ私の小学生生活に影響したか(笑)。
シリーズ中、いちばん好きな作品は「813の謎」なんですけど、
いちばん思い出深いのは「奇巌城」。大人になっても、
何年かごとに、思い出してはいろんな本を手にするんですよ。
岩波だか新潮だかの文庫版だと確か堀口大学訳だったんですよね。
あと、創元推理文庫版だと石川湧訳。榊原晃三、水谷準とか、
とにかく、いろんな訳者のものを読み比べました。
が。全然思い出のモノとは違うんですぅ。
(それは最近、南洋一郎のせいだと発覚したのですが(笑))
もうこれは、もう一度ポプラ社のシリーズを読み返すしか
ないかも…と思っていた矢先、コレを見つけたんですよ。

実は、逢坂剛の作品、まともに読んだことがありません(^^;)。
でも、これがどれよりもいちばん思い出の中の作品に近かった!
それだけでもう感激(笑)。
今回逢坂さんは、いろいろと手を加えたようです。
というのも、原作がまどろっこしかったから、だそうな(笑)。
しかしながらこうやってキレイにまとめられたモノを読み返すと、
ルパンものではなく、ボートルレ少年が主人公じゃないか(笑)。
思わずルルーの「黄色い部屋の謎」を思い出しました。

もうね、作品としての評価ってできない(笑)。
いいんです。大切な思い出としてとっておきますから(^-^)。

「奇巌城」逢坂剛/原作:モーリス・ルブラン

「クロへの長い道」二階堂黎人

2004年09月21日 | な行の作家
シンちゃん、相変わらずハードボイルド~(笑)。
これって二階堂さん、狙ってるんだよね?
(なんて確認するのは、ちょっと自信がなかったりするから^^;)
ちなみにこちらの前作は「私が捜した少年」
コミック版もあるのよ、これが。
「渋柿信介の事件簿 歯なしの探偵」河内実加・画
(今月23日には2巻も出るようです)

ライセンスを持たない私立探偵・渋柿信介、独身で6歳。
彼の仕事はには、同じ幼稚園に通うクラスメイトから
さまざまな依頼が寄せられる。彼は最近の懐事情を考えて、
依頼料を安くしてでも、仕事を引き受ける…。

果たして、幼稚園児がそこまで考えるのかは疑問ですが(笑)。
まあそれはいいとして。
幼稚園児という制限ありありの中、シンちゃんはちょっとした
ヒントから謎を解いていきます。それは、大人ではなかなか
気付かないような着眼点だったりするんですが、
シンちゃんはあからさまには伝えようとはしません。
それとなーく、大人にそっちに目を向けさせ、さらに、
うまく誘導して、大人が自分で気付いたことにしてあげるんですね。
さりげなく大人をたてるなんて、人生の機微を知ってらっしゃる(笑)。
そういう細かいところがツボなのはもちろん、“謎解き”も
魅力なのがこの作品のポイント。シンちゃん自身はハードボイルドを
気取ってますが、もう、紛れもない名探偵。その論理的な推理には
論理的に推理しないエノさんも脱帽(ここで引き合いに出すか?)。

実際、幼稚園くらいの子供の頭って、すごく柔らかいんですよね。
どうしてそんな発想になるんだ?とか、どうやったらそんなことを
思いつけるの?とか、ホント不思議だらけ。中には、論理的に
推理することができるような子がいてもおかしくないよね。
…なんてことはさすがにないか(^^;)。

「クロへの長い道」二階堂黎人

「続・垂里冴子のお見合いと推理」山口雅也

2004年09月21日 | や行の作家
まだ言います。いつまでも言います(笑)。
「生ける屍の死」でさんざん苦労した山口雅也ですが、
こういう軽めの短編集がとても面白いと思います。
ついでに、前作は「垂里冴子のお見合いと推理」(まんまやん・笑)。
主人公は、垂里家の長女・冴子さん。
孤高のお見合いハンター・合子おばさんの持ってくる
お見合いには、必ず事件がつきまとう(笑)。
一見、現実離れしたお嬢さんであるところの冴子さんですが、
ひとたび推理に乗り出せば、シャッキリと、そして
スッキリと見事に事件を解決していまうのでした。

