紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

『FINE DAYS』本多孝好

2007年04月11日 | は行の作家
オンライン書店ビーケーワン:FINE DAYSFINE DAYS』本多孝好(祥伝社文庫)

ミステリではなく、どちらかというと、
ファンタジーの部類に入るのかな。
“恋愛小説”って冠がついてますね。

表題作含め4編を収録した短編集。
本多さんならではの、爽やかなのに切ない、
泣きたくなるような物語ばかりです。

中でも好きなのは「眠りのための暖かな場所」。
体が外側からだんだん冷たくなって、
そして、全身が冷え切った頃に眠りが訪れる…。
そんな経験はないですが、気持ちは分かる。
そうやって、罰を受けようとしている気がします。
小さな1つのわだかまり。
それが心の中でどんどん成長していくことに
気づきならが、目をつぶっているんだけれども、
どうしようもなくなる。
なんとなく、昔の自分を思い出しました。

『おれは非情勤』東野圭吾

2005年10月09日 | は行の作家
オンライン書店ビーケーワン:おれは非情勤おれは非情勤』東野圭吾(集英社文庫)

小学校に勤める非常勤講師が主人公の連作短編。
主人公には名前がなく、とっても硬派を気取っている
“ハードボイルド”なんだそうですが、謎解きは
しっかり本格です。これはある種、二階堂黎人の
しんちゃんのシリーズに似通っている気がしないでもない。
(主人公の年齢が随分違うけれども)
何より、「5年の学習」「6年の学習」に掲載されていた、
というのが驚きです。起こる事件がそれほど凄惨ではない
(殺人は起きますが)ということ以外、とりたてて
子供向けな感じはしませんでしたけどね。そこが
返って子供に対してもフェアな気がして良かったです。

硬派でハードボイルドな主人公は、好んで小学校の
先生をやっているわけではなく、ミステリ作家に
なりたいらしい。けれども、その夢を叶える暇はない上、
行く先々で不可解な事件に巻き込まれてしまいます。
先生が殺された現場にダイイングメッセージが残されて
いたかと思うと、教室ではいじめがあったり、また
毒物中毒事件が起こったり…。途中まではなんとなく
分かるんですが、結局謎解きにまでは至りませんでした。
それはなぜかというと、大人の目線と子供の目線で
こうも見方が違うのか!ということに尽きるのかな。
子供の世界で起こる事件は、子供の心理で解かないと
分からないのね。それを、この主人公は見事に解決する
わけです。学校の先生になりたいわけではないらしい
主人公ですが、そういう部分はとっても先生向きだなあ、
とか思ってしまいました(笑)。

話は大きく変わりますが、昨日テレビで「ごくせん」の
特番を見たのですね。いまさら学園ドラマなんて見られない
と思っていたので、ドラマは全く見てなかったのですが、
この特番でダイジェストを見ていると、結構面白い!
やっぱり単純なんだけど、そこが高校生らしい素直さ、
純情さなんだと思い知った気がしました。
それとこの作品はなんとなく通じる部分があって、
結局自分は大人ぶってはいるけれども、やっぱり
過去子供であったことは間違いなく、そういう部分は
いつまでたっても忘れないんだなあ、とか思ったわけです。
主人公の、子供への言葉とか態度なんかを見ていると、
子供をちゃんと1人の人間として見ているというところが、
ちょっと心に残ったりして。。。こういう作品に触れられる
現代の子供たちがちょっとうらやましい(笑)。

『そして夜は甦る』原りょう

2005年07月05日 | は行の作家
初・原りょう。ものすごく楽しみました(^-^)。
ハードボイルドが、これほどまで“オンナゴコロ”をくすぐるもの
だとは知りませんでした(笑)。読み方を間違えていたっていい。
楽しめれば、それで満足(^-^)。

孤独な私立探偵と失踪事件。それが、ハードボイルドの条件だそうです(笑)。
沢崎は、渡辺探偵事務所の1人きりの探偵。そこへ、ある男が訪ねて来る
ところからこの長い物語は始まります。その男の依頼とも呼べない話は
分からないことだらけなのですが、沢崎が気にし始めるのと同時に、
その男が話した行方不明の男性“ルポライターの佐伯”の話を違うところで
再び聞くことになるのです。そこで、沢崎は事件を感じたのか、因縁を
感じたのか、それとも運命を感じたのか…。佐伯の妻から正式に依頼された
ことにより、沢崎は佐伯の行方を探し始めます。

私が読んだ作品の中でハードボイルドといえば、レイモンド・チャンドラーの
長いお別れ』。私立探偵のマーロウが、淡々と事件をこなしていく、という
イメージがあります。多分、ハードボイルドというのはそんな感じなんだろう
と想像していたのですが、本書は、私のイメージよりも随分マイルドな感じ。
徐々に真実に辿り着きつつあるのは分かるのだけれども、新たな真実が
判明するたびに、状況は二転三転…。本来ならこういうときに感じるべき
“どきどき感”が、沢崎の目を通して見ることによって、冷静になっちゃって、
なんというか逆にわくわくするんです。私はとくに、感情移入して読む
タイプなので、主人公といっしょにどきどきしたり、ハラハラしたりするんですが、
今回は傍観者でいられた。だから余計に感じる面白み、というものも発見できた
んじゃないかと思います。私のツボにはまる“小ネタ”も満載だったし(笑)。
何かと縁のある新宿署の錦織警部との掛け合いがもうたまらなくいいんですよ。
一見、ギリギリのところでやり取りしているように思えて、本当は信頼で
結ばれているんだろうな、と思える“男と男の友情”みたいなものとか、
もうバリバリのハードボイルドなんだけれども、沢崎がまた、計算ずくで
すっとぼけたことをしたりするから笑える。それに躍らされている錦織だって、
分かって踊っているからいい。こういうところが、女心をくすぐるんです(笑)。

レイモンド・チャンドラーに捧げた作品だそうですが、1作しか読んでない
私でも充分楽しめましたし、この作品からハードボイルドに入っていくのも
幸せかもしれません。沢崎が登場する作品はまだあるようなので、
引き続き読んでいきたいと思いました。


そして夜は甦る』原りょう(ハヤカワ文庫)

『ALONE TOGETHER』本多孝好

2005年06月27日 | は行の作家
MISSING』に続いて、久々の本多さん。前回とは違って、長編なのです。
カバー裏にあるあらすじを見ているとそうでもないのですが、最初の
2・3ページを読んだだけで、ぐぐぐっと物語に引き込まれます。

かなりの努力とお金をかけて入学した医大を、いとも簡単に辞めてしまった
「僕」。フリースクールで講師のバイトをしなら過ごした3年後、脳神経学の
教授に突然呼びだされ、「ある女性を守ってほしい」と頼まれます。
「僕」と教授との接点は、学生時代「僕」が教授の授業を数回受けただけの
こと。当時「僕」は、1度だけ教授に質問をしました。「脳に呪いの入る
隙はあるのか」と。権威といわれた教授の答えは、「その可能性を否定する
ことはできない」。それを聞いたがために、「僕」は大学を辞したのです。

とまあ、こんな前フリを喰らって読まずにおけるか、ということで、
一気読みです(笑)。ただ、どこに触れてもネタバレになりそうなので、
感想を書くのが難しいのですが…。ひと言でいえば、「僕」は依頼された
ことを成し遂げることで、自分の存在を認めるようになるのではないかと。
でも、そんなに簡単なことでもないしな(笑)。…何を書いているのか
分からないかもしれませんね(^^;)。もしかしたら、この物語は、
あるがままをそのまま受け止めればいい作品なのかもしれませんね。
読むだけで、深く考えない方がいい。というのも、普段はできるだけ
見ないようにしている自分のホンネを意識してしまって、ちょっとブルーに
なってしまいました(笑)。でも私は楽観的に生きてきたから、ここまで
生きてこられたけれども、「痛い」ことを、嘆かず悲しまず、しかも誰の
せいにもせず、ただ「痛い」状態のままにしておく「僕」と学園の子供たち。
彼らのことを考えれば考えるほど、どつぼにはまって抜けられなくなります(笑)。

ただ、最後に救いとまではいかないけれども、ほんの少しだけでも“希望”を
残してくれてあるので、読んでいる方はそれで救われます。そして、
水柿くんを思わせる「僕」の思考も、もしかしたら、ホントは健全なのかも(笑)。


ALONE TOGETHER』本多孝好(双葉文庫)

「痕跡」パトリシア・コーンウェル

2005年03月23日 | は行の作家
このシリーズを読んでいる方をあまり知らないのですが(笑)、
私は「検屍官」から、リアルタイムで追ってます。
前作の「黒蝿」から第2部、というような感じで、
登場人物はあまり変わりませんが、彼らを取り巻く環境は
劇的に変かしています。その中でも、まだケイは狙われるのです(笑)。

法医学コンサルタントのケイ・スカーぺッタは、
死因不明の少女の遺体を調べるため、5年ぶりにリッチモンドへ赴いた。
かつて彼女が局長として働いていた検死局の建物は、無残にも
壊されている最中。新しい検死局は、目も当てられないほど“狂って”いた。
リッチモンドで今、何が起きようとしているのか…。

検死の描写は、相変わらず微に入り細をうがっており、
ここで“証拠”が発見される様はいつ読んでいても気持ちいいもんです。
たいてい、ケイが見つけるんですけど、そこにはもっと“職人”な
人たちもいるわけで、日がな一日顕微鏡とにらめっこをしているような
ある種の変人たち(笑)も、上手く使われると非常に素晴らしい
結果を導いてくれるのですね。そういう種類の人達の使い方が、
ケイは非常に上手かった。これまでのシリーズでは、そうやって証拠を
得ていく様を眺めつつ、だんだんと真相に近づいていく様子に、
手に汗を握っていたのですが、「黒蝿」以降は、ケイの一人称ではなく、
三人称で描かれていることからも、そこからは少し離れて、
もう少し大きく登場人物たちを捉え、物語を眺めていくことによって、
楽しめるような展開が待っている…ということなのでしょうか。
そういう観点から眺めてみると、これまではリッチモンドの検死局を
舞台としていたのが、これからは、ルーシーの会社が舞台となるようです。
ルーシーや相棒のルーディはもちろん、今ではマリーノもそこの社員で、
ケイに至っては顧問という形をとっていますね。そして、例のあの人も…。
そうですね、やっぱり起こる出来事(事件の解決)を楽しむ、
というのではなく、シリーズとして楽しむ作品へと進化したようです。


「痕跡(上下)」パトリシア・コーンウェル(講談社文庫)

【カバー裏より】(上巻)
 一本の電話が始まりだった。法医学コンサルタントのケイ・スカーペッタは、死因不明の少女の遺体を調べるために、5年ぶりにリッチモンドの地を踏んだ。そこでは事件へのFBIの関与が明らかになる一方、かつてケイが局長として統率した検屍局が、無惨にも破壊されつつあった。この町で何が起きているのか?

【カバー裏より】(下巻)
 その奇妙な微物は、死んだ少女の口のなか、主に舌に付いていた。2週間後、まったく別の場所で亡くなった成人男性の遺体から同じ物質が採取され、事件の様相は一変する。憂愁と恐怖、挫折と殺意がこの世界を覆いつくし、さらにスカーペッタの姪、ルーシーにも何者かの影が迫る! 死の連鎖をくい止めろ!

「終戦のローレライ」福井晴敏

2005年03月09日 | は行の作家
舞台は1945年、終戦間近の日本。といっても、
“終戦間近”だと理解しているのは、軍の中でも一握りの存在で、
命令されるがままに西へ東へ、南へ北へと奔走させられる下々の
軍人さんたちには知る由もなく、また“関係ない”と
言い切ってもいいのかもしれません。
と、こんな切ないことを思うようになったのも、読み終えてから。
終章へ辿り着いて初めて、感じることができました。
文庫で全4巻、ほぼ1冊1章という感じで進む物語は、全編が
激戦というわけではないのに、息つく暇もなく、手に汗を握りながら
ただただ、没頭して読み続けるだけでした。結末へ向かって。

海軍軍令部に籍を置く浅倉大佐の命により、ドイツ軍より譲り受けた
潜水艦《伊507》の艦長となった絹見。“特攻”として訓練を受けてきた
17歳の清永と折笠。南方での戦争で地獄を見、鬼とあだ名される田口。
艦に乗り込むのは初めてたどいう軍医・時岡。機関部の主・岩村。そして、
ドイツの艦《UF4》であった頃から乗り込み、驚異的な探査システム
「ローレライ」の“全て”を担う元SS将校フリッツ・エブナー。
誰もが軍人でありながら、それでもやっぱり人間である。立場や命令や、
なんなら今起こっている戦争ですら関係なく、それぞれが胸に“思う”
ことはあるわけで。しかし、それを無視してでも“皇軍”であろうとする
ことが、とても悲しいことである、と気付かせてくれます。“皇軍”で
あろうとするのは、戦地へ飛ばされる軍人のみ。上層部は、日本という
国のことについては、何も考えていないのだから…。

序章から第5章まで、それこそ没頭して読み続けました。
が、終章です。その後、いわゆる“戦後”から“現在”までを
ざっと駆け抜けていくわけですが、なんか虚しくなりましたね。
あんな“ドラマ”があって、あんなに命を掛けた人たちがいて、
その上に成り立っているはずの、この平和な現代日本。自分も
その中に組み込まれているんですが、ホントいやになった(笑)。
でも、これは一つの“副作用”だと思って受け止めます。少し時間が
経てばすぐに冷静になって、この物語の“核”がちゃんと
見えてきますから。今までもあったモノだし、これからもずっと
あり続けるモノだし、誰もが最初から心に持っているモノでもある。
この物語は、ともすると忘れがちになる“それ”を思い出させ、
“それ”を持っている心を鷲掴みにします。
映画とも多少内容が違うし、ぜひとも読んで感じて欲しいと
思ったので、とてもぼやけていて、何を書いているのかわかりにくい
かと思いますが(ま、いつものことではあるのですが(笑))。

それともう一つ。福井さんの文章が、とても好きです。
どこがどう、とは説明できませんが、分かりやすくて伝わりやすくて、
居心地のいい文章、とでも言いましょうか。戦争用語とか、軍のこととか、
難しそうだしハナから興味のないことも、物語に支障がない程度には
理解でき、なんというか、そんな難しいことを考えるまでもなく、
気付くと物語の世界へ心を持って行かれてしまっている、という。
読む人の心を惹きつける文章なんでしょうね。私にとっては、
テーマがテーマだけに、なかなか手が出にくい福井作品ですが、
これからは臆することなく読むことができそうです。


「終戦のローレライ1~4」福井晴敏(講談社文庫)

「陀吉尼の紡ぐ糸 探偵SUZAKUシリーズ1」藤木稟

2005年01月17日 | は行の作家
前から、気になっていたシリーズ。
ええと、もちろん探偵・朱雀十五が、です(笑)。
だって、盲目だけどもんのすごくキレイだっていうじゃないですか。
しかも、性格だってそんなによろしくないというし。
(キレイな人は、多少ひねくれていた方が魅力的です(いったい何))
ということで、読んでみました。面白かったです。
(しかし、yahooで朱雀十五を検索すると、イラストの多いこと(笑))

でもアレですね、感想を見ていると“京極もどき”とか言われてますね(笑)。
京極は私、全部読んでますけど、でも全然そんな感想は抱きませんでした。
確かに、舞台設定とか登場人物とか扱う題材とかは同じですね。
でも、やっぱりモノは異質だと思いますよ。
ともかく、根底にあるテーマが違う。…と思うのですがどうでしょう(^^;)。
藤木さんはきっと、過去に興味をお持ちの方なのではないかと。
一方京極は、現代に、いかにして“過去”を生かすかに尽力している。
そんな風に思うんですけど。

さて、物語ですが、舞台は昭和初期。弁財天の境内にある
“触れずの銀杏”で、奇妙な変死体が発見されるところから始まります。
新聞記者の柏木洋介はさっそく出かけて行くのですが、出張っていた
軍と一悶着起こしたことから、担当を外され花魁担当に回されます。
事件を見、自分で取材して原稿を書く事件担当とは違って、
そこは洋介にとって苦手な根回しによる潤滑な人間関係が全てでした。
そんな中、洋介が出会ったのが、吉原の弁護士で盲目の元検事・朱雀十五。
盲目の麗人、だけど性悪。洋介はそんな朱雀をはじめさまざまな
人物に振り回されつつ、事件の謎に迫ります。

…今、物語を振り返ってみていると、やっぱり京極の真似っ子だな(笑)。
いや、でもやっぱり、謎の扱い方は違いますし、雰囲気も違うんですけど、
作者が“ソコ”を狙ったのはよく分かります。
読んで行くと、途中で「これはホントにミステリーなんだろうか」と、
不安になります(笑)。でも、ちゃんと最後に落ち着くんですねえ。
事件はだんだんと渾沌としていくし、洋介はまるで関口くんのようだし(笑)。
だんだん、だんだん、風呂敷は大きく広がっていくんだけれど、
「これでちゃんとまとまるのか?」と読者に心配させつつも(笑)、
無難なカタチでまとめています。ちょっとあっけない気もしましたが。
でも、シリーズ1作目だし、こんなもんかなと。
引き続き、読んでいきたいと思います。

同じような感想を持った方がいらっしゃいました(笑)。
「夢の杜 コトノハで泳ぐ」

「陀吉尼の紡ぐ糸 探偵SUZAKUシリーズ1」藤木稟

「亡国のイージス(上下)」福井晴敏

2004年11月22日 | は行の作家
来年夏に映画が公開されるということで、今さらながら、
手に取ってみました。福井さんの長編は初めてです。
その直前にアンソロジーで短編を読んでいて、
「殺人作法 ミステリー傑作選45」収録「五年目の夜」)
内容は、諜報部とかテロとかいったそっち系なのですが、
まるで落語のような内容(笑)。
しっかり笑いのツボを押さえ、しかもオチまで付いているの。
いやはや。福井さんがそういう方だとは知りませんでした(笑)。
これを読んで、きっと「亡国のイージス」も面白いだろうと
手に取ることができたのでした。

文庫で上下巻ととても長いのですが、
プロローグからエピローグまで、一切無駄がありません。
人が壁にぶつかって、それをどうにか乗り越えても、
実はそれは錯覚にしか過ぎなくて、
人はそんな錯覚の中で生きているんだ、
生きていくしかないんだ、と痛感させられます。
でも、それでも、生きていて良かったと思えるものを、
ちゃんと残してくれているのが、とても嬉しいです。

舞台は最新のシステムを搭載した、海上自衛隊所有の
イージス護衛艦「いそかぜ」。さまざまな人のさまざまな想いを、
そしてさまざまな組織のさまざまな思惑を乗せて、
「いそがぜ」は、訓練航海に出発した…。

意表を突く展開のオンパレード。
しかも、最後にあんな“オチ”まで用意されているなんて(笑)。
長いにもかかわらず、興味を削がないストーリーは、
国家が抱える問題と、登場人物それぞれが抱える世界が、
とても丁寧に、そして容赦なく描かれています。

…できれば、最初から読んでいただいて、じっくり
この作品世界を楽しんでいただきたいなあ、と思うのです。
なので、おおまかなあらずじさえ書くことをためらいますし、
人物の紹介すら(感情がこもりすぎて^^;)ためらわれるのですが、
なんということでしょう、映画「亡国のイージス」公式サイトでは、
その辺のことがあっけなくバラされてしまっているのね(ToT)。
あの長い作品を、2時間程度の映画にするには、省略する部分も
必要でしょうが、あそこであれだけバラされてしまうと、
上巻を読む楽しみが全滅してしまうのですよ、正直。
もし、興味を持たれた方は、まず原作を読んでから
公式サイトを訪れることをおすすめします。


亡国のイージス 上(講談社文庫)
福井晴敏〔著〕出版社 講談社発売日 2002.07価格  ¥ 730(¥ 695)ISBN  4062734931bk1で詳しく見る オンライン書店bk1


亡国のイージス 下(講談社文庫)
福井晴敏〔著〕出版社 講談社発売日 2002.07価格  ¥ 730(¥ 695)ISBN  406273494Xbk1で詳しく見る オンライン書店bk1



「秘密」東野圭吾

2004年10月28日 | は行の作家
「片想い」を読むにあたり、先にこちらを
読んでおいた方がいいとアドバイスをいただきました。

東野さん、そんな「秘密」だったんですか。

それが読み終ってすぐの感想です(笑)。
この物語の中には、結構たくさん「秘密」が出てきます。
その中でも極め付けの「秘密」ですよ。
やだなあ、こういうの苦手なんだけどなあ(苦笑)。
お互いの気持ちがすれ違う、というストーリーが苦手です。
それがラブストーリーの醍醐味なんでしょうが、
お決まりな設定なだけに、展開も決まっていて、
絶対どっちも辛い思いをするじゃないですか。
それが分かっているからそこから進めなくなるんです。
本作には、そんな“どきどきはらはら”も満載。
ごめんなさい。お腹いっぱいです、と(^^;)。

妻・直子と娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。
そこから杉田の生活は一変する。最愛の妻を亡くし、
事故の唯一の生存者である娘は意識不明。しかし、
妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体には、
妻の意識が宿っていた…。

映画は見てないのですが、CMか何かで、広末涼子が
とても寂しそうな悲しそうな切ないような笑顔を
見せる場面があったと思うんす。読んでいる間中、
ずっとその笑顔が頭から離れませんでした。
当時はそれをなんとなく眺めていただけでしたが、
読んでいるうちに、その切ない顔の意味が分かってくるんですね。
ああ、切ない。

気持ちのすれ違いのような“どきどきはらはら”を終えて、
結末に近づくにつれ、先が予想されて涙が出るのですよ。
でも、しょうがないよね、とか思っていたのですが、
最後の最後でヤられました。そうか、「秘密」だもんね、と。
ここでは、先ほどとは比べ物にならないくらい涙が出る。
1人で読んでいたので、心置きなく号泣しました(笑)。
やーねえ、もう、東野さんってば…。

秘密(文春文庫)
東野圭吾著出版社 文芸春秋発売日 2001.05価格  ¥ 660(¥ 629)ISBN  4167110067bk1で詳しく見る オンライン書店bk1

「頭がいい人、悪い人の話し方」樋口裕一

2004年10月26日 | は行の作家
実は、実用書の類いがあまり好きではありません。
興味のあるモノでも、最終的には文句をつけてしまうので(笑)。
なんというか、“当たり前”のことしか書かれてなかったり
するんですよね。でも。そういうモノが実用書なんだと
最近気付きました。“当たり前”のことでもちゃんと本に書いて
もらわないと、学べなくなっている、ということもあるんでしょうか。
(ま、できる・できない、というのは別問題なんですけどね)

で、これです。著者は長く小論文の添削をしてきた方だそうで、
文章と話すことの共通項を見出した、ということだそうです。
確かに、話し方というのはとても大切なことだと思います。
私の場合、極力気を付けてはいるんですが、ついつい、
人の先回りをしてしまうクセがあるんですね。友達なんかだと
平気ですけど、仕事関係の方と話すときはホント気をつけないと、
とても失礼なことになってしまいかねません。
ま、これは、自分で気付いていることで、でもほかに、自分の
気付いていないクセがあるかもしれない、と思うと恐ろしい。

本書は、愚かな話し方の例を挙げ、その傾向と対策を紹介。
しかしながら、愚かな話し方をしている人は、その自覚がないのが
問題なわけで(笑)、自覚しないと治らないもんですよね。
本書を読んで気付く人っていうのは、多分、普段から話し方に
気を使う人で、だから読まなくてもあまり問題がなかったりしますが、
あなたこそ読んでくれ! という人に限って、決して読まない(笑)。
結局さっきの「キッパリ!」と同じだ。
世の中うまくできてるねー(笑)。

頭がいい人、悪い人の話し方(PHP新書 305)
樋口裕一著出版社 PHP研究所発売日 2004.07価格  ¥ 750(¥ 714)ISBN  4569635458bk1で詳しく見る オンライン書店bk1



「予知夢」東野圭吾

2004年08月27日 | は行の作家
「探偵ガリレオ」の続編です。
前作が“科学の作品”だとしたら、これは“心理の作品”。
物理学と心理学って、なんとなく相容れない気がするんですが、
そこは、それこそ湯川助教授の優しさなんじゃないかと
思うんですけど、自分の本業じゃない事件でも、
自分のフィールドの持ってきて、納得できる説明をしてくれる。
というか、あるべきところに戻してやるって感じ。
しかもその解説&解決が倫理的で分かりやすいって、どうよ(笑)。

しかしながら非常に残念なところは、
既存の助教授とイメージがだぶるところ。
犀川先生と火村先生はかぶらないのに、
湯川先生はどっちにもかぶる。不思議だー。
でも、もっともっとこのシリーズが続いていけば、
いつか私の中にも確固とした湯川助教授のイメージが定着すると
思うのよね。だから書いてね、東野さん。って感じです(^-^)。

「予知夢」東野圭吾

「探偵ガリレオ」東野圭吾

2004年08月27日 | は行の作家
警視庁捜査1課の草薙刑事と、理工学部物理学科の湯川助教授。
いやー、いい組み合わせ。同級生ってのもポイントだと思いません?
読む前にイメージしてた湯川助教授は、“むさいおっさん”(笑)。
でも、よくよく考えると、助教授が探偵役っていう作品、
火村&アリス(有栖川有栖)とか、
犀川&萌絵(森博嗣)とか、案外あるもんです。
この3つにおいて共通してるのは、助教授がかっこいいこと。
…勝手なこと言ってます。自覚はあるので、
そっとしといてやってください(笑)。

化学や物理のムズカシイ話が出てくると
条件反射で読み飛ばそうとする自分がかわいい(笑)。
高校時代、物理&化学で痛い目に遭ってるんです、私(涙)。
でも、それじゃあいけないと思ってちゃんと読むと、
とっても分かりやすく説明してくれてます。
短編集で、どの事件も物理や化学の現象がトリックに
使われているワケですが、ちょっとした知識、
しかも常識の範囲でちゃんと理解できるのがいいですね。
ミステリーとしての楽しさ&科学も面白さが堪能できます(^-^)。

さらに。
ここがとっても東野さんらしいと思ったんですけど、
短編なのに、どの登場人物にも“愛”を感じます。
(たまに感じない犯人もいるけど)
東野さんのもう一つのお気に入り、加賀刑事モノって、
ものすごく加賀さんの優しさを感じるんですね、私。
草薙刑事も湯川助教授も、加賀さんみたいに優しくは
ないんだけれど、なんてうか、作者の愛を随所に感じる。
これって、宮部みゆきの得意な人情モノとは違うんですが、
なんとなく通じる部分はあるな、と。
そうね。人物を丁寧に描いているのかな。
人物、というか、犯人を丁寧に描いている。
科学的なトリックが目を引きがちですが、
犯罪に至るまでの犯人の心情なんかも丁寧ですよ。
そうじゃない作品もあるんですけど、その辺が宮部っぽいかと。

「探偵ガリレオ」東野圭吾