垂里家最大の問題児・空美と、冴子にほのかな憧れを抱く弟の京介。
今回も3人そろって大活躍。私はどうしても空美が
好きになれないんですが、それも冴子と京介ののほほんな
コンビがカバーしてくれるので、まあ、良しとしましょう(何)。
なんとはなしに、“姉は偉大なり”という気分にさせてくれます。
(といいつつ、自分が“姉”の立場なのですが(笑))

「続・垂里冴子のお見合いと推理」山口雅也

「作家小説」有栖川有栖

2004年09月17日 | あ行の作家
“作家”だらけの短編集。という触れ込みだったので、
なんとなく「ジュリエットの悲鳴」に収録されていた
「登竜門が多すぎる」的な作品を期待していたのですが、
そんなことはなく(笑)、それでもなかなか楽しめました。

取り憑かれた作家、悶絶する作家、慌てる作家、
怒る作家、笑う作家、壊れる作家…。
“作家”という職業が、こんなにキテレツだとは(笑)。

「奇骨先生」がなんとなく、アリスっぽくなくて
良かったです(こらこら^^;)。
あと「殺しにくるもの」はダーク・アリスって感じ(何)。
なんだかミステリーとホラーの境目を走っている作品が
多かったような印象。火村&アリスのシリーズとは
違った感じで、面白かったです(^-^)。
アリスって、あんまり型に捕らわれない方が
面白いのかもしれない(こらこらこら)。

「作家小説」有栖川有栖

「改定文庫版 まるごと宮部みゆき」朝日新聞社文芸編集部編

2004年09月16日 | あ行の作家
文字通り、デビュー作から最新作まで、全作品を完全に網羅。
文庫なのにカラーで紹介されているのは嬉しい(^-^)。

宮部といえば人情モノ。最近、私もやっと“人情モノ”と
認識するようになりましたが、なぜか宮部は私の中では、
“日常系”。日常の謎ではなく、ちゃんと(?)殺人事件も
起こるし、残忍で凶悪な事件も起こるんですけど、
でも、事件そのものよりも人物にスポットが当てられているので、
読後ほんわかしたり、痛かったり、事件よりもそっちの方の
印象が強いんですよね。人が日常を生きていく、ということを
とても意識して、書かれている作品が多い。だから、“日常系”。
ま、正しくは“人情モノ”と言った方がしっくりくるのでしょうが。
そういった宮部の魅力がとてもよく分かります(^-^)。

ちなみに私の好きな宮部作品は、「龍は眠る」「火車」「ぼんくら」
「サボテンの花」(短編/「我らが隣人の犯罪」収録)などでしょうか。

あと、インタビューの内容自体は、とても面白く読んだのですが、
なんとなくインタビュアーに反感(笑)。インタビュアーは
著名な方のようなのですが、なんかこのインタビューの
仕方はヤだ(笑)。あなたの考えはどうでもいいので、
もっと宮部の本音を聞かせてくれぃ、と思った次第…。
もう一つのインタビュー、大林宣彦監督との対談は、
短いと思ったくらい。時間的なこともあったのかもしれませんが、
せっかくのチャンスなので、もっとたっぷり読みたかったな。

「改訂文庫版 まるごと宮部みゆき」朝日新聞社文芸編集部編

「沈黙の教室」折原一

2004年09月15日 | あ行の作家
まず、ハヤカワミステリ文庫じゃないのに驚き。
(ハヤカワ文庫なのね)
日本推理作家協会賞長編賞受賞なのに。

青葉ケ丘中学3年A組。“沈黙の教室”と名付けられた
悪魔のようなこのクラスでは、生徒にだけ
「恐怖新聞」が発行され、“粛清”の対象に
指名された生徒には残酷ないじめが待っていた。
それから20年。同窓会の告知が新聞に掲載され…。

“粛清”。
その響きだけで、なんかびびりますよね(笑)。
自分が中学生の頃、命にかかわるような暴力を
振るわれたわけではなかったけれども、
いじめられるのって、結構しんどかったと思うんですよ。
どちらかというと、じめられる側だったので(^^;)。
そんな、いたたまれないというか、もうどうしようもないという
いじめられる側の諦めの気持ちと、いじめる側の邪気のない残酷さ、
そして、“大人”の受け止め方。どれも交わらない。
3本の線がどこまでも平行に、もしかしたら、
違う次元に存在しているのかも、というくらい、
接点を持てない。で、その隙に生じるのが、“倒錯”。
あ。やっぱ倒錯してるんじゃん(笑)。ま少しですが。

日本推理作家協会賞長編賞受賞というだけあって、
ちゃんとミステリーです。後半、何度も読み返すほど(笑)、
折原“プチ倒錯”ワールドを醸し出してます。
折原を読んでいるといつも思うのですが、
この人の作品、最後まで手が抜けませんね(笑)。

「沈黙の教室」折原一

「101号室の女」折原一

2004年09月14日 | あ行の作家
そんな折原“倒錯ワールド”を満喫できる短編集。
短編なので、思う存分堪能、というわけにはいきませんが、
それでも、なぜか引き込まれてしまう魅力、というか
“魔力”があります(笑)。

うらぶれたラブホテルにやってきた1人の女性。
鍵をもらった部屋は101号室。
けれど、さっきからフロントの様子がなんだかヘン…。

サブタイトルに、倒錯しているのは誰? とか付けたい(笑)。
全9編、どれもこれも、みんないい感じに狂ってます。
短いので、大きな仕掛けがあるわけでもなく、たいそうな
事件になっているわけでもないし、ある程度予測できて 
しまうところもあるのですが、それにしても惹かれる。
どっぷり作品の世界に引き込まれるんです。
有無を言わさず、引きずり込まれるんです。
お風呂のお湯を溢れさせそうになったし、
通勤電車は何度かワープしましたし(笑)。
とても不思議な魅力、というより、魔力なのでしょうね。
いやはや。堪能しました(^-^)。

「101号室の女」折原一

「倒錯の死角(アングル)201号室の女」折原一

2004年09月14日 | あ行の作家
文庫版は最後が袋とじになってました。
(古本を買ったので、開けられてましたけど(笑))
気になるじゃないですか(笑)。
また、大層な“倒錯の仕掛け”があるんだろうな、と。

ベッドの上に見える、すらりとした白い足。
向かいのアパートの201号室。
見てはいけないという理性と、見たいという欲望。
屋根裏から双眼鏡をかざしていた男が見たものは…。

初めて折原を読んだのが「倒錯のロンド」
そこからあの、眩暈のするような、
めくるめる倒錯の世界が忘れられなくて(笑)。
今回はどんな壊れ方だろうと期待しながら読んだのですが、
最後。袋とじの部分です。
なんとな!←讃岐弁(久々に出ました(笑))
 ※なんじゃこりゃ、みたいな意味
いやー、究極の壊れ方ですよね。想像してなかった。
京極堂へ向かう途中の“眩暈坂”と(「姑獲鳥の夏」冒頭部分参照)、
どっちがクラクラくるか比べてみたいほど(何)。

誰かが必ず倒錯してるわけだから、物語自体も全部
信じていいのかどうか分からない(笑)。
でも、その中でどれが本当なのか、見極めないと
ストーリーが面白くなくなるかもしれない。
なんだか読む方も、必死になって読んでる気がします(^^;)。
でも、クセになるんだよねえ。

「倒錯の死角(アングル)201号室の女」折原